第599話 概念の宝具
ユーロ全土を制圧したフランスになお対抗を続けるイギリスを屈服させるべく、ナポレオンが各国に強いた大陸封鎖令。
イギリス製品を締め出した各国において、製造の国産化が進み、動力機械による産業の発展が始まる中、労働力を軍にとられて製造業の発展が滞るフランス経済。
その産業利権を代表する商務長官プレストウッツは、元々イギリスに対抗できる産業力を有していたポルタに、フランス製品の輸入拡大を強いるべく圧力をかけた。
抵抗するエンリ王子にナポレオンは妥協を持ちかける。
「ポルタ市場の2割をフランスから輸入する事を目標に努力する・・・という協定を結ぶ。努力すると言ってるだけで、目標達成を義務付けている訳じゃない」
そしてナポレオンはbaka-noteを使って「目標を達成しないという事は努力していないという事である」という常識を作り出し、これを拠り所にフランスは「二割の目標の達成」をポルタに迫る。
これを巡り、エンリとプレストウッツが対立する最中、この作為された常識によって「子供が生まれない事は愛が足りないという事」と自分を責めたリラは、エンリに別れの手紙を残してポルタ城を去った。
エンリは机を叩き、そして叫んだ。「そんな事があってたまるか!」
エンリは城を飛び出した。
「リラはどこだ」
ミケ子に飛び込み、そこに居たレジーナとタルタに「リラは居るか?」
「来てませんけど」
呆気顔でそう答えるレジーナに、エンリは「あいつは半分魚で魚といえば猫だよな」
「いや、猫は魚が好きだけど、魚が猫を好きな訳じゃ無いだろ」とタルタが突っ込む。
「確かに・・・・・・」
エンリは小学校に行って、教員たちに「リラは来てるか?」
「同窓会の予定はありませんけど」と彼女の同僚だった女性教員。
エンリは「そーいや、あいつはとっくにここは辞めていたんだっけ・・・」
その場に居た女の子たちが、恋バナ気分のテンションMAXでエンリにあれこれ・・・・。
「もしかして喧嘩ですか?」
「イザベラさんと修羅場?」
「まさか浮気?」
エンリは困り顔で「そーいうのはいいから」
エンリは清定の工房に行って、作業していた清貞と祐二に「リラは来ているか?」
「来てませんが」
そう二人が答えると、奥から若狭が出て来て「もしかしてリラさんが別れを?」
シャナが出て来て「王子、振られたのか?」
落ち込み顔のエンリを見て、祐二が「もしかして図星?」
若狭が小一時間説教を始める。
「いくら向うから惚れてくれたからって、胡坐かいてちゃ駄目ですよ。女性は全ての資源を継ぎ込んでくれる男性を好きになるんです」
「そーだぞ。男どもはみんな、そうやって頑張っているんだぞ」とシャナも説教に参加。
エンリは「いや、趣味やスキルに注ぎ込む分も大事だと思うが・・・。ってかそれ、タガメ女とかいう最悪に危ない女の発想だぞ。どこのサイトの恋愛論だよ! そーじゃなくて・・・」
エンリは彼女たちに、リラが残した手紙を見せる。
シャナが「王子、サボり過ぎだぞ」
祐二が「まさかセックスレス夫婦に・・・」
「いや、夫婦じゃないんだが・・・」とエンリが突っ込む。
若狭が説教顔MAXで「この際、イザベラさんと別れて、ちゃんと結婚してあげるべきですよ」
「そーいうのは止めて」と困り顔のエンリ。
そんな中、清定が指摘した。
「あの、こういう時って初めて会った場所に居る・・・というのがパターンじゃないでしょうか」
「リラさんとはどこで出会ったの?」
そう祐二が問うと、エンリは「ポルタ城だが・・・。小間使いの応募に来てて城で迷子になってたのを、水槽の魚に餌をやってる時に・・・。けど、まてよ」
エンリは海岸に行く。
そこで彼は、浜辺に座って海を見ていたリラを見つけた。
「やはりここに居たか」
そう言って、彼女の隣に座るエンリ。
「エンリ様・・・・」
彼を哀しそうな眼で見てそう呟くリラに、エンリは向き直る。
彼は両手でリラの肩を抱くと「子供が生まれないくらい、何だよ。女は子供を産む道具じゃ無いぞ」
「けど、妊娠が嘘だって知って、すごくがっかりしてましたよね?」とリラ。
「確かに子供は欲しいけど、そのためにお前と一緒に居る訳じゃ無い。俺はお前が欲しい」とエンリ。
リラは「私は子供、欲しいです。エンリ様も子供も欲しいですよね?」
リラを抱きしめるエンリ。そして彼は思った。
(何かがおかしい)
リラを連れてポルタ城に戻ると、エンリは執務室に仲間たちを集めた。
そしてエンリは彼らに問う。
「最初にフランス軍と戦った時の事、憶えているか?」
タルタが「イギリス軍と梯子で戦ったんだよね?」
カルロが「まだドラゴンが公認前で、ロキ仮面に変身して・・・」
「あれはカルロだろ」
そうエンリが言うと、カルロは「みんなは王子がやったと思ってますよね?」
「・・・・・・・・・」
カルロはふざけ半分にポーズをとって「闇のヒーローロキ仮面」
エンリはうんざり顔で「勘弁してくれ・・・じゃなくて。スパニア内乱じゃなくて、亡命したルイ新王を捕まえるためにナポレオンが攻めて来た時だよ。あの時の事を憶えているか?」
全員、頭を掻く。
「どうも記憶が曖昧なんですけど」
そうジロキチが言うと、エンリは「俺もだ。けど、一つ憶えている事があるんだ。"変な常識に捉われたら、この戦いには勝てない"って・・・。目標を達成しないという事は努力していないという事・・・っておかしいだろ」
「けど常識ですよね?」と若狭。
エンリは言った。
「だからさ。こんな変な常識に、今の俺たち捉われて、こんな事になっている訳だろ?」
「これって戦争なの?」
そうファフが言うと、ニケが「経済戦争ってやつよね」
その時、リラが思いついたように言った。
「もしかして魔法?」
エンリはポルタ大学魔導学部に連絡し、パラケルサスを呼ぶ。
執務室で仲間たちとともに、話を聞くパラケルサス。
意見を求められ、彼は言った。
「つまり、人の認識に介入する術式・・・という事になりますね」
「つまり、精神魔法?」
そうリラが言うと、アーサーも「けど、特定の相手という訳じゃ無い。全ての人が相手とか・・・」
「魔法とは、物質を含む全ての事象と人間の認識の相関的作用を基礎とした技術です。その根源は、物質的実在の背後に存在するイデアの世界にあります」とパラケルサスは語る。
「対策の手段はあるの?」
そうエンリが問うと、パラケルサスは「とりあえず、何が起こっているかを探ってみましょう」
パラケルサスは儀式の準備を始めた。
テーブルの上に魔法陣を描き、その中心に水晶玉を据える。
その周囲3か所にカードを置いた。
「ここに関連する三つの言葉を書き込みます」
先ず「努力」と書き込む。
するとタルタが「あとは根性と勝利だよね」
「いや、友情だろ」とジロキチ。
リラが「やっぱり愛ですよ」
アーサーが「正義かと」
カルロが「勇気だろ」
ニケが「お金よ」
タマが「決め手になるのは運じゃないの?」
ムラマサが「神様ボーナスで特殊スキルでござろう」
若狭が「だったら膨大な魔力」
「違うだろ!」とエンリが一喝。
残りの二枚に「目標」と「実現」を書き込む。
そしてパラケルサスは呪文を唱えた。
「汝言語の精霊。イデアの世界を律する概念の律法。万物の実在を統率せし秩序を開示し、その宇宙へ我を誘え」
水晶玉に写った三つの言葉の間に魔素の流れが生じる。
その中にパラケルサスは、自身の精神を潜り込ませた。
彼の精神の視界に写ったぼんやりとした光の流れが、次第に明確となり、幾つもの光球が一つ一つ、映像を映し出す。
その中で見たものを、パラケルサスは語った。
「ノートが見えます。宿るのは精霊デューク」
「つまり精霊宝具かよ」とエンリたちは一様に呟く。
パラケルサスは更に「使っているのはナポレオン。人々の認識の中にある言葉の概念を書き換える」
「そういう事か」とエンリは呟いた。
これまで自分たちを、そして世界を引きずり回してきた謎の力の正体を知った彼らの周囲を、暫しの沈黙が覆った。
その沈黙を破るように、アーサーが「どうしますか?」
ジロキチが「放置は出来ないよね」
するとエンリが言った。
「こういう時はプロに任せたらどうかな?」
「プロって?」
「怪盗ルパンだよ」とエンリ。
「ルパンカードで予告して警備が厳重な中を・・・」
そうタルタが言うと、エンリは「いや、あまり騒ぎにしたくない。何せ、戦争が絡む代物だからな」
パラケルサスが、付け足すように言った。
「それと、あのデュークという精霊ですが、どうやら元は人間のゴーストだったようですね。何かの強い想いが、彼を精霊へと変えたのだと思います」
エンリはフェリペたちの部隊に連絡をとり、ルパンの養子として育ったジェームズを呼び寄せた。
そしてエンリは仲間たちとパラケルサス、そしてジェームズを連れて、シマカゼ号で極秘裏にパリを訪れた。
ジェームズの案内でルパンの隠れ家へ向かう。
パリの外れ近い裏通りの一軒家を見て、エンリは「ここが奴の隠れ家かよ」
呼び鈴を押すと、間もなくジェーンが出た。
カルロが花束を抱えて「あなたを迎えに来ました」
「違うだろ」とエンリが一喝。
客間に通されて、ルパンに用向きを話す。
「ノートの宝具だって?」
そうルパンが言うと、エンリは「ナポレオンの数々の戦勝がそれによるものらしい」
「それを奪って奴を止めたいって訳か?」とルパン。
「そういう事だ」
「で、どんな代物なんだ?」
そうルパンが問うと、エンリは語った。
「それは精霊本人から聞くしか無いが、いずれにせよ、相当古くから伝わる貴重なものであるのは確かだ。けど、それにより戦争で奴を勝利に導いた・・・って事は、下手すればそれ自体が戦争の火種になりかねない。だからなるべく盗まれたって自覚が無いようにしたい。俺たちはそれが何なのか知りたいだけなんでね。用が住んだらお前のコレクションに加えればいいよ」
取引が設立。
ルパンは建築ギルドから、宮殿の見取り図を盗み出す。
メイドを誘い出して自白魔法にかけ、ナポレオンの部屋を特定。
そして・・・。
深夜、ルパンとパラケルサス、そしてカルロがナポレオンの宮殿に潜入作戦開始。
煉瓦の塀の上に鍵爪のついたロープを投げてひっかけ、それを伝ってよじ登るルパンとカルロ。
二人がパラケルサスを引っ張り上げる。
敷地内に潜入し、警備を毒霧で眠らせる。そして警備に変装して建物内に侵入。
ナポレオンの書斎に侵入し、カルロがダウジングで目的のノートを探す。
「これが宝具ですね」
彼がそれを手に取ると、裏表紙の落書きが言葉を発した。
「お前等は誰だよ」
パラケルサスは慣れた口調で彼に語りかける。
「あなたが精霊デュークですね。けど、別の名前がある筈ですよね?」
「忘れたよ」と精霊デューク。
「思い出させてやると言ったら?」
そうパラケルサスが言うと、デュークは「まあいいさ。けど、今の持ち主はどうする?」
パラケルサスは「任せて下さい」
三人でナポレオンの寝室へ・・・・・。
「起きろ、ナポレオン」
その声で彼が目を覚ますと、ノートの裏表紙に書かれていた筈のデュークの顔が、宙に浮いていた。
「お前、どうした?」
起き上がって、そう問うナポレオンに、宙空のデュークは「別れの時が来た。もう一人でも大丈夫だよな?」
「いったいどうした?」とナポレオン。
デュークは「自分が何者かを思い出した」
「そうか。けど、何で頭と首から下がモザイク?」
そうナポレオンが問うと、デュークは語った。
「名前とかプロフィールは思い出したんだが、髪型と民族衣装がまだ思い出せない。けして大人気なボードゲームスポコン漫画の隣の半島国人ファンの"自国人キャラを出さないのは差別だ"とか言う組織的なトンデモ迷惑投書が編集部に殺到して、そんなのに作者が流されて半島国人キャラを出したら、調子に乗った奴らが要求をエスカレートさせて、ついには半島国人キャラに勝たせて主人公が負けて泣いて終わる・・・なんてラストで作品をズタボロにした挙句、アニメ化したのを放映したら、"服装がヘイト対象の隣国の民族衣装で排斥すべき敵性文化だ"とか批判されて放映規制された訳じゃ無いから」
ナポレオンは困り顔で「そーいう説明はいいんだが・・・」
「という訳で、さよならだ」
そうデュークに言われ、ナポレオンは「ちょっと待ってくれ」
モザイクに囲まれたデュークの顔は、光とともに消滅した。
「デューク。お前が居なくなって、俺はこれからどうしたら・・・」
そんな寝言をベットの中で呟くナポレオン。
そんな彼をベットの脇で見つつ、ルパンは「こいつ、どうしたんだ?」
「夢を操る精神魔法の応用ですよ」とパラケルサスは答えた。




