十三段 勝負の赤㊀
「抹茶パフェに抹茶ケーキ! 抹茶パンケーキも☆! 後、抹茶ドリンクもいいなぁ!」
「抹茶あんみつと抹茶ジェラートは、どうです?」
「食べ切れなくならないようにね」
千代、楓、さくやは、抹茶スイーツキャンペーンで話題のメイド喫茶に来ていた。あれもこれも頼みたいが、お小遣いの限度額もあるので、オーダーを決めるのに時間が掛かる。
「ごめんね。私、お月謝が高いの無理言って習い事してるから、お小遣い少なめなの」
「大丈夫! 今日はわたしが奢るから! 巫女のバイトで稼いでいるし!」
さくやに、千代は「大船に乗ったつもりいて!」と、ない胸を叩いた。
「でも、今月は洋服買って使っちゃったって、言ってませんでした? 先月もだけど……」
楓に指摘され、千代は真顔になった。千代はお金があると、直ぐに散財してしまうタイプだった。
「だって可愛いかったんだもん、これ……」
千代は、着ている赤いワンピースの裾を広げて見せ、衝動買いの言い訳をした。
「うわーんっ、折角、来たんだから色々、食べようよー! ねっ、楓ちゃんも沢山、食べたいでしょ?」
「あたしは別に……。パフェとあんみつとアイスとラテがあれば……」
「じゃ、どうにか予算内で注文して、みんなでシェアしよっか!」
スイーツ大好き千代と楓の意見を汲み、さくやはベストなオーダーを考えた。
「でも良かった。さくやちゃん、こういうお店NGじゃなくて」
「えっ、なんで? 別に嫌じゃないって。メイドさん可愛いよ」
「そっちじゃなくて、さくやちゃん本物のお茶とか習ってるから、中途半端な和風とか認めない! なんて怒り出すかなぁって」
「どんな風に見えているのよ私は……。そんな頑固者じゃないってっ。みんな好きに取り入れればいいよ。私だって、その道じゃ半人前だし」
千代の心配は、完全に取り越し苦労だ。さくやは拘りが強いが、それは自分に対してだけだった。
「そっちより、この店に私達が居てもいいのかの方が心配なんだけど……」
さくやは周囲を見て、少しソワソワする。
隣のテーブルでは、露出が多い、へそ出しのメイドさんが、男性客の口に付いたクリームを取ってあげている。男性客は完全にメロメロだ。その向こうのでは、過度に前屈みになってテーブルを拭くメイドさんのパンツが、丸見えだった。
「サービス……すごいね…………」
「中もフリフリ……千代先輩みたいだ…………」
さくやと楓はリアクションの困った。
お店は千代が好きな可愛い系だが、ちょっとHだった。当然、お客は男性が殆ど。レジでは、気に入ったメイドさんのブロマイドも買えたりする。
「あぁ、メイド服欲しいなぁ〜」
「どこで着るんですか?」
直ぐに欲しがる千代に、呆れて楓がツッコんだ。
「ご注文の抹茶パフェ。抹茶あんみつ。抹茶パンケーキ。抹茶ラテです」
暫くしてメイドさんが注文の品を持ってきた。ツイテールのメイドさんは、とても美人で、とても胸が大きく、とても見覚えがあった。
「こ、今宵さん……! どうしてここに?」
「あら、貴方達じゃない。私? ここでアルバイトをしているのよ」
さくやは意外な場所で今宵に出会い、戸惑った。
しかし、正直、とても良く似合っているし「いいなぁ」と思った。加えて、もうお金を稼いでいる事に、素直に尊敬する。
「お嬢様方。シェアをするのなら取り分けて差し上げます」
「け、結構ですっ。私達でできます」
今宵はさくや達を揶揄っているのか、あくまでメイドを演じる。
「はい、あーん♡」
「あ、あたしには、そう言うのいらないですってっ!」
楓がつい狼狽えた。
「いいなぁ今宵さん! わたしもここで働いてみたい! 雇って! 雇って!」
千代は、誰よりもメイド姿を羨ましがった。
「残念ね。ここのアルバイトは高校生になってからよ」
今宵が「だめよ♡」と言った。
実は千代がこの店を気に入っている理由は、メイドやスイーツだけではない。
「ここって和HOO四十七士の会社が運営しているお店なんだよ! 働いてれば、スカウトされるかもしれないんだよ!!」
「あら、貴方アイドル志望なの?」
今宵は千代の趣味を初めて聞く。
「志望っていうか、憧れてるっていうか……。アイドルは、わたしの理想……!」
千代が真剣な表情で言った。
「……それなら、丁度、美味しい話があるわよ♡」
今宵が耳打ちをする。前屈みになった彼女の後ろ姿は、余程、絶景なのだろう、男性客の視線が釘付けになる。
「ここのオーナーの話では、今度、四十七士に二期生を入れたくて、近々、そのオーディションがあるそうよ」
「ほ、本当っ!? それ、わたしも受けたりできないのかな!?」
「私もスカウトされたくらいだし、若い娘を探しているらしいから、貴方にもチャンスがあるんじゃないかしら」
突然の重大情報に、千代のテンションが爆アゲする。
「うそでしょっ!? 四十七士のオーディションが受けられる……っ!? 私、メンバーになれる!!?」
「バイトが終わったら店長に話を通してあげるわ。まぁ、許可が出るかは貴方次第だろうけど♡」
今宵は、微笑みながらそう言ってテーブルを離れ「いらっしゃませ、ご主人様」と入店した客をお出迎えに行った。
「どうしよっどうしよっ!! 幸運の女神、降りて来たっ!!?」
「お、落ち着いて下さいよ。まだ、本当に受けられるかどうか分からないですし……」
男性客より興奮してしまった千代を、楓が宥める。さくやは抹茶アイスでクールダウンさせようとした。
「ほ、ほら、これ食べて……あーん///。……あれ? 溶けたっ!?」
「口に入れる前にっ!?」
楓が驚く程の熱量を持った千代は立ち上がる。
「わたし和HOO四十七士の、四十八人目になる☆!!」
「…………ふーん、あれがね……」
別のテーブルにいる学生くらいの年齢の二人組が、この店には珍しい女の子の客を観察していた。
注文を取りに、今宵がやって来る。
「ご主人様、何に致しましょう?」
謙った態度の今宵に、子供っぽい印象を受ける一人が嬉しそうに答える。
「えっとね。ぼくオムライスとおっぱいプリン! 後、搾りたてミルク!」
もう一人は、太極拳でもやるかのような道着姿で、キザな印象を受ける男だった。
「ボクはブロマイドが欲しいな。キミの名前、教えてくれるかい?」




