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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第601話 避戦の駆け引き

人々の認識の中にある言葉の概念を書き換えるというbaka-noteに宿る精霊デュークの正体は、言葉の概念に真実を求めた思想家公孫竜の解けなかった命題への未練だった。その命題を解き、彼を魂の世界へと返したエンリ王子たち。

それによって「目標を達成しないという事は努力していないという事」という作為による常識が消え去り、蒸気機関協定に基づくポルタへの圧力が頓挫する中、フランスでは「イギリス製品の密輸入」の言い掛かりを振りかざした主戦論が急激に勢いを増した。



エンリは通信魔道具で、パリのリシュリューに連絡をとった。


「本気でうちに攻め込む気ですか?」

そうエンリが言うと、リシュリューは「私に阻止しろって言うんですよね? けど私、偽名で個人的にアドバイスしてるだけで、何の肩書も無いですし。そもそも戦争に向けて突っ走ってるのは、ナポレオンというよりプレストウッツみたいな金持ちな商工業者のリビジョニストですから・・・」

「それでポルタの産業を奪うのが奴らの利益としても、下層民の立場は違いますよね?」

そうエンリが言うと、リシュリューは「彼等を扇動しろと? 無駄ですよ。むしろ"自分たちの職場を守れ"とか言ってポルタ叩きの先頭に立って暴走してます。"外国に譲るのが自分たち消費者の利益で資本家は敵"なんて言うのは、自国の足を引っ張って政権交代狙う反社会的野党とオールドメディアに騙された、いつぞやのジパングの左の奴らだけです」

「職場ったって、フランスの工業が立ち遅れているのは、軍に労働力をとられてるせいですよ。いさぞやのジパングの"悪夢のミンシュトー"みたいな就職氷河期なんて来てないじゃないですか」とエンリが突っ込む。


リシュリューは言った。

「まー、彼等は理屈で動いてませんから。突き動かしてるのは"圧力で小国をねじ伏せる俺たち超大国最強!"ってなヒャッハー快楽ですよ。先日のポルタ製馬車をハンマーでぶっ壊して気勢上げるデトロイト社の労働組合イベントだって、それモンだし・・・・・・」

「そーやって暴走する奴らの末路は、最後は悲惨ですよ。そもそもポルタに攻め込んで勝てると、本気で思います?」

そう脅し口調で語るエンリに、リシュリューは「ナポレオンは勝てると思ってますけどね」

「一度攻め込んでボロ負けしてますよね。それともまさか、形だけの総督もどきで花持たせて貰って、増長しちゃった?」とエンリ。

「いや、あれが敗戦だってのはナポレオン自身も自覚してますけど、フランス軍はあの時とは違いますから」とリシュリュー。

「で、あなたも勝てると思ってる?」と、エンリは脅し口調三割増しで・・・。

リシュリューは「あなた相手に簡単に勝てるとは思いません。けど、どっちみち彼はいずれ倒れます」


エンリは溜息をつき、脳内で呟く。

(失敗も織り込み済みって訳かよ)

そして彼はドスを効かせた声で言った。

「問題は、その過程で誰がどんな被害を受けるのか・・・という話ですよ。それが自国でさえ無ければいい・・・なーんて思ってる相手なら、私は容赦しませんから!」



イザベラはロシアに潜伏中のフリードリヒに通話の魔道具で連絡をとった。


「フランス、本気でポルタに攻め込む気よ。ピレーネ山脈を越えて・・・」

そうイザベラが言うと、フリードリヒは「スパニアはただの通り道ですよね?」

「なので、彼がこちらに注意を向けている隙に、ロシアを誘って反撃する。チャンスだと思わない?」

そんな彼女の誘いに、フリードリヒは「で、こちらに注意を向けさせて、フランスの圧力を削ごうと?」

「それを警戒してチャンスを逃すかしら?」とイザベラ。

「まさか」とフリードリヒ。


イザベラは「フリードリヒの。そちも悪よのう」

フリードリヒは「イザベラ様ほどではございませんよ」

そして高笑いする二人。



フリードリヒは極秘裏にモスクワの宮殿を訪れ、ピュートル帝と面会する。


「ナポレオンはポルタとスパニアに攻め込むでしょう。これはチャンスですよ」

そう狡賢い笑みを浮かべて誘いをかけるフリードリヒに、ピュートルは苦虫を嚙み殺したような顔で「また奴と戦争しろと? 二度も戦争して痛い目に逢ってるんだが」

するとフリードリヒは「そうではなく、ウクライナの小麦を再びイギリスに売り込んで、お金ガッポガッポするチャンスという話ですよ」

「大陸封鎖を破れば戦争になるぞ」と警戒心MAXなピュートル。


そんな彼にフリードリヒは言った。

「で、スパニアとの二正面作戦を強いる。それでは、さすがのフランスも本国の防衛が手薄になります。それに乗じてイギリスが上陸戦を仕掛ける事も、また、支配下にあるオーストリアその他が反旗を翻す事も容易となります」

「で、それを君が裏で操ると? だが、今の君を信用する奴なんて居ないと思うぞ」とピュートル帝。

フリードリヒは「操っているのが私ではなくスパニアのイザベラ女帝だとしたら?」

「・・・・・」


フリードリヒは、イザベラとの通信を記録した記憶魔道具の音声を流した。

悪だくみ感MAXなオーラを纏った会話を耳に、考え込むピュートル。

そして「けど、そんなのに引っかかって自滅する奴じゃ無いと思うぞ」

するとフリードリヒは「そうでしょうね。ですがポルタ侵攻は、ほぼ決定事項ですよ。そうであれば、あなたの大陸封鎖破りは見て見ぬフリをせざるを得ない。黙認されて既得権として認知され、大陸封鎖の例外扱い」

「・・・・・・・・」


更にフリードリヒは言った。

「そもそも大陸封鎖はイギリスの工業独占による輸出利益を阻止するものです。輸入に関しては、むしろアメリカ植民地の開拓が進んでおり、あそこの小麦がとって代わり、ウクライナ小麦は市場を奪われる事になるでしょうね」

「解った」



ロシアはイギリスへの小麦輸出を秘密裡に再開した。

その情報はフランス当局にリークされる。


パリの宮殿では、ナポレオンは執務室で報告に押しかけたプレストウッツ商務長官の意見責めに遭っていた。

「ポルタに続いてロシアも。これはゆゆしき事ですぞ」

「けど、ポルタの密貿易って、むしろ言い掛かりだよね?」

そう返すナポレオンに、プレストウッツは「事実かどうかの問題ではありません」

「いや、某半島国人の業者が勧誘した娼婦を"軍による強制連行によるもの"なんて捏造歴史を宣伝してジパングを中傷しまくって、その中傷の被害者国の人達に事実を突き付けられて居直った犯罪フェミニスト団体じゃないんだから」とナポレオンはドン引き顔。

プレストウッツは机を叩いて力説。

「ポルタの大陸封鎖破りの話が出た時点で、厳しい措置を出すべきだったのです。それを怠ったために甘く見られた結果が、ロシアの造反。このままでは、第三第四の違反国が現れる事になりますよ」



ナポレオンによるイベリア半島侵攻が、いよいよ現実のものとなる中、エンリとイザベラも対策に追われていた。


両国の宮殿を繋いだ通話魔道具による会話の中で、厳しさを増す現状を伝え合う二人。

「どうやら逆効果だったようね」

そうイザベラが言うと、エンリは溜息をついて「やっぱり戦争かよ」

イザベラは言った。

「ここで屈したら、どこぞの列島国のように三十年の時を失う事になるわよ。それに私たちには、まだ切札が残っているわ」



イザベラはナポレオンに通話魔道具で対話を持ちかける。

「御機嫌よう、ナポレオン皇帝陛下。あなたのお兄様はお元気かしら?」

「いや、兄はそっちに行ってる筈だが・・・」

そんな?マークを含んだナポレオンの返しに、イザベラはドス黒いオーラを漂わせた声で、露骨に脅しにかかる。

「そうでしたわね。で、両国の友好のため阿衡として受け入れたそのジョセフさん。あなたが我がスパニアに侵略を仕掛けるとの話があるそうですが、その噂を聞いた民の中から、そうなれば彼は侵略者の手先だから処刑せよ、と主張する者が出始めておりまして」


ナポレオンの顔色が変わった。

「兄貴を人質にして脅す気かよ!」

「私どもとしては何とか彼を助けたいのですが、そもそもポルタの封鎖破りはデマですわよね? それで侵略など。戦争は人殺しですわよ」とイザベラ。

「それ、口先で平和主義を称する偽平和の奴らの口癖だろ。あなたらしくないと思うが」と突っ込むナポレオン。

そんな彼にイザベラは「そうですわね。経済戦争ってのもありますし。ですが、あなたがイベリアに攻め込もうとしているのを正当化出来るものではありませんわよね?」


そんな魔道具を介した対話に、ブレストウッツ商務長官が割り込んだ。

「イザベラ陛下。あなたはジョセフ氏を殺しませんよね?」

「何故そう思うのかしら?」

そう問うイザベラにプレストウッツは「それは、彼はあなたがいずれフランスを支配するための手駒だからです」

「・・・・」

「そもそも33人もの兄弟の屍の上に自らの玉座を築かれたあなたにとって、兄弟とは王座を奪い合うライバル。それを私たちが知らないとでも?」と、プレストウッツは追い打ちをかける。

「・・・・・・・・・・・・・・」



通信を切ると、ナポレオンは冷や汗顔で「おい、今の話って・・・」

「ハッタリですよ。人質はそれを害される事を相手が恐れて初めて意味を成します」とプレストウッツ。

ナポレオンは心配の抜け切らない顔で「じゃ、兄貴が俺を裏切ってスパニアの手駒になった訳じゃ無いんだよな?」と念を押した。



スパニア宮殿では・・・・・。

イザベラは困り顔で脳内で呟く。

(何故解ったのかしら)


彼女の前にはジョセフと、スパニアで結婚した彼の妻、そして産まれたばかりの赤ん坊が居た。

「俺を人質とか本気で思って無いですよね?」

そうジョセフが不安顔で言うと、イザベラは語った。

「まさか。その子はいずれ彼の甥として、彼が倒れた後も彼を英雄として支持し続けるフランス市民にとっての希望の星となる大切な切り札よ。そして彼の後継者として再びフランスに君臨し、両国の友情は永遠のものとなって、手を携えてユーロを指導する事になりますわ」


その赤ん坊はルイと名付けられ、後にナポレオン三世として帰国する事になるのだが、それはまた後の話。



そして・・・・・。

フランスはポルタの併合を宣言し、スパニアに対して征服行動への協力を要求。

両国は即座にこれを拒否。

それは実質的な宣戦布告を意味した。



パリの宮殿では・・・・・。

ナポレオンは部下の将軍たちを集めて作戦会議。


将軍たちを前に、彼は作戦の概要を語った。

「イギリスは彼等に加担するだろうから、海上は使えない。ピレーネ山脈を越えてスパニアに侵攻し、かの国の首都を包囲する」

「スパニアは自国の防衛にポルタ軍の参加を求めるでしょうか?」

そう将軍の一人が問うと、ナポレオンは「そうならないよう、我々は一軍を以てポルタに侵入し、そちらに敵の主力を釘付けにする」

「ですがエンリ王子なら、その意図を見抜くのではないでしょうか?」

そう別の将軍が問うと、ナポレオンは「もし見抜いたなら、彼の炎剣兵団を温存する筈だ」



一方、ポルタ城でもエンリ王子は仲間たちとともに、将軍たちを集めて作戦会議。

そんな最中、彼の基にイギリスから通話魔道具で連絡。エリザベス女王からだ。


「お困りのようですわね。援軍を送って差し上げてもよろしくてよ」

そう彼女が申し出ると、エンリは「ボランティア、って訳じゃないんですよね?」

「条件は大陸封鎖からの離脱」とエリザベス。


するとエンリは「ポルタとスパニアだけでよろしいので?」

「ユーロ全体で解除させると?」

エリザベスが意外そうに言うと、エンリは「企業を全部国有にして補助金ジャブジャブでダンピングし放題・・・みたいなどこぞの大陸国とは違うのですよね?」

「ももももちろんですわ」

「本当に輸出補助金なんて出さないですよね?」とエンリは念押し。

エリザベスは「イギリスは自由貿易のトップですわよ」


「で、ナポレオンももう終わりなのを見越して、戦後処理に加わって美味しい目を見たいと?」

そんなエンリにエリザベスは「援軍は要らないと?」

エンリ王子は慌てて「もちろん大歓迎ですけどね」

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