第605話 東方の討伐
再度イベリアに侵攻したナポレオンが、エンリ王子たちが率いるポルタとスパニアに敗れ、大陸封鎖の解除とフランス支配下に置かれた各国の独立性尊重を取り決めた和解を強いられた。
これを好機と見た元プロイセン王フリードリヒは、オーストリアのフランツ帝とロシアのピュートル帝にナポレオンへの反旗を働きかけ、彼らを乗せる事に成功した。
ロシア・プロイセン・オーストリアによる対仏大同盟の復活が、ピュートル帝、フランツ帝、フリードリヒの名で発表された。
これを聞いたエンリ王子は頭を抱える。
「どーすんだ、これ」
報告を聞いて、ナポレオンは激怒した。
執務室で怒りを捲し立てるナポレオンに、自称クワトロバジーナは心配顔で「戦争する気ですか?」
「向うが喧嘩を売ってきたんだ」とナポレオン。
「けど、ロシアに攻め込むと厄介ですよ。そもそもプロイセンとオーストリアは、我が軍の監視下にあるんですけど」と、宥め口調でナポレオンの暴走を鎮める、自称クワトロバジーナであった。
プロイセンとオーストリアに駐留するフランス軍が出動し、双方の首都を占領した。
その武力を背景に、ナポレオンは双方の宮殿に乗り込んで責任追及開始。
ベルリン宮殿の応接室では・・・・・。
鬼の形相で厳しく追及するナポレオンに、10歳の幼いウィルヘルム王は平然と「父が勝手にやった事で、彼は引退した身で何の権限もありません」
「あなたの親ですよね?」
そうナポレオンが攻めると、隣に居るビスマルクが「親が残した借金だから子供に払う義務がある・・・というのは、ヤクザ町金のデマです。相続権を放棄すれば借金は消える」
「あなたの王としての立場は相続したものですよね?」
そうウィルヘルム王に視線を向けて突っ込むナポレオンに、ビスマルクは反論。
「国王の権限は私有財産ではなく、国家から委託された役職というのが民主主義です。フランスは民主主義の伝道者なんですよね? 鳩山とかいう頭のおかしな元総理が"ジパングは半島国との戦後処理の完了を無かった事にして半島国に膝まづいて許しを乞うべき"などという、理に反した暴言を吐いても、それは何の法的根拠も無い個人の無責任な戯言に過ぎず、ジパングは何の責任も負わない・・・というのと同じです」
「けど、あなたの父親ですよね?」と、ナポレオンがなお血縁関係を取っ掛かりとした追及に固執すると、ウィルヘルム王は言った。
「彼はプロイセン国家の名を騙った詐欺師で、我が国は彼を国民として保護する権利を放棄しました。なので、いかようにも処分しちゃって下さい」
「・・・・・・・」
反論の言葉を失うナポレオンに、ビスマルクは矛先逸らしの言葉を・・・・・。
「ですが、オーストリアは現役の皇帝がやらかした不祥事なので、厳しく処断する事をお勧めします」
「・・・・・・・」
同行していたフランス外交官は思った。
(こいつらって・・・・・・・・・・・)
ウィーン宮殿の応接室では・・・・・・。
「この馬鹿息子が!」
そう言って、ハリセンでフランツ皇帝の頭を思い切り叩く、テレジア元女帝。
「だって母上・・・」
そう抗弁しかけたフランツに、テレジアは「だってじゃありません! あのフリードリヒのような輩を信用するなと、何度言ったら・・・」
小一時間説教するテレジア元女帝。
そんな掛け合いで時間を潰して問題を有耶無耶にされたらかなわんと、ナポレオンは止めにかかる。
「そーいうのは後にして下さい。ともかく彼は正式な皇帝なんですよね?」
テレジアは「反省文を毎日原稿用紙一枚づつ書かせております」
「いや、生活指導受けてる高校生じゃ無いんだから」と突っ込むナポレオン。
テレジアは問題のすり替えを始めた。
「それより、我が長女はどうして居ますかしら?」
「・・・・・」
「あなたは我が娘婿で、私は義理の母親ですわよね?」
そう言って母親ヅラモードに入るテレジアに、ナポレオン閉口。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お母さんと呼んで頂けるのですわよね? こんなバカ息子ですが、あなたの兄。弟は兄に従うべきと、かの半島国が・・・・・」
そんな残念な家族ごっこを押し売りで、ナポレオンをあきれさせて問題の有耶無耶化を図るテレジアの作戦が、功を奏するかに思われた、その時、フランツ皇帝が口を挟む。
「母上、あの国を喩えに出すのは逆効果かと。そもそもあの半島国とその隣国は赤の他人。勝手に兄弟関係を設定してマウント仕掛けてるだけのストーカーです。ここはこう言うべきかと」
フランツはドン引き顔のナポレオンの肩に手を置き、そして言った。
「我が弟ナポレオンよ。兄より優れた弟など居ない」
テレジア元女帝はハリセンで、フランツを思い切り叩いた。
残念な空気の中、ナポレオンは対話を振り出しに戻し、そして追及した。
「で、この落とし前をどうつけるんですか?」
「実質国家として関わっているのはロシアだけ。フリードリヒを匿っているのも、あの国です。煮るなり焼くなり好きにすればよろしいかと」とテレジア元女帝。
ナポレオンは「ではそのロシア懲罰に、あなた方も同盟軍として参加して貰えるのですよね?」
「・・・・・・・・」
そして・・・・・・。
パリの宮殿に戻ったナポレオン。
クワトロバジーナを称するリシュリューは不安顔で彼に問う。
「本気でロシア遠征なんて、やる気ですか?」
「焼土戦術ってのがあるんだよね?」
そうナポレオンが問うと、自称クワトロバジーナは解説を始めた。
「我々が遠征する時、食料や必要物資を現地で徴収しますよね。そう出来ないよう、先手を打って食料を没収するんです」
「床下に隠したりするだろ」とナポレオンは突っ込む。
「なので、村を丸ごと焼く」と自称クワトロバジーナ。
「焼かれた民は?」
そうナポレオンが問うと、自称クワトロバジーナは「飢える事になりますね」
ナポレオン絶句。
「つまり、民が配給を要求しても無視しろと・・・」
そんな甘い事を言うナポレオンに、自称クワトロバジーナは「それ以前に、我々の兵が食べるものが無い」
「だったら、補給基地を造って輸送すればいい」とナポレオン。
「輸送体制に膨大な費用がかかります」
そう自称クワトロバジーナが突っ込むと、ナポレオンは「それをプロイセンとオーストリアと・・・、あとポーランドにやらせればいい話だ」
「おそらく物資輸送を襲撃されるでしようね」と自称クワトロバジーナ。
ナポレオンは言った。
「襲撃されて奪われたら、オーストリアやプロイセンの責任だ。その分を輸送し直せ・・・って話になるだけだ」
ロシアでは、ピュートル帝はロシア遠征を宣言したナポレオンに対し、抗戦を宣言。
本格的に軍の動員を進めていた。
だが・・・・・・。
総指揮官に任命されたバルクライ将軍は悩んでいた。
「あのナポレオンが国土に攻め込むとなれば、やはり焦土作戦って事になる。だが皇帝陛下のあの性格では、自分が先頭に立って正面から戦いを挑むとか、絶対言うよね。下手に正面から挑めば奇策に嵌って返り討ちだ」
将軍たちを集めた会議で、彼がそう言うと、他の将軍も口々に・・・・・。
「あの人、脳筋だものなぁ」
「既に二回、ボロ負けしてるし」
「本国に攻め込まれてそれやったら、目も当てられんぞ」
「焦土作戦とか絶対嫌がるよね」
「どーすんだ、これ」
頭を抱える将軍たち。
その時、一人の将軍が言った。
「いっそ病気療養で引き籠ってくれたらなぁ」
「毒でも盛るか?」と別の将軍が・・・。
バルクライは焦り顔で「滅多なことを言うもんじゃ無い! バレたら大逆罪だぞ」
すると、先ほどの将軍が「要はバレなきゃいいんだよ。確か、先祖から引き継いだ技を受け継ぐ毒殺専門の暗殺一族の当主ってのが居たが」
「いや、あんなの使ったら絶対失敗するぞ。何せ、"俺は屑しか殺さない"とか言ってターゲットを拉致って尋問して、女と信じたターゲットの結婚詐欺師にコロっと騙されて、挙句"騙されて絶望するその顔が見たくてやってるんだー"とかドヤヒャッハー顔で嘲笑されて。そいつ自身も"お前は滅茶苦茶苦しむ毒で死ぬんだぞザマ―"とかヒャッハーする、屑はお前等だろって・・・」と、更に別の将軍。
「奴なら跡継ぎ残すために、その女装結婚詐欺師の指南受けて婚活中とか言って、暗殺は休業中」と、更にまた別の将軍が・・・。
「そんなの使わなくても、宮廷医師を買収するのは簡単だけどね」と、また更に別の将軍が・・・。
すると、先ほどの将軍が「だったら、毒なんか使わなくたっていーんじゃね?」
「どゆこと?」
「"実は陛下のお体の中では謎の奇病が進行中で、今すぐ療養して手を打たないと、自覚症状が出てからじゃ手遅れです"とか? あの人をそんなので止められるかよ」
そうバルクライが疑問顔で突っ込むと、彼は「精神魔法だよ。精神に働きかけて自覚症状を体感させる。魔法でそう思わされてるだけで、体の方に実は何の問題も無い」
「その手があったかー!」
間もなく、ピュートル帝は謎の頭痛と腹痛と腰痛と筋肉痛を訴え、宮廷医師は謎の奇病で緊急の処置が必要との診断を下した。
彼は宰相と総指揮官のバルクライ将軍に後を託し、宮殿の奥の病室で、療養生活に入る。
そして・・・・・・。
ついに、ロシア遠征が開始された。
フランス軍がポーランド国境を超える。
東へ進む軍が通りかかる村落は、全て焼かれ、飢えた民が食を求めて縋る。
それを跳ねのけて行軍は続いた。
「これがこの国のやり方かよ」
そうドン引き顔で言う兵たちに、オスカルは「攻め込んだ側が言うなと言われるだけだ」
「そもそも俺たちダヴ―将軍の軍団って、皇帝が遠征中にフランスを守るためにあるんだよね?」と兵たち。
オスカルは「それだけ頼られているという事だ」
「戦争が嫌になりますね」
そう兵たちが言うと、オスカルは「戦争が嫌じゃない奴なんて居ない。けど、恐らく今回で戦争は終わる」
「そうなれば平和に暮らせるのかな?」と兵たちは口々に言う。
「だといいな」
そう言いうとオスカルは、兵たちを見ながら、脳内でその言葉の続きを呟いた。
(こいつ等だけでも・・・・・・)
行軍が進む中、食料だけではなく馬も消耗した。
疲弊して倒れる馬が後を絶たない。
同盟国の輸送隊は、しばしば遊撃騎兵の襲撃を受けて壊滅し、補給も途絶えがちになる。
本営でも、そうした報告が相次ぎ、ナポレオンとその部下たちの懸念は深刻なものとなる。
「この様子では、いつ補給が届かなくなるか・・・」
そう副官が言うと、参謀が「もうすぐここの中枢都市のミンスクですよ」
「まさかあそこまで焼かれてる・・・なんて事、無いよね?」と言うナポレオンの不安は、やがて現実のものとなった。
フランス軍がミンスクに辿り着くと、既に街は焼かれていた。
途方に暮れた市民たちが縋って来る。
「お慈悲を・・・・・」
そう言って縋る民たちに、フランス軍は「食料は我々の担当じゃない。そのうち、オーストリアの補給隊が通る」
フランス軍が東に去った後、オーストリアの補給隊が廃墟の街を通りかかった。
彼らは縋りつく民衆に「そのうち、プロイセンの補給隊が通る」
更にその後、廃墟の街を通りかかったプロイセンの補給隊は、縋りつく民衆に「ポーランドの補給隊が通る」
去っていく補給隊を見送りつつ、民衆は呟く。
「これって、たらい回しっていう奴だよね」
一方で、各国の補給隊がロシアの遊撃騎兵の被害に遭う頻度はどんどん増した。
補給隊襲撃の報告を受けて責任者を叱責するナポレオンに、参謀が意見する。
「補給線が伸びきったら襲撃に対して脆くなります」
「部隊に随伴する輸送を増やそう。馬は全てその輸送に使うんだ」とナポレオン。
補給を担当する三か国に食料の大規模輸送を命じるが、これもやはり襲撃を受け、届く食料は限られた。
そして、届いた食料を荷車に載せた分、それまで荷車で輸送していた物資は兵士に背負わせ、移動速度はどんどん遅くなる。
そして季節は夏から秋へ。
ナポレオンの焦りは深まる。
「我々は寒さに弱い。冬までにはモスクワを攻略しなくてはいけない」
彼は脳内で(あそこまで行けば物資は豊富に手に入る・・・・筈・・・・)と呟いた。
そして「まさかモスクワまで焼かれてたりしないよね?」
副官が「ミンスクだって、ここの都ですよ」と突っ込む。
すると参謀が「いや、ここの住人はベラルーシという民族で、スラブ人だけどロシア人とは違います。ロシア人の街を無造作に焼いたりとか・・・」
「だったらロシア人エリアに行けば、村は焼かれてないよね?」
そう副官が言うと、ナポレオンは「それはどうかな?」
「それより・・・」
そう呟きつつナポレオンは、畑の収穫期が近づいて実をつけ始めている、周囲の畑の大麦を見る。
そして「畑の作物を刈り取って徴収するというのは・・・」
「まだ熟していないかと」と参謀。
ナポレオンは「まずくても食えればいいだろ」
一旦進軍を停止し、畑に降りて麦穂を確認するが、まだ殆ど実はついていない。
そんな様子を見てナポレオンは「もう少し行ったら、それをやろう」
だが・・・・・・。
そこから進軍を続けて間もなく、フランス軍が進む街道の、周囲の畑の作物は全て刈り取られていた。
村はやはり焼かれている。
「ロシア軍の奴らの仕業だな」
そうナポレオンが言うと、周囲の部下たちも「ここまでするかよ」・・・・・・。
その時、後方から伝令が急報をもたらした。
「大変です。後方の補給基地が壊滅しました」
「壊滅って・・・・・。襲撃なんて少数の遊撃隊だろ」
そうナポレオンが言うと、伝令は「それが、民が武器を持って同盟国の補給部隊を襲ったとの事で、空腹に耐えかねての自殺的な行動らしく・・・」
本営は鎮痛な空気に包まれた。
「随伴補給隊の食料はまだ残っている。スモレンスクからはロシア人エリアだ。あそこに行けば・・・・・・」
その頃、ロシアの宮廷では・・・・。
「このまま焦土作戦を続けていいのですか?」
そう作戦会議で主張したバグラチオン公爵に、他の将軍たちは「民が苦しむのが不憫だとでも?」
「広大な土地をフランス軍に明け渡して、あのまま居座られでもしたら、我々の領地が減ってしまいます」とバグラチオン。
「そっちかよ」と将軍たち。
「そうさせないための焦土作戦だろ」
そう反論するバルクライ将軍に、バグラチオンは「既に、フランス軍は相当消耗しています」
「じゃなくて、あそこがお前の領地だからだよね?」とバルクライは突っ込む。
「ですが、このままではモスクワだって焼かざるを得なくなりますよ」
そうバグラチオンが言うと、何人かの将軍が表情を曇らせ、それは、焦土作戦を主導してきたバルクライ将軍への無言の圧力となった。
彼はバグラチオンに言った。
「だったら、あなたの軍にも参加して貰いましょう。嫌だとは言いませんよね?」
「・・・・・・・・・」




