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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第603話 ポルタの開城

大陸封鎖令によって各国からイギリス製品が締め出され、動力機械による製品の国産化が進む中で、軍隊に労働力をとられてひとり経済発展出来ないフランスが、元々イギリスに負けない産業力を備えたポルタを奪おうと、ナポレオンにより始まった再度のイベリア侵攻。

ボルタ北部に侵入したダヴ―軍団を迎え撃つイギリスポルタ連合軍はエンリ王子が指揮。

ナポレオン自身は五つの軍団を率いてスパニア首都を目指した。

スパニア軍を指揮するイザベラ女帝は正面からの戦いを避け、レコンキスタの遺産とも言える城塞群を以て対抗する持久戦に持ち込みつつ、フェリペ皇子の部隊によりフランス軍の補給路を断つ作戦を展開した。



ナポレオンの各軍団の将軍たちは頭を抱えた。


「このままでは食料が尽きてしまいます。最初に持って来たものも、いずれは・・・・・」

そう将軍たちが訴えると、ナポレオンは「その前に決着をつけるさ。この調子で進軍すれば、首都に辿り着くまでは何とかなる」

「ですが、彼等は消耗を避けて撤退しているのです。つまり、首都での籠城戦に備えているという事で、そう簡単に攻め落とせるとは思えません」

そう一人の将軍が言うと、別の将軍が「それに襲撃戦も厄介ですよ」


日が暮れて野営するフランス軍に、毎晩のように襲撃戦を仕掛けるスパニア側。

領主の手勢に民兵が加わり、夜闇に紛れて接近し、一撃をかけては退却。

追撃しようとする将軍たちに、ナポレオンは「深追いすれば伏兵が待っていて、罠に嵌って全滅するぞ」

「ですが・・・」



襲撃兵たちは、地下に掘られた隠れ家に帰還する。


地下通路で彼らを出迎える家族たち。

「お父さん、フランス兵をやっつけたの?」

そう言って、兵の足元にじゃれつく幼い子に、その父親は「お父さんは強いからな」


地下の集会所で気勢を上げる襲撃兵たち。

「500年に渡ってレコンキスタを戦い抜いたイベリアの民を甘く見た事を、フランス人たちに後悔させてやる」

そう彼らのリーダーが言うと、兵たちも口々に「我々はこの戦法でアラビアの異教徒と戦った遊撃の民族だ」



各地に築かれた要塞を、フランス軍は次々に攻略し、スパニアの首都に迫る。


退却したスパニア兵たちも首都に集結していた。

城壁の内側に広がる市街の一画を占める兵営は、各地から集まった兵でいっぱいに・・・。

宮殿では、兵を指揮していた将軍たちが、イザベラに謁見を求めて指示を乞う。


「市民たちが怯えています」

女帝の執務室でそう訴える宰相に、イザベラは「大丈夫よ。ここが戦場になる事は無い筈」

「どういう事ですか?」

そう疑問顔で問う宰相に、イザベラは「そのうち解るわ」



ポルタ北部に陣取ったダヴ―軍団は、エンリ率いるイギリスポルタ連合と対峙を続けていた。


エンリが攻勢をかければ後退し、後退すれば前進するダヴ―軍団。

一定の距離を保ちつつ、隙あらば連合軍の陣を迂回した南下を図る。

これを阻止しようと移動を繰り返す連合軍。


そんな中、作戦会議で彼我の位置を示した地図を前に、イギリス軍のウェルズリー将軍は、疑問顔でエンリ王子に言った。

「奴ら、戦う気はあるんですかね?」

エンリは「無いだろうね。彼等は俺たちをここに釘付けにするのが役目だ」

「それじゃ・・・」

そう戸惑い声を漏らすウェルズリー将軍に、エンリは「まあ見てなよ」



スパニアの首都を目指すナポレオンの軍は、なけなしの食料を何とか食い繋ぐ。

日々の糧食はどんどん減っていった。


「腹減った」

そう不満を訴える兵たちに、ナポレオンは「我慢しろ。水は三日呑まないと命が危ないが、食い物は一週間食べなくても生きていられる。ジパングには"武士は食わねど高楊枝"という諺がある」

「"腹が減っては戦は出来ない"って諺もありますけどね」と一人の兵が突っ込む。

更に別の兵が「俺たち、戦争に来たんですよね? これじゃ戦えませんよ」


そんな彼らにナポレオンは「大丈夫だ。多分、派手な戦いにはならない」

「スパニアが無血開城でも? いったいどんなディールをやる気ですか?」

そう疑問声を上げる兵たちに、ナポレオンは「ってか、スパニアは元々ただの通り道だ」



ついに、首都に向かう軍を妨げる最後の要塞の兵が撤退した。

首都に向かう道が開け、怒涛の如く街道を進軍するフランス軍。


街の周囲に巡らされた城壁を目視に捉え、フランス兵たちの戦意も高揚した。

「いよいよ攻城戦ですね」

そう将軍たちが言うと、ナポレオンは「その前にやる事がある」

「まさか食料の徴発? けど、首都周辺の村ももぬけの空でしたよね?」と一人の将軍が・・・。


するとナポレオンは「じゃなくて、攻城の拠点となる砦の構築だ」

将軍たち唖然。

「つまり持久戦? とても食料が続きませんて」

口々にそう言う彼らに、ナポレオンは「水は三日呑まないと命が危ないが・・・・・」

「それはもういいですから」



突貫工事で砦の建設に汗を流しつつ、フランス兵たちは呟く。

「どーすんだこれ」


作業の様子を視察に来たナポレオンに、兵たちは空腹のオーラMAXで、口々に食料確保の見通しについて説明を求めた。

するとナポレオンは言った。

「大丈夫だ。荷車と馬で大量の食糧を積んでたじゃないか」

「だから、その食料はもう食べ尽くして・・・、って、そーいう事か!」と、一人の兵がその事実に気付く。

「つまり、いざとなったら馬肉ステーキ」と、もう一人の兵も気付く。


彼らの目には希望の光が、そして口元には涎が。そして兵たちは口々に・・・。

「馬刺しってのもあると聞いたぞ」

「俺は串焼きがいい」

「肉喰いて―」


兵たちの視線が一斉に、繋がれている馬たちに向いた。

ただならぬ空気に怯える馬たち・・・・・。



そして、ついに砦が完成した。

「いよいよ決戦かぁ」と歓声を上げるフランス兵たち。

砦の広場に全軍が整列。彼らの前に立ち、ナポレオンは宣言。

「これより我が軍は行動を開始する」


「天才ナポレオン陛下の軍才で、あの城壁を突破するんですよね?」

そう言って勢い込む将軍たちに、ナポレオンは「そうでは無い。敵はポルタにあり」

全軍唖然。

「・・・・・・いや、ポルタは元々敵で、ダヴ―軍団が相手していて・・・」

そう将軍の一人が言うと、別の将軍が「まさか今から援軍に?」


ナポレオンは言った。

「じゃなくて、あの国の軍隊は奴と戦うために出払って、首都はがら空き。俺が直営軍を率いて、電撃作戦で首都を占領する」

「・・・・・」

「スパニア兵がそれを阻止しようと打って出るなら、君たちはここを拠点にそれを阻止する」と彼は続ける。


全軍に歓声が上がった。

「その手があったかー」

「さすが我等の英雄。ナポレオン皇帝万歳」


そしてナポレオンは号令を下した。

「なので移動はスピード勝負。ここまで食料を運んで来た馬と荷車を全て直営軍の移動に使う」

「・・・・・・・・・・・・・・・」



全兵力を荷車に載せ、ナポレオン指揮する直営軍は、ポルタに向かう街道を土煙を上げて驀進した。

去っていく土煙を砦から見送る兵たちの間に、只ならぬ空腹のオーラが渦巻き、彼らは口々に言った。

「行っちゃったね、最後の食料」

「馬刺し、食べたかったなぁ」

「腹減った」



フランス軍の砦が向き合うスパニア首都の城壁の内側では・・・・・。


西へ向かうナポレオン直営軍団の土煙を、城の望楼から眺めるイザベラ女帝。

「始まったわね」

そうイザベラが言うと、腹心の航海長官が「エンリ王子が予想した通りでしたね」


イザベラは通信魔道具を執り、ポルタ北部の連合軍に居たエンリに連絡。

「始まったか」

彼女から得た情報を聞いて、そう呟いたエンリに、イザベラは「彼等をどうにか出来るのよね?」

「そのための準備をしてきたからな」とエンリは確信に満ちた声で言った。



エンリは海賊団の仲間たちを集め、号令を下した。

そして「ファフ、みんなを乗せて首都に飛んでくれ」

「了解」


ファフのドラゴンに乗って、エンリとその仲間たちは首都に飛んだ。



ナポレオンが率いるフランス軍皇帝直営軍団は、スパニアからボルタへ向かう街道を驀進した。

そこに彼らを阻む者は居ない。

そして彼らは、ついにポルタの街を囲む城壁を視界に捉えた。


その無防備に唖然とするナポレオンと彼の兵たち。

「門が開いてますね」

そう彼の部下の一人が言うと、別の部下が「守備兵が抵抗する様子もありませんけど」

「それどころか人の気配が無いんだが・・・」と、更に別の部下が・・・・・。


ナポレオンは戸惑いつつも、号令を下す。

「とにかく突入して占領だ」



入城するフランス兵。

無人の街路を城に向かいつつ、通りの民家を探る。


「どこも人っ子一人居ません」

そんな報告が相次ぎ、参謀は首をひねる。

「守備兵どころか市民も居ないって・・・・・」

ナポレオンは「どこかに逃げたって事かよ。とにかく首都機能を確保だ」



その時、上空に巨大な映像が映し出された。

「久しぶりだねフランスの諸君」

そんな、どこかで聞いたような台詞に、ナポレオンは「お前は顔色の悪い独裁者・・・じゃなくてエンリ王子」

巨大映像のエンリは残念顔で「今日びの五毛は、侵略に抗う指導者を平気で独裁者呼ばわりするんだものなぁ」と突っ込む。


「・・・・・・で、ここの奴らはどこに行った?」

そうナポレオンが問うと、巨大映像のエンリは言った。

「移民ですよ。西方大陸のブラジルに新天地を求めて」

「何ですとーーーーーーー!」


唖然顔のナポレオンに、エンリは語る。

「友達は選べても隣国は選べない。某半島国の隣国の島国なんか、それで滅茶苦茶嫌な目に逢ってますし。なので、超いい土地見つけて引っ越す事にしましたー」

「部屋探しアプリのCMかよ! ってか、俺たちフランスをあんな半島国と一緒にするな!」

そう言って口を尖らすナポレオンに、エンリは「けど、あの国の小中華主義の向うを張ってフランス中華主義なんてのもありますよね?」

「喧嘩を売る気かよ!」とナポレオン。

「喧嘩ってか、戦争を仕掛けているのはそっち」とエンリは突っ込む。


「で、ここをおとなしく明け渡すとでも?」

そうナポレオンが言うと、エンリは「更地にしてね」

「・・・・・」

「破滅の魔道具ってのを御存じですよね?」

そのエンリの言葉でナポレオン、真っ青に・・・・・・・。


「あれを自分の国で使う気かよ!」

そう焦り声で言うナポレオンに、エンリは「ここで使っても、ポルタ国民は誰も死にまっしぇんから。あなた達も早く逃げた方がいいですよ」

「ハッタリだろ。エンリ王子はそういうハッタリが得意だと聞く」

そう冷や汗声で言うナポレオンに、エンリは「そう思いたいならご自由に」

「ちょっと待て!」



その時、ナポレオンとその兵たちは見た。

街の中央にあるポルタ城が光に包まれ、その中で崩壊していく石造りの尖塔を・・・・・。

光はどんどん広がりながら、それに触れた建物を塵と化して行く。

そして、城門内側から街路を進むフランス兵たちに迫る。


恐怖に顔を引き攣らせ、彼らは口々に言った。

「俺たち、あれの巻き添えかよ」

「・・・・・死にたくない」

「逃げろーーーーーーーーーーーーー!」


門に向って走るフランス兵たち。

いつの間にか城門は閉じていた。

門を開ける間も無く、彼らの背後に迫る破滅の光。

必死に門を叩きつつ、後ろに迫る光を横目に、彼らは叫んだ。

「来るなーーーーーーーーーーーーー!」



そして・・・・・・・・・。


門の内側に降り立ったエンリとその仲間たちは、至る所に転がる失神したフランス兵たちを見た。

「全員気絶してますね」

そうリラが言うと、エンリも満足そうに頷く。


彼らの背後には、何事も無かったように立ち並ぶポルタ市街。そして、街の中央にそびえるポルタ城。

「滅茶苦茶リアルな幻覚魔法でしたね」

そうカルロが言うと、アーサーが「リラさんの精神攻撃魔法の威力も絶大ですよ」

「あの極限状態だからかと思います」とリラが照れ顔で・・・・・。


そしてエンリは命じた。

「とにかくこいつ等全員縛り上げろ」



城門が開けられ、多数のポルタ民兵が入城。

そしてフランス兵たちは、彼らによって拘束された。

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