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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第612話 解放のドイツ

民主主義を掲げ、ナポレオン支配からの脱却を求めるドイツの人々の動きは、ついにフランスとプロイセンの戦いとなった。

これに協力を申し出るノルマンのベルナドット王太子の主導により、対仏大同盟は再結成された。

彼の背後で、エンリ王子はオーストリアを牽制役に使って、ナポレオン本人をフランス軍の拠点ライプチヒに釘付けに・・・。

ナポレオンの代理としてベルリン侵攻を指揮したウディノ将軍は、プロイセン軍を主力とした同盟軍によって撃退された。



ライプチヒのフランス軍本営では・・・。

グロースベーレンでの敗戦の報を聞き、ナポレオンは激怒していた。


敗れた遠征軍が帰還すると、彼は将軍たちを集める。

「これって誰の責任だ?」

そう問うナポレオンに「やっぱり総指揮官だよね?」とネイ将軍が力説。

集中砲火を浴びるウディノ将軍。

「泥道を無理に渡ろうとして、あれって殆ど自爆だよね」とベルトラン将軍。

「しかも、三つの街道に兵を分散だものなぁ。私ならそんな頭の悪い戦いはしません」とネイ将軍は更に・・・。


そしてナポレオンは命じた。

「なら、次はネイが指揮をとれ」

「それは・・・・・」

調子に乗ってウディノ批判を連発した挙句、廻ってきたお鉢。ネイは青くなる。

困り顔の彼にナポレオンは「賢い戦いをするんだよな?」



再度のベルリン侵攻が決まり、総指揮を任されたネイ将軍は頭を抱えつつ、地図を前に作戦を考える。

「前は水浸しの中で酷い目に逢ったからなぁ。なるべく水はけのよい場所で戦うのがベストだ」


再度の進軍が開始され、ネイ将軍はライプチヒの本営を発進。フランス軍を率いてベルリンを目指し、北上した。



ベルリン南方の湖沼地帯東の高地に面したデネヴィッツの街道を進むフランス軍。

これを待ち構える同盟軍は、東側の高地にノルマン軍、正面にはプロイセン軍が布陣。


フランス軍右翼のベルトラン軍団は、高地から攻め寄せるノルマン軍の攻勢を受けた。

左翼側に攻勢をかけるプロイセン軍にウディノとネイの軍団が対抗。

そんな中、ビューロウ将軍が指揮するプロイセン軍が後退を始めた。

それを見たネイ総司令がウディノ将軍に指令。

「右翼のベルトランが危ない。そっちに廻ってくれ」


指令を受けて部下に転戦を指示するウディノに、彼の参謀は後退する敵方を指して「あれはまた戻って来ますよ」

ウディノは前回の敗戦について、自分の指揮をボロクソに言ったネイ将軍の発言を思い出す。

そして「まあいいさ。ネイの奴に戦わせておけ」



ウディノ軍団が部隊の背後を廻って右翼側に向かおうと、移動を開始。

それを見たプロイセン軍は錯覚した。

「敵、退却していきますよ」

そう参謀に言われたビューロー将軍は「チャンスだ。追い打ちをかけてやれ」


攻勢に転じたプロイセン軍を、残ったネイ軍団が慌てて迎え撃つ。

他所に廻ったウディノ軍団の穴埋めに必死なネイ軍団を見て、ビューローは更に強気になる。

「後詰めが抵抗しているな。所詮は最後の悪あがきだ。全力で押し切れ!」

勝ちを錯覚したプロイセン軍団の勢いが増し、ネイは押された。


一方、右翼側に回ったウディノ軍団は、退却するベルトラン配下の兵の流れに妨げられ、思うように動けない。

そんな混乱の最中を、追撃をかけてきたノルマン軍が襲った。


フランス軍は多くの損失を受けて撤退。

ナポレオンの居るライプチヒへと逃げ帰った。



二度のフランス軍の敗退を見て、ライン連邦の幾つもの諸侯が同盟側に寝返る。

ライプチヒの本営には、そんな報告を受けて頭を抱えるナポレオンが居た。


「もうドイツなんて放棄しませんか?」

そう副官に言われたナポレオンは「けどなぁ・・・。おめおめ逃げ帰ったら、嫁に合わせる顔が無い」

「けど、ルイーズ妃の実家ってオーストリアですよね? 敵方に回ってますけど」と副官が突っ込む。

「あ・・・・」

「とっくに実家に帰ってると思いますよ」と追い打ちをかける副官。


パリの宮殿と通話魔道具で連絡をとるナポレオン。

「ルイーズはどうしている?」

宮殿に居る部下は「代理人という方が来て、どっかに連れて行っちゃいましたけど」

「そんなぁ」

真っ白に燃え尽きるナポレオンであった。


「とりあえず、これからどうしますか? 敵がここに進軍をかけて来ますよ」

そう言って対応を急かす部下の将軍たちに、ナポレオンは言った。

「返り討ちにしてやるさ。俺はあのエンリ王子すら、この軍才を恐れるナポレオンだぞ」



対仏大同盟の進軍が始まり、フランス軍を包囲すべく体勢をとった。


ライプチヒは西側を川で隔てられ、市街を西に出るための橋がかかっている。

南はオーストリア領のボスミアで、国境から続く尾根状の高地に沿ってオーストリア軍とイギリス軍、スパニア軍が攻め込むべく布陣する。

北からはプロセイン軍、ロシア軍、ノルマン軍。

そして、川の西側にポルタ軍。


その川向うのポルタ軍の布陣を、西の城壁から望遠鏡で観察するナポレオン。

「まさか、あんな所にエンリ王子が?・・・」

そうナポレオンが意外顔で呟くと、参謀が「けどあれ、炎剣兵団ですよ」


「なるほどな。南北で挟み撃ちしつつ、隙を見て橋を渡って攻め込もうって訳かよ。なら、橋を爆破しろ」

そんな命令を下すナポレオンに、副官が「いざって時、逃げられなくなりますよ」と意見。

するとナポレオンは言った。

「夜中に別の橋をかける。敵からは見えないように、水面下少しの所に橋板を渡すのさ」

「なるほど。人工の浅瀬という訳ですか」と、納得顔の参謀と副官。



フランス軍では陸軍の主力の他、同盟国として、フランスが独立させたポーランドと地元のザクセンの軍が参加している。


ザクセン候がナポレオンに対話を求めた。

「いいかげん停戦しません?」

ナポレオンは「つまりドイツから撤退しろと? けどお前、侵略者とズブズブとか言われてるよね? プロイセンとオーストリアの王位争いに巻き込まれて、勝った方に領地を奪われるぞ」


ポーランドのヤン王が通話の魔道具で会談を求めた。

「いいかげん停戦しません?」

そうヤン王が言うと、ナポレオンは「お前らって、フランスのお陰で独立出来たよね? プロイセンかロシアに再併合されるぞ」



そして、ライプチヒの攻防戦が始まった。


ナポレオンは南北にフランス軍部隊を二分して配置し、進軍して来る敵を迎え撃った。

ポーランド軍とザクセン軍は北部戦線に参加。

ナポレオン自身は直営軍を指揮し、南から攻め寄せるオーストリアを主体とした軍を撃退。

一息つくと北に移動してプロイセン・ノルマンを主体とした軍を撃退。


ライプチヒ城外の南北で、そんなシーソーゲームが続く中、エンリは炎剣兵団と正規軍の一部隊を率い、爆破された橋跡の西側で高見の見物。

そんな彼に炎剣兵団のフォーリー大佐が「戦闘に参加しないでいいんですか?」

「俺たちは橋を渡って攻めて来た敵を迎え撃つのが仕事だ」とエンリ。

「橋なんて、とっくに爆破されてますけど」

そうフォーリーが突っ込むと、エンリは意味ありげな笑みを浮かべて「そうかな?」


エンリは深夜、フォーリーを連れて橋跡の上流の川岸へと降りた。

「どうだ、リラ」

そうエンリが水面にそっと呼びかけると、人魚の姿のリラが川の水面に姿を見せる。

「もう少しで完成しそうですね」


橋跡には一見誰も居ないように見えつつ、何やら水面で動く者の気配を感じるフォーリー大佐。

不思議そうに目を凝らすフォーリーに、エンリは「隠身魔法で姿を消しながら作業しているのさ」

「作業って?」

フォーリーがそう問うと、エンリは「橋をかけているんだ。見えないように、水面下に橋板を渡して・・・な」


フォーリーは怪訝顔で「つまり、人工の浅瀬という訳ですか。放っておいていいんですか?」

「奴らは俺たちが橋の存在を知らないと思っている。それが狙い目さ」とエンリ。

「川向うではシーソーゲームが続いて、均衡状態ですけど」

そうフォーリーが言うと、エンリは「これから、その均衡を崩してやるのさ」

「それって・・・・・」

「まあ見てな」

意味ありげな含み笑いを浮かべるエンリ王子であった。



そして・・・・・・。

エンリはファフのドラゴンに乗って、ポーランドへ向かった。

夜闇に乗じ、フランス軍の指揮下にポーランド軍を送り込んだヤン王の城へ。


アーサーの隠身の魔法で王城に侵入するエンリ。

そして、先の見えない遠方での戦いへの懸念でげっそり状態の王の私室へ・・・。


「こんにちは、ヤン王」

姿を現すエンリを見て、ヤン王唖然。

「あなたはライプチヒで戦ってる筈では?・・・」

「あなたの軍の敵として、ね。いいんですか? このままだとナポレオンの道連れで敗戦国ですよ」

そうエンリが誘い口調で言うと、ヤン王は「つまり寝返れと? ですが、フランスが負ければ再び独立を失います」

「それを防ぐために、戦勝国側に就く事をお勧めしているのですよ」とエンリ王子。


「そんな立場なんて、何の役にも立ちません。ロシアもプロイセンも、失った領土を取り返そうとして来ます」

悲痛な面持ちでそう言うヤン王に、エンリは言った。

「ウェストファーレンはそうなるでしょうね。ですが、ここはポーランド人の土地です。彼等は民主主義を旗印に、フランスの支配に抗って、ここまで来ました」

「ですが、この戦争で大きな被害が出た」とヤン王。

「それは誰が悪いのか」

そうエンリが言うと、ヤン王は「フランスですよね?」


エンリは語った。

「彼等は民の自由が欲しかっただけだ。その理念を対仏同盟各国も受け入れ、それをフランスに抵抗する根拠とした以上、彼らは民主主義を絶対に否定できない」

「・・・・・」

動揺するヤン王に、エンリは「ポーランドの独立は我々が保証します」

「小国のポルタに何が出来ると?」

そう疑問を呈するヤン王に、エンリは「イギリスもスパニアもノルマンも支持します。支持しないのはプロイセンとロシアと、精々割り込みを狙ってるオーストリアくらいでしょうね。そのロシアが威力を示した焼土作戦により、あの地を聖域としたロシアの覇権の砦となっている。そのため多くの民の犠牲を厭わない危険な権威主義の国だ。その危険からユーロの平和を守る楯が必要なんです。それがウクライナとベラルーシ、そして独立ポーランドだ」


ヤン王の眼に希望の光が灯る。

「では、我々は生き残ると?」

「もちろん」

そう自信を以て答えるエンリに、ヤン王は「解りました」


ヤン王と握手を交わしつつ、エンリは会心の笑みとともに呟く。

「次はザクセンだな」



カルロがライプチヒのフランス軍本営に侵入する。

そこには、自らの軍を指揮するザクセン候が居た。


真夜中の野営テントに姿を見せたカルロに、ザクセン侯は「あなたは?」

「ポルタ王太子の使いです」

そう言ってカルロがとり出した通話魔道具。


魔道具を介したエンリとザクセン侯との対話が始まる。

「こんにちは。ポルタのエンリです」

そう名乗るエンリにザクセン侯は「寝返れと言うのですよね?」

エンリは「フランスの道連れになりたくありませんよね?」

「フランスが去ればオーストリアかプロイセンに併合されます」と、ザクセン侯は悲痛な面持ちで語る。


そんな彼にエンリは言った。

「王位争いで勝った側に・・・ですよね? けど、そうはなりません。ドイツ王という地位は無くなり、ドイツは諸侯たちによる連邦国家となるのですから」

「そんなのオーストリアもプロイセンも認めませんよ」

そうザクセン侯が言うと、エンリは語った。

「だからです。あの両国の争いにうんざりしているのは、あなただけではない。そして、ドイツ以外の国がそれを支持する。フランスの次はドイツがユーロの覇者・・・なんて真っ平ですから」



そして・・・・・・・・。


北部戦線の一翼を担っていたポーランドとザクセンの軍が戦線を離脱し、連合軍に参加した。

これによって、フランス軍の北部戦線は崩壊。

南部で戦っていたナポレオンも孤立を恐れて退却。フランス軍はライプチヒの城壁内に追い詰められた。



同盟軍総司令ベルナドットがエンリ王子に要請。

「いよいよ最終局面です。ぜひ炎剣兵団にも参加して欲しい。あの城門を破るには、彼らの力が不可欠です」

「解りました」


攻城戦への参加を約してエンリが通信を終えると、アーサーが「いいんですか? 我々が橋の西側の持ち場を離れたら・・・」

「もう橋は無いって事になっているよね?」とエンリ。

「けど、水面下に隠れた人口の浅瀬は?」

そうジロキチが口を挟むと、エンリは「大丈夫」



エンリは自らが率いるポルタ部隊に号令を下した。

「これから川の東側に移動して、攻城に参加する」

「人工の浅瀬はどうしますか?」

そうフォーリー大佐が質問すると、「それなら・・・・」


エンリは兵たちに命じ、木と藁で多数の人形を作らせて、陣地に並べた。

「これなら、敵は俺たちがまだここに居ると錯覚して、川を渡れない筈だ」


エンリは兵を率いて夜の闇に紛れて陣を離れ、上流へ迂回して川を渡り、同盟軍本隊と合流。



ライプチヒ城内のフランス軍本営では・・・。

どん詰まりの戦況を前に、頭を抱えるナポレオンの部下たちが居た。


「もう袋の鼠ですよ」

そう一人の部下がナポレオンに言うと、別の部下も「撤退しましょう」

「けど、完全に包囲されているぞ」と、更に別の部下が彼に突っ込む。

「川を渡って・・・ってのは?」

そう、先ほどの部下が言うと、その隣に居る部下が「あの人口の浅瀬かよ。けど、渡った所に待ち構えているのは、あの炎剣兵団だぞ」


そんな彼等にナポレオンは言った。

「本当にそうかな? あの突破力は城門を破るには必要だ。それを、あんな所で持ち腐れとか、有り得るか?」



ナポレオンは魔導士官に命じ、看破の魔法で川向うのポルタ軍陣地を探らせた。

城壁の上から魔法で敵陣を探る魔導士官は、間もなく報告した。

「あれは・・・人形です」

「やはり・・・な」とナポレオン。


事実を知った部下たちの間に歓声が上がる中、ナポレオンは指令を下した。

「夜の闇に乗じて渡河を敢行する」

フランス兵たちの間に安堵の空気が満ち、彼等は口々に言った。

「やっとフランスに帰れる」

「みんなで生き残るぞ」



フランス軍は攻め寄せる同盟軍に抵抗しつつ、川の橋跡に面した城門を開き、隠密行動で渡河を開始。

それを上流の水面から監視する人影があった。

人魚の姿のリラだ。

そして彼女は、念話でエンリの居る本営に報告。

「始まりました」


そこにはエンリの部下たちと、そしてベルナドット総司令と彼の部下たちが居る。


「それで、どうするんですか?」

そうアーサーが問うと、エンリは「サンクリアン王子、憶えてるか?」

「あのヤリチン精霊・・・・・」と彼の仲間たちは呟く。

エンリは語った。

「彼が母親と知らずに恋をし、母親はそれを断るため、一晩で大きな船を作る事を求めた。ところが彼は使い魔のセバスチャンを使って、船は本当に完成しそうになった。母親は彼を諦めさせるため、赤い布を空にかざして夜明けを偽装した」

「つまり・・・・」

「そういう事さ」と言ってエンリはニヤリと笑う。


そしてリラから再度の報告。

「エンリ様、そろそろ半分が渡り終えます」

「よし、やってくれ」とエンリは指示を下した。


リラは幻覚魔法の呪文を唱え、フランス軍の将兵たちに、夜明けの幻影を見せた。

渡渉中のフランス兵たち唖然。

極秘行動中の自分たちを照らす赤い朝焼けの光を浴びて恐慌状態に・・・・・。


渡渉を指揮するナポレオンとその部下たちは焦った。

「陛下、これは・・・」

そう副官が言うと、ナポレオンは「夜明けはまだの筈だ。なのに何で?」

「川を渡ってるのが見つかっちゃいます」と参謀が悲鳴に近い声で・・・。

副官が、おろおろ声で「向うにはまだ多くの兵が・・・」


ナポレオンは決断した。

「仕方がない。我々だけでも戦域を離脱する」

「けど、水面下の橋の存在が知られたら、あれを使った追撃を受けます」

そう参謀が言うと、ナポレオンは「爆破しろ!」


水面下にかけられた橋は爆破され、城内には多くの兵が取り残された。

呆然自失の体で、彼等はがっくりと膝を落とす。

「そんな・・・・・」

「俺たち見殺しかよ」

そんな彼等に指揮官がヤケクソの号令。

「がっかりしてる場合じゃないぞ。すぐに総攻撃が来る。我々も総力戦だ!」



城外に居る同盟軍側では、正面門前に整列した炎剣兵団。

エンリは突入の指令を下し、フォーリー大佐の号令とともに、城門へと突撃開始。


城壁上からの銃撃を大きな楯で防ぎ、ボウガンで城壁上の銃兵を牽制しつつ、門に向けて殺到する完全武装のマッチョたち。

彼等が炎の剣身を取り付けた槍で、分厚い鉄板で固められた門を切り裂くと、破られた門から同盟軍が突入。


市街戦となり、やがてフランス兵たちは降伏。

ナポレオン軍はドイツから駆逐された。

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