第109話 リンちゃんの刃は、ちょっと重い【side 雫】
みんなリンちゃんがすき。師父さんも、はつさんも、アリスもまひるちゃんも。
特にまひるちゃんの「好き」は強い。見るだけでわかっちゃう、だってずっとリンちゃんの方を見ているから。
目の前に座ってるまひるちゃんは、とってもかわいい。あたふたして、あわあわして、でも好きをちゃんと見つめてる。輝く瞳は、目がくらむほどに眩しい。
どんなところが好き? と聞いて、まひるちゃんは悩んで、うー、うー、と唸って、恥ずかしそうに答えてくれた。
「……意外と優しい人なのかなって。怖いのもあったんですけど、それも」
まひるちゃんは、上目遣いみたいな感じでこっちを見た。
「雫さんへの優しさっていうか……強い気持ちなのかなって……真摯ですよね、凄く」
口を閉じて、まひるちゃんは目を伏せた。首まで赤くなってて、すごくかわいい。
落ち着きがなくて、手はぎゅっと膝の上で握りしめられている。
見ていると、胸がわくわくする。そう、リンちゃんのことがすき、まひるちゃんもすき。それっていい、すごくいい。
顔は笑顔になる。崩れたりなんてしない、ずーっとほわほわしてる。
「ね、ね、ね! わたしのためなら死んでもいいって、それはダメだよって怒るんだけど、そうすると悲しそうにしてて、ああ本気なんだな、って思うの」
「いいなぁ……ぁ」
まひるちゃんは、慌てたように口をふさいだ。
目を丸くして、こっちを見つめて、ちょっとしてからゆっくりと息を吐いた。
「あはは、ははぁ……うん、いいなぁって思っちゃいました、誤魔化すなんて違いますよね。ほら、私にはたまにしか優しくないから……それがズルいんですけど……って、あ、あ、ごめんなさい、雫さんは、か、彼女さんなのに」
「ううん、いいよ、全然いい。リンちゃんのことが好きな人は、誰だって大好き」
好きでいてくれる分には、全然構わない。取ろうとしなければ、ただ嬉しいだけ。
笑い声があんまりにも漏れていくものだから、わたしも手で口を覆った。
「リンちゃんに会いたいね、いつ戻ってくるんだろう」
「……はい、そうですね」
「気持ち伝えたいね、昨日のアレじゃ、きっとちゃんと気づいてないよ」
「いえ、そうでもないんじゃないかって私は……て、ていうか今日はないです、しばらくないです、す、好きですだなんて」
真っ赤な顔をもっと赤くして、まひるちゃんは俯いちゃった。
エアコンの風と、窓から伝わる熱気が混ざり合って、なんかちょうどいい。うっすら日が差し込む部屋で頭を揺らしていると、ぐぅっとお腹が鳴った。
「お腹減ったね、お風呂も入りたいかも。二人で屋敷を探検しちゃう?」
「ぁ、えーと、トラップから雫さんを守りきれる自信がないので……リンさんを待ちたいです」
「あはっ、歩いてるだけで矢とか飛んできそうだもんね、あ、じゃあはつさんに――」
カキンっと、窓の外から金属音が聞こえた。庭の方だ。
まひるちゃんが振り向いた。
「あれ、やっぱり庭でなにかやってるみたいですよ、もしかしたら二人ともいるのかも」
「うん、あの音、リンちゃんの短刀っぽい」
まひるちゃんが一度こっちを見て、また窓を見て、もう一度こっちを見た。二度見。
「え、わかるんですか?」
「もちろん。低音が空気に染みていくような、おもーい音なの」
目を細めて、まひるちゃんはややのけぞった。
「……やっぱり勝てない」
「まひるちゃんにもわかるよ。好きな人のことなら、なんだって」
またカキーンといういい音がした。
遅れて『さあ次はどなたか、お相手いたそう』という大好きな人の声が、うっすらと聞こえてきた。




