十一段 理想型㊀
さくや、千代、楓の絶体絶命のピンチを救ったのは、蒼い衣を纏った新たな巫であった。
「オトヒメ……さん? 何者なんだろう?」
「大きなおっぱいだったね……」
「どこ見てたんですか……」
悪霊の出現を察知したが、露天風呂の近くで敵に見付かってしまったおサキは、ズタ袋の中に入れられていた。三人はジタバタ踠いていたおサキを発見し、救出した。
「な、何じゃと!? 知らない巫に助けられた!? ……オトヒメ? いや、何であれ、そなた達が無事で何よりじゃった……。ああー、おのれ悪霊っ! 首が……首が痛いぞっ!」
三人も、おサキが無事で一先ず安心した。
しかし、温泉で温まったのも束の間、身も心も、すっかり冷め切ってしまった。
千代がぽつりと言う。
「入り直す……? ……お風呂」
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「―各運動部の慰労会に参加するメンバーは決まりですわね。では次、新しい制服のサンプルが届いているので、私達で試着致しましょう。あら残念、DとEしかありませんわね……」
マドンナ部では週に一回程、放課後に集会が行われている。部長のすいか先パイが仕切り、テキパキと依頼が処理され、今後の活動予定が決まる。
「では、さくやさんも試着をお願い致しますわ」
「あ、はいっ」
さくやは若干、上の空で集会に参加していた。あれ以来、自分達以外にもいた巫の事が気になって、イマイチ集中力を欠いていた。
――いけない、いけない。
さくやは自分を律して、試着のカーテンに入って制服のサンプルを着てみた。すると、否が応でも我に返った。
「ちょちょちょちょっと、なんですかこれっ! 小さ過ぎませんか!?」
試着した制服は、ノースリーブのセーラー服だった。しかも、バストを丁度、覆うくらいの丈しかない。ミニスカートに至っては、超ミニな上にローライズで、股を隠そうと下げるのも、おへそを隠そうと上げるもできない。
「上も下も全然、布が足りないじゃないですかっ!?」
「何を言ってるの? さくやさん。サイズピッタリじゃないの。お似合いなのですから背筋を伸ばしなさいな!」
すいか先パイは、さくやの言い分が、さっぱり分からないようだ。他にも試着した部員はいたが、別段、変だとは思っていないらしく「似合う?」「可愛いー♡」と好評のようだった。
「待って、これ撮影用じゃないですよねっ!? こんなにすーすーしたの、みんな嫌がりますってっ! そもそも夏用の制服は今のじゃないんですかっ!?」
さくやはテンパりながら言った。既に六月になり制服は衣替えしている。此方も女子はへそ出しで、学校制服としてはかなり攻めていたが……。
「あら、さくやさん聞いていませんの? 例年、猛暑が続いているでしょう? ですから学校は省エネを目的として、今年、ハイパークールビスを実施するのでしてよ」
「は、はいぱークールビス……っ!?」
「より気候に適した制服を着用して冷房の使用を控え、環境配慮をするとの事で、真夏用の制服が用意されるのですわ」
戸惑うさくやに、すいか先パイが説明した。
「これだけ風通しが良ければ今年の夏は快適! 快適!」
「露出する分、日焼けクリームとかも配布してくれるんだって。うちの学校、太っ腹だよね」
「できれば日傘も欲しいなぁ」
「申請してみましょうよ!」
「ソックスいらないよね」
「サンダルにしよ? サンダルに」
「じゃ、報告用に写真撮るわよー!」
他の部員達は、新しい試みが楽しみらしく、新デザインも気に入ったようだ。
「だ、だめですって! こんなの着たら、逆にあ、暑くなっちゃいますっ!」
さくやは顔真っ赤にして意見した。
「大丈夫よ、さくやさん。男子は男子でアロハシャツで対策するそうよ」
「男子の心配じゃなくってっ!」
さくやは必死に破廉恥制服の採用を阻止しようとしたが、めろん先パイと噛み合わない。
「下着はみ出ちゃいますよっ!」
「なら、Tバックにするのはどうかしら?」
「そう言う事じゃないーっ!!」
「まったくっ、なんで丸め込まれるんだか……。そのお陰で、あたし達もソレ、着る事になるんですよね?」
「えー、わたしは着たいけどなぁ。水着だと思えばいいじゃん!」
下校時、楓と千代の破廉恥制服の評価は、真っ二つに割れた。
「ごめん、私一人じゃ多数決に勝てなくて……。でも強制じゃないから、嫌な人は無理しなくてもいいんだよ」
「別に……みんなが着るなら着ますけど……」
さくやは言ったが、私服でへそ出しコーデを着こなす楓は、言う程、拒絶してはいないようだ。
「楓ちゃん、実はセクシーなの好きだもんね♪」
「ち、違いますよっ!」
千代のストレートな発言に怒った楓は、何故かさくやに当たって来た。
「さ、さくや先輩こそ、本当はそういう格好が好きなんじゃないんですか? 制服なら、そのまま尊さんに逢いに行けますし!」
「ああーっ! そうだよ私っ! 真夏はあの格好で習い事に行く事になるんだよっ!?」
楓に指摘され、さくやは重大な問題に気付いた。
「ぜ、絶対、阻止しなきゃだめだったんじゃんっ! き、着なきゃいいのか……! でも、折角なのに……」
さくやは千代が笑っているのに気付き、口を噤む。楓が「やっぱり……!」という表情で、ジレンマに陥るのを阻止できなかったさくやを睨んでいた。
「そ、それよりもっ、新しい巫だよ! それについて早く尊さんと話さないと!」
さくやは話題を変えようとした。お陰様で大事な事が吹っ飛んでいた。
尊には、まだこの件の報告が出来ていない。今朝、おサキが伝えには行ったが、一度、全員で集まってた方が良い筈だ。
「じゃ、高校に寄ってみない? その方がきっと早いよ!」
千代の提案に乗り、三人は尊が通う風間高校に向かった。名前の通り中学と同じ町立で、校舎も直ぐ近くだ。
さくやは携帯に連絡を入れつつ、校門近くで尊を待った。既に此方も授業が終わったのか、高校生達が下校を始めている。
「あっ! 尊さんだ……♡」
校則で、使用に色々と制約がある携帯が繋がるよりも早く、校舎から出て来る尊の姿を見付けたさくやは、呼び出しを止めた。
しかし、校門付近で尊の足が止まった。尊を出待ちしていた様子の女子生徒が、門の陰から現れる。
「誰だろう……?」
さくやは一瞬で焦燥感に駆られる。別に尊に話し掛けただけで、女の子の目的がそうとは限らないのだが、その娘が遠目からでも分かる程の美人で、尊も笑顔で応対しているとなると、尚更だった。
「大きなおっぱい……! 高校のマドンナかな?」
「どこ見てるんですか?」
千代に楓がツッコむ。
「……あのひと……!」
さくやは女子生徒に見覚えがある気した。中学のマドンナ達を上回るセクシーな体型に、腰まである長い黒髪ツインテール……。
「ああ? なんだお前ぇ! おれが先だ! その娘から離れな!」
その時、プロポーズの場にボサボサ髪の男子が突然、現れ、尊に食って掛かって来た。男子は尊を押し退け、セクシー女子に話し掛ける。
「あんただろ? 噂の転校生! うおー噂通りでけー! なぁなぁ、そんなヤツほっといて、おれと遊ぼうぜ! 引っ越して来たばっかなんだろ? 町を案内してやるぜ!」
この男子は、深読みせずとも女子生徒に気がありそうだ。さくやは此方にも見覚えがあった。
「ああっ、お兄ちゃん!! なにやってるの!? 恥ずかしいからやめてよーっ!!」
千代は兄を止める為、パンチラも厭わず掛け出した。
「まったく兄弟揃って……。そう言えば、あの変態お兄ちゃん、尊さんと同じ高校なんだ」
「え、うん」
楓が意外そうに言ったが、さくやは生返事だった。
突然、ナンパされてビックリしたのだろう、女子生徒は尊の後ろ隠れ、縋り付くような仕草をした。大きな胸が、今にも背中に当たりそうだ。
「……尊さん、こんにちは。……その方は?」
さくやと楓は、千代が飛び出したのに続き、尊の側へ向かった。千代は兄をしょっぴき、家路に着かせようしている。
「千代、お前がなんで高校にいるんだよー! まだ小学生だろー?」
「もーっ、お兄ちゃんってば! 直ぐ大きい小さいで女の子を判断するんだからーっ!」
思わぬ乱入者に参っていた尊だったが、さくや達に気付くと、朗らかに女子生徒を紹介した。
「さくや、楓ちゃん! 丁度、良かった。紹介するよ、彼女は清水今宵さん」
尊の隣に立った女子生徒―今宵は、さくや達を見て不思議そうに小首を傾げた。
「四人目の巫。オトヒメだ」




