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凄腕忍者、TS魔法少女にされる 〜護衛対象に溺愛されても、某は百合には落ちぬ〜  作者:
六章 乙女心や芽生えし夏の月

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第101話 恋バナフェスティバルはどこにいった

 一組の布団を取り囲む時間は、続いた。


 浴衣の裾をバタバタ揺らしながら、アリスが手を上げた。


「ハイ、ハイ、ハイハーイ! ワタシやりたいことがありまーす!」

「まだなにも言っていないが」


 リンの発言は無視されて、アリスは続けた。


「王様ゲームしましょ! 一人のキングが、指名した人になんでも命令できるんです! よろしいですか!?」

「恋バナフェスティバルとやらはどうなったんだ?」

「同じようなものです! 雫さん、いいですか?」


 三秒ほど間があってから、雫が言った。


「いいけど、口にキスはなしね。リンちゃんだけ」


 アリスの視線がこちらに向いたので、雫に合わせて肯定した。

 最後にアリスはまひるにも尋ねて「……はい」という小声が聞こえてきた。


「オッケイ! それじゃあ王様はワタシ、じゃんじゃん指名しちゃいますからねえ!」


 雫が言った。


「ゲームしないんだ」


 気にもとめず、飛び跳ねるアリスはまひるを指さした。


「王様のオーダーです、まひるの好きな人を教えてください!」

「……は? なんで私が……ていうか、ちゃんと決めましょうよ、勝手に進めないでください」

「じゃー、ジャンケンしましょう。10回バトルして1回でもまひるが勝ったら、スキップでいいです。最初はグー、じゃーんけん」

「え、は、そ、それなら、えいっ」


 まひるはチョキを出して、アリスはグーを出した。


「ワタシの勝ちですね、もう一回です」

「は、はい……」


 五回やっても、六回やっても、アリスは勝ち続けた。

 観察していると、アリスはまひるの手を見てから自分の手を選んでいるのだとわかった。0.1秒ほどのわずかな時間に、奴は絶対の勝利を選択していた。


 八回目九回目にもなると、まひるの顔は真っ青だった。「なんで」と口が動いていた。

 実力とはいえ、不憫だ。教えてやるか――伝えようとすると、雫に肩を叩かれた。


「しー」


 ずいぶんと真剣な顔で、雫は鼻に指を当てていた。小声で尋ねた。


「不正を看破したのですか?」

「ううん、でも普通じゃないのはわかるよ。けど、黙ってて、わたしも聞いてみたいんだ」

「悪いお方だ」


 リンは浮いていた腰を下ろした。

 アリスとまひるの間ではちょうど十回目が行われていて、結果はこれまでと変わらなかった。


「フゥ、なんとか勝てたです。それでは、改めてキングの命令を実行してもらいます」

「うぅ……」


 チョキの形になった自分の手を見つめて、まひるは小刻みに震えていた。親族に不幸でもあったのかというほど、顔色は暗かった。


 やがてまひるは、目を逸らしながら言った。


「……好きな人はいません、話は終わりです」


 まひるは、足の指で畳をいじっていた。

 顔を覗きながら、アリスは言った。


「それ、本当ですか?」

「……本当です」

「そうですか、なら結構です。いると思ってたんですけど、見当違いでした。――それじゃ、次はリンさんです! 王様より語尾に、にゃん、と付けることを命令します!」


 リンは手で床を叩いた。


「なんのためのゲームだ! 王様は遊戯で決めろ、遊戯で!」


 アリスはタコのように上体をふにゃふにゃ揺らした。


「えぇ、でも最初にいいって言ってくれたじゃないですか、リンさんとジャンケンしたら勝てるかわからないデスぅ」

「貴様というやつは、やはり反省しとらんではないかっ」


 睨んでいると、視界の端に雫が映った。こちらではなく、まひるの方を見ていた。

 まひるも、膝を抱えたまま雫を見ていた。


 つぶやくように、雫が言った。


「いいんだよ」


 慈しむような、悲しむような、そんな眼差しだった。


 まひるは黙っていて、やがて、顔は膝に埋まってしまった。


 アリスが言った。


「じゃーんけん、ぽん、ぽんぽん……ぽん! イエー、十回も勝っちゃいましたデス!」

「は?」


 言われて、アリスが残像を残すほどの速さで手を出していたことに気づいた。


「な、なにを、無効だ、勝負を受けるとは言ってないっ」

「でもぉ、遊戯をしろって言ったのはそっちじゃないですかぁ、よそ見してたリンさんが悪いんですよぉ」

「ぬぅ……」


 拳を握りしめた。それはそうだ、やれと言った、あいつはやった、言い訳はできないかもしれない。


「不覚……」

「わっははぁ、それじゃあ今日が終わるまでまたリンにゃんです!」


 アリスは両手を掲げて、はちきれそうな笑顔を浮かべていた。


「やりましたです、えーっと、じゃあ次は――」


 突然、まひるが声を上げた。


「アリスっ」


 その強い口調に、アリスは動きを止めた。


「やっぱり、話してもいいですか。ごめんなさい、さっきは嘘つきました……もしかしたら、私にもいるかもしれないって……」


 まひるが顔を上げた。その目は、アリスではなくこちらを見ていた。

 瞳の中で、電灯の光が震えていた。けれども、逸らさず逃げず、真っ直ぐだった。


 あの弱気な女が、いつからこんな顔をするようになったのだろう。

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