第611話 ベルリンの攻防
フランスがロシア遠征に失敗して多大なダメージを受け、ロシアからはウクライナが独立。
民族独立の機運が高まる中、フランスの支配から脱しようとの声がドイツを中心に高まり、その中核としての人々の期待を集めたプロイセンが、ついにナポレオンと激突した。
ドイツ支配の中枢ライプチヒにフランス軍を集結させたナポレオン。彼はグロースゲルシェンでプロイセン軍を破った。
色褪せぬナポレオンの軍才に苦悩するプロイセン軍に、共闘を申し出たノルマン王太子ベルナドット。彼の背後にエンリ王子が居た。
彼はフランスを倒す秘策を語る。それは「ナポレオンと戦わない事」・・・。
プロイセンは彼の申し出を受け入れ、対仏大同盟の再形成が決まった。
そして、ウィーンの宮殿では・・・・・。
対仏大同盟の復活に伴い、オーストリアを訪れたエンリ王子を上機嫌で歓迎するテレジア元女帝が居た。
「よく来て下さいました、エンリ王子。あなたと炎剣兵団の活躍は聞き及んでおります。で、このままライプチヒのフランス人を追い出して、ユーロ解放の先頭に立たれるのですわよね?」
そんな彼女の皮算用に、エンリは「それは状況にも依ります」と釘を刺す。
「というと?」
「ナポレオン本人があそこに居ます。あの軍略の天才とまともに戦えば、さすがの私でも、ただでは済まない」と、弱気を装うエンリ。
「このドイツ皇帝軍が全軍を以て・・・・」
そう強気アピールするテレジアに、エンリは「そう言って今まで、散々でしたよね?」と突っ込む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それに、ドイツ皇帝軍じゃなくて、オーストリア軍が・・・ですよね?」と、彼は更に突っ込む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「要は、今はその時では無い、という事です。そして彼が欲しているのは、ウィーンではなくベルリン・・・」
そのエンリの言葉を遮るように、テレジアはドアップで「ドイツの王はこの私!」と満身の力を込めた自己主張。
「じゃなくてフランツ皇帝だった筈ですが? けど、ドイツに王は居ない」とエンリは突っ込む。
「いいえ。ナポレオンは私たちが倒し、その功績で、民は私たちが正当なドイツ王だと認めるのです」
そんな虫の良すぎるテレジアの未来図に、エンリは「焦らずともチャンスはありますよ」
もちろんそれが文字通りのチャンスを意味するものでは無い事を、理解出来ないテレジアでは無い。
周囲に居る彼女の家来たちが落胆を見せる中、テレジアは自信に満ちた笑顔を維持したまま、エンリに言った。
「それと、エンリ殿下に会って欲しい者が居るのですが・・・」
そしてテレジアは、部屋の入口に向けて「入りなさい」
一人の美女が、女官を伴って入室。
「この人は?」
そうエンリが問うと、テレジアは「私の長女のルイーズですわ。フランス皇帝妃だった者です」
「だった・・・って?・・・」
エンリの問いに答えてルイーズは・・・。
「陛下とは離婚致しましたの。教皇派は離婚を認めないので、国教会に改宗しました。我が夫になって頂けないでしょうか」
「間に合ってます」
そんなエンリのすげない返事に、ルイーズは食い下がる。
「あなたは世界を開いた英雄。なのに、傅く女性がたった二人とは、寂しくありませんか? 英雄色を好む、とも申します」
エンリは「悪いけど、二人で手一杯ですんで」
「まあ、そう仰らず・・・」
ルイーズは小声で呪文を唱える。
何かがエンリの精神に作用し、彼の目に映るルイーズの姿が光を帯びた。
その時・・・・・。
「そうはいきません」
そう声を発した、エンリの背後に控える護衛が、小声で呪文を唱える。
エンリを囲む謎の空気が、ひび割れ砕けた。
護衛が帽子をとると、長い黒髪が姿を見せた。
「あなたは?・・・」
唖然顔でそう問うルイーズに、エンリは「精神魔法でリラと競うのは止めた方がいいですよ。彼女は人魚で水魔法は強力。そして水は月と深く繋がり、精神に大きな影響を及ぼします」
護衛に扮してエンリに寄り添うリラ。
彼女の肩に左手を置き、魔剣の束に右手を添えて身構えるエンリ。
周囲に居るオーストリア帝室の護衛たちも身構え、場に緊張が走る。
そんな中、テレジア元女帝が言った。
「残念ですわね。あの小賢しい陰謀女の男を奪えたなら、今夜のディナーはさぞかし美味しく味わえたでしょうに・・・」
テレジアはルイーズを連れて退出した。
場の緊張は解け、リラはエンリに向き合う。
「エンリ様・・・」
エンリはリラの頭を撫で、「よくやった、リラ」
「あなたを魔法なんかで奪われるなんて、二度と御免ですから」
そんなリラの手を執って、エンリは「姫」
リラはエンリを見つめ、そして「王子様」
エンリはリラを見つめ、そして「姫」
リラは「ところでエンリ様。二人で手一杯って、どういう事ですか?」
エンリ、どっと冷や汗。
「私の相手はそんな重荷ですか?」
そんなリラの追及に、エンリは「いや、そんな・・・・・」
小一時間弁解を迫られる、エンリ王子であった。
そして・・・・・・。
ライプチヒのフランス軍本営ではナポレオンが、諜報局がもたらした映像を見ていた。
そこには、ウィーンの宮殿の応接室で、フランス軍への対応を語るエンリの姿があった。
「ナポレオン本人があそこに居ます。あの軍略の天才とまともに戦えば、さすがの私でも、ただでは済まない」
映像は終わり、ナポレオンは思考を巡らせる。
そして彼は呟いた。
「あのエンリ王子が来ているとは・・・」
「ポルタも一応、大同盟の一員ですからね」と彼の副官。
ナポレオンの脳内に、苦い記憶が蘇る。
そして彼は思った。
(奴には散々、煮え湯を飲まされてきた。他の将軍では絶対に太刀打ち出来ない。けど、俺が居れば・・・)
ナポレオンは将軍たちを集めて、ベルリン攻略の作戦会議。
「今度はどんな奇策を見せてくれるんですか?」
そうワクワク顔で問う将軍たちに、ナポレオンは言った。
「それなんだが、俺はここを離れる訳にはいかない。誰か全軍を指揮してくれ」
「・・・・・・・・・」
互いに顔を見合わせる将軍たち。
「こういう時の陛下の代わりは、ダヴ―将軍ですよね?」
そう一人の将軍が言うと、ナポレオンは「彼はウクライナに居るからなぁ」
「呼び戻せませんか?」と、別の将軍。
ナポレオンは「それが、自分はもうフランスではなくウクライナの軍人だ・・・とか言っててな」
「お前やれよ」
そう一人の将軍が別の将軍に言うと、彼は「お前だろ」と言い返す。
互いに押し付け合いを始める将軍たち。
結局、くじ引きでウディノ将軍に決まった。
「私、まだ怪我が治ってないんだが・・・」
そうウディノが言うと、他の将軍たちは・・・・・・。
「んなもん気合でどーにかしろ」
ウディノは困り顔で「そーいう精神主義はどうかと思うんだが」
「ジェット機だって三日もあれば治らぁ」
好き勝手にそんな無茶を言う将軍たちに、ウディノは「あのなぁ!」
一人の将軍が「血が足りないんだよな? 肉食え肉」
テーブル一杯の肉料理が運ばれて来る。
そして・・・・・・・・・・。
やがてフランス軍では、戦闘の準備がとりあえず整い、ナポレオンは出撃を命じた。
ライプチヒに集結したフランス軍がベルリンに向けて進軍開始。
これを迎え撃つプロイセンとノルマンの軍。
これにロシアからの援軍が合流する。
ベルリンの集結した同盟軍の作戦会議。
「これに勝てたらウクライナとベラルーシの回復に協力して貰えるのですよね?」
そうおねだり顔で迫るロシア軍のビトゲンシュテイン将軍に、総司令役のベルナドットは「そーいう事は後で・・・・・」
「ウィルヘルム王」
ビトゲンシュテインが言質をねだる矛先をプロイセン新王に向けると、彼は困り顔で「僕、10歳の子供なんだけど」
「ビスマルク殿」
その10歳のお子様王を操る実力者として、ビトゲンシュテインが矛先を向けたビスマルクは「まあ、働き次第って所ですかね」
がっかり顔のビトゲンシュテインは、居並ぶプロイセンの将軍たちに、恨み口調で「ウクライナの独立に乗じて、民を煽って反フランス運動を進めたと聞きますが・・・」
そんな彼の愚痴に小一時間付き合わされたプロイセンの将軍たちは、うんざり顔で「勘弁してくれ」と呟いた。
そして、会議に参加した将軍たちは、ベルナドットに問う。
「それで、どう戦うのですか?」
プロイセンのビューロウ将軍が語気を強める。
「ベルリンは必ず死守するのですよね?」
「放棄はしません」とベルナドット。
ビューロウは「絶対ですよ」
「多分しないと思う」とベルナドット。
不信顔二割り増しなビューロウに、ベルナドットは「しないんじゃないかなぁ」
更に彼は「いざって時は後で取り返せばいい話ですし・・・」
額に青筋を立てたプロイセンの将軍たちの集団ドアップが迫り、タジタジなベルナドット。
「まあ、安心して下さいよ。戦場にナポレオン本人は居ない」
「絶対?」としつこく念押しするビューロウ。
「・・・・・・・・」
「だとしても、軍を率いる部下にどんな秘策を授けるか解りませんよ」
そう言うビューロウに、ベルナドットは「ベルリンの西はハーフェル川。南は湿地と湖沼。通行可能な数ヶ所を守るだけの簡単なお仕事です」
「けどなぁ・・・」
会議がとりあえず解散すると、ベルナドットはエンリに通話魔道具で連絡。
「戦場にナポレオン本人は居ないとしても、軍を率いる部下にどんな秘策を授けるか、解りませんよね?」とベルナドットはエンリに懸念をぶつける。
「湖沼を魔法で凍らせるとか?」
そうエンリが言うと、ベルナドットは「それはオーストリアとの戦いで、砲撃で氷を割ったんですよね?」
エンリは地図を広げ、暫し思考。
そしてにんまりと笑い、魔道具の向こうのベルナドットに言った。
「俺に任せろ」
通話魔道具を切ると、エンリは仲間たちを集めて指令を下した。
「リラとアーサー、そしてファフ。ドラゴンでベルリンに向かうぞ」
「俺たちは?」
そう問うタルタたちに、エンリは「留守番だ。これは隠密作戦で、直接戦う訳じゃ無いからな。俺たちはあくまでナポレオン本人をここに釘付けにする牽制役だ」
進軍を続けたフランス軍は、やがて、ベルリン南方のグロースベーレンの湖沼地帯に辿り着く。
司令官役のウディノ将軍は全軍に号令。
「この向こうにプロイセン軍が布陣している。沼地と沼地の間の街道沿いを確保しながら軍を進め、敵陣に攻勢をかけてこれを突破する。前進せよ」
砲撃とともに進撃を開始したフランス軍を、いきなり豪雨が襲った。
視界が悪くなり、足元を泥に掬われる中、参謀たちはウディノ将軍に「どうしますか?」
ウディノは「前進あるのみだ」
豪雨は更に激しくなり、沼地の水があふれ、道路は泥道と化した。
プロイセン軍は後退し、それを追って湿地地帯を進むフランス軍。
「まだ進みますか? この泥道では大砲を移動出来ませんよ」
そう参謀が困り顔で言うと、ウディノは「けどなぁ・・・」
上空では、ファフのドラゴンが滞空していた。
その背で降雨魔法の呪文を唱えるリラとアーサー。
エンリはドラゴンの背から、その下に広がって豪雨を降らせている雨雲を見下ろし、そして呟いた。
「この雨でフランス軍は身動きがとれない。だが、ナポレオンの不在を任された部下は、背中に責任がのしかかって、簡単に後退は出来ない筈だ。無理な戦争を続ければ被害を増すばかりだ。ドイツを維持できないくらい消耗して撤退を迫られたらベストなんだが。こんな戦争さっさと終わってくれ」
そして地上では・・・・・。
南から通じる街道は泥に沈み、ベルリンはその中に浮かぶ島と化した。
身動きのとれない泥道を悪戦苦闘しながら北へと進んだフランス軍は、湖沼地帯の途切れたあたりに陣取って迎撃するプロイセンとノルマンの軍の反撃を受けた。
フランス軍は多大な損害を出して撤退。
歓呼の声を上げる連合軍。
プロイセン軍の将軍たちがベルナドットを囲み、テンションMAXで賛辞の嵐。
「やりましたね、ベルナドット王太子」
そうビューロウ将軍が言うと、ベルナドットは謙遜顔で「まあ、まぐれというか・・・」
「さすがは大指令」と、その他の将軍の一人が・・・。
ベルナドットは照れ顔で「いや、そんな・・・・」
「もうナポレオンなんて目じゃ無いですよ」と、別の将軍が・・・。
ベルナドットは更なる照れ顔で「それほどでもありますけどね」
「一生ついていきます。兄貴と呼んでいいですか?」と、更に別の将軍が・・・。
「困っちゃうなぁ」
煽てに弱いベルナドットであった。
「では、追撃を」とビューロウ将軍。
ベルナドットは全軍に号令。
「よし、これより全軍、ライプチヒに向けて進軍開始だ!」
「フランス軍をドイツから追い出すぞー」と気勢を上げる将軍たち。
南へと進軍しようとする彼らの目の前には、先ほどまでフランス兵が悪戦苦闘していた泥濘地帯が広がっている。
それまでの煽て祭りで盛り上がっていたベルナドットのテンションは、一気に萎んだ。
「これ、渡るんだよね?」
「根性があれば火の上だって歩けます。ジパングには火渡りというのがありまして・・・」
そう脳筋オーラMAXで迫るビューロウに、ベルナドットはうんざり顔で「勘弁してくれ」
進軍を中止したベルナドットは、プロイセン軍の将軍たちのブーイングを一身に浴びた。




