第123話 世界が変わったように見えるのは、自分が変わったからだろうか
祭りを存分に楽しみ、故郷の風を存分に感じ、余すことなく祭りの夜を満喫した。
手裏剣的当てで高得点を出せば、雫にはかっこいいと褒められ、まひるとアリスにも拍手で称えられた。たまたま鉢合わせた春の友人二人が欲しがっていたスターライトスコープと、熊のぬいぐるみを射的で落としてやると、なぜか「姉さん」と呼ばれるようになった。
棗と綾というその二人にくっつかれて、あれこれ聞かれたりしたが、不思議と嫌な気分にもならなかった。雫がむくれていたのは気になったけれども、手を繋ぐとすぐに機嫌を直してくれた。
やがて太鼓の音は鳴り止み、最後に祭りの終わりを告げる狼煙が上がった。
片付けが始まり、皆がぞろぞろ帰路につく頃、雫は言った。
「また、来年も来れたらいいね」
「同じ気持ちです」
目の前では、まひるとアリスと、春と棗と綾が、わちゃわちゃと戯れていた。
これは私が買ったものです、だとか、食べさせてよぉお姉さん、だとか、食べ物のことでずいぶんと騒がしい。見れば、焼きそばのパックの取り合いをしていた。
身体中がほわんとした。軽くまぶたが落ちて、目元が垂れた。
「楽しいですね、こういうのは」
隣にいた雫が、こちらを見上げてきた。最初は気の抜けた顔で、しかしすぐに笑顔へと変わった。
「うん」
手を繋いだまま、その騒ぎを眺めていた。
この景色は悪くないものだ、本当に。
また来年も、その気持ちに偽りはない。なればこそ、やらねばならぬことがある。
雫に断ってから手を離し、遠巻きにまひるたちを眺めていた春に、声をかけた。
「春、頼みがある、いいか」
「ん、どしたの? 帯が緩んだとか?」
「師父様と話がしたい。取り次いでくれないか」
眉を上げた春は、数秒経ってから頷いた。
「すぐに繋げるよ。取り合ってくれるかはわからないけど、メッセージでも、通信でもなんでも」
「助かる。後ほどリンが尋ねるとだけ、伝えておいてくれ」
「わかった」
そう言って春は、小物入れから通信端末を取り出した。電源を入れて、画面に指を添えて、しかしなかなかその先には進まなかった。
指を浮かせたまま、春は顔を上げた。
「姉さまは……」
言い淀んで、春は言い直した。
「姉さまは、なにか大層なことをやるつもりなの? 師父様に自分から会おうとするなんて、滅多にないよね……もしかして任務のこと? 雫さんの」
「なぜわかる。皆まで言っていないはずだが」
「わかるよ、顔でわかる。なんか吹っ切れたみたいな、清々しい顔してるし、逆に不安。姉さまらしくない」
指でほっぺたに触れた。僅かに上がっているように思えた。
なるほど、これが清々しいの形か。
「らしくないのは、悪いだろうか」
春は整えた髪が乱れるくらいに、首を横に振った。
「全然、悪くない、その顔結構好き。けど……なにを話すつもりかはわからないけど、死なないでね。それだけはお願い」
「ああ。そのつもりは毛頭ない」
たとえ切腹を命じられようとも、刃を向けられようとも、まだ死ぬわけにはいかぬ。
春は、再び端末に視線を落とした。
「ルートの選定とか、そろそろ帰りの支度も始めようと思うから、今度暇があれば付き合ってね。敵襲にも備えなきゃいけないし、セーフハウスに細工されてないか一度見てこないとだし」
指を動かして春は師父様宛てのメッセージを作成していた。
「荷物も面倒事も増やさないでよ。師父様との喧嘩なんて、持って帰るには重すぎるんだから。事後処理を任される身の苦労も、わかってよね」
「世話をかけるな」
なんとなく、春の頭に手を乗せてみた。
「……別にいいけど」
唇を尖らせながら、春はつぶやいた。
メッセージの送信を終えても、しばらく頭を撫でていた。
手を離したのは、すぐ後ろで雫が見守ってくれているのだと気づいたその時だった。




