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十二段 今宵というひと㊀

 さくやはショックを受けた。

 「弱い」と言われれば、大抵の人間は傷付く。しかし、その後の出来事の方が、さくやにとっては大きなショックとなった。


 「ぬぬぅ。どうやらケンシンの目利きは正しいようじゃ……。悔しいが、オトヒメの方が一枚上手やもしれん」


 おサキが渋い表情をしながらも、強いオトヒメを称賛した。

 

 「嬉しい限りだよ。やっぱり彼女に引き受けて貰えて良かった」


 一方の尊は、胸のつかえ取れたかのように、晴れやかな表情をしていた。さくや、千代、楓に改まった態度で告げる。


 「正直、これまで君達には大きな負担を強いていたと思う。代わりの人材もいない中、とても良く頑張ってくれたよ」


 尊は優しく言ったが、さくやには、これは「お役目御免」と言われているようにしか聞こえなかった。


 「今後は彼女に任せて休んでくれ―」


 「嫌ですっ!」


 さくやは反射的に言った。


 「わ、私はこれからも(かんなぎ)を続けます! だって、ずっと頑張って来たんだもんっ! 今日は上手く行かなかったけど……つ、次は絶対……っ」


 そこで言葉に詰まった。

 「絶対、勝てます!」と言い切れる程、自分の巫としての実績は芳しくない。前回は変身できずピンチに、その前に至っては、捕縛されている始末なのだ。

 自分を捕らえた守護悪霊シュラが、(いくさ)などと評する世界に於いては、より相応しい実力を持つ人物が巫をやるべきなのは間違いない。しかし、今のさくやには、とても受け入れる事が出来なかった。

 さざ波立つさくやを宥めるように、尊がその肩に手を置いた。


 「さくや……もう無理をしなくていい。僕は最初から、ずっと君をこの世界で戦わせようなんて考えてはいないんだ」


 「無理なんてしてませんっ! わ、私は……っ!」


 さくやはムキになった子供のように尊を見る。何時の間にか、瞳には涙が滲んでいた。

 

 「私は……尊さんの役に、立ちたくて…………っ!!」


 溢れそうになるものを押さえ切れず、さくやは尊の手を払い除け、駆け出した。


 「さくやっ!」


 尊が呼び止めたが、さくやはその声すら振り切って、走り去った。


 ―――――――――――――――――――――――――


 どんよりとした曇は、遂に空のキャパシティを超えてしまったのか、雨へと変わり地上に降りてきた。外出していた人々は、ちゃんと天気予報をチェックしていた傘を差す人と、慌てて屋内に駆け込む人とに大分された。

 しかし、さくやだけは、まるで雨に気付いていないかのように、傘も差さずに歩いていた。頭の中では様々な考えが巡っている。尊と出会った事。巫になった事。悪霊を祓った事。悪霊に苦しめらた事……。

 しかし、ショックで具体的な事は何一つ考えられず、行き先すら考えないで、ただただ漠然と歩き続ける。


 「……貴方、びしょびしょよ」


 声を掛けられたので、さくやは歩を止めた。顔を上げずとも、相手が誰かは直ぐに分かった。

 澄んだ声。美しい砂時計型のカラダ……。


 「今宵さん……!」


 今宵は一度高校に戻ったらしく、学校カバンを下げ、傘を差していた。

 

 「上なんて丸見えだわ。私のアパート近くだから、雨宿りしていきなさい」


 「い、いえ……大丈夫です……。このくらい……。///っ!!」


 今宵に指摘され、自分の体に目を落としたさくやは、慌てて両手で胸を覆い隠す。

 雨に濡れ、セーラー服がスケスケだった。桜色のブラジャーが、バッチリ見えてしまっている。


 「そのまま歩き続けたら、何人、声を掛けてくるかしら?」

 

 今宵が冷静に言い、興味深そうに周囲を見回す。

 近くを通った男性達が、こっちを見ているのに気付き、さくやは今更、真っ赤になる。


 「さぁ、一緒に来なさい」


 今宵に促され、さくやは彼女の傘に入れてもらった。

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