十二段 今宵というひと㊃
R15の範囲外かもしれないので、ノーカット版はカクヨムで公開しています。
次なる悪霊は変わった姿をしていた。
全身が真っ黒な毛に覆われている毛虫。或いは巨大な動く毛の塊にも見える、ちょっと気持ちの悪い相手だった。
「オトヒメだ! もう戦ってる!」
ナデシコ、カグラ、クノイチが現場に急行した時には、既にオトヒメが戦闘を開始していた。
「ただのデカい毛虫とは限らんぞ! 呪い塊かもしれん! 用心するのじゃ!」
先導したおサキが警告した。
一方のオトヒメは、この毛虫悪霊にも臆する事なく立ち向かっている。伸びてきた毛を回避し、逆にその束を掴むと、相手を引っ張って地面に叩き付けている。
「わぁ! この調子じゃ、もう決着付いちゃうかも!」
「せっかく部活、抜け出して来たのに……!」
緊急出動して来たものの出番がなさそうなので、カグラとクノイチが拍子抜けする。
しかしナデシコは、毛虫悪霊がワサワサした全身の毛で地面にぶつかる衝撃を吸収し、ダメージを受けていないと勘付く。
「油断しちゃだめ! オトヒメ、気を付けて!」
余計なお世話かもしれないが、ナデシコは叫んだ。オトヒメは神器、海鳴りを取り出し、本当に決着を付ける気でいるようだ。
「軽いわね。まるで、重さを感じないわ」
「ククク……。ダカラト言ッテ甘ク見ルナヨ? 巫ィ……!」
案の定、浄化技を放つ前に毛虫悪霊が動く。黒い小さな物体を、身体から無数に放ったのだ。
それは、まるで悪霊の影から、小さな影が湧き出したかのようだった。
「!?」
当然、警戒していたオトヒメは、大ジャンプでその影を躱した。しかし、それらは足元を、ただ素通りしては行かなかった。
影は、意志があるかのようにオトヒメを狙い、彼女の着地点に集まり、待ち構える。
「くっ!!」
「オトヒメっ!!」
やり過ごせずに着地したオトヒメの足に、黒い影が取り付く。
実際の毛虫サイズの小さな物体が、足を上って露出した太ももを這う光景は、見ているだけでナデシコ達をゾクゾクさせた。
「なに!? あのマックロクロスケみたいなの!?」
「き、気持ち悪い……ぃっ!!」
カグラとクノイチも鳥肌が立ち、思わず自分の肌を擦る。
しかし、前回も悪霊の攻撃を受けようが、オトヒメは強行突破している。この攻撃も、オトヒメには軽いものに思えた。
スポーツの監督のようにケンシンの激が飛ぶ。
「生温い攻撃だな! 怯むなオトヒメ! 行け!!」
「……くっ……! ……ああっ! ……あっ!!」
しかし、オトヒメの様子がおかしい。
「どうした!?」
ケンシンも含め、一同は、この攻撃には予想通り、呪いのような力があり、オトヒメの動きが鈍ったのかと思った。
しかし、彼女の反応を見るに、どうやら違うようだ。
「ああんっ! ちょっとっ! そんなトコロっ♡!!」
オトヒメは悶えていた。カラダを毛虫に這い回られるような感触には、彼女とて耐性がないようだ。
どうにか払おうとしていたが、今度はその手にくっ付かれ、払い除ける事ができないでいる。
「オヤオヤ。巫トハイエ、感ジルモノハ感ジルヨウダナァ? イイザマダァ!」
毛虫悪霊が、苦しむオトヒメを見てククっと笑った。
オトヒメは、その豊かな胸にまで嫌らしい物体に這い回われ、堪えきれず両膝を付いた。
「ああっ♡! わ、私……っこういうのはだめだわ……!! やめて! ま、参ったわ!!」
「オ、オトヒメ!?」
「うそっ!? あんな攻撃で!?」
「び、敏感過ぎでしょっ!?」
ある意味潔いよさを感じるオトヒメのギブアップに、ナデシコ、カグラ、クノイチは唖然とした。監督ケンシンも怒りの声を上げる。
「何ぃー! オトヒメっ! キサマに負けが許されると思ってるのか! 立てコラ!!」
ケンシンに叱られ、オトヒメは立ち上がろうとしたようだが、巨乳を這う毛虫に、中央の突起を執拗に責られると、突然、その大きなバストをぶるんっと揺らし、カラダを仰け反らせた。
「きゃああああああああっ♡!! ああ♡ ……だめぇっ♡ ……クっ♡!!」
「ドンナ実力ガアロウトモ、所詮ハオンナト言ウ事ダァ!」
毛虫悪霊は大興奮だ。
「ええいっ、おのれ!! こんな虫、オレが食ってやる!」
ケンシンが牙を鳴らし、オトヒメに取り付く毛虫に噛み付こうとしたが、小さく素早いので上手くいかない。
「ああんっ……痛いわ……」
「ばかもんケンシン! オトヒメを食べてどうするのじゃ! んっ、なんじゃカサカサするのぅ……」
咎めるおサキだったが、急にソワソワし始めた。その鼻を黒い影が横切る。
「ぎぁあああああっ!! 何時の間にわしにもっ!! と、取ってくれぇー!!」
前足で必死に顔を掻くおサキ。しかし、取り付いているのは一匹ではなかった。
「おサキちゃんっ! 尻尾! 尻尾にも!」
カグラが払ってあげようとしたが、今度はカグラに取り付いて来る。
「わーっ、わたしにも付いたっ! ああんっ! あっち行ってえぇ!!」
「ちょっとっ、こっちに飛ばさないでっ!!」
「ごめんー!!」
袖に付いた毛虫を払ったら、今度はクノイチに。二人は、しばしば相手に付いた虫を払っては貰い、貰っては払う、というやり取りを繰り返した。
「わぁああっ、袖にっ! 袖に入ったぁ!!」
「スカートの中はだめっだってっ!!」
「二人共、落ち着いて!!」
パニックになる二人にナデシコが叫んだ。何時の間にか、周囲は悪霊が放った毛虫の群れがうじゃうじゃおり、逃げ場がなくなっている。
ナデシコはゾクゾクしている太ももを叩いて、自分を奮い立たせる。
「私に任せて! 神器、蕾桜!!」
ナデシコは天貝紅から神器の扇子を取り出し、扇いで浄化の花弁を大量に生み出す。
「秘技、花筏!!」
ナデシコが、くるりと回って桜の花弁を放ち、周囲の毛虫を吹き飛ばす。更に柔らかい動作で手首を返して扇子を振り、花弁を的確に操作して、カグラ、クノイチ、おサキの体の表面を濯ぎ、取り付いた毛虫を攫う。
「わあ! やったぁ取れた!」
「ありがとナデシコ!」
神器は浄化の力を高める。強力になった秘技を更に遠方に飛ばし、オトヒメに取り付いた毛虫も全て払い飛ばした。
「……取れた!」
オトヒメは嫌らしい虫から解放されるや否や、カラダの痙攣お構いなしに、敵に突進した。
「やあ!!」
「ナニ!? グアアアアァ!!」
油断していた毛虫悪霊はオトヒメに体当たりされ、軽く宙を舞う。
「貴方の責め……効いたわ……!」
「今だよ! カグラ、クノイチ!!」
ナデシコの音頭で、カグラとクノイチも神器を取り出した。
「オッケー! 燐鈴!!」
「行きます! 太刀風!!」
三人の浄化の力が一体化し、太陽の如き光球を作り出す。
「巫、舞踏―もののあはれ!!!」
「ウワァ、眩シイィ!!」
光球が毛虫悪霊を包み込み、光が影を消し去るように黒い身体を消滅させる。
「グオオオオオオ……! コレデ、オレモ……ゴクラク、ゴクラク…………」
中々、頑張った悪霊は、嬉しそうに天に昇って行った。
「やったね! ナデシコ!」
「流石はナデシコです!」
カグラとクノイチが、見事、仲間を救い、戦況を覆したナデシコを称えた。
「……やるじゃない貴方達。今回は私一人じゃ負けてたわ」
敵の魔の手から救われたオトヒメが、ちょっと気まずそうに言った。まだ熱っぽい表情をしており、頬に手を当てる。
「格好悪いわ私。とっても恥ずかしい……」
いまいち悪びれる様子がないので、ケンシンはお冠だった。
「この役立たずめが! 帰ったらたっぷりお仕置きだ!」
「あんっ。厳しいわ……」
オトヒメにナデシコが言う。
「今回は私の能力の相性が良かっただけです。悪霊はちょっと変わった……破廉恥な攻撃をして来る場合があるので、気を付けて下さいね」
アパートにお邪魔した際、ナデシコはオトヒメを、自信家故に、少し危なっかしい所があると思っていた。
「それと、私達は仲間なんですから、腕なんて競わず、協力し合えばいいんです!」
此方は何方かというと、厳しいケンシンに対してだ。
「そうじゃそうじゃ! そなたは巫に理想を求め過ぎなのじゃ! 巫とて、全て完璧とはいかんのじゃ!」
「フン! 役割を果たして貰えなければオレが困る!」
おサキも戦いの経験を積んだ者らしい一面を見せた。しかし、ケンシンの態度から、お仕置きは無しとはいかなそうだ。
「あたし達は、ずっと助け合ってここまで来たんだもんね!」
「そうです。だけど、カグラが助けてくれたこと、余りない気が……」
「ええ!? なに言ってるのぉ! いっぱいあるってばー!」
カグラはクノイチの厳しい評価に異議を唱えた。
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