十一段 理想型㊃
今宵が変身した巫オトヒメは、完璧な体型を余すことなく引き立たせる衣装を纏い、その立ち姿は自信に満ち溢れている。
「オトヒメ……」
ナデシコ達は自分達以外の巫の存在が、まだ異質な存在のような気がしてならなかった。
対する怪鳥悪霊も彼女を一目置く。
「新手ノ巫ダト……!? コイツァ驚イタ! トンデモナイ上玉ダァ! 儂ガ一番ニ手ヲ付ケテヤル!!」
悪霊はボロボロに見える翼を羽ばたかせて、飛び上がる。
「させない!」
巫達は、空高く舞われると手出しが出来なくなってしまうので、上昇を阻止しようと立ち向かう。
「!!」
しかし、怪鳥悪霊が羽ばたくと、抜け落ちた羽根が空中で回転し、それが小さな旋風を纏う。無数の駒のようになったそれが巫達を迎撃した。
「わっ!?」
ナデシコ達はギリギリで回避する。旋風駒は地面や建物に当たると、抉るように斬り裂いていった。
「なにあれ!?」
「すごい斬れ味っ!」
凶器に等しい羽根に、カグラとクノイチも戦々恐々とする。
「恐レ入ッタカ! ダガ、調査通リナラ、オ前ラノカラダハ、決シテ斬レタリハシナインダロウ?」
羽根は怪鳥悪霊が羽ばたく度に抜け落ちる。あっという間に回避不能な数の旋風駒が作られ、巫達に襲い掛かった。
「きゃあっ!!」
「ああっ!!」
「ううっ!!」
羽根がナデシコ、カグラ、クノイチを掠める。引き裂かれるような痛みと共に、当たった箇所の衣装が、細切れの布となって宙を舞う。
「ソレナラ予定通リ、スッポンポンニシテヤルヨォ!!」
怪鳥悪霊は、面白がるように次々と羽根を飛ばす。ナデシコ達の薄布の衣装が、徐々に面積を失っていく。
「きゃああっ!! は、裸になっちゃうよぉ!!」
一番、回避にしくじるカグラの衣装が、どんどん破かれていく。遂には、胸と股間を手で押さえないと、大変な事になってしまうまでに追い詰められた。
「カグラ、ちゃんと避けてっ!!」
クノイチが救助に入ろうとした。しかし、一瞬の隙を突かれ、旋風駒が彼女の脇腹を掠める。
「っ!?」
ダメージはそれ程ではない。衣装の損傷も、然程ではなかったクノイチだが、裾から白い紐が、はらりと垂れ下がった。
心許なさを感じ、彼女は咄嗟に股に手を当てた。
「ちょっとっ、うそっ!!?」
クノイチは掠った攻撃に、運悪く褌の紐を斬られていた。
「クノイチどうしたの!?」
「待ってタイムっ!!」
ピンポイントで大打撃で被り、カグラに続きクノイチも戦闘どころでは無くなってしまった。
「このままじゃ……っ!」
ナデシコは秘技、花筏を駆使し、旋風駒を受け流していたが、それでも矢継ぎ早に飛んで来る攻撃に防御を掻い潜られ、袖が、足袋が、襟が、裾が破かれていく。
「ナデシコ頑張るのじゃ! 悪霊の羽根が無くなるまで粘りきれー!」
付近の建物の影から、おサキが激を飛ばす。確かに怪鳥悪霊の羽根は殆ど抜け落ち、弾数には限りがありそうだ。
「た、耐えてみせる……っ!!」
しかし、何処か破れたのか帯が緩み出した。徐々に着崩れが起こり始める。着物がはだけ、裾から褌が覗きっ放しになるが、ナデシコは痛みと、しゃがみ込んでしまいそうになるのを必死に堪え続ける。
――我慢して私! 忍耐力だけが取り柄……!!
「ハゲるのを待つ必要などない!」
その時、ケンシンが吠えた。
「オトヒメ!!」
オトヒメはクノイチに負けない反射神経で、羽根を避け続けていた。所々、衣装を破かれてはいたが、攻略の糸口を掴んだかのように微笑む。
「残念ね。もっと痛め付けて欲しいわ……」
「ナニィイ!?」
オトヒメは、攻撃を避けながら近付いていた高い塔を駆け上がった。怪鳥悪霊と同じくらいの高度に立つが、登り切ったところに迎撃の旋風駒が大量に飛ばされる。
「危ないっ!!」
避ける場所がなくナデシコが警告する。しかし、オトヒメは悪霊に飛び掛かり、自ら攻撃に突っ込んだ。
「っ!!」
シュレッダーに飛び込んだかのように、布がビリビリ裂ける。オトヒメの麗しい衣装が、一瞬で布切れへと変わり、花弁のように散った。
「ハハハッ!! スッポンポンノ完成ダァ!!」
勝ち誇る怪鳥悪霊。
しかし、オトヒメは下着の面積にも満たない僅かな布切れを纏った姿になりながらも、突撃の勢いを失わず悪霊に向かう。
「ウホォオ!? グアアアアアアアアっ!!!」
そのまま飛び膝蹴りを食らわせ、悪霊を叩き落とした。
「効いたわ。次は……もっとすごいのを頂戴♡」
神器の団扇で、溢れてしまったバストを覆い隠すオトヒメ。浄化技を発動させ、水流を生み出す。
「巫、演舞―海神の舞!!」
「モ、モウチョトデ見エソゥゴボボボボアアアアアっ!!」
怪鳥悪霊は水龍に飲まれ、消えていった。
「……ゴボ……ゴクラクゴクラク…………」
「……」
オトヒメの余りにも強引な突破方法に、ナデシコ達は唖然としていた。
「すごい……。でも、自分から攻撃に飛び込むなんて……危ないですよ」
「あら……貴方達、知らないの?」
ズタボロ衣装で、今にも見えてはいけない所が見えてしまいそうなオトヒメだったが、表情は涼しい気だった。
「巫は無敵なのよ」
「……そ、それは、知っていますけど…………」
三人は無理に笑う。
無敵。確かに巫のカラダは、どんな攻撃を受けても傷付かない。しかし、ナデシコ達は何方かと言えば、保険としてその加護の力を役立ているので、特攻と言う使い方は考えていなかった。
「痛いですよ……」
激痛覚悟で敵の攻撃に突っ込むオトヒメは、ナデシコからすれば、常軌を逸しているとしか思えなかった。
現場にやって来た尊に、無事、悪霊を祓った事を伝えると、今宵は熱が冷めたかのようだった。
「じゃ、私はこれで。もう授業も終わったでしょうけど、荷物を取りに学校に戻らないと……」
皆、淡々とやるべき事を熟して、さっさと帰ろうとする彼女に恐れ入る。
「オトヒメ……。悔しいけど強いですね……!」
「もう全部あの人一人でいいんじゃないかなぁ……。なんちゃって……」
醜態を晒しただけの楓と千代は、少々、肩身が狭そうだった。
結果的に、さくやを含め、三人は何もしていないに等しかった。温泉の時は「変身していなかったので活躍できませんでした」と言い訳もできたが、今回は「後塵を拝した」と言わざるを得ない。
今宵も思ったのだろう、去り際に振り返り、こう言った。
「貴方達って……」
彼女は、さくや達を幼い子供を見るような目で見て、くすりと微笑んだ。
「弱いのね」




