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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第102話 もう鈍感ではいられない

 鯉のように口をパクパクとさせてから、まひるは言った。


「だ、誰が好きかなんて、私考えたことないんです。けど、今、今、なんでこんな嫌な気持ちになるんだろうって思って、それで考えてみて、そうかもしれないって、思っちゃって」


 まひるは、ぎゅっと目を閉じた。雑巾を絞るように、力を入れているのがわかった。

 いくらかして、まひるは目を見開いた。また、まただ。その強烈な視線は、こちらに向いていた。


「いつからだろう、最初はその人のことなんて、全然好きじゃなかったんです。むしろ怖くて、近寄らないでほしいって思ってたのに、いつの間にか……いつの間にか、仲良くなりたいって、なれたらいいなって思ってて」


 声を震わせながら、まひるは続けた。


「最初は暴力ばっかりだったのに、なぜか優しくなって、家に来たりして、頼られたりして、ひどい、ひどいんです、自覚なんてないし、気にすることもないし、それが自然体で……ひどい……」


 まひるは顔を拭った。視線は、雫を向いた。


「東山さんには、好きな人はいますか」

「うん、いるよ。隣にいる」

「取られたくないって、思いますよね。自分だけにしてほしいって、思いますよね」


 雫は深く頷いた。


「そうだね、誰かに手を出されたら、わたしは正気じゃいられなくなっちゃう。相手のことを絶対に許せないかも」


 物騒なことを言ってるのに、雫の顔は穏やかだ。正座姿のまま、きっちり背筋を伸ばしていた。

 鼻をすすりながら、まひるは言った。


「もし逆だったら……どうしますか、自分は誰かの大事な人が好きなんだって気づいたら、東山さんはどうしますか」


 雫は即答した。


「取りに行くよ、振り向いてもらう。当たり前じゃん」

「相手に恨まれても!?」


「そんなことより、わたしは自分のことが大事。欲しいものは絶対に手に入れる――越谷さんは違う?」


「私は……」


 まひるは顔を伏せて、自分の指を見つめていた。目尻にシワが寄って、頬は赤くなっていた。聞いてわかるくらいには、呼吸も荒い。


「……奪うなんてできません。だけど、いつか、いつか気持ちを伝えたい……ちゃんと振ってもらいたい……許してくれますか」


 雫は微笑んだ。


「もちろん許さない」


 にこにこと、雫はいい笑顔をしていた。


 まひるは顔を上げた。やっと表情に明るい色が見えた。


「そっか……ふふ……ですよね、正直で羨ましい」


 二人は、顔を合わせて笑い合っていた。


 ふうむ、まひるは雫が好きなのか……などと考えられるはずもない。口にこそしていなくても、誰の話をしているのかは明白だ。

 いつからだ、いつからそうなった。どこで間違えた……いや正解や間違いではないのかもしれないが、困る、難しい。


 頬がひくついていた。表情が上手く定まらない。笑えばいいのか、固くしていればいいのか、共感してあげればいいのか――馬鹿め、それは逆効果に決まっている。


 よし、ひとまずそっとしておこう。険悪な雰囲気ではないようだし。


 アリスに肩を叩かれた。


「リンにゃーん、なにか言ってあげることはないんですか? まひるは勇気を出しましたよ」

「い、いや某は恋バナには疎く……ぅ」


 物欲しそうな顔で、まひるがこちらを見ていた。胸を撫でられて、次の瞬間には押しつぶされるような、そんな感じがあった。


 溜まったつばを飲み込むと、喉が鳴った。

 言った。


「だ、誰かを想うのは心身ともに良い影響がある……実体験だ……だから、その……自覚したのはめでたいことだと個人的には思う……今後も精進してくれ」


 場が静まり返った。全員の視線が、こちらに集まっていた。

 カチカチと時を刻む針の音だけが、聞こえていた。


 失敗、失敗をした? ええい、もはやなにがなにやらわからん、愛を語る言葉など知るものか。

 和め、和め、場の空気よ戻れ。


 咳払いをしてから、言った。


「語尾を失念していました……にゃん」


 また一段と、気温が下がった気がした。

 次はなにを言うかと考えていると、雫が「ぷっ」と笑い声を漏らした。


「あははは、あー、だめだめやっぱ全然わかってない、リンにゃんはそのままでいてね」


 釣られたように、まひるも笑い出した。


「ですね、でも……ふふ、東山さんに同感です」

「あ、ねえ、そろそろ雫って呼んでよ、わたしも名前で呼ぶから」

「そっか、ですね、じゃあ、雫さん」

「んふふ、まひるちゃん」


 リンは腕組みをした。まるで道化だが、結果的に妙な空気はなくなった、よかった。


 頭に浮かんだ言葉を、リンは胸の中でつぶやいた。


 ――雫、ちゃんとわかっているぞ、まひるの気持ちは。それもまた、教えられたことだから。


「ふふ……」


 笑顔を抑えようとして、しかし、そのまま表に出した。


 一人で笑っていると、まひるが手を上げた。


「じゃあ次は私が王様やります! 楽しそうなリンさんにその理由を話してもらいます!」


 雫も手を上げた。


「あ、じゃわたしは、リンちゃんにハグしてもらいたい! みんなにね!」


 ふたりに、詰め寄られてバランスを崩した。


 こんなときに限って、アリスは端でにこにことしているだけだった。

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