第107話 耐え難い恥辱に、身体が反応してしまった
アリスは意味ありげに笑ったが、抵抗はなく刃は首筋へと届いた。
「この状況からどのように挽回するつもりだ、大人しく負けを認めるがいい」
「いいんですか、リンさん。周りには人がいますよ」
横目で周囲の様子を確かめた。いつの間にか、見物人が十数人ほど集まっていた。使用人や、修練中の忍び候補、酔いつぶれて朝まで寝ていたと見られる歓迎会の参加者、そういった面々の視線があった。
アリスに意識を戻した。
「ふっ、手合わせの許可は取ってある、見られたとて不都合はなにもない。潔くなれアリス」
「しかし、見えちゃってますよ、本当によろしいのですか」
「見えても平気だと――ん」
朝の涼やかな風が吹いて、胸のあたりに冷たさを感じた。ぱた、ぱた、と布が揺れているような、そんな微振動があった。
アリスは、やや目を下に向けてある一点を注視していた。
見ていたのは、リンの胸だった。
「あっ……」
胸を覆う布が、めくれていた。下着までも十文字に切り裂かれ、肌の表面が見えていた。
二つの盛り上がりが、ぽっこりと露出していた。
「ひゃっ」
腕を交差させて、咄嗟に胸を隠した。乳首までもが、見えそうになっていた。ぶるぶると肩が震えて、身体が縮こまった。
手を押し付けると、圧力がかかって胸が潰れた。短刀の先端が皮膚を刺して、チクリという痛みが走った。
そ、そうだ、戦いの最中だった、なぜこんな、なぜ、身体は無事なはずなのに。
「貴様ぁ……」
「結果はイーブン、おあいこってことでどうでしょうか?」
アリスは、今日一番のいい笑顔をしていた。
こんなことで、決着を預けるのか。戦えるはず、堂々としてればいいはずだ……しかし、それではあまりにも。
見物人の数は減るどころか、むしろ増えていた。男も女も、子供もいた。
「ぐぅ……致し方ない……」
「えへへ、作戦大成功です」
太陽の熱よりも、身体の温度が高かった。
切れた布はまた魔力で編めばいいのでは、と思い至ったのは、頭の沸騰が収まってからのことだった。
魅力を磨こうとした分だけ、武人としては弱くなってしまったのかもしれない。
どうすればいいのだ、雫。
部屋で寝ていた雫は、名前を呼ばれた気がして目を覚ました。
「ん……リンちゃん? ……あれ、いない」
布団に、リンの姿はなかった。対面には、よだれを垂らして眠るまひるがいた。
身体を起こして見回して、いたるところを確かめて、今この部屋には二人っきりでいると知った。
少しだけ、胸の奥が狭くなるような感じがあった。しかし、すぐにもやもやは晴れていった。
「リンちゃんがわたしを置いていなくなっちゃうわけないか、アリスと遊んでるのかな……リンちゃんが?」
まあいいや、後で問い詰めよう、と思った。
そうしていると、まひるが目を覚ました。ゴシゴシと口元を拭ってから、開口一番。
「おはようございますリンさ……あれぇ、雫さんだけ?」
まひるは、首を傾げていた。
雫は、とりあえず笑顔を作った。
「うん、おはようまひるちゃん」
「あ、はい……私たちだけって珍しいですね」
「ねー」
「あはは、すぐ戻ってきますかね」
まひるも、社交辞令っぽい笑顔を浮かべた。




