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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第105話 実際のところ、天秤は雫側に傾いていた

 鍛錬の許可を取ってから、庭園へと足を伸ばした。

 最初は道場を提案したが「ヒートアップすれば建物が壊れてしまうかもしれません」とアリスは言った。なるほどそれはそうだろうな、とリンもこれには同意だった。


 浴衣に草履という格好のアリスと、庭の広いところで向かい合った。


「武、ですね、この状況。リンさんはワタシとどうしたいですか?」

「決まっている、いつかの決着を付けてみたい。恥辱を与えられたあの夜、その続きだ」


 アリスは口角を上げた。


「あはっ、かわいいかわいい護衛さんは、やっぱりあの日のことをお恨みになっていましたか。なら承知します、ワタシもたまには身体を動かしたいときもあるもので」


 アリスに釣られて、リンも表情を崩した。


「刃であれば鍛錬をする、必要であれば標的の首を狩る、そのように生きてきた、だが今は、貴様のことが気になっている、太刀筋から何が見えるのかと期待している、恨みではないぞ、アリス」


 朝の気だるさは消えて、髪の毛が逆立つような感覚に支配される。殺しもしない、排除もしない、本質的には訓練ですらない、意味もなく刃を交えようとしている。どうしてそれが、悪くないと思ってしまうのだろう。


 身体中がうずいて、芯が熱を持っていた。顔はきっと、にやけていた。


「やっちまいます前に、ひとつ聞いてもいいですか」

「ああ、聞くがいい。流派か、体系か、あるいは信念か、今日は話してもいいと思える」

「ノン」


 アリスは首を左右に振った。肩にかかる金色の髪が、わさわさと揺れていた。


「雫さんとのあまーい時間と、腕試しのマッチョな時間、どちらがお好みですか?」

「む、妙なことを聞く。どちらかなど……」


 見えない圧に押されるように、やや上体がのけぞった。

 顎先を持ち上げるように、親指と人差し指を当てた。相変わらずこの身体は、口周りもすべすべしていた。


 頭の中で天秤が揺れている。雫と手合わせはできない、しかし、一緒に入浴したり裸エプロン……楽しいことをしたりはできる。

 どっちだ、どちらが本当の望み――


 はっとして、深まっていた意識が現実に戻った。


 またアリスに主導権を奪われかけていた。


「……貴様はどうなのだ。平和主義を気取っているくせに、存外楽しそうに見えるぞ。顔が、笑っている」

「そちらこそ、血がたぎるってそんな顔してますね」


 手のひらで、自分の頬に触れた。心なしか、いつもより温度が高い気がした。

 少女にはこんな顔はふさわしくない。たぎりなど、かわいい女の子には必要ない。しかし、だがしかし、同類であるアリスは、十分に魅力的だ。


 だとしたら、こんなときくらいは。


「言ったであろう、たまには悪くないと。甘さに浸っているだけでは、その甘さをかえって忘れてしまいかねないのでな、多少は自分を許してみたい」


 アリスは口を尖らせた。


「ふふん、らしいですけど、バトル脳じゃあんまりかわいくないですよ」

「かわいい顔をした強者が、よくぞ言えたもの。話はここまでだ、変身し剣を構えろ、友の刃を受けさせろ」

「わかりました、怪我しても知りませんよっ」


 空に向かって指を掲げると、アリスの全身が金色の光に包まれた。衣服の輪郭がぼやけ、胸やくびれなど身体の線が明瞭になる。やがて光は――全身を包む鎧へと変わった。

 エメラルドの剣を握る騎士、アリスは魔法少女へと変身した。


「案ずるな、大切な身体を傷物などにはしない」


 リンは左手に短刀『黒き翼』を出現させ、忍び装束を身に纏った。

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