第111話 いつまで経ってもお姫様【side 雫】
いろいろ考えながらリンちゃんを眺めていると、鎧姿のアリスがやってきた。戦う格好なのに、いつもの笑顔で手を振っていた。
「おはようございますです、目が覚めたので朝の特撮トレーニングしてましたです」
「ん、おはよ。なんか朝から物騒なカッコしてるね」
「イエス、本気でなければ鍛錬にはならぬ、とリンさんのご用命です」
アリスは、リンちゃんの声真似をしていた。声が高いから、似てはなかった。
まひるちゃんがため息を吐いた。
「いいんですか、こんな大っぴらにして。いくら同盟を結ぶって言ったって、節操がないと思うんですけど」
「肉体言語です、信頼を勝ち取るのはパワーですよ。そうだ、まひるも変身してください、みんなお手合わせしたいって言ってました」
「い、嫌ですよ、私は、手裏剣とか怖いし……」
アリスはまひるちゃんの腕を引っ張った。抵抗してるのに、踵がずずっと滑って連れて行かれそうになっていた。
まひるちゃんも、結局は戦える人。仲良しグループの中で、守られているのは一人だけ。東山雫って名前の女の子は、凄い凄いって言われてても、自分では戦えない。
お姫様みたい。
蚊帳の外みたい。
「やーめてー、やめてっ、毒液とか嫌です絶対嫌です、やだやだぁ」
「だいじょーぶ、濃硫酸で魔法少女は死にませんから!」
「そういう問題じゃないですからぁ!」
ごりごり、ぐりぐりとまひるちゃんは引きずられていく。手を伸ばしても、ちょっとだけ届かない。
言った。
「ねえアリス、戦うってどんな感じ?」
「ワッツ? あ」
アリスが急に手を離して、まひるちゃんはその場で転んだ。
「ひゃっ、ぶへっ」
「オゥ、まひるこそ鍛錬が足りてませんねー」
その場でしゃがんで、アリスはまひるちゃんの背中を撫でていた。
アリスの背中に向かって、声を張り上げた。
「ねえ、聞いて。今とっても気になってるの、でもわからなくて、まひるちゃんも知らないって言うから、アリスならって、知ってるんでしょ、わかるよね、リンちゃんはどうして楽しそうなの?」
アリスとまひるちゃんが、ほとんど同時にこっちを見た。
「どうしましたか雫さん、これまではぜーんぜん興味なんてなさそうでしたのに」
「うん、そうなんだけど、今も全然興味なんてないんだけど、でも、リンちゃんは嫌いじゃなさそうだから……戦い」
アリスはぽかんとした顔でこっちを見つめていた。やがて、にっと口角が上がって、笑顔になった。
「そうですか、ラブは偉大デスね。でぇすぅがぁ、聞くのはワタシじゃありませんから」
「え」
「剣をお貸しします、これで一度リンさんに尋ねてみてください」
ぐるりと半回転しながら、アリスは立ち上がった。手のひらから緑色の光が放たれて、なにもないところに片手剣が現れた。
刀身は翡翠色で、薄く切ったお刺身のように透けていた。
「どうぞ、刃には触れないでくださいね」
「わたしに……使えるの?」
「オールライト、もちろんです。渡しますよ、落とすと悲しいので気をつけてくださいね」
「わっ」
されるがままにして、アリスから剣を受け取った。
びっくりするくらいに軽い。柄だけしかなくて、剣の部分なんてないみたいだった。
「ただし、優しくおしとやかに、慈しむように扱ってください。雫さんがムキになったら、とんでもないことが起きて、里ごと吹き飛んでしまうかもしれないので」
「冗談ではありませんよぉ」と念押ししてきてから、アリスはリンちゃんの方に向き直った。
「ヘイッ、リンさーん、こちらにフレッシュな挑戦者がいるのでお相手の方よろしくお願いしまーす」
目の前の忍者を蹴りで制圧してから、リンちゃんは振り向いた。
「承知した、お望みとあれば気が済むまで某が……相手を……なっ」
リンちゃんの勇ましかった顔が、急に溶けていった。眉も頬もふにゃと崩れていた。
「し、雫っ?」
柄を強く握った。剣を両手で持って、一歩前に出た。
「よろしくリンちゃん、わたしならいくら斬られたって平気だから」
リンちゃんはあたふたして、短刀を取り落としそうになっていた。




