十段 水も滴る巫㊁
温泉に入りながら、さくやはシュラに攫われた後の出来事を、改めて二人に話した。
千代と楓は、悪霊の行いに恐怖と怒りを覚えつつも、苦難を乗り超えたさくやに感心する。
「本当にヒドイ目にあったんだね、さくやちゃん。やっぱり地獄って怖いよぉ……」
「変態悪霊、許せない……! でも拷問に耐えたさくや先輩は流石です……。もしも、これが千代先輩だったら」
「直ぐに泣いちゃうよぉ! 楓ちゃんもでしょ?」
「あ、あたしは耐えられますよっ! 我慢する忍術とかできますしっ!」
二人に話しながら、さくやはその時の光景を、まだまだ鮮明に思い返せた。冷たく暗い地獄。周りを囲む無数の悪霊。石抱きの拷問の苦痛……。つくづく、とんでもない目にあったと感じつつも、今こうして無事でいられる事に感謝した。
「すごい体験したよね……。私も…………」
しかし、ふと目を戻すと、千代と楓はまだ話の続きを聞きたいらしく、ジッと待っている。さくやは攫われた後の出来事は概ね話したと思ったので、戸惑った。
「それで? それで?」
千代が催促する。
「後は、みんなが助けに来てくれて……。そうだ! 私、神器が使えるようになったよ!」
察しの悪いさくやに、二人は痺れを切らした。
「さくやちゃんっ、そんな事じゃなくって! 尊さんとの事だよ? どうだったの!?」
「あの後です! 夜っ! あたし達が、帰った後!」
「え!? どうってなに? 夜……っ!? って、そんな事扱い!?」
ずっと、そこを聞きたかったらしい二人が、怖い顔で詰め寄って来るので、さくやはたじろいだ。
「戻った後は、ずっと二人きりだったんでしょ!?」
「なにか……特別なこととか……!?」
「そ、それは…………///」
さくやは二人が何を聞きたいのか分かり、急に逆上せそうになった。
「私、あの後、倒れちゃったから……尊さんが看病してくれて……」
「おんぶして帰ったんだよ」
「すごく心配そうでした」
その後、尊は朝まで付いていてくれたらしい。安倍家の客室で、ずっと二人っきりだった訳だ。
さくやは顔が熱くなるのを感じながら、その時の光景も思い出す。
「私、一度だけ目を覚まして……」
傍らに尊がいて心の底から安堵した。
「手を握って貰って……。そして……私…………」
微睡の中だったが、さくやは告げた。
「……すき…………って伝えた……!」
さくやは自分でも、信じられないように思い返す。
しかし、確かにあの時「好き―」と、尊に気持ちを伝えたのだ。
「偉いよ、さくやちゃん!」
「良かったですね……!」
千代と楓も頬を染め、自分の事のように嬉しそうにした。
「……だ、だけど私っ。その後、ね、寝ちゃて……っ」
疲労と心地良さに勝てず、さくやは尊の返事を聞けず仕舞いだった。翌朝、回復したさくやを見て尊は喜んでいたが、特別、その事については何もなかった。
「……もしかして、あれ……夢の中だったのかも……っ!?」
さくやがショックを受けたように言った。
「ええっ!? そんなぁ〜!!」
「しっかりしてくださいよっ!」
二人は、これまた自分の事のように残念がった。




