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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
三章 忍びには恋をさせろ

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第18話 魔法少女に人権があると思うほうがどうかしている

 ドンっ、と廊下の壁を叩くと、越谷まひるのメガネがずり落ちていった。


「貴様っ、雫殿との逢瀬を見ていたな」


 波打つ越谷まひるの口から、気の抜けた声が出た。


「ひゃ、ひゃい……ぁ、じゃ、じゃなくて、し、知りません、なんにも!」


「ついに口を割ったな越谷まひる、もはや言い逃れはさせんぞ」


「ちが、ちがちが、言い間違えただけです、監視なんてしてませんしてまえん、してませんっ」


 顔を寄せると、青ざめた表情が影で暗くなった。

 胸と胸はぶつかっていて、スカートの裾と裾はこすれあっている。鼻先は、体温を感じ取れるほどに接近している。


 狼狽するたびに、越谷まひるの唾が口元に跳んできた。


「拷問が望みならば、こちらには準備がある。水攻めか、鞭打ちか、あるいは拘束衣に興味があるのか、好きなものを選ばせてやろう」


 がくがくと、越谷まひるの顎が震えた。


「じ、じじじ、人権、人権侵害、そ、そそんなの、許され、許されるわけ――」


「国際法を持ち出しても、魔法少女などに人権があると思うなよ」


「ひっ、ひぃ……」


 えずくような動きをして、越谷まひるの眼球が斜め上を向き始めた。浅い呼吸が繰り返される。顔面はあぶらぎっている。

 あと一押し、話し合いで口を――


「リンちゃんってば、さっきからなにしてるの?」


 背後から、声をかけられた。


「次、水泳だよ、そろそろ行かないと遅刻ー」


 振り向くと、首をかしげる雫がいた。


「もしかして、また越谷さんに意地悪してたの? 何度も同じこと言いたくないんだけど」


 リンは頬を緩めて、笑顔を作った。


「とんでもない、友として内緒のおしゃべりをしてたんですよ、なあ越谷まひる?」


「ひ、東山さんたすけっ――」


 向き直って、睨むように越谷まひるを見た。


「恋バナ、ですよね?」


 動きの悪い機械のように首を動かした越谷まひるは、雫を見て、リンを見て、最後にもう一度雫を見た。


「あは、あははは、彩峰さんと内緒のお喋りぃ、恋の相談なんて、困っちゃう、なぁ、はは、ははは」


 雫は喉を鳴らすような声を出した。


「んー……? めちゃくちゃ怪しい。恋バナなんてしないでしょ、その二人で」


 また、雫に向き直った。


「昨日のことが、誰にも相談できなかったものですから……ぁ」


 手のひらで、口を覆った。


「雫の前で言うことではありませんでしたね……少々、お恥ずかしいです」


 片手で肘を引き寄せて、身体を内側に丸めた。下を見ながら、視線をさまよわせる。

 ばっちりだ、完璧にいじらしい。これ以上なく、女子生徒を演じている。


「ふぅん……」


 なぜか雫は、半目でこちらを見ていた。


「さ、さ、更衣室に参りましょう。刺客と疑われる体育教師に隙を見せると厄介ですから。っと、申し訳ありません、最後に一つだけ」


 雫の背中を押しながら、上体をひねって越谷まひるに耳打ちをした。


「あのフリルが視界に入った場合、塵すらも残らないものと思え」


「ひゃ、ひゃい」


 越谷まひるは、脱力したように壁に寄りかかった。


「あー、またやってる」


「やっていません。すきんしっぷです、雫ど……雫と同じです」


「えー、同じはやだなぁ、特別にしてほしい」


「では……更衣室まで手など繋いでみましょうか」


 横に並ぶと、雫はぱっと表情を明るくした。そのまま間髪入れず、がっちりと右手が握られた。

 心拍正常、女子の交流にも慣れたものだ。


「ていうかリンちゃんいつもプールはあとから来てたよね、防犯のためとかなんとかって、今日は一緒でいいの?」


「はい、やはりお側を離れるべきではないと……考えを改めました」


 どく、ばく、と心臓が跳ねた。


 これまではその場――女子更衣室に――立ち入ることを、避けていただけだ。

 だが、事情が変わった。雫を深く観察する好機、逃すわけにはいかない、任務のために。身体調査のために。

 悟られぬようにせねば、これまで以上に。着替えの現場など、女子である身には当たり前のことだ。演じればいい、演じれば。


 肌の熱を抑えようとしていると、思わず、つぶやきが口を出た。


「……不可視の魔法とはなんと便利なものか」


「へ?」


「い、いえ、なんでもありません。急ぎましょう」


 手の温もりを感じながら、並んで廊下を歩いた。



 少し行ったところで「あ」と雫が突然思い出したように振り向いた。


「越谷さん来ないの?」


 背後にいた越谷まひるは、両手で腹を押さえていた。


「ちょ、ちょっとお腹の調子が……保健室に……ぁ、ひとりで大丈夫ですから……」


 付き添うよ、と申し出た雫から逃げるように、越谷まひるは足早に去っていった。


 いつも体調の悪い女のことはすぐに忘れて、リンはこの先の振る舞いについて思考を巡らせた。

 まさか、生徒として女子更衣室などに入ることになろうとは。

 女体化の秘密、墓まで持っていく他に、雫殿には許されそうにもない。


 ぺたぺたと、軽い足音が廊下に反響していた。

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