十三段 勝負の赤㊅
ナデシコ、クノイチ、オトヒメは出現したアブラムシの悪霊と戦っていた。
「わあっ! 滑るっ!」
「なに、このぬるぬる……っ!」
「これはローションオイルだわ……! 困ったわね……っ」
昆虫悪霊は巫を嵌める為、身体から周辺にオイルを撒いて、戦いの場を整えていた。地面は摩擦係数が殆どなくなり、巫達は足を取られる。
「っまずいな。これでは巫の脚力が活かせないっ」
「結界を解除すれば逃げられ兼ねんし……。おのれ悪霊っ。こっちが出迎えに来るのを良い事に……!」
離れた場所から戦いを見守る尊とおサキは、場所を変える事を考えたが、悪霊が出せるオイルが枯渇しなくては同じ事なので、良い手とは言えなかった。
「チッ、こんな油っ! 燃やしてしまえば苦もない物を!」
「こんな時カグラが居ればのう……。って、危ないわーっ!!」
ケンシンの提案におサキが冷汗を掻く。
カグラの能力とうっかりがあれば、本当に火災が発生し兼ねず、尊とおサキは、今は彼女が不在な事に安堵した。
「ヒャッホー!! 女子ト一緒ニ、オイルデ戯レチャウッスー!!」
昆虫悪霊は楽しそうに、自らもオイルの地面にダイブし、巫達に向かって滑って来た。
「見た目も中身も気持ち悪いですけどっ!」
クノイチが拒否反応を起こす。
三人は、足がいっぱいに見える程、動かしたが、ツルツルして避けられず、突進の煽りを受けて転倒した。
「わわわわわわっ!! きゃああああああああああっ!!!」
大胆に下着を晒してしまい、敵を喜ばせる羽目になる。
「ヒュー! 褌、食イ込ンデルッスネー!!」
「もう……っ!」
例に漏れない悪霊の性質に、ナデシコは表情を歪める。
「まずいわ……。こんなにぐちょぐちょになってしまったら……っ///!」
オトヒメが危ぶむ。
全身オイル塗れになってしまったナデシコ達は、立ち上がる事すら困難になった。そうっと立とうとしても、重心が掛かった箇所が、つるっと滑って、また転倒する。
「きゃあっ!!」
「ううっ、なんとかしないと……っ! ああっ!!」
クノイチも、四つん這いになる所まで起き上がったが、テカテカになったお尻を隠そうとしてバランスを崩してしまう。
「このままじゃ、悪霊に良いようにされてしまうわ……! ああんっ!」
オトヒメも、これには打つ手がないようだ。それどころか、彼女は重心が前に寄っているらしく、つんのめる始末だった。
「ちょっとっ、あああああああああああああっ!!」
脚をプルプルさせつつも立ち上がる事に成功したナデシコが、巻き添えを食らい、押し倒される。DカップがGカップに蹂躙され、ナデシコはオトヒメに、文字通り押し潰された。
「ごめんなさい。あら。私達って、思った以上に差があるみたいね」
「ううっ……態とやっていません……っ!?」
余り悪びれる様子のないオトヒメに、ナデシコはちょっと怒った顔をした。
「モット、ヌルヌル、テカテカニ、シテヤルッスゥ!!」
「きゃあああああああああああああああああっ!!!」
昆虫悪霊が更にオイルを噴出し、三人の悲鳴が上がった。
「こういう時は、少しま、股を開いて……っ/// 膝立ちの方が安定します……!」
苦戦する中、最初に体制を立て直す事に成功したクノイチが二人にアドバイスした。
「やるわね貴方。こういうのの経験、豊富なのかしら?」
「ち、違いますっ///! 千代先輩が言ってたんですっ! ローション相撲の秘策だとかっ!」
オトヒメが褒めるが、クノイチは変な事に詳しいと勘違いされたくないので、真っ赤になって言った。
しかし、思わぬ所で、今度はこの場にいない千代の知識が役に立つ。ミニ着物故、ややスカートがタイトなナデシコ(クノイチは側面の布がなく、オトヒメはフレア風)はぎこちなかったが、三人はどうにか膝立ちでバランスを取った。
「で、この後はどうするの?」
オトヒメがクノイチに聞く。
「えーと……」
この体制でも、どの道、俊敏に動けない事には変わりない。
「ひ、秘技―辻風手裏剣!!」
答えに窮したクノイチだったが、回答を出して見せた。
「オットォ!!」
踏ん張りが効けば、秘技を出せる。投げ遣りの手裏剣は、惜しくも昆虫悪霊に羽ばたかれ躱されたが、反撃の狼煙は上がった。
「なるほど。それなら……私もお披露目しようかしら……!」
オトヒメがくすりと笑った。
「ソンナ技、当タラナイッスヨー! 今度コソ、絡ミ合ッテヤルッスー!!」
再び昆虫悪霊が飛び込んで来た。
「ちょっと、来ないでぇ!!」
ナデシコとクノイチは、またバタバタしながら、ヌルテカ女子にダイブしたい変態悪霊から、必死に逃れようとしたが、オトヒメだけはその場を動かない。
「罠には罠……」
彼女はオイル塗れのミニスカートを脱ぎ捨てて、膝立ちのまま、迎え撃つ構えを取った。
「ナ、ナニ、スカートヲっ!? ウオオオオオオオオ!!」
昆虫悪霊は、下はセクシー褌一丁になったオトヒメに大興奮し、吸い込まれるように向かって行く。
「そっちから来てくれるなんて、嬉しいわ」
後一歩で胸を貸すオトヒメと絡めた悪霊だが、残念ながら、目前で強烈なツッパリをお見舞いされた。
「秘技―波掌底!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアーっ!!!」
オトヒメの秘技は、バストの重量と、浄化の力が生む水圧が合わさった、強烈な掌底突きだった。
昆虫悪霊はとんでもなく吹っ飛び、オイルの地面を滑って行って、尊の張った結界にぶつかり跳ね返った。
「オトヒメ……!」
それを見たナデシコも、反撃のチャンスを逃してはならないと、奮い立った。
「恥ずかしがってる場合じゃない……! 私だって、この状況でも舞ってみせる!!」
触発されたナデシコは、オトヒメに対抗するように、両腕を布の無い肩の部分から出して、油を吸った振袖から解放する。更に裾も捲り上げて帯に挟み、セクシー褌を露出さた形振り構わない姿になる。
「神器、蕾桜!!」
ナデシコは浄化の花弁を蕾桜から放出し、その反動で、膝立ちのまま地面をくるくる滑って浄化の舞を舞ってみせる。
「巫、演舞―桜吹雪の舞!!」
「ヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアー!!」
ピヨっていた昆虫悪霊は、その姿を見て覚醒したが、浄化の技を受け、そのまま天に召されて逝く。
「ゴ、ゴクラク、ゴクラク…………」
巫達は足場の不利を覆して、勝利を掴んでみせた。




