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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第610話 北国の盟主

ロシア遠征が失敗に終わり、ウクライナを通って撤退するナポレオンの本隊を逃がそうと、追撃するロシア軍の足止め用に急造したダヴ―軍団の要塞。

ロシア襲撃騎兵隊を牽制して敵地に孤立したオスカルとアンドレは、地元のウクライナ人たちに救われ、彼等の抵抗運動の指導者となった。

そして、抵抗運動は要塞のダヴ―軍団と合流し、エンリ王子はこれに武器援助を開始。

ダヴ―はフランス軍から離脱し、民主主義が掲げる民族の独立を求めた人々が彼等のもとに集い、彼等の議会を設立した。



ウクライナが独立を宣言し、弾圧に向かったロシア軍を次々に撃退した。

そしてウクライナ軍を指揮するダヴ―は、ついにキーウを掌握した。

ロシア貴族となっていたキーウ公は捕虜となり、独立派の傀儡としてウクライナ王に擁立された。


北に隣接するベラルーシでも、各地で独立派が勢力を伸ばした。

至る所で彼等はロシアの支配に抵抗する。

「ベラルーシはベラルーシ人のものだ」の合言葉の元で・・・・・。



ロシアからの独立を目指す彼等の活動は、ドイツ人に大きな影響を与えた。

「我々もフランスの支配から脱却すべきだ」

それはドイツ人たちのコモンセンスとなった。



ウィーンの宮殿では・・・・・。


「つまり、ドイツの民はドイツ人の王を求めているという事ですわよね?」

家来たちから次々に報告される、民主主義を求める民の動き。

その理念の基で、フランス支配からの独立を求める人々の潮流。

それを、そんなふうに都合よく解釈するテレジア元女帝であった。


そして彼女は隣に居る現皇帝に「フランツ、解っているわよね?」

「解ります。ドイツをまとめる強い王が必要なのだと。それは、偉大な先輩啓蒙君主フリードリヒ大王」

そう嬉しそうに答える現皇帝を、テレジアはハリセンで思い切り叩き、そして「違うでしょ!」



ベルリンの宮殿では・・・・・。


「いよいよあなたがドイツ王となる時が来たのです」

家来たちから次々に報告される、民主主義を求める(以下同文)。

それを受けてビスマルクは、そんなふうに幼い主を叱咤激励する。


「僕、まだ10歳の子供なんだけど」

そう困り顔で言うウィルヘルム現プロイセン王に、ビスマルクは「大丈夫です。異世界転生した主人公は、みんな10歳の頃には周囲に圧倒的な差をつけています」

ウィルヘルムは更なる困り顔で「それって、チート魔力とか鑑定とか異世界文明の知識とかだよね? 僕、そんなスキルなんて無いよ」

「陛下には、この私が居ます」と、薔薇の花びら舞い散る幻想の中、ビスマルクは幼い主に服従の微笑みとともに手を差し伸べる。


するとウィルヘルムは「だったら先ず、父上を探してよ」

ビスマルク唖然。

そして彼は憂い全開のオーラを纏いつつ、「傀儡にされてしまいますよ」

そんな彼にウィルヘルムは言った。

「じゃなくて、勝手な事をしないよう地下牢にでも閉じ込めておくんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



そしてオーストリアでは・・・・・。

テレジアは、ドイツ各地に教皇派の説教師を派遣した。


彼らは各地の教会に人々を集め、その前で力説した。

「ナポレオンは最高存在などという正体不明な異端を祀り上げ、神を否定し、教会の権威を踏み躙った。その天罰を受けたのです。今こそフランツ皇帝陛下の元で、ドイツ民族の精神的主柱である教皇の元に集い、神聖同盟として結集すべきです」

集められた現地の人々は、目の前で能書きを垂れる坊主に対し、困惑顔で次々に突っ込む。

「けど、教皇ってイタリアに居るんだよね?」

「俺、反教皇派なんだが」



一方、プロイセンでは・・・・・。

ビスマルクは、各地の都市にベルリン商人を派遣した。


彼等は商館に各ギルドの代表を集めた。

「皆さんにお勧めしたいプランがあります」

迷惑そうな雰囲気の中、溜息をつく現地の人達。

そんな中でギルド代表の一人が「知ってるよ。オーストリアの向うを張って、反教皇派でプロイセンの元に結束して政治的子分になれってんだろ?」


するとベルリン商人は「いえ、宗教とか政治とか、とりあえずどーでもいいんで、イギリスやフランスに対抗する関税同盟に入りませんか?」

現地のギルド代表たちの雰囲気が一変する。

「つまり、外国からの輸入品からドイツの市場を守って・・・・・」

「皆さんの生活を保障しようと」とベルリン商人。

ギルド代表たちは口々に「いいね、それ」


だが、一人のギルド代表が、心配顔で突っ込む。

「けど、ライン連邦とかウェストファーレンとか、フランスの属国なんだが・・・」

するとベルリン商人は言った。

「皆さんの都市は本来、伝統的に国家からの自立を許された自由都市ですよね? つまり、庶民自らが都市を運営する伝統的な民主主義があった。それはけしてフランス人から与えられたものではない」


納得顔で頷くギルド代表たちは口々に・・・。

「確かに・・・・・」

「ドイツは元々俺たちのものだったんだ」

「民主主義万歳!」



ドイツの大勢がプロイセンに傾き、多くの都市の民主派がウィルヘルム新王への支持を掲げた。

ベルリンの議会はドイツ解放を決議し、庶民たちは気勢を上げる。

「ナポレオン打倒を主導するのは我々だ!」


ウィーンの宮殿では、そんな報告を受けて焦る、テレジア元女帝が居た。

彼女は将軍たちを集めて激を下す。

「ここはフランスを追い出す戦争で主導権をとる必要があるわよね」



そんなドイツでの動きがパリに伝わり、ナポレオンは軍の動員を命じる。

「訓練が間に合いませんよ」

そう困り顔で意見する陸軍省の役人たちに、ナポレオンは「そんなもの、戦いながら覚えさせればいい」

「そんな無茶な・・・」


抵抗する役人たちを前に、ナポレオンは脳内で呟く。

(ダヴ―が居たらなぁ)


「戦争するにも戦費がありません」と、一人の役人が更に意見。

「以前の戦争でとった賠償金の分割払いが入って来るだろ。奴らに好き勝手させれば、あれを踏み倒す事になるぞ」とナポレオンは却下。

別の役人が「もう、ドイツから撤退しちゃうというのはどうですか?」

「そうはいくか!」



その頃、ポルタの王城では・・・・・。


エンリ王子の執務室にテンションMAXで乗り込むニケが居た。

「いよいよナポレオン討伐の最終局面よ。王子はその司令官としてユーロを率いるのよね?」

そう鼻息荒く捲し立てるニケに、エンリはドン引き顔で「いや、戦争の中心はドイツだろ」

いつものようにソファーでお茶を飲んでいる仲間たちも、野次馬気分であれこれ・・・。

「けど、未だにオーストリアとプロイセンで主導権争いやってるからなぁ」

そうジロキチが言うと、アーサーが「大勢はプロイセンに傾いてるけどね」


ニケはテンション二割り増しで「何言ってるのよ。彼はユーロ全体を支配しているのよ。ユーロの結束は不可欠でしょーが!」

「つまり対仏大同盟の復活?」とカルロが口を挟む。

「大国支配に抗う民族の自立は民主主義の根幹よ。ポルタは商人の持ちたる国で、ユーロの民主主義の先駆けなのよね?」

そうニケが弁舌を垂れると、エンリは「いや、民主主義の祖国なんぞ名乗った憶えは無いが・・・」

「ってか、ニケさんってそーいうキャラだっけ?」とタルタが突っ込む。

ニケは憤懣顔で「私を何だと思ってるのよ。私だって世の中を憂う気持ちくらいあるわよ」

「まぁ、ニケさんだって万事が金々って訳でも無いでしょうし」と、リラがとりあえずフォロー。


「けどなぁ、ポルタは小国だし・・・・・」

エンリがそう困惑顔で言うと、ニケは「小国が何よ! 王子は海賊王で、世界を切り開いた英雄でしょーが!」

「そりゃー・・・・・・・・」

「王子がユーロのテッペンに立つのよ。みんな期待しているわ」と、ニケは熱弁をふるう。

エンリは満更でも無さげに「それほどでもあるけどね」

煽てに弱いエンリ王子であった。


そしてニケは言った。

「ユーロ中を支配し苦しめたフランスの圧制を跳ね除け、反撃して、賠償に捕虜の身代金に戦後復興・・・。巨額の資金を意のままに動かして、お金ガッポガッポ!」

残念な空気が漂う。

そしてエンリは脳内で呟く。

(俺の感動返してくれ)


「まあ、指導者なんて損な役回りだからなぁ」

そうエンリが言うと、ジロキチが「下手に内部対立とかになれば、板挟みで下手すりゃ双方から恨まれて集中砲火だ」

タルタも「けど、逆にロシアみたいなのが先頭に立ったら、リーダー風吹かせて面倒な事になるぞ」

アーサーも「下手すりゃフランスとズブズブとか言われて内ゲバの餌食とか・・・」

エンリは辟易顔で「勘弁してくれ」


間もなくエンリは気を取り直して「まあ、うちはスパニアと共同歩調とってるからね。いざとなりゃイザベラの裏工作が火を噴くだけさ」

「けど、フランスの傀儡って事になってる人たちとか・・・」と、リラが言い出す。

「それってスパニアで阿衡やってるジョセフ氏?」

そうニケが言うと、リラは「じゃ無くてノルマンの・・・・・・」

「あー・・・・・・・・・・・・・」



エンリは外務局の役人を呼び出し、ノルマンのカール王子と連絡をとるよう指示した。

「ベルナドット王太子では無く・・・ですか?」

そう役人が言うと、エンリは「俺の名前で普通に呼び出せば、彼が出るだろうさ。けど本来の王位継承者はカールだ。そしてベルナドットはナポレオンの限界が見えた今、微妙な立場に居る」

「解りました」



間もなく、外務局の段取りにより、カール前王太子との通話魔道具を用いた、極秘の会談が持たれた。


回線が開かれると、エンリは会談相手に問う。

「率直に聞くが、王太子に返り咲く気は無い?」

「ベルナドットの件ですね?」

そう返すカール王子に、エンリは「そうだ。彼はナポレオンの傀儡として送り込まれた・・・って事になってる。そんなのは建前だって本人も自覚してるが、それを知らない奴らにとっちゃ、ナポレオンと一緒に反撃対象って事になり兼ねない」


カールは「それで彼を排除せよと・・・・・・・」

「それを決めるのはノルマンだ。けど奴は元々、こっち側の人間で、全部承知で傀儡のフリを続けて来た。そんな奴をお前、バッサリやれるか?」

そうエンリが言うと、カールは語った。

「必要なら、それをやるのが王族だって自覚はしています。ですが、出来ればこのまま彼に王位を継いで欲しい。これは心情とか、そういう話じゃ無いんです。彼はあれでかなり有能で、公平な判断力も持っている。民からも信頼されています」

「つまり、上役に尻尾振るだけの奴じゃ無いって事ね。それに、もしお前が復帰したら・・・・・」

そうエンリが言うと、カールは慌て声で「べべべ別にハンコ突きの日々に戻るのが嫌だって訳じゃ無いですからね。勘違いしないで下さいね」

エンリは溜息声で「いや、俺、何も言ってないが・・・」

残念な空気が漂う。


「それでお前、今、何やってるの?」

そうエンリが問うと、カールは「ワルキューレ養成学校の槍術師範を・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

エンリは10年前にアラビアでの聖櫃戦争の際に見かけたカールの婚約者を思い出し、そして溜息をついた。


そして彼は本題を切り出す。

「それで、引き続き王太子をやるベルナドットなんだが・・・・・・・・・・・・」



そして・・・・・・。


プロイセンがフランスに、駐留軍の撤退を要求した。

ナポレオンはこれを事実上の宣戦布告と受け取り、ついに戦争は始まった。


駐留軍の拠点となっているライプチヒに向けて、彼はフランス軍の発進を命じる。その主力はドイツに居る駐留軍。

国力の払底を訴える大臣たちに、ナポレオンは「とにかく兵力は足りてる」と反論。

「兵力はね。けど馬が底をついている状態で・・・」

そう指摘する陸軍長官に、ナポレオンは言った。

「戦場はライン連邦で、我々のホームグランドだ。物資の補給体制は出来ており、輸送に悩む必要なんて無い。騎士が槍を掲げて突撃なんて時代遅れだ」


ライプチヒに向かう広い平原を進むフランス軍。

だが、索敵を行うには、機動力のある騎兵が不足していた事が、その動きを制約した。

部隊を分散させ、各部隊で斥候による索敵を行いつつ進軍する。 


やがて・・・・・・。

グロースゲルシェンでプロイセン軍と会敵したナポレオンは、多くの犠牲を払いつつ、これを撃退した。



ウィーンの宮殿では・・・・・・。


執務室で将軍から報告を聞いて声を荒げるテレジア元女帝が居た。

「抜け駆けで宣戦布告とか、何て生意気な。それで、どちらが勝ったの?」

「残念ながら・・・・・」

そう言いかける将軍に、テレジアは「まさかナポレオンを破って手柄を横取り?」

将軍は「いえ、返り討ちに遭って撃退されたと・・・」


テレジア、一転して上機嫌になる。

「ザマーミロよw それで、追撃されてベルリン占領?」

「いえ、フランス軍にその余力は無く・・・」

そう将軍が言うと、テレジアはがっかり顔で「なーんだ」


将軍は溜息をつき、そして呟いた。

「あの国が破れたら、次はこちらの番なんだが・・・・・・」



ベルリンの宮殿では・・・・・。


新王とビスマルクを交えた作戦会議。

敗戦の現実に顔を曇らせる将軍たちが居た。


「やはりナポレオンの軍才は侮れませんな」

そう将軍の一人が言うと、別の将軍が「腐っても鯛・・・といった所でしょうか」

「彼は、体制を建て直してベルリンを取りに来ますよ」と、更に別の将軍が・・・。


その時、一人の士官が入室して、ビスマルクに耳打ち。

彼が頷くと、間もなく一人の男性が入室。

「お困りのようですね?」

「あなたは?・・・・・」

不審顔の将軍たちに、彼は名乗る。

「ノルマン王太子、ベルナドット。ある人に勧められて、知恵をお貸ししようかと。対仏大同盟、復活しませんか?」


「その"ある人"って、まさか父じゃ無いよね?」とウィルヘルム新王。

将軍たちも「ロシア遠征の補給をやらされて、酷い目に逢ったんですが・・・」

「いえ、ポルタのエンリ王子ですよ」とベルナドット。

「それで、あのオーストリアやロシアと組めと?」

そう将軍たちが言うと、ベルナドットは「イギリスは陸軍を出すと言っています」

「けど、オーストリアなんて頼りになるの?」と一人の将軍が・・・・・・。


ベルナドットは彼らに言った。

「とりあえず牽制にはなるかと。この作戦の要は、ナポレオンの軍才にどう対処するか、という事に尽きます」

「何か秘策が?」

そうビスマルクが問うと、彼は「あります」

その場に居た人たちが一斉に身を乗り出して「それは?」

「彼と戦わない事」とベルナドット。

「はぁ?・・・・・・」


唖然顔の面々に彼は語った。

「複数の敵が同時に圧力をかければ、全体を見て対処する指令塔をやる必要が出る。けれども、彼自身が戦場に居たら、そちらに注力しなくてはならない。とりあえずオーストリアは国境に軍の主力を集める。すぐ近くにドイツ駐留軍のライプチヒがあり、ここを取られたらフランスはドイツを失う。そこから離れられない彼は、部下の将軍を派遣するしか無い。私はフランス軍に居て、彼の事はよく知っています」

その場に居たプロイセンの将軍たちは、ひそひそ声で「そーいや、こいつはナポレオンの傀儡だったっけ・・・」

そんな彼等にベルナドットは「助けは要らないの?」

「・・・・・・・・・・・」

困惑顔の将軍たちに、ビスマルクは「信じよう。もうすぐナポレオンの時代は終わります。その時、武力支配に抗う側に居たという事実は、生き残るための切札だ」



こうして、対仏大同盟の再結成が決まった。

これに集うのは、プロイセンとオーストリア、ロシア、ノルマン、イギリス。そしてスパニアとポルタ。

ノルマン王太子ベルナドットが、盟主として指令役を務める事となった。

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