第118話 祭りの夜
祭りに向かう前、春とその友人二人に、ピンク色でやたらと丈の短い浴衣を着せられた。帯がきつく締まると胸が強調され、下半身は足を大きく開けば股の間が露出してしまいそうだった。
まるで痴女のような露出で、すぐに着替えようとした。しかし、その場にいた春と棗と綾、アリスとまひる、そして雫は「かわいい」と口を揃えて言ってくれた。
姿見には、顔を赤くした自分が映っていた。着物自体はなかなかどうしてサイズが間違っているとしか思えないが、水色の朝顔をあしらった髪飾りが、かわいかった。
「……洗い物を増やすわけにはいかぬか」
結局その姿のまま、雫の手を取って外に出た。
暗くなった空の下、農道を歩いて神社に向かい、提灯に照らされた石段を登って境内に入った。屋台の立ち並ぶ参道は、里の人間でごった返していた。
神社の奥ではぴーひょろと笛が鳴り、時折太鼓の重い音が聞こえていた。
少し強めに、雫の手を握り直した。はぐれでもしたら、大変だ。
下駄をカランカラン鳴らして前に出たアリスが、屋台を指さした。
「ワオッ、見てくださいまひる、兵糧丸のお店デスよ。あっちはマムシが丸々一匹提供されています!」
薄い青の浴衣を着たまひるが、釣られるように屋台を見た。
「わ、ほんとだ。マムシって食べたことないです」
腹の音を抑えるように、まひるは腹部に手を当てていた。
匂いを嗅ぎながら屋台に近づいていくまひるが、振り向いた。
「ちょっと、買ってきてもいいですか。お二人もどうですか、おごりますよ」
雫は真顔で手を振った。
「ノーセンキュー」
「某も結構、気持ちだけいただこう。まだ腹は空いていないのでな」
ヘッドロックするように、アリスはまひるの首に腕を回した。
「レッツゴー。お好み焼きとあんず飴と鮎の塩焼きもおごってください!」
「おわっ、って、もう、そこまでは言ってないでしょ、自分で買ってくださいよ、自分で」
「固いこと言わないで、ワタシとまひるの仲ですよ。お礼にチューしますから、チュー」
「ッ、離れてくださいって、離れて。じゃ、じゃあちょっと行ってくるんで、こちらで待っててください」
顔を歪めながら、アリスを連れてまひるは屋台に吸い込まれていった。
真顔のままでいる雫を見た。
「よろしかったのですか? マムシの姿焼きなど、なかなか食せるものではないかと思いますが」
雫はちらっとこちらを見てから、あからさまに目を逸らした。
「ほら、毒とか残ってたら怖いし」
「……まひるちゃんって結構大胆」とつぶやいた雫は、浴衣の袖を掴んで両腕を広げた。
「そんなことより、この浴衣、どうかな? はつさんと一緒に選んだんだけど……似合う?」
白地に花のあしらわれたデザインだった。雫にしては珍しく、笑顔が慎ましやかだ。やや上目遣いで、口を小さく閉じていた。
見つめていると、雫は腕を開いたまま脇を締めた。
「ん……ちょっと恥ずかしい。見惚れるのはいいけど、なにか言ってほしいな」
「ぁ……も、申し訳ありません、つい」
顔を逸らしても、すぐに顔は雫に向き直った。すっきりした首周り、しっかり丈のある裾、露出が抑えられていて、色使いも派手ではない上品さがある。
雫の目を見て、微笑んだ。
「美しいです、雫はいつでも」
息を吐くように、雫は笑った。
「ありがと、嬉しい」
笑顔が咲いて、ドーン、という太鼓の音が夏の夜空に鳴り響いた。




