第114話 死ぬこと自体はいい、雫と会えなくなるのが辛い
どれが自分だ、という雫の問いに明確な答えは出なかった。
ただ、今となっては戦いと任務に溺れているだけではいられない。
「ぶ、物騒な某では雫は喜んでくれません。射撃練習場にも、興味がなさそうにしていたのは承知しています。ですから、高台や花畑などがよろしいかと」
「そういうの凄くいい、ほしいよ、物騒な場所よりいいし、二人で行きたい。けど、リンちゃんが最近ちょっと違う、だから聞いてるの」
「聞かれても、答えられませぬ。変わるのは、いけないことでしょうか」
「いけなくはない」
「けど」と言って、雫は手首を引いた。するりと拘束から抜け出して、一歩下がったところで低く剣を構えた。
雫の表情が、一瞬だけ崩れた。目尻を垂らして、悲しむようにこちらを見つめていた。
触れたくて、手を伸ばした。けれど雫は、剣を下ろしてくれなかった。
「わたしは、どれも好きなの。どのリンちゃんも、どの瞬間も好きなの」
雫は口を閉じた。足元を見るように視線を動かしてから、また顔を上げた。
「置いてきぼりにされて、すごく嫉妬したよ。だけど、知りたいって思ったの。好きだからもっと前のめりでいいって、合わせてもらうだけなんて、嫌だって」
「ぁ……雫」
胸の奥に、一滴の雫が落ちた。ちゃぽんっと音を立てて、波紋が広がった。
剣を構える雫が、一人前の武士に見えた。立ち姿は、もはや武器の格に負けていない。
一撃を、受けてみたい。たとえ死んだとしても――まさか、死ぬのはもったいない、一度限りなど考えられない。
雫の表情が引き締まった。
「わたしの全力、受け止めて。リンちゃんの全力で」
短刀を握る手に、力が入った。ミシミシと骨が鳴った。
心臓が騒いでいる。頬が上がっていく。
雫、やはりあなたは最高だ。
「……わかりました。想いを刃に込め、想いを刃で受けましょう」
五歩分だけ後退した。十分な距離を取ったら、雫と相対して腰を低くした。
腕を曲げて、短刀を構えた。持てる力を、全ての魔力を、刃に込めた。
「ただし一太刀だけです。これが終わったら、でぇとしてくれると約束してください」
「本気で受け止めてくれるって、最初に約束してくれるなら」
リンが深く頷くと、雫の顔に小さな笑みが浮かんだ。




