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TS魔法少女になっても「某は忍び」と言い張る凄腕忍者、護衛対象の美少女にガチ恋されそうろう  作者:
三章 忍びには恋をさせろ

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第17話 接吻で昂ぶれば、冷静さを欠く

 雫の鼻先が、やや赤くなっていた。

 うっすらした光沢が、外からの光を反射している。


 夕日に照らされるマンションの一室は、驚くほどに静かだ。そのせいで、唇の隙間から漏れる雫の呼吸音が、よく聞こえる。

 行為を待っている少女の、吐息が。


「ん……」


「むぅ……」


 雫の肩口から少し離れたところで、自分の指が暴れている。ぐねぐね動いて、開いて、閉じて、落ち着きがない。


 好いてもらえるのは好都合とはいえ、本当に――いや、いいのだろう、このような待ちの顔をしている以上は。

 これも任務だ。


「それでは……お言葉に甘えて……」


 指先が触れると、雫の二の腕がぴくっと反応した。


 唇を見定め、ゆっくり顔を近づける。無垢な、少女の柔肌。

 どれだけ傷つこうとも、おそらく汚れはまだ知らない。


「……」


 それを奪うのか、邪な動機で。


 雫の吐息が顔にかかる。鼻先が触れそうになる。交差させるように頭を傾ける。

 触れるだけにしよう――


 そのときだった。


 ビー、ビーとけたたましい警報音が鳴り響いた。警告灯が回りだし、部屋中が赤色灯に照らされた。

 ベランダからは機械音が伝わり、プランターに擬態した機銃が首を振っていた。


「敵襲かっ」


「えっ」


 咄嗟に雫を抱き寄せた。ソファの裏から防弾プレートを引き出し、防御の体勢を取った。


「おのれ、敵めぇ、このようなときにっ」


 許せん。不埒な闖入者め、成敗してくれる。

 カッと発火して、頭の中が熱っぽくなる。脱出よりもなによりも、敵の排除が最優先だ。どこだ、どこにいる。


 玄関からも天井からも敵襲はなかった。ベランダを確かめると、機銃は頭を振り続けるのみで標的を認識していなかった。

 誤検知、いや、そんなことが――立ち上がろうとすると、雫に腕を引っ張られた。


 瞬きひとつせず、雫はこちらを見つめていた。


「待って、誤魔化すつもりなの」


「そのようなことはありません、これは現実の脅威なのです」


「ほっとけばいいよ。そんなことより、言ったことは守って」


「ですが――」


 雫の瞳がうるんだように震えていた。腕を掴む手に、力が込められた。


 浸っている場合ではない、だが、雫殿が望んでいる。

 最低限の礼儀は果たすべきだ。


「いえ、わかりました。失礼」


 雫の左頬に、口を寄せた。さらに近づけて、唇を触れさせた。

 撫でるように優しく、傷つけないように。


 0.3秒ほど、そうしていた。離しても、唇とひとつになったような肌の感触が、余韻として残っていた。


「これでご勘弁を。これ以上の行為は、現状では不適切です」


「ぁ……口じゃ、ないんだ」


 立ち上がってから、返事をした。


「昂ぶれば、冷静さを欠きます」


 雫はほうけたようにこちらを見つめて、掴んだ腕を離した。先ほどとは対照的に、何度も瞬きを繰り返していた。


「この防弾プレートは対物ライフルの直撃すらも防ぎます、どうぞお隠れください」


 無警戒にソファに座ったまま、雫は言った。


「ま、いっか……でも、続きは今度ちゃんとしてね?」


「む……善処します」


「約束だよ」


 呟いて、雫は自分の頬を撫でた。何度も繰り返しているうちに、笑顔が浮かんできた。


 場に似つかわしくない微笑に、一瞬だけ心が惹きつけられる。

 ふわりと胸が浮くような感覚になって、それをすぐに振り払った。


 見とれている場合ではない、ではないのだ、仕事だ、仕事をせねば。


 右手に短刀・黒き翼を出現させ、制服を忍び装束へと変化させた。

 雫殿の平穏を乱す監視者め、決して許してはおかん。


 ソファに背を向けて、一歩踏み出した。



 リンは天井の抜け穴を通って、空中へと飛び出した。


「出てこいくせ者。そこにいるのはわかっているぞ」


 カマをかけてみるが、反応はない。


 眼下の住宅地にも、澄んだ夕暮れの空にも歪みは見つけられない。以前あのブランシュと対峙したときのような、光の反射もまた確認できなかった。

 鼻に頼ってみるが、魔力の独特な匂いは感じられない。嗅覚が鈍っている、あるいは、隠遁の術を行使されると体臭までも隠されてしまうものか。


 逃がしたか、あくまでも監視が目当てか、いずれにせよ防犯装置を強化しなくてはならん。

 この任務、不覚を取ってばかりだ。


「……影に潜むものよ。また、学校で会おう」


 つぶやいたその瞬間、空気のゆらぎを感じた。

 クナイを投擲してみたが、空中を切り裂くのみで手応えはなかった。



 今日だけでも保護させてほしいと言ったのにも聞かず、雫はそわそわした様子で家に帰っていった。頭の動きがせわしなく、どうもこちらを直視するのを避けているようだった。

 色に溺れていたせいで遅れを取った、その事実に失望されているのかもしれなかった。


 夜中、電柱の上で全周警戒を続けている際に、ふと独り言が漏れた。


「機能を果たせたのなら……頬でよかったのかもしれん」


 そうに違いない、と、一人の夜更けに頷いた。


「今度……今度か……ええい、煩悩退散!」


 なかなか胸が落ち着かず、いつもの数倍も疲弊した。


 次いで、日が昇るまでの間、どのように越谷まひるを尋問しようかということだけを考えた。


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