第616話 小国たちの平和
四年前に南方大陸の預言者ベルベドがエンリ王子に警告した、ユーロ全土を巻き込む動乱。
この動乱はフランス革命に始まり、これを危惧する各国の介入を退けた英雄ナポレオンが民の支持を背にフランスを掌握。各国の軍を破って勢力を広げ、遂にはユーロの大部分を支配する覇者となった。
そうした中でユーロ各国に広まった民主主義は、やがてフランス支配に対する抵抗の原理となり、そこからの離脱を求める民の支持の元、立ち上がった各国の結束による対仏大同盟が、ナポレオンの軍を破った。
そして、追い詰められたナポレオンの軍が立て籠もる、フランスのマジナ要塞での最後の戦い。
この最中、エンリは亡命中のルイ新王にライプチヒで捕虜となった三万のフランス兵を与え、新たなフランス軍としてナポレオン討伐に参加させるよう、パリの国民会議の議員たちを説得し、民主化した王政の復帰とナポレオン帝政の廃止を認めさせた。
そして彼等はマジナ要塞の戦いに参加し、フランス皇帝の地位を失ったナポレオンの軍と、フランス王国軍を認めず彼等に敵対したロシア・プロイセン・オーストリア・イギリスの四か国軍は、リラのセイレーンボイスで眠らされた。
こうして、長く続いた動乱はついに終結した。
戦いに敗れたナポレオンの軍、そして敵対した四か国の兵たちは、戦争を指揮した各国の君主ごと捕虜となった。
そして対仏大同盟盟主のベルナドットの名において、戦後処理会談が始まる。
これを取り仕切るのは、前もってフランス王国軍の認知を承諾し、あらかじめ耳栓を用意してセイレーンボイスの影響を逃れ、ナポレオンと四か国の兵を捕縛した、ポルタ・ノルマン・スパニアの軍とそれを指揮する君主たちだ。
戦後処理会談において、ベルナドットとエンリ王子たちは、四か国の君主に和解条件を突き付ける。
一連の戦争の責をフランス国家ではなくナポレオン個人に負わせ、賠償や領土割譲を断念する・・・というその和解条件の規定を、その他諸々の終戦条件とともに、捕虜となった四人の君主は呑まざるを得なかった。
そして彼等自身を含む捕虜たちの解放条件として、彼等に莫大な身代金を課し、正式な条約調印とともに免除する・・・という契約により、各国に選択の余地は無い。
戦後処理会談が終わって各国の軍が祖国へと帰還の途に就くと、ニケは大はしゃぎで言った。
「あんな条件、ロシアもプロイセンも絶対呑めないわよね。オーストリアだって・・・」
そんな彼女にエンリは「イギリスは呑むと思うぞ。あの国は大陸に利害なんて無いからな」
実際、プロイセンもオーストリアも議会は紛糾した。
だが、ドイツ領邦諸国は結束して条約案を支持し、両国に受け入れを要求した。
ドイツの主導権を争う二つの大国は、領邦国の支持を得るため和平案を吞まざるを得なかった。
そうした情勢の背後にイザベラ女帝の裏工作があった事は、公然の秘密となっていた。
最も難航したのはロシアであった。特にウクライナとベラルーシの独立には、貴族たちが大反対した。
だが、焼土作戦による膨大な人口的損失によりロシアは国力を大きく削がれ、ロシアによる自力での弾圧が困難なのは誰の目にも明らかだった。
間もなく、エンリ王子はベルナドットから相談を受けた。
非公式にポルタを訪れて応接室に案内されるベルナドット。
対応に出たのはエンリ王子と、何故か野次馬根性でついて来た、エンリの仲間たち。
「講和条約の正式調印のための国際会議が必要なのですが」
そう切り出す彼に、エンリは「まあ、好き勝手言う国は必ず出て来るからな。何でノルマンが主導権を・・・とか?」
「そういうのはいいんですけどね」とベルナドット。
エンリはあきれ顔で「いいのかよ。じゃ、ナポレオンの家来だったお前が・・・とか?」
「それもいいんですが」とベルナドット。
エンリは「いいのかよ。けど、だったら・・・」
「会議は当然、ドイツで開かれる事になりますよね?」とベルナドット。
「そうなるよね」
そう頷くエンリに、彼は「ベルリンとウィーンと、どっちでやるか・・・」
エンリ、あきれ顔で「そんな事かよ。どうせなら共催で、ってのはどうだ?」
「それだと、"ベルリンウィーン会議"にするか"ウィーンベルリン会議"にするかで揉めるんです」とベルナドット。
「いや、サッカーの国際試合を無理やり共催に持ち込んだ、どこぞの半島国じや無いんだから」とエンリは突っ込む。
アーサーが「こういうのはアルファベット順で決めるのが普通だよね」
若狭が「それだとベルリンがBでウィーンがW・・・」
ニケが「そーいや、オーストリアが首都名をアィーンに変えたって聞いたわよ」
ムラマサが「いや、あれは元々アィーンだったのを、プロイセン王が陰謀でウィーンにすり替えたと聞いたでござるが」
ジロキチが「いや、サッカーの共催で自国名を先にするために国名の頭文字をKからCに変えた、どこぞの半島国じゃ無いんだが・・・」
タルタが「けど、K-POPをC-POPに変えた・・・なんて話は無いぞ」
エンリとベルナドットの立ち合いの元、プロイセン側とオーストリア側とで会議の開催地を話し合う場が設けられ、あみだ籤でウィーンに決まった。
そして、議長として講和会議の準備に追われるメッテルニヒ宰相の多忙な日々が始まる。
そして・・・・・・・・・・。
ウィーン会議の当日となる。
議場となったオーストリア議会の議事堂に、ユーロの王が一堂に会した。
会議が始まると、エンリ王子が演台に立ち、そして語った。
「このユーロは、これまで各国の王たちの協調の元で平和を維持して来ました。だが、フランスにおいて王家が追われ、権力を握ったナポレオンによって 軍事国家が築かれ、全国民を兵とした軍隊によって各国を侵略し、ユーロはその姿を大きく変えました。その彼が倒れた今、我々は基本に立ち返り、あるべき正統な秩序を共通の理念として、再び協調による平和を取り戻すべく、ここに正統主義を提唱します」
各国の首脳、唖然。
そして口々に呟いた。
「てっきり民主主義を主張すると思っていたが・・・」
「いいのかなぁ」
「けどこれで王家は安泰」
「ユーロ中が結束して専制王権を維持する」
「これで革命に怯えずに済む」
参加者たちは口々に賛同の声を上げた。
「異議無し!」
「素晴らしい」
「正統主義万歳!」
全会一致でエンリの提言は承認された。
すると、ロシアのピュートル帝が立ち上がり、議場の一画に居る二人の参加者を指して発言。
「ならば、そこに居るベラルーシ王とウクライナ王は何だ? あの土地は我がロシアの領土」
「それは正統主義に反します」と、エンリは反論。
「はぁ?」
呆気にとられた会議参加者たちに、エンリは語る。
「基本に立ち返り、あるべき正統な秩序を共通の理念とする。即ち、天賦人権説! 人権は王が民に与えたものではなく、人類の誕生とともに神が与えた正統なる秩序で社会の基本。国家の統治も国民の人権の不可分な一部。"ジパングはジパング国民だけのものでは無い"などという世迷言は通用しない。ジパング国民のジパング国民によるジパング国民のための国家であり、断じて隣の歴史的被害者を称する半島国の恣意的なお気持ちを癒すためのものでは無い。皆さんの国も同じです。ベラルーシはベラルーシ人の、ウクライナはウクライナ人のもの。即ち国民主権。それが正統なる秩序で社会の基本」
全員ポカーン。
そして会議参加者たちは口々にブーイングの声を上げる。
「ふざけんな!」
「国家の主権者は我々国王だ! 昔からずっとそうだったじゃないか」
「それがユーロの常識だ」
「そう思ってるのは皆さんだけですよ」
そう言うとエンリは席を立って、つかつかと窓際へ行き、「あれを御覧なさい」と言って、議場の窓を開けた。
その眼下には、宮殿前広場に集まったウィーン市民たち。
手に手にプラカードを掲げて、彼等は口々に叫んでいた。
「正統なる民主主義万歳!」
「啓蒙皇帝万歳!」
「この国は我々が守るぞー」
そんな彼等を指し、エンリは会議参加者たちに語る。
「彼等は、どこぞの列島国の左派勢力が、選挙で大勝した右派政権を引きずり降ろすために、組合などの組織を使って動員したデモ隊などとは訳が違う。正真正銘の民の声です。他の国の人たちも、同じ事を叫んでますよ。ユーロに居る人類の大部分は、ああいう民衆です。これこそが常識、即ち"コモンセンス"なのでは無いのですか?」
「あれはナポレオンが広めた認識です。そういう変化から立ち戻るのが正統主義なのでは無いのですか?」とテレジア元女帝が反論。
「そのナポレオンの、何をどう戻すかという問題です。彼は各国が各国の民のものと認めず、戦争で外国を支配した。そういう暴力による支配を止めようという話ですよ」
そう説くエンリにピュートル帝が反論。
「違ーーーう! ナポレオンの罪は侵略という行為などでは無く、彼という存在そのものだ。トーイツ狂会というカルトの罪が対ジパングヘイト教義とそれによる犯罪などでは無く、あの教団の存在そのものであると、故にあのカルト事件は彼等と関係を持ったジミントーを罰する事によってのみ解決するのだと、3K新聞コメント欄の リベラルネ〇サ✕闘士によって看破されたではないか! 必用なのは存在そのものの全否定であり、その一部の"罪とされる行為やそれを為さしめた思想"のみ否定するのはズブズブな免罪だ」
そんな彼にエンリは反論。
「その理屈だと、丘上銅也という殺人犯が処刑されるのは、彼が犯した殺人行為に拠るものではなく、彼が丘上という個人であるから・・・という事になりますが、それって事実ですか? あなたが触れたその論は、あのカルト以外の対日ヘイトの罪の追及をそのネ〇サ✕が否定するという暴論の非が指摘された事で論破されましたけどね」
「・・・・・・・・」
エンリは更に「"国家はその国民のものだ"という正義に対する認識が、ナポレオンの支配を打ち破った。これにより、民主主義が大国から国家を守る正義となったのです。ドイツ領邦の皆さんも、大国の介入に怯える必要は無い」
「・・・・・・・・」
そして更に「中華軍国主義帝国が威嚇的外交圧力で各国に強いた"一つのシーノ"という建前も、自力で民主政治を獲得したタカサゴ国民の権利を害する戦争暴力に対する正当化には成り得ない。それは、隣の列島国のタカイチ総理の発言を威嚇するシュウチンピラとこれに加担する左派勢力に対し、殆どの良識的一般庶民が世界各国とともに反対し、戦争を牽制するあの発言を支持した。そうした人類の理性によって、平和と公正を愛する多くの国がその力を結集し、平和と公正を愛さないプータローチンやシュウチンピラのような戦争暴力から全ての国が守られる、そういう時代が来るのです。ウクライナもベラルーシも、そしてポーランドも・・・」
「オランダも・・・ですか?」
そうオレンジ公が発言すると、エンリは「もちろん。それでいいですよね? ルイ先王」
フランス王国でその地位を回復した彼は、困り顔で「いや、その・・・」
「我々アイルランドも?」
そうアイルランド代表が発言すると、エンリは「もちろん」
これにエリザベス女王が物言い。
「ちょっと、何で居るのよ。あなた達は我がイギリスの不可分な一部・・・」
そんな彼女にエンリは「エリザベス陛下、そういうの止めませんか? それじゃまるで"一つのシーノ"とか言ってタカサゴ国を脅すシュウチンピラと同じだ」
ドイツ領邦国の侯王の一人が発言した。
「だとしたら、我々はこれからも革命に怯えなくてはならないのか?」
深刻な表情で多くの会議参加者が頷く。
そんな彼等にエンリは語った。
「革命の何に怯えるというのですか? 暴力を以て害されたら、反撃するのは当然。権力を以て民の権利を害するのは、偽の人権を騙り外国人と組んだ"グローバルリベラル融和主義"などという空っぽな権威を以て民の権利を害するのと同じ。反撃を受けるのは当然です。政治とは、民から預かった強制力。それを以て警察権による不当逮捕で言論を封じるのも、一方的な憎悪を向けて来る外国を批判する人たちを、第四権力が"ネ〇ウ✕"とレッテルを貼って抑圧するのも同じ。王やその他の権威が国民と共にある事を拒む事に反発する国民の力は、他国からの侵略に抗う民の意思と同じものです。それはフランスで現実に起こった事で、皆さんは目の当たりにした筈だ。そして、皆さんの国でも同じ事が起こり、それが皆さんとその国を守ったのです。王として民とどう向き合うか。その設問に対する正解を、皆さんは既に知っている」
会議の参加者たちはこれに必死に反論した。
だがその一方で、多くの小国が賛同し、会議の流れを決定付けた。
この時、彼等の間に生まれた漠然とした概念は、後に明確な理念として言語化され、小国が結束してユーロの秩序を主導する体制が生まれる契機となった。
即ち「小国の平和」、または「パックス・オブ・ネーションズ」と呼ばれるものである。




