十三段 勝負の赤㋥
若干カットしています。ノーカット版はカクヨムで公開しています。
ホームルームが始まる前、さくやは千代に呼び出され、二年C組にやって来た。楓も呼ばれたのだが、生憎、朝練で来られないようだ。
「和HOO四十七士、二期生オーディション。へー、ネットの噂だと思ってたけど、マジだったんだ」
アイドル部のとわわこと、不動十和が、千代が貰ってきたチラシを見て言った。
オーディションの話は本当だった。しかも、メイド喫茶の店長が、千代が学校でアイドル部をやっている事に興味を持ってくれ、応募を許可してくれたのだ。
どうやら、このオーディションは、まだ見ぬ金の卵を求めており、水面下ではあるが、様々な方面に声を掛けているらしい。
そんな訳で、ビックチャンスを手にした千代は、ずっとハイテンションだった。
「どう? とわわも一緒に受けてみない!?」
十和はアイドル部にして、さくやと同じマドンナ部でもあった。ルックス抜群の彼女が二年の教室にいるだけで、男子がザワ付く程、人気があるが、彼女は断った。
「折角だけど、あたしはパス。本物になる気はないんだよね。ぶっちゃけアイドル部も遊びだしー」
「えぇ!? そんなぁ遊びだなんて!」
若干の冗談を交え、十和は千代の誘いを断る。三年生ゆえに、進路が決まっているようだ。
「卒業したら海外に行くの。リーダー一人で心細いって言うんなら、この二年の華、さくやを連れて行きなよ」
「わ、私はアイドルになる自信ないですよっ。お稽古に専念しないと……!」
さくやは「自分には到底、為れない」と断った。
「もー」と言いながら、千代はもう一人の仲間で、クラスでは隣の席の、ゆりぽんこと、白石百合を誘う。
「じゃ、ゆりぽん! 二人で受けよーね!」
「……クラスでは話し掛けないでって、何時も言っているでしょ」
「えーんっ。今はそのルールなしにしてよぅ!」
邪険にされて千代が嘆く。
百合は二学年トップの秀才だった。今も授業の予習に余念がない。そんな彼女が、まさかアイドルオタクだとは誰も思っておらず、さくやも最初は、彼女がゆりぽんだと気付かなかったくらいだ。
「ゆりぽんプロデーサー志望だからね」
十和が笑いながら言った。
知識に明るい百合は、眼鏡をスチャリすると千代の方を向いた。
「本物のアイドルに比べたら、学校の人気者なんて高が知れている。一般人がオーディションに受かる確率なんて、0.1%にも満たない。それに加えて、知り合い誘って受けようだなんて、考えが甘すぎるわ」
「確かにね。アイドルになりたいって子はいっぱいいるし、絶対、高倍率だよ。リーダーも、まだまだこんな段階で浮かれないで、ライバル全員蹴落とすくらいの気概を持たないと!」
百合の意見に十和も同調した。
さくやも、恐らく楓も含め、皆、アイドルに興味がない訳ではない。しかし、自分の人生、情熱の全てを、その道に注げるか? と言われれば、それは難しいし、それが出来なくては、オーディションに受かるなど到底、無理だろう。
その一方、それが出来る熱意を持っているのが千代である事を、仲間達は知っている。
「あたしがアイドル部に入ったのは、リーダーの本気を感じたから。その勢いで、あたし達なんて置いて、次のステップに進みなよ!」
「リーダーは創部の時もライブの時も、計画だけでは終わらずそれを実行に移してみせた。その行動力は評価してるわ。同じように憧れも、憧れで終わらないように頑張って」
「とわわ……。ゆりぽん……」
二人に意志を聞き、千代は、この更なるステージへの挑戦が、自分だけに与えらたものであると自覚した。
さくやも、その背中を押した。
「千代ちゃん。これは本当に神様が千代ちゃんに与えたチャンスなんだよ! 私達は私達……! その代わり、全力で応援するから!」
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「あのひとのハートに手裏剣シュパパパ♪」
テレビでは、和HOO四十七士の看板バラエティ番組を放送している。映像がローアングルで、歌とダンスを披露するアイドル達の、ミニスカートの中がチラチラ覗く。
「続いてのコーナーは、和HOO四十七士、ぬるぬる相撲対決ー!!」
人気のコーナーが始まり、番組は更に盛り上がる。千代はネグリジェ姿のまま、推しアイドルの取組をハラハラしながら見守っていたが、流石にもう布団に入る時間だった。
「きゃー、ほっちゃん頑張れー! ……わっ、わたしもう準備して寝ないとっ!」
千代は家族に「おやすみなさい」を言い、仕方なく居間を出て自室に入った。
書類選考は無事、通過。いよいよオーディションが明日に迫っていた。
正直、この時点での倍率など一切分からないので、千代は、自分が憧れのアイドルにどれだけ近付いているのか想像出来なかった。オーディションに受かれば、自分もああやってテレビ番組に出たりする日が来るのだろうか?
――全然、イメージ沸かないなぁ……。
「でも、ローション相撲なら、こうやって膝立ちになって、えいえい! 相手のまわしを取って! ……あっ、そうだ明日の下着っ! どれにしようかなぁ。服はこの間買ったワンピで決まりだから……」
ネグリジェの下は今は何も着ていない。千代は明日の勝負下着に迷い出す。
「千代、お前まだ起きてんのか? ほっちゃん最下位で罰ゲームなったんだぜ!」
「きゃああああああっ!! お兄ちゃんっ、入って来ないでよぉ///!!」
突然、兄に戸を開けられた千代は、慌ててスカートを下げた。




