第110話 リンちゃんってたまに男の子っぽい【side 雫】
お庭に出ると、リンちゃんは忍者の格好をした人たちと戦っていた。
塀の上に上ったり、砂埃を巻き上げたりしながら、カキンカキン音を鳴らしている。
気絶したおじさんが植木みたいになってたり、池にお尻が浮かんでたりするけど、見た感じ血は流れていなさそうだった。
今は、小学生くらいの子供の忍者三人に、リンちゃんは囲まれていた。
「殺す気でこい。某に一太刀でも食らわせることができたのならば、師父様に推薦してやろう」
「やぁああああ」
飛び込んでくる子を、リンちゃんは軽々といなしちゃう。
一人の腕を掴みながら、もう一人の武器をクナイで弾いて、頭上に跳んだ女の子が振り下ろす短刀も、二本の指で真剣白刃取り。全く相手にならないで、三秒もすれば子供たちはみんな地面に倒れていた。
「攻撃に掛け声はいらぬ。音を消してこそ忍び、一から出直せ」
「は、はい……ありがとうございました……」
糸が切れたみたいに、子供たちは上げていた顔を地面につけた。
それが終わると、また大人がリンちゃんの前に立ちはだかる。口元を黒い布で覆ったおじさんが、鎖鎌をぶんぶん振り回していた。
「手合わせ願おう!」
「承知」
そしてリンちゃんは短刀片手に迎え撃つ……ってなにこれ。
だーれもこっちに気づいてない。庭の隅っこから大乱闘を見物しつつ、隣にいるまひるちゃんを見た。
「これ、なんだろうね。撮影かな?」
「いやあ……たぶん本気なんじゃないかなって思いますけど……」
「だよねえ、リンちゃん楽しそうだし」
チャンバラを続けるリンちゃんは、笑っていた。真剣で真面目な表情なのに、ほんのりと笑ってるのがわかる。
声も弾んでいるし、久しぶりに忍者っぽい。なんか夢中、すごく夢中。
「これじゃ声かけるの躊躇しちゃうよね、いつ終わるんだろ」
「ですね……って、雫さんが?」
まひるちゃんは、変なものを見るような顔になった。目に、疑の字が浮かんでいた。
一度視線を合わせて、すぐにリンちゃんの方に向き直った。鎖鎌さんとの対決は終わって、今度は仕込み杖のおじいさんと戦っていた。
腕を真っ直ぐに伸ばして、リンちゃんの身体と手のひらを重ね合わせてみた。けど、ひょこひょこ動くから、すぐに手の中からいなくなっちゃう。
グーパーとニギニギしても、手応えってやつがなかった。
「だってぇ、今のリンちゃん、男の世界って感じなんだもん。あんまり邪魔したくないよ」
「……確かにそういうノリかもですけど、男なんて言ったら悪いような……」
「でもぉ」
なんか、そういう感じ。近づけないってちょっと思う。声かけてみようかな、きっと飛んでくるんだろうな、でも、でもなんか、なんだろう。
「似合ってるなって思うんだよね、ああいうのも。裸エプロンとかもかわいいけどね、戦ってるのもやっぱりいいなって」
まひるちゃんから返事がやってこなかった。見ると、目を点にしてこっちを凝視していた。
あ、裸エプロンのことは二人の秘密だった。たぶん。
まあいいや。
「まひるちゃんも思わない? 男っぽいところも素敵だって」
「ぇ……あ、そうですね、そういう言い方をされると否定はできませんけど」
「ほら」
笑顔を向けると、まひるちゃんも笑ってくれた。楽しそうっていうよりは、困ってるけど。
リンちゃんの周りには、気絶した人の山がどんどん積み上がっていた。峰打ちで、誰一人として大怪我してない。それになんだか、みんな嬉しそうな顔してる。
「まひるちゃんは、ああいうのわかる? 戦って、楽しいって気持ち」
「ええと、私はあんまり近接格闘戦は得意じゃないっていうか……痛いのは嫌です。わかるかって言うと……わからない気持ちのほうが強いかなって思います」
「逆さ吊りにされてビビってたもんね」
「ぅ……見てたんですか」
「うん」
そうだよなあ、そうだよ、普通の女の子は戦わないもん。ましてや殴り合いなんて、好きな子絶対少ない。殺されるより痛いほうがやだし。
だけど、リンちゃんはきっと好きなんだ、ああいうの。
わかってあげられるのかな、リンちゃんの好きなもの。




