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十段 水も滴る巫㊃

 目隠し岩の上に、一人の女性が立っていた。遠目からでも分かる、美しい顔立ちをしている。

 女性は、濡れているかのように艶やかな長い黒髪を、頭頂部で結んで、更にツインテールにしている。身に付けている衣装は着物にも見えたが、上はサラリとした二枚の長い布を両肩に掛け、それを帯で留めているだけのようで、下はひらりと靡く水色のミニスカートだ。

 その姿は見紛うことなき―


 「(かんなぎ)ィ……!!」


 悪霊達が言った。

 さくや達も、まさかとは思ったが、こんなセクシーな和装(この女性の衣装は唐風だが)姿で、あんな場所に立てるのは、巫の他には考えられない。


 「……あの人……本当に……?」


 「あたし達以外にも……?」


 千代と楓も驚いている。


 「巫がいた……!?」


 さくやは麗しい女性を見つめる。女性は憐れむように目を細めて此方を見返したが、真意は分からない。


 「グヘヘ。コイツハ、イイ!!」


 鬼悪霊三人組は、お愉しみの最中だったが、本来の目的であった巫が現れたので、水を差されても気を悪くしてはいないようだ。

 それどころか、現れた巫は、彼らのような変態の気を引くには、十分な要素があった。

 

 「巨乳ジャネーカ!!」


 「アイツハ絶対オレガヤルゼ!!」


 女性は、さくやを優に上回るバストの持ち主で、身近でトップクラスのすいか先パイでも敵わなそうだ。相応にヒップも大きいが、ウエストはキュッと細く、非の打ち所がない体型の持ち主だった。


 「話が早いわね。なら……戯れましょうか……!」


 女性は岩から降りると、ふわりとめくれたミニスカートを直す。これも巫の特徴といえる褌が覗いたが、彼女の物はレースがあしらわれていた。


 「……」


 さくやには、興奮した悪霊に躊躇なく近付いて行く彼女の姿が、余りにも恐れ知らずに映った。


 「堪マンネェナァ!!」


 まず始めに青鬼が手を伸ばし、ナデシコ達のより心許ない衣装から溢れんばかりの胸に触ろうとした。


 「!!」


 しかし、その手はパッと彼女の手に掴まれ、そのまま引き倒されるように投げられた。


 「いきなり触るのは……だめよ♡」


 「コイツ!!」


 体格差をものともしない驚くべきパワーだったが、気後れするより寧ろ、抵抗されて火が付いた赤鬼が、背後から抱き付こうとしてきた。

 しかし、これもミニスカートから伸びる官能的な美脚の後ろ蹴りで、瞬時に吹き飛ばされる。


 「後背からなんて、もっとだめ♡」


 流し目で女性が言うと、今度は正面から緑鬼が掴み掛かった。悪霊も、いよいよ本気の動きだ。

 しかし、女性は素早く横に避けると、逆にその腕を両手で絡め取った。サイズ都合で緑鬼の腕に爆乳が当たる。


 「オホッ」


 「あんっ♡」


 思い掛けない事だったようだが、女性は、スケベ顔になった緑鬼を、そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばしてみせた。

 巫なら当然の力。しかし、それを加味しても、女性は見事な立ち回りで悪霊達を捌き、一箇所に集めた。


 「……!」


 さくやは、女性が再び自分達の方を一瞥したのに気付いた。


 ――この人、私達から悪霊を……。


 女性は、さくや達の身の安全を最優先に動いていたに違いない。色っぽく振る舞ったのも、敵の気を引く為なのだろうか?


 「グヘヘへ! ヤルナァ巫!!」


 「益々、欲シクナッタゼェ!!」


 「絶対ニオ持チ帰リシテヤルゥ!!」


 悪霊達が起き上がり、更なる本気を出そうとした。


 「ごめんなさい。私……もうイクわ……」


 女性が残念そうに言った。


 「続きは極楽浄土で愉しんで……♡」


 さくやは、女性の帯から、芍薬の花が描かれた天貝紅(あまのかいべに)が、玉鎖で下がっているのに気が付いた。


 「神器―海鳴り!!」

 

 女性は、そこから軍配のような形状の団扇を取り出す。透き通るような布が張られ、美しい装飾がなされいる。


 「巫、演舞―」

 

 女性が団扇を振り払うと、そこから澄み切った水が大量に溢れ出し、龍の形状を取った。


 「海神(わだつみ)の舞!!」


 水龍が鬼悪霊三人組に襲い掛かり、開いた口で文字通り飲み込んだ。


 「グオオオオオオ、ゴボゴボオォ…………」


 悪霊達は呼吸が出来ず踠いていたが、やがて穏やかな表情となり、口の動きで使い古されたものと分かる台詞(セリフ)を発し、泡のように消えていった。


 「…………す、すごい……!」


 危機が去っても、さくや達は暫く立ち竦んだまま、彼女の戦いっぷりに圧倒されていた。

 

 「大丈夫?」


 見兼ねたように、女性が三人に聞いてきた。


 「は、はいっ」


 未だ、お風呂の中にいるさくや達からは、女性の背がとても高く見えた。しかし、顔立ちから判断して、せいぜい高校生くらいの年齢だと思われた。


 「悪霊にはくれぐれも気をつけて。恥ずかしくても、大きな声で早めに助けを呼ぶのよ」   


 女性は、そう小さい子供に言い聞かせるように忠告すると、軽いジャンプで、あっという間に最初に現れた岩場に飛び乗った。


 「ま、待ってっ! 貴方は一体……っ」


 「巫よ……」


 さくやに呼び止められて女性は振り返る。

 悪霊がいなくなっても変わらず艶っぽく、見返り美人という言葉がよく似合った。


 「巫―オトヒメ」


 悪戯っぽくにこりと笑うと、視線を前へと戻す。


 「それじゃ」


 「あっ……」


 唖然としているさくや達を残して、女性―オトヒメは去って行った。

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