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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第103話 己には盲目でも、他者のことは見えやすい

 障子の隙間から漏れてくる朝日で目が覚めた。


 ぼんやりとした視界に映るのは、木目の天井。背中を預ける布団の感触は、いつもと違う。けれど妙に懐かしい。ここはどこだ、夢を見ているのか、あるいは現実だと思っていたものが夢だったか――


「むにゃ」と口をもごもごさせる音が聞こえた。


「む」


 身体の左側に、ぴったりとまひるがくっついていた。やや手足を丸めて、メガネを掛けたまま眠っていた。はだけた襟の奥には、ちらりとキャミソールが見えていた。


 密着されている自分は男ではなく、少女のままだった。

 目の焦点が合って、視界が鮮明になった。どうやらなにも夢ではなかったらしい。


 右手側には、雫の感触があった。腕を抱かれて、胸を押し付けられるようになっていた。触れているのは下着ではなく素肌で、水袋のようにやわらかい。

 案の定雫の浴衣もはだけていて、胸元のみならず肩まで露出していた。生肌が丸出しで、布の類は見えてこなかった。


「なにも着けていなかったのか」


 音を立てずに、二人の着崩れを直した。肌が隠れたのを確かめてから、リンは身体を起こした。


 窓の外で、小鳥がさえずっていた。都会とは違って、エンジンの音や人の話し声が聞こえてくることはなかった。

 その静かな部屋に、コトンという陶器を置く音が響き渡った。


「グッモニーング、リンさん、いい朝ですね」


 座卓の横で、アリスが正座していた。天板に置かれた湯呑みと同じように、その居住まいは精巧なもののように見えた。

 着衣も髪も乱れはなく、足の組み方にすら一切の乱れがなかった。


「モーニングティーいかがですか? 昨晩はお茶会の邪魔をしてしまいましたから、その埋め合わせです」

「なにも貴様と茶がしたかったわけではない」


 寝ている二人の様子を窺った。すーと心地よさそうな寝息を立てていた。


「……が、ちょうど暇を持て余している、多少なら付き合ってやろう」

「イエイ」


 ピースサインをしたアリスは、優麗な手つきで急須から湯呑みに茶を注いだ。

 作法はどこで習ったのだろう、普段の言動や行動から想像もできない品が――アリスから、顔を逸らした。


 しまった、見惚れるのは雫の許可がいるのだった。



 座布団を拾ってきて、アリスの隣に腰を下ろした。

 背筋を立てて、正座をした。両手で湯呑みを持って、最初のひと口をいただいた。


「うむ、美味い」


 クスッとアリスが笑った。


「もう少しリラックスです。そういうリンさんじゃかわいくないですよ」

「んっ……いや、貴様が言うな、朝っぱらから礼を尽くしおって」

「ワタシは、これが自然体だって教えられてきましたから」


 アリスは一瞬だけ、視線を外した。なぜかふふんっと鼻を鳴らしていた。


 リンは茶をすすった。


「ならばこちらも同じこと、染み付いた習慣は変えられん」

「好きな人の前では変えちゃうくせにデスか?」


 身体の奥が、ぐらついた。いかん、平常心。


「優先順位というものがある、雫に求められたら……いや、雫のためならば、守るべき己などそう多くはない……不在の場合は過去が露出してしまうというだけのこと……改めよう」


 足を崩した。尻を座布団にぺたんと付けて、膝を曲げた。割座だとか少女座りだとか、そのように呼ばれている座り方になった。


「ワオ、一気にかわいらしいです。でも、ポジティブに見えますけど、寂しさとトレードオフでもありますね」

「身勝手を貫いて周囲から浮いてしまえば、雫に迷惑がかかる。……嫌われたくはないのでな」

「やっぱり、心細くなるような献身ですね。ワタシ、思うんです、リンさんの変化を雫さんは拒まないとは思うんですけど、一番最初に好きだったのは――」


「おい、アリス」


 天板に、湯呑みを置いた。

 青い目を丸々と見開いて、アリスは首を傾げた。


「ワッツ? どうしましたか?」


 思うところがある。この女はずっとそうだ。人には物申すくせに、致命的に欠けているものがある。

 乱入し、気を使い、配慮し、乱れたものを整えようとする、その女には。


「某のことはいい、それよりも聞いておきたいことがある――お前は何者だ?」


 ぴくりとアリスのまぶたが揺れた。


「ノー、まだワタシの疑い晴れませんか? 平和協定もお結びしたのに」

「そうではない、今となれば相応に信頼はさせてもらっている。聞きたいのは、お前自身のことだ、どのような人間なのか友人として知っておきたい」

「わ、ワタシですか」


 リンが頷くと、アリスはきゅっと口を閉じた。やや身体をのけぞらせて、こめかみには汗が浮かんでいるように見えた。

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