第614話 憲政の君主
ドイツから追い出され、衛星国を全て失ったナポレオンの戦争は、フランスに攻め込む同盟軍との戦いへとステージを移した。
当初は各国が割譲地の分け前を狙って独自のフランス侵攻を試みるも、四か所からの彼等の同時侵攻を、四つのフランス軍部隊が同時にナポレオンに率いられて、全て撃退した。
「四人のナポレオン」という怪現象に、各同盟国首脳は首をひねるが、それがロキの仮面変形を使ったエンリ王子の工作である事は、もちろん彼等には知る由も無い。
同盟軍は再び戦線を統合してフランスに侵入。
これを迎え撃つべく、ナポレオンはフランス軍を率いてマジナ要塞に入った。
全ユーロの軍を率いて要塞を包囲する同盟軍総司令ベルナドット王太子が勝利を確信する中、エンリ王子は「最後の仕上げ」のために、仲間たちとともにファフのドラゴンに乗って、いずこかへ飛び去った。
ナポレオン率いるフランス軍が籠るマジナ要塞を攻め落とすべく、同盟軍総司令ベルナドットは戦闘開始を指令。
「とにかく中の兵には休息を与えず、攻勢を続けろ。焦る必要は無い」
そんな総司令の訓示を受け、各国の軍は要塞に砲撃を加えつつ、城門と周囲の数ヶ所を、交代しつつ攻撃。
戦闘の合間にベルナドットはオーストリア軍の将軍の案内を得て、レニエ将軍が過去の戦闘で確認したという抜け穴を検分。
「あの戦闘時は水浸しで通行不能という話でしたが・・・・・」
そんなオーストリアの将軍の説明を聞きつつ、現場に行って確認すると、抜け穴は完全に埋め戻されていた。
「水を抜けば、ここから侵入できるかと思ったんだが・・・」
そうオーストリアの将軍が言うと、ベルナドットは「けど、別の抜け穴がある可能性もありますよね?」
「そこから物資補給を?」とオーストリアの将軍。
「だけだと良いのですが、下手をすると散発的に襲撃隊を送り出すルートになり得ます」と言って、ベルナドットは不安顔を見せた。
彼の直観は的中した。
フランス兵による襲撃が繰り返されたのだ。
夜闇に乗じて十数人のフランス兵が、同盟軍の陣地に銃撃をかける。
応戦する同盟兵の背後に斬り込みをかけ、爆弾を投げて退却。
更に、弾薬の集積を爆破。
馬の手綱を切って爆弾を投げ、驚いて暴れる馬を取り押さえようとする同盟兵を、暴れ馬が蹄にかける。
反撃をかけようとする時には、既に撤退している。
そんな敵の作戦に対抗しようと、同盟各国の将軍たちは血眼になって部下たちに指令を下す。
「きっと抜け道から来ているに違い無い」
「草の根を分けてでも探し出せ」
警戒を厳しくし、小動物の使い魔を放つ同盟軍。
やがて彼らは、フランス軍襲撃兵が繁みに偽装した抜け穴に逃げ込むのを捉えた。
確認された抜け穴の入口を包囲し、突入を準備する兵たち。
彼等を監督しつつ、将官たちはあれこれ・・・。
「ここから出て来て襲撃していたのか」
そう歩兵隊の佐官が言うと、工兵隊の士官が「かなり要塞から離れてますけどね」
「随分と長いトンネルを掘ったものだ。ここから要塞に突入して制圧するぞ」と、突入作戦を指揮する将官が部下たちに激を飛ばす。
ノルマン軍の将校が一部隊を率いてトンネルに突入するが、まもなく出口に・・・。
出てみると要塞の外。周囲をフランス兵の一団が囲んで待ち構えており、出て来た同盟軍兵士に一斉射撃。
慌ててトンネルに逃れたところを天井が爆破されて生き埋め・・・。
同盟軍部隊が駆けつけた頃には、襲撃兵が逃げ去った後で、工兵が落盤したトンネル跡を掘り返して、必死に生き埋めになったノルマン兵を救助。
報告を受けたベルナドットは溜息をついた。
「あいつ等って、要塞から出て来たんじゃ無かったのかよ」
そう彼が言うと、参謀が「そんな短いトンネルがあちこちに掘ってあって、そこに潜んでいた伏兵・・・って訳ですか」
「とにかく伏兵狩りだ」と、ベルナドットは全軍に指令を下す。
夜になると小動物の使い魔を要塞周囲の森に配置し、あちこちの繁みにドイツ兵が潜む。
襲撃をかけようとするフランス兵を発見すると、通話魔道具で報告。
襲撃兵は返り討ちに逢い、逃げる彼らを同盟軍兵士が追跡。
逃げ込んだトンネルを発見して潰していく。
要塞内のナポレオンの司令部では・・・・。
「伏兵がやられ始めているようです」
そう参謀がナポレオンに報告すると、彼は「よし、プランBに移行だ」と指令を下した。
そして数日後・・・。
同盟軍司令部では・・・・・・。
「襲撃、来なくなりましたね」
そう参謀がほっとした表情で言うと、ベルナドットも「あらかたトンネルを潰したからな」
その時、ベルナドットの元に報告が入った。
「司令官閣下、敵による襲撃です」
「性懲りも無く・・・。すぐに反撃して奴らの隠れ家を突き止めろ」
そうベルナドットが命じると、報告した部下は「それが・・・・・」
同盟軍側が苦戦しているとの報告に、ベルナドット唖然。
部下は報告を続ける。
「不意をつかれた同盟兵陣地は、すぐに体勢を立て直して反撃を試みているのですが・・・・・」
ベルナドットが手勢とともに駆けつけると、オーストリア軍の歩兵陣が応戦しているが、襲撃兵に押されている。
「こいつ等、逃げないのかよ」
そう言ってベルナドットが表情を曇らせると、応戦しているオーストリア軍の将校が「これ、伏兵の襲撃って数じゃ無いですよ」
「もしや、要塞内から続く抜け穴が・・・・・」とベルナドット付きの参謀。
オーストリア軍の参謀が「って事は、こいつら要塞兵?」
ベルナドットは直属の部下たちに「本隊にも援軍を要請しろ。数を揃えて押し返すぞ」
間もなくノルマン軍の主力が到着し、襲撃隊への攻勢に加わる。
その背後からプロイセン軍、更にイギリス軍も・・・。
数で優位に立てたと、ベルナドットの表情に余裕が戻る。
「このまま包囲して殲滅の構えをとれ。崩れたら一角を開けて逃走を誘う。追跡して抜け穴に逃げ込んだ所から内部に突入だ」
だがその時、部下が更なる危急の報をもたらし、ベルナドット唖然。
「大変です。敵の本隊が城門から撃って出たとの事で、門前に居たオーストリア軍の陣を突破して、こちらに向かってきます」
「プロイセン軍の背後を突かれるぞ。すぐに迎撃の構えをとれ」と、彼は命を下す。
参謀は「スパニア軍も向かって来ています。正門から来た奴らは彼等に任せましょう」
だが間もなく、より深刻な危機を知らせる報告が来る。
「大変です。北側から敵軍が・・・」
「敵は要塞内だけじゃ無かったのか」
そうベルナドットが呟くと、副官は「ここはフランスですからね。奴らは新たに兵を募る事だって出来る」
北から迫るフランス軍部隊が、城門から打って出た要塞兵部隊と合流し、壮絶な戦いとなった。
スパニア軍の一隊として戦う炎剣兵団が、敵陣中枢に向けて攻勢をかける。
だが、突出すると左右から回り込んで背後を狙うフランス兵たち。これを左右のスパニア兵が必死に防ぐ。
そして要塞内からは間断無き砲撃。
急を告げる報告は、更に次々にベルナドットの基に届いた。
「南からも敵軍が進軍して来ます」
「西からもフランス国旗を掲げた敵軍が・・・」
戦況を示す地図上に記された敵部隊の印がどんどん増えていく。
焦りがじりじりと彼の思考力を蝕む。
「我々、逆包囲されてません?」
そう副官が言うと、部下の将軍が「どうせ徴兵したての新兵の集まりだ」
そんな彼の強がりが空しく響く中、参謀が苦渋を込めた声で言った。
「これ、一時撤退した方が良くないですか?」
その時・・・・・・・・。
「来ます。王子が強い味方を連れて」
そう告げたのは、ベルナドットの部下たちとともに居た連絡役のアーサーだった。
そして彼等は上空に、ドラゴンの咆哮を聞く。
その背から、拡声の魔道具による聞きなれた声。
「もう大丈夫。何故って? 私が来た!」
残念な空気が漂う中、アーサーが呆れ声で上空に居る声の主に「王子、そういうのはいいんで」
拡声の魔道具の主は交代し、十歳の子供の声で戦場に呼び掛けた。
「フランス兵の皆さん、戦闘を停止して下さい。僕はフランス王ルイ」
時間は遡る。
ナポレオンがフランスに帰還し、攻め込んだ同盟国軍とフランス国内での防衛戦となった。
当初の各国ごとの侵入が撃退された事で、パリ庶民は戦勝に湧いた。
そして、戦線を統合した同盟軍と、マジナ要塞での戦いが始まる。
不安な表情であれこれ噂し合うパリ庶民たち。
「どうなるのかねぇ」
「ナポレオンなら何とかしてくれるさ。彼は英雄で戦争の天才だ」
「けど、これ何時まで続くの?」
「ユーロ全部を敵に回して防衛一方だものなぁ。革命なんてやらなきゃ良かったのかな?」
「そんな事あるもんか! この国は俺たち国民のものだ」
「けど他の国じゃ、王様が居ても議会があって憲法があって・・・」
そんな中、セーヌ川を遡る数十隻の船があった。ボルタ商人の商船である。
停船した船から、無数のフランス兵が列を成して川岸に上陸。
それを橋や堤防から唖然顔で眺めるパリ庶民たちの上空に、ドラゴンが飛来。
その背から、拡声の魔道具で呼びかける、十歳の男の子の声が響いた。
「フランスの皆さん。この戦争を終わらせるため、戻って来ました。僕は元フランス王ルイ」
パリに住むすべての人々が唖然とする中、それに続いて男性の声が響いた。
「私は仲介役のポルタ王太子エンリ。とにかく話し合いませんか?」
国民議会が招集され、エンリ王子とルイ新王は議会の証人席へ。
開会とともに、議長はエンリに問うた。
「あの兵たちはいったい何なのですか?」
「正真正銘のフランス兵ですよ。ライプチヒで置き去りにされて捕虜になったのを、私が引き取ったのです」と、エンリは答える。
「置き去り・・・って?・・・」
そう一人の議員が問うと、エンリは「隠密裏に橋を渡って撤退しようとして、途中で見つかったため、追撃を防ごうと橋は爆破された。まだ城内に半分の兵が残っていたにもかかわらず・・・」
ざわつく議員席。
「ナポレオン陛下が?」
そう一人の議員が言うと、別の議員が「何て酷い」
「命を賭して祖国のために戦った兵に、何という仕打ち」と、更に別の議員が・・・。
「あなたが幻覚魔法で夜明けを偽装したと聞きましたが」と、一人の議員がエンリに・・・。
「・・・・・」
「ま、まあ過去は置いといて未来志向で」と、エンリは冷や汗顔で・・・。
残念な空気が漂う。
一人の議員がエンリに問うた。
「で、今更幼い国王を引っ張り出して、王政復古でもせよと言うのですか?」
「革命の成果を無にされてたまるか!」と、議員席から何人もの議員たちが野次を飛ばす中、エンリは言った。
「ポルタにも王は居ます。けれども議会も憲法もある、国民の持ちたる国です」
「商人の、じゃなかったでしたっけ?」
そう一人の議員が突っ込むと、エンリは「ま・・・まぁ、細かい事は置いといて」
残念な空気が漂う。
「で、何のために?」
そう一人の議員が問うと、エンリは言った。
「フランスが敗戦国にならないためですよ。王があの兵たちを率いてナポレオン討伐に加わる。負けたのはナポレオンでフランス王国は戦勝国の一員。賠償金も領土割譲も無し」
「そんなのをドイツやロシアが認めるとは思えませんが?」と、その議員は溜息声で突っ込む。
更に別の議員が、目を吊り上げて「それに国王はこの国を捨てて外国に逃げた裏切者だ!」
そんな彼にエンリは「で、彼が裏切った国とは誰の事ですか? 多くの市民を手にかけたロベスピエールでしょうか?」
「外国は敵だ!」と、その議員は怒鳴り声を上げる。
エンリは反論する。
「我がポルタも敵ですか? 外国といってもいろいろあります。国民をヘイト教育で洗脳し、清算済みの過去を捏造し、マスコミで日常的に憎悪を撒き散らすような某半島国なら、隣国にとって確かに敵でしょう。そういう特定アジアをあたかも全アジアであるかの如く言い募っても、殆どのアジアはそうでは無い。けれども、悪意を剥き出す国ほど、グローバルリベラルと称する人たちは"敵ではない"と言い張り、マスゴミ屑がそれを代弁する。そんなものを自分たちの世論だと思い込まされるほど愚かな情弱だけでは、あなた方は無い筈だ。敵国とそうでない国を自らの理性と知性で選別してこその主権者。違いますか?」
先ほどとは別の議員が「ですが、あなたの国も戦勝国なのですよね?」
そんな彼にエンリは「ポルタはフランスに賠償や領土割譲を求めるつもりはありません」
「何でよ。敗戦国を標的にした賠償ビジネスでお金ガッポガッポ・・・」
いつの間にか隣の席に居座ってそんな事を口走るニケに、エンリは頭を抱える。
そして「この人、つまみ出して」
タルタとジロキチがニケの両腕を捕まえて、議場の外へ。
「そんな偽善が信用されるか! どうせそのうちポルタファーストとか言い出して・・・」
そんな不信を何人もの議員がエンリに突き付けると、彼は言った。
「そうです。これは道徳ではなく利益の問題だ。ポルタは小国です。そんな国が真っ当に生きていくために、戦争という暴力が全てを決めて、戦勝国だからと何時までも相手を奴隷扱いするような、そんな世界を変えたい!」
議場を包んでいた喧噪が止み、野次が途絶えて、暫し静寂がその場を包む。
そして一人の議員が起立し、意見を述べた。
「王政に戻るという事は、我々国民が国の主役の地位を失うという事だ」
そんな彼に幼いルイ新王が答える。
「僕の父は国民会議をフランスの意思を決める場だと認めました」
「あなたの次の王がそれを覆すかも知れない」と、議員は更なる疑問を突き付ける。
そんな彼等にエンリ王子は語った。
「そうはなりません。何故なら民主主義において、国家を支配するのは王ではなく法だからです。けれども、だから憲法が専制君主となって国民に圧制を敷くか? ジパングの護憲派と称する人たちは、侵略する外国の手先となって、国を護るための自衛力すら認めないと解釈し得る憲法の改正を拒否し、近隣の軍国主義独裁超大国の脅威から自らの自由を守る事を望んだ民の願いを妨害した。けれどもそんなものは民主主義でも護憲でも無い。そうではない、議会において国民の国民としての立場と権利と利益と尊厳を踏まえた代表としての議員が、法を制定し改正することで、国民自らの政治を実現する。それが民主主義だ。王が居ようが居まいがフランスはフランス国民のものです」




