第119話 鈍感なれど、繰り返されると悟ってしまうものだ
雫と手を繋いだまま、まひるたちの帰りを待った。
人通りが多くなって、ほんの少しだけ繋いだ手を身体側に引き寄せた。待ち始めてからもう十分にもなろうか。戻ってほしいのか、戻ってほしくないのか、あまりピンとこなかった。
「遅いですね」
「ねー、目移りしちゃったのかな」
見ると、マムシの屋台からまひるの背中は消えていた。少し探して、隣の輸入銃器くじに食いついているのだとわかった。
前かがみになったまひるは、目を輝かせながら景品を見ていた。
『すごい、本物だ!』
そんなふうに口が動いたのがわかった。アリスなどは、すでにくじの箱に手を突っ込んでいた。
「いました」
「いたね」
「まったく、雫を待たせてなにをしているのだ、奴らは」
「全然いいけどね、わたしは」
雫の表情が崩れた。こちらを見つめて、笑っていた。
胸の奥を触られたような感じがして、落ち着かなくなった。いつまでも慣れない、こんなときは。
「実は……某もです。ただ、ここは人の目が多すぎます、落ち着きません」
「じゃあ、静かなとこに移動する? あっちの木の陰とか」
雫は、屋台の裏にある林を指さした。照明が少なく、薄暗くなっていた。
監視網のような人の目は、そこにはなかった。
繋いだ手を、雫は優しく引っ張った。
「行っちゃおっか、二人で」
揺れる瞳を見つめた。雫の目には、提灯の明かりと一緒に自分が映っていた。
向こうに行けば、落ち着けて、二人っきりになれる。しかしいいのだろうか、ここで待つと約束したのに違えてしまって。だが待てども待てどもまひるは戻らない。今もくじに手を突っ込んで、ハズレを引いて頭を抱えている。
行くか、行ってしまうか、あの薄闇に。どうせすまほもあることだし、そう広くはない境内だ、すぐに合流は出来るだろう。よし、行こう、落ち着こう、落ち着きたい。
「では……向こうで待ちましょうか。後ほど連絡をすればよろしいでしょうし」
「ん」
短く頷いて、雫は足を動かした。ゆるく引っ張られて追従する。カラン、という下駄の音だけがよく聞こえた。
心音がまた早くなった。やはり慣れない、常に新鮮で、いつでも雫とのひとときは――ピクッと肩が跳ねた。
「むっ」
脳内を稲妻が走るような直感があった。この手の状況に妙に既視感がある。何度か繰り返されて、一線を越えようとするときにいつも邪魔が入る。刺客しかり、春しかり、アリスしかり、タイミングを見計らったように邪魔者が現れる。
リンが立ち止まると、不思議そうな顔で雫は振り向いた。
「どうしたの? 早くいこ」
「いえ……杞憂に終わればいいのですが、妙な予感がします。この場でなにかが起きるのではないかと――」
背後で、重い足音が止まった。もう一段肩が跳ねた。
来たっ。
振り向くと、浴衣の袖に両手を隠した老爺が立っていた。その巨体には、山のような威圧感があった。
「リンではないか、それと東山殿も。祭りとはいえ、奇遇よのお」
目の前にいるのは、にやりと笑う師父様だった。




