第14話 あの鬼畜忍者が愛していると口にした件について 【side 越谷まひる】
魔法少女イノセント・ブランシュが下劣なくノ一に殺されかけてから一週間。ブランシュ――越谷まひるは彩峰リンと名乗るあの女と友人として振る舞うことを強要されていた。
昼食時だけではなく、放課後までも東山雫に連れられて遊びに出ることもあった。
リンは常にまひるを監視していた。たとえ偶然に雫に手が触れようものなら、ただちに殺意が向けられる。たまったもんじゃない。
そんな雫とリンの動向が怪しいと聞かされたのは、ほんの一時間前のことだ。
水泳の授業中、リンが25メートルの日本記録を出したかもしれないと周りが騒いでいるとき、隣にやってきたアリスが言った。
「リンさん、雫さんを校舎の裏に呼び出したらしいですよ。古風ですねえ」
「そうなんですか。……そうなんですか? どこでそんな話を」
プールサイドで膝を抱えて、盛り上がるプールをじっと見つめた。
アリスが背中側の床に手をつくと、水着から飛び出しそうなデカパイが派手に揺れた。
「雫さんからです。告白されるかもしれないって、どきどきしてました」
「へえ、どうせまたおとぼけな勘違いじゃないですか。嫌な予感しかしないのでそういう話をしてくるのはやめてください」
「イエス、イエス、イエス、はいは三回です。まひるには二人のちゅっちゅを見届ける義務があります。先に行って控えててください」
「嫌ですよ、バレたら今度こそ殺される」
いつでもあのリンの目は真剣だ。冗談ではなく本気で人を殺そうとしている。この正義のイノセント・ブランシュを。
アリスは言う。
「疑いが深まったのは誰のせいですか、ねえブランシュ」
まひるは小声になった。
「ちょ、こんなところで、アレに聞かれたらどうするんですか」
「ふふ、おサボりしようとするからですよ。それじゃ、放課後よろしくお願いしますね」
ウインクをして、アリスは立ち上がった。
それからは、何事もなかったかのように、クラスメイトと一緒にリンを応援していた。
放課後、まひるは魔法を発動して校舎裏に潜んだ。
光源操作による不可視の力。先日はライフルスコープのせいで見破られてしまったが、目だけを露出させている今なら、いくらあの女でも見破れるはずがない。
待つこと数十分、雫を連れてリンがやってきた。一瞬こちらに視線が向いてドキリとさせられたが、どうやら見破られてはいなさそうだった。
まひるはほっと息を吐いた。視線の先では、リンが雫を壁側に立たせていた。
聞き耳を立てていると、壁を叩く、ドン、っという音が響き渡った。
リンは壁に手を当てながら雫を見つめていた。雫は胸元に手を抱いて、リンを見つめ返していた。
数秒の沈黙の後、リンは言った。
「雫殿……いいえ、雫」
雫の肩がぴくっと跳ねた。
「え、は、はい」
ぽぉっと頬が赤みを帯びていた。
「リンは、あなたをお慕い申しております」
「え」
雫の目が、まんまると見開かれた。唇に指を当てて、ぼそぼそとなにかを呟いた。
まひるも、雫と同じような動きをしていた。口に手を当てて、思わず、声が出た。
「え、うそ、本当にそういう系――」
「くせ者っ!」
突然叫んだリンが、振り向きざまに右手を鋭く振った。
ひゅんっと風を切る音がして、まひるの耳の真横に棒手裏剣が突き刺さった。
股間が緩くなって、布が湿った。腰から力が抜けて、へたり込みそうになった。だめ、音を立てたら死ぬ、本当に死ぬ、殺される。
雫を抱きしめていたリンが、眉をひそめた。
「むっ、気のせいか? いや、あの声は――」
「ねえ、リンちゃん、さっきのって、ほんと? わたしのこと、すき、なの?」
リンはこちらを警戒しながらも、雫をちらと見た。
「雫殿、その話はまた後ほど、今は安全の確保が最優先です」
「いいからっ、言って、言ってほしい、嘘じゃない、って」
深く、リンは頷いた。
「はい、この口に二言はありません。あなたのことを、愛しております」
見つめ合う時間が長く続いた。
まひるはその隙をついて、忍び足で校舎裏から逃げ出した。
なにあれなにあれ、なにあれっ、そうなの、嘘でしょっ――心のなかで叫びながら。
新章の始まりはイノセント・ブランシュこと越谷まひるちゃんに視点を担当してもらいました。
次回からは通常通り、リン視点に戻ります。




