第13話 緊縛の恥辱は、ひどくむずがゆい
セーフハウスの洗面台で、リンは鏡をまじまじと眺めた。
小顔、大きな目、長いまつげ、形の整った鼻に、艶やかな唇。肌には染み一つなく、瑞々しい。両手で頬を挟むと、餅のように指が沈んでいった。
正直なところ、某はかわいいのだろうと、思う。
鏡の中の少女を眺める。見つめる。少し口角を上げてみる。目が合うと、どきりと心が揺れた。浮ついた感覚になって、身体が落ち着かない。
自分を見たまま、三十秒も固まっていた。制服を着ているからなおさら、完成された美少女像を具現化したように見えた。我ながら、実によくできている、とリンは思った。
なればこそ、少女の練習をしてみた。
「……あはっ、こんにちは、彩峰リンです」
かしげるように首を動かすと、前髪が目元を流れていった。ソックスがこすれて、床がきゅっと鳴った。
「ふむぅ……いくらか地味かもしれぬな。ぴ、ぴーすサインなどしてみるか、こう目を覆うように――」
Vにして裏返した指を目元に持って行こうとしたその瞬間、かたっと背後で物音がした。
「うーん、笑顔がまだ固いよね、もっと自然な感じで笑ってみようよ」
「な、なにやつっ」
カッと顔が熱くなって、冷や汗が浮いてくる。床を蹴って、振り向きざまに蹴りを繰り出した。
「おっとっと」
何者かは上体を反らして、リンの蹴りを回避した。そしてその瞬間に気づく、目の前にいるのが妹の春であることに。
「あっ……おわっ」
足首を糸で絡め取られる。首や腰、胸、二の腕にも同じような締め付けられる感触があった。
片足を上げた姿勢で、リンは硬直した。
「捕縛術か……やるなっ、春」
身体を動かそうとするたびに、剛糸が肉に食い込む。胸と太ももに深く沈んで、奥を触られているような、こそばゆい感触があった。
「兄姉さまってば焦りすぎー。またぱんつ丸見えだし、これが敵だったら脱がされて酷いことされちゃうよ」
「ぐっ、返す言葉もない。拠点内であろうとこのような恥辱、末代までの恥、罵ってくれ、春」
妹に拘束されるとは、なんたる情けなさ。糸を断ち切るのはたやすい、だが、そんなことをしても恥の上塗りをするだけだ。
鼻の下を伸ばしながら、春は言った。
「ね、ねねね、ちょっと顔赤くしてみたりしない?」
「な、なにを言う、生理現象のコントロールなど某でも不可能だ」
「シリアスなのやめよ。もっと自分に素直になった方が兄姉さまはかわいいと思うよ」
にへらにへらと春は笑う。スカートの中や、糸の食い込む腿を物珍しそうに観察している。
歯が浮く。肌が熱くなる。ぴくぴくと全身の筋肉が痙攣している。手加減されたのか、不思議と痛みはなく、むしろ――
「それよりも、術を解いてくれないか。このような恥辱、これ以上は耐えられぬ」
「そういうところなんだけどなあ、もっと取り乱してイヤイヤ言った方が魅力的だよ」
「これ、ワンポイントアドバイス!」と付け足して、春は人差し指をピンと立てた。
リビングから、ピーピーと電子音が聞こえてきたのはそのときのことだった。
春は言った。
「師父さまだね。それじゃかわいいところたっぷり見せてあげてね、期待されてるみたいだから、ね」
ウインクをしてくる春を、リンはただ見つめた。
7インチモニターの向こうで、師父が煙を吐いた。
『首尾はどうじゃ、リンよ』
「は。東山雫の安全は確保されております。敵方との衝突はありましたが、大事にはならず、本人の希望もあり当面は――」
『たわけ、そんなことは報告書に記載されているだろうが。わしは女としてどうじゃと聞いておるのよ』
リンは伏せていた顔を上げた。
「女……と申されますと」
『愉しんでおるか、その生を。と言ったところで、ぬはは、見たところまだ硬さが抜けておらんな、色気にも欠けておる』
「は、申し訳ありません。東山雫他、学友にも指摘を受けており、対策を考案中でございますゆえ、今しばらくお待ちを」
『ふふふ、変わらんな貴様は。だからこそ、面白いのだが』
「は?」
師父は身を乗り出してきて、顔をカメラに近づけた。
『リンよ! 貴様に追加の任務を与える、心して聞けぃ』
「ははっ」
リンは再び顔を伏せた。
『東山雫とさらに親密になり、その肉体の秘密を探れ。風呂でも床でも身体検査でも構わぬ、あの女子に宿るものを見極めるのよ』
「か、かしこまりました。して、その手段は」
師父はパイプを口に運んで、少し間を置いてから煙を吐いた。
『わしにいい考えがある。要は、感情よ』
そう言って、師父はにやりと口元を歪めた。
ぽたとリンの額から汗が垂れ落ちた。嫌な、予感がする。感情など、某は苦手だ。
通信が切れるまで、頭を下げ続けた。
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短いですがひとまず二章は完結となります。
ラブコメに飲まれたTS忍者の明日はどっちだ!? とリンちゃんも頭を抱えるような展開になりますが、まだまだ物語は続いていきます。
どうぞ三章以降もよろしくお願いします!




