十一段 理想型㊂
尊が「使わずとも一応は持っていてほしい」と今宵を説得したので、天貝紅の気配を遮断する香箱は、無事、全員が受け取った。
「それは命令かしら?」
「いや、そう言う訳じゃ―」
「命令なら仕方がないわね」
しかし、その後も今宵は淡々としていて、必要な情報を貰い、連絡先の交換を行い、支援者である尊の祖母と母に挨拶を済ます。どうやら、巫をする上で不要な事には興味がなさそうだ。
「上がってお茶でも飲んでいけばいいのに」
「いいえ。引っ越して来たばかりでまだ荷物が片付いていないの。今日はこれで失礼するわ。必要な時はいつでも連絡を頂戴。なんでもするわ」
尊の誘いをやんわりと断り、今宵は帰って行った。
「あの人、色々、自信アリって感じだね。いいなぁ、わたしもあのくらいのを持てれば……」
「なんだかプロ。……って感じですね」
後ろ姿を見送った千代と楓は、そんな感想を述べた。
「じゃあケンシン。彼女のサポートは君に任せるよ」
尊が狼の使い魔ケンシンに言った。ケンシンも自信満々で引き受ける。
「オトヒメがいれば他の巫など不要なくらいだ。おサキ! キサマの役目も終わりって訳だ!」
「なんじゃとー! わしが見付けた巫だってピチピチですごいんじゃ! 不要なのはそなたじゃろ!?」
おサキがカンカンになって言い返す。ケンシンがニヤリとした。
「フン! 腕試しでもしてみるか?」
「望む所じゃー! 悪霊退治はわしらに一日の長があるのを、見せてやるわ!」
ケンシンの挑発に乗ったおサキが吠えた。
「行くぞ! さくや、千代、楓ぇ!」
「ど、どこに行くの?」
「悪霊いないよ?」
「仲良くすればいいのに……」
使い魔同士が勝手に始めた腕試しの機会は、暫くして訪れた。
その日は、何時、雨が降るか分からない、どんよりとした天気だった。悪霊の気配を感じたおサキは、ケンシンに遅れを取るまいと、矢の早さでさくやに知らせてきた。
折悪しく授業の最中だったのだが、巫達は至急、現場に向かう事にした。
「待ってよ、おサキちゃん! さくやちゃん! パンツ見えてるよ!」
「三人で戦わないと! どんな嫌らしい手を使ってくるか、分からないんですから!」
千代と楓は、先走るさくやとおサキを追い掛ける。
「ご、ごめんっ!」
さくやは些か気負っている自分に気付く。緊急出動は別としても、不思議な焦りがあった。
現場近くまで来ると、別の道からケンシンと巨乳を揺らす今宵が合流した。今宵が何も言わず、チラリと三人を見やる。
「来たかおサキ!」
「当然じゃ!」
二匹の使い魔が競うように案内した場所は、駅の近辺だった。
出現した悪霊は、巨大な禿鷲が殆ど骨だけになったような姿で「フゥ〜、ココガ現世カー!」と清々しそうに羽を伸ばしている。急行して来なければ、今頃、何処に飛び立たれていたかもしれない。
「私達に注意を惹き付けよう! 行くよ! 巫、舞初め―春うらら!!」
さくやが言い、まずは既存メンバー三人が変身した。
相変わらず戦いには似つかわしくない、超ミニスカ着物の巫だが、元人間で、大抵スケベな悪霊の気を惹くのには長けている。
「タク、新シイ守護悪霊ダカ知ラナイガ、儂ヲ使イッ走リニシヤガッテ……」
怪鳥悪霊はグチグチ言っていたが、巫の姿を見ると予想通り、興味津々になってくれた。
「ダカ、巫ガ出迎エテクレルナラ結構! 結構! ハハハ! 結局コイツラハ、儂ノ獲物ニナル定メッテ訳ダァ!」
悪霊の嘴から、よだれが飛ぶ。三人の巫は距離を取りつつ、身構えた。
「ふふっ。確かに貴方は私達で好きに遊んでイイのよ。追い掛けたり、捕まえたり。虐めたり、食べちゃったり……」
今宵だ。安倍家での冷めた印象より、明らかに声に抑揚がある。温泉でさくや達の窮地を救った時と同じ、色っぽい声音。
まさにオトヒメの声だった。
「ナンダ、オ前!? !!! エ、エライボインチャンジャネェカっ!!?」
怪鳥悪霊は、現れた今宵が余りに上玉なので、惹かれるどころか動転した。
一方の今宵は、自分を性的対象にしてくる敵に、恐れる事なく近付いて行く。
「その代わり、無関係の人には手を出さないって約束してくれる……?」
今宵は、まるで悪霊と戦うのを愉しみにしていたかのように微笑んだ。
そして、芍薬の貝紅を取り出し叫ぶ。
「巫、舞初め―冬化粧!!」
今宵は唱え、天貝紅から放たれた閃光に包まれた。
衣服が光に掻き消されると、彼女は恥じらいを感じつつも自らを解放するように、その肉感的なボディを曝け出す。
長い黒髪が更に伸び、頂点で輪っかを二つ作って、再びツインテールに結ばれる。
雪のように白い二枚の長い布が肩に掛かり、豊かな胸を縦に覆って垂れ、蒼い帯で締められる。透き通るような水色の布が、はらりとミニスカートを形作り、お尻と布の小さな褌を辛うじて覆う。
色っぽく紅を差すと、天貝紅が玉鎖で帯から下げられた。
眩い光が消えた時、今宵はその姿をお披露目する。
「揺れる泡沫、オトヒメ。お手柔らかに……!」




