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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第104話 このアリスという女は、他の誰よりも匂う

 アリスは、こめかみから垂れた汗を人差し指ですくった。リンから視線を外して、指の腹を見つめていた。


 しばらく指を弄ってから、アリスは言った。


「フツー、普通ですよ、本国にママとパパがいて、幸福な家庭で育ちました。留学だって、身体を流れる血の半分がどこから来たのか知りなさいって、パパに言われたからでした」


 リンは言った。


「なるほど、父親は日系人か?」

「イエース。パパはある霊山のふもと出身でして、ワタシのマジカルな才能のルーツかもしれません」


 アリスはリンに視線を戻して、弾けるように笑った。

 ニコニコしていて、急に楽しそうだ。


「二人の出会い、それはもう大恋愛でした。ママに恋したパパは、家を捨て国を捨て、単身でブリテンへと渡ったのです。ワタシが生まれたのは、その一年後でした。南部の港町に素敵なお家があるので、いつかリンさんもいらっしゃってください」


 リンは茶をすすった。


「ふむ、無難な設定だな。それで、本当のお前は何者だ?」

「ホワイ?」


 唇に指を当てて、アリスは首を傾げた。四十五度も頭が倒れていて、なんともわざとらしい。


「過去などいくらでも作れる、話はおろか、写真もパスポートも無意味だ。友を疑いたくはない、審問しているつもりもない、ただ、鼻が貴様を一般家庭の娘とは思わせない」

「やなこといいますねえ、リンさんは。人を疑ってばかりいると、雫さんに怒られてしまいますよ」

「疑いではない、確信だ。雫の名前を出して動揺を誘おうとするのも、目線を逸らすための技術であろう」


 アリスは笑顔のままでいた。


「あはは、そういうの下衆の勘ぐりって言いまーす、キュートじゃありません。あ、そうだ、リンさんのご両親はどのようなお方ですか? この里にいらっしゃるのですか?」

「某に実父母はいない、把握していない。貴様と同じように」


 同じ、というのは、おそらくだが。


 アリスは湯呑みを手にして、一気に飲み干した。


「ぷはぁっ、忘れてました、魔法少女たるもの朝の鍛錬がかかせません、申し訳ないですけど、これにて失礼しますデスっ」


 立ち上がったアリスは、そそくさと部屋から出ていこうとした。両手でぎゅっと腰回りの布を握りしめていた。


 座ったまま、リンは言った。


「アリス」


 足音が止まった。


「他人に見せられない顔があるのは、お互い様のようだな。貴様のことだ、どうせこちらの隠し事も察しているのだろう」

「……なぜそんなことを言いますか、リンさんの秘密がこれ以上あるなんて、別に思っていませんよ」

「話していてわかった、他人のことはよく見える。影に生きるものの職能であろう」


 恋愛や感情にはまだ鈍いが、後ろ暗いことなら見えてしまう。

 リンはその場で立ち上がった。浴衣の襟を直してから、アリスに向き直った。


「鍛錬ならば付き合おう。久しぶりに汗をかきたくなった」

「……それは真に受けるんですね」

「ふふっ、日課なのはこちらもだ」


 にっとリンは頬を緩めた。


 たまには手合わせというのも面白い。

 そのほうが見えてくるものもあるというものだ。

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