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十段 水も滴る巫㊂

 「むっ!? これはいかんっ!!」


 宿泊部屋に一人残っていたおサキは、机の上にあった温泉饅頭を摘んだ後、座布団の上でウトウトしていた。しかし、唐突に飛び起きる。


 「悪霊めっ! 此奴らも一体、何時の間に現世(こちら)に来たのじゃ!?」


 コソコソと移動しているようだが、この気配を見落とすおサキではない。

 (かんなぎ)の気配を辿っているのか、悪霊は露天風呂の方へ向かっている。


 「こんな時くらい、あの()らにゆっくりさせて上げてほしいものじゃ!」


 切迫した状況だが、旅館内にいる他の人間に姿を見られると驚かれるので、おサキは窓から外に出て、さくや達の元へ急ぐ。

 しかし、この判断が良くなかった。


 「アッ、オ前話ニ聞イタ使イ魔ダナ!? オ前ハ大人シクシテナァ!」


 「なぁっ!? わぁああああああああああああ!!」



 「……おかしいよ。どうして尊さんはさくやちゃんの気持ちを聞いても、なにも返事をしないんだろう?」


 「それは……やっぱり告白が伝わらなかったからじゃないですか……? 先輩も、直ぐに寝ちゃったって言うし……」


 「そうだとしても変だよ。そもそも、さくやちゃんに好きな人がいるって事は学校でも有名だし、態度だって分かりやすいし、流石にニブすぎるよぉ」


 千代と楓はさくやに背を向け、岩風呂の縁にしがみ付きながらヒソヒソ話をしている。

 楓も、疑問はもっともだと感じた。大体、さくやは知らないが、二人は―


 「大体、どうして告白しないんだろう? 尊さんだってさくやちゃんの事がす―」


 千代の口を、楓が咄嗟に塞いだ。お湯を飲ませる形になり、千代は「熱っ」と吹き出す。


 「なにしてるの? 二人共。私の話? もー、ナイショ話はなしにしてよー」


 「さ、さくやちゃんの話じゃないよっ!」


 さくやに怪訝な目で見られ、千代は両手を振って誤魔化したが、怒った表情で楓と額を突き合わせる。


 「なにするのっ? 楓ちゃん。寧ろこの事、教えてあげた方がいいんじゃないの?」


 「だ、だめ。こう言う事は、お互いがちゃんと……自分で伝えるべきです。……多分」


 千代は「そうなの?」と言う表情になる。

 言った楓も、実際の所は正解が良く分からなかったのだが、二人はこれ以上、この場でその話題をするのを止めた。


 ―――――――――――――――――――――――――


 「そろそろ出ようか」


 すっかりぽかぽかふにゃふにゃになった所で、さくや達はお風呂から上がろうとした。


 「!?」


 その時だった。露天風呂を囲む目隠し岩の陰から物音して、三人はドキリとする。


 ――の、覗きっ!!?


 まさかとは思ったが、三人共、気持ちと一緒に緩んでしまっていたバスタオルを、反射的にしっかりと巻き直した。


 「……気の所為だよね」


 意識し過ぎたと思い、さくや達はお湯から出ようとした。


 「オ嬢チャン達ガ巫ナノカ? マァ、ソウデ無クトモ、コリャラッキー。ウホッ、見エソウ見エソウ!」


 岩陰から声がした。

 やはり覗きがいたらしい。しかし、このくぐもった声は、人間のものではない。


 「あ、悪霊っ!!?」


 三人は素早く身構えた。

 同時に岩陰から、とても視力が良さそうな大きな目玉を一つ持つ、一本角の青鬼が飛び出して来た。


 「マテマテ! オマエ一人、愉シムノハ無シダゼェ!」


 対抗するように、もう一体の悪霊が反対側にある竹垣の裏から姿を現す。こちらは二本角の赤鬼だ。


 「悪霊が二体もっ!! こんな時に!?」


 「きゃあああっ、H(えっち)っ!! いつから見てたのぉ!?」


 「ふ、服をっ……いや天貝紅(あまのかいべに)で直接変身……っ!!」


 三人は、はらりしないようにタオルを押さえながら、ダッシュで脱衣所に飛び込もうとした。変身しなくては悪霊相手に成す術がないのは勿論だが、それ以上に、服を着ていなくては余りにも心許ない。


 「オットォ! ヤッパリコノ中ニ何カ有ルンダナァ!?」


 三本角の三体目、緑鬼が、建物の屋根から飛び降りて、三人の行手を阻んだ。悪霊は脱衣所へ続く扉の真ん前に立ち塞がる。


 「う、うそっ!? どうしよう!?」


 さくや達は慌てて引き下がり、巻き戻し映像のように湯の中に戻る。

 緑鬼が扉を見ながら言った。


 「巫ノ気配ハ、コノ先カラ感ジルゾ……! マァ、ソッチハソッチデ、後デ調ベレバイイナ……」


 鬼悪霊三人組が嫌らしい表情を浮かべ、狙いを三人に定める。


 「マズハ、オ嬢チャン達ノ濡レタカラダヲ取リ調ベダァ……!!」」


 「子供ニシテハ、イイ腰付キジャネェカァ!!」


 「グヘヘ。ソンナニ必死ニ隠サレルト、気ニナッチマウゼェ!?」


 タオルの下を狙う三体の悪霊が、ジワジワとお風呂に近付いてきた。

 絶体絶命だ。

 三人は必死に包囲を抜ける道を探した。

 しかし、目隠し岩は悪霊なら軽々、飛び越えられるが、普通の人間ではよじ登るのも一苦労だ。おまけに、バスタオルの丈がギリギリなので、下手に大股を開けばアウト。それが、三人に果敢な行動を取らせるのを躊躇させていた。

 当たり前だが、下は何も穿いていないのだ。


 「あ、あなた達っ! どうしてこんな所にいるの!?」


 さくやは、どうにか悪霊の気を逸らそうと質問した。目的は巫のようだが、シュラが倒れた以上、その尖兵ではない筈だ。


 「オレ達ハ、シュラ様ノ命令デ、現世(うつしよ)ノ調査ヲサセラレテイタノサ!」

 

 「デモ、ソノシュラ様ガ、サッパリ来ナクナッチマッタ! マァ、命令ニ従ウノモカッタルイカラ、ソレハ構ワネェ!」


 「オレ達ハオレ達デ好キニデキルッテ事ダカラナァ! シュラガ居ナイ内、オレ達ガ巫ヲ手籠メニスルノサァ!」


 悪霊達が答えた。どうやらシュラがやられた事を知らないらしい。

 しかし、最早、命令や巫の事など、今の彼らにはどうでも良さそうだった。その一つ目には、バスタオル越しにラインがくっきり浮き出ている三人の裸以外は映っていない。


 「っ……うぅ…………」


 さくやは胸の谷間を隠そうとしたが、これ以上タオルを引っ張り上げると下が危険だ。千代と楓も、タオルをピタリと押さえて前傾姿勢を取り、股をガードしている。


 「仲良ク一人一匹ズツトイコウゼェ! 現世ナラオレ達、好キ放題ダァ!!」


 悪霊達が三人に乱暴を働こうと包囲を狭める。

 三人は逃れようとするが、押しくら饅頭をするだけでこれ以上、退がる事ができない。


 「()っ……だ、だめっ!! 来ないでっ!!」


 遂に千代が恐怖で取り乱した。


 「こ、こんなの反則でしょっ!!?」

 

 楓も受け入れがたい事態に、思わず抗議した。

 さくやも絶望する。


 「……うそでしょ……? 私達……っ」


 先日、攫われた地獄から、九死に一生を得たばかりなのに、こんなにも早く、次なる危機が訪れようとは……。


 ――全てが終わった訳じゃないって、分かっていた筈なのに……。


 「こんな所で…………終わり…………!?」


 握るバスタオルから絞られた雫が、さくやの内ももを伝っていく。

 カラダを伝う雫が異様に冷たく感じた。

 悪霊達の魔の手が、三人に伸びる―


 「―遊び相手が欲しいのなら、私がなってあげるわよ」

 

 声がした。

 悪霊のものとは全く違う、澄んだ女性の声だ。

 何処か艶っぽく、甘美な響きがあった。

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