十二段 今宵というひと㊄
「頑張ったね、さくや。神器も、完璧に使い熟せるようになってる」
結界を張り、戦闘を見守っていた尊が、懲りずに戦いの場に現れたさくやに声を掛ける。
さくやは尊に向き合う。いよいよ今日から制服が真夏用に変わっていたが、胸を張って、改めて自分の意志を伝える。
「尊さん! 私、至らぬ所があるかもしれませんけど、これからも休まず頑張りたいです! 四人で巫、やらせて下さい!」
「さくや……っ」
頭を下げるさくやに、尊は戸惑っている。頭を掻いて、申し訳なさそうに言った。
「君がそこまで言うのなら構わないよ……。ただ僕は……君の負担を、少しでも軽くして上げられればと思ったんだ……。だけど……」
「尊さんのお気持ちは分かっています! 大丈夫です。ちゃんと暇は貰いますから」
さくやは、尊のその心遣いだけで嬉しかった。自分が巫であっても「決して心配させまい」と心に誓う。
「私。これからはもっともっと精進します! 見ていて下さいね!」
「さくや……」
決意を新たにしたさくやに、尊は、おサキの言う通り、自分の本当の気持ちを伝えるべきだと感じた。
しかし、今はそれを思い留まる。
「今日も家に来るよね。久々に、君の点てたお茶を飲みたいな」
尊は言うべき台詞が違うと思いながらも、せめて、さくやの想いに応えようとした。
さくやは、それだけで嬉しそうな表情になる。
「本当ですか? 私、直ぐに点てます! 一番のを点てます!」
「あ、ありがとう。……皆もどうかな?」
尊は私情を捨てるかのように皆を安倍家へ誘った。
お邪魔にならないよう二人を見守っていた千代と楓は躊躇う。
「な、なんでわたし達まで……っ?」
「あたし達、遠慮します……っ!」
「この流れで成就!」と期待していた二人は、断ろうと両手を振る。
「なに言ってるの? 楓ちゃん、お抹茶好きでしょ? 千代ちゃん、和菓子もあるよ!」
さくやは純粋な気持ちで二人を誘う。千代と楓は顔を見合わせ、同じ表情をした。
さくやは更に、先日のお礼も兼ねて、仲間の一人となった今宵を誘う。
「今宵さんもどうですか? お抹茶、お口に合えばいいんですけど」
「私も?」
誘われた今宵は少し考える。
今回は戦いで遅れを取ってしまった。長い物には巻かれて置くべきだろう。
「まぁ、家に帰っても一人だし、お邪魔しようかしら」
おサキは、進展しているようで進展しない、さくやと尊を見て溜息を吐く。
「やれやれじゃな。相手を想うが故に、満足してしまうのじゃろうか……」
しかし「後、一歩」そんな風にも、おサキは感じた。
「あー! わしもたまにはばーさんにキツネうどんでもせがむかのう。ケンシン、そなたも乳ばかりしゃぶっとらんで、食べていってはどうじゃ?」
「ヤケミルクにしたかったが仕方がない……! だが、オレはタヌキ蕎麦派だ! ばーさんには蕎麦を打たせる!」
恋愛事情など露知らないケンシンは、イライラとそう答えた。
一方の今宵は、さくやと尊の間に特別なものがあると、感じ取ったが、それが却って彼女をやる気にさせた。
「きゃっ! ごめんなさい」
「だ、大丈夫かい?」
突然よろけ、今宵が尊の腕に掴まった。少し態とらしい。高校の真夏制服は、胸元のボタンが全て外されていて、今にも巨乳が飛び出しそうになる。
「まだ悪霊に好き勝手された感覚がなくならないの。どうにかできないかしら?」
「そ、そうだな。何か効果がある術や薬を処方するよ」
危険な服装の今宵に密着され、尊がたじたじになる。気付いたさくやが、慌てて、二人の間に胸を入れるようにして割って入った。
「それなら、お座敷でゆっくり休んでもらいましょうっ」
「そうだね。そうしていきなよ今宵さん」
今宵は割り込んで来たさくやを、冷ややかな目で見たが、めげずに反対の腕に移動する。
「実は神器について聞きたい事もあるの。そのお時間も頂けるかしら?」
「海鳴りの? ああ、分かったよ」
今宵は尊に接近するのを止めない。さくやは恐れていた時が来たと気付いた。
「秘技についても聞きたいわ。私、それについては詳しく知らないから、その……開発して貰いたいのだけれど///」
「そうだったね。出来るようにした方がいいかも知れない」
「だ、だめっ!」
さくやは言葉がつい口を衝く。
「あら。どうして貴方が断るの?」
今宵が聞く。
「えーと……秘技については私達のが詳しいですから。私達が教えた方がいいかと……」
さくやは勇気を出して、今宵に負けないよう尊の腕を掴む。
「そう? 巫ごとに能力が違うから、勝手が違うんじゃないかしら?」
「いえ、基本は同じ筈です」
「それはそうと尊。私のことは今宵って、呼び捨てで呼ぶようにお願いしたでしょ?」
今宵はさくやを無視する。
「ああ、分かったよ。今宵さ……こ、今宵―」
「わ、私も呼び捨てで呼んで下さい、尊さんっ!」
「え? 元々、呼び捨てだけど……!?」
焦るさくやの発言に尊が混乱する。
その後も安倍家に向かう道中、今宵は尊に、あからさまなアクションを掛けた。
その度に、さくやは果敢に対抗しようとした。
「……さくやちゃん。なんだか前より積極的になったね」
「む、胸、当たりそう……」
見守る千代と楓が、ドキドキしながらその姿勢を応援した。
―――――――――――――――――――――――――
巫達の戦いの様子を、建物の上から観察していた者がいた。その者は、少年のような若い顔立ちで、灰色のパジャマを着ている。
「なんだよあいつ、女の子に囲まれちゃって! 死ね! でも巫は、かわいいなー! スカート短いし、オトヒメとかおっぱいでかすぎ! おっとっ!」
狼の使い魔が、鋭い感覚器官で彼の気配を察知したようだったが、姿を見られるより早く、少年はより遠くの建物の上に移動した。
「絶対にぼくがやる! リュー君よりも先にね!」
少年は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
お読み頂き、ありがとうございます。
よろしければ評価、ブックマーク等頂ければ、励みになります。




