表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
598/617

第598話 努力の約束

プロイセンを屈服させ、ロシアを味方につけたナポレオンは、海外貿易と機械産業を独占した経済力で唯一フランスに対抗するイギリスを屈服させるべく、ついに大陸封鎖令を発令した。


ユーロ各国に命じてイギリス製品の締め出しが行われる中、イギリスからこっそり輸入する事の無いよう、フランスは各国の港に監視員を派遣した。

フランスからの貿易への介入に、各国で不満が高まる。

だが、最も大きな不満の声が上がったのは、他ならぬフランスだった。



パリの商務局で、部下たちを前に金切声を上げるプレストウッツ商務長官。

「・・・・・なのに、何故我がフランスの製品の売り上げが上がらないのか」

「オランダやドイツ、ノルマンでは、ポルタからの輸入が増えているようです」

そう部下の一人が言うと、プレストウッツは「いや、まだイギリス製品をこっそり輸入している国があるに違いない」


彼はナポレオンに訴え、ポルタへの外交圧力を進言。



再びポルタにブレストウッツ商務長官が派遣された。


宮殿の応接室で、これに対応するエンリ王子。

「勘弁して下さいよ。監視員はどこよりも真面目に受け入れているじゃないですか」

「だったら、何故フランス製品のシェアが上がらない?」

そう主張するプレストウッツに、エンリは反論。

「労働力が足りないから、生産量自体が増えないんでしょーが。ここはAIと専業ロボットで工場が無人化できる500年後のジパングじゃ無いんですから、機械を使っても、それを動かす労働力は必要なんです。なのにフランスでは、働き手を軍にとられて、みんな兵士になってますよね?」

「言い訳をするんじゃない! 不公正貿易をやっているに違いない」と、外国の王太子を相手に覇権国家モードで強弁を吼えるプレストウッツ。


エンリは冷静なあきれ顔で「具体的には?」

「フランス語は国際語だ。なのにポルタ人はフランス語を学ばないから、我が国からの輸入品のマニュアルが読めない」

そんな使い古された理屈を述べるプレストウッツに、「どこのトランプ帝国の貿易外圧ですか? ここはタナハシユージやオザワイチローみたいな外圧代理人の居る90年代のジパングじゃないんですよ」とエンリは突っ込む。

「四の五の言わずにフランス製品を輸入すべきだ。これは自由貿易要求でポルタの消費者の利益のためでもある」

そんな使い古された庶民しぐさを述べるプレストウッツに、「ここには90年代のジパングと違って、自国資本家憎しのリベラル教徒なんか居ません」とエンリは突っ込む。



強弁の殻に閉じ籠って壊れテレコと化したプレストウッツを、どーにかこーにか退去させたエンリ王子。

「あー疲れた」

そう言って執務室のソファーに倒れ込む彼に、その場に居た仲間たちが、あれこれ・・・・・。


「どうしますか?」

そうカルロが言うと、エンリは「いずれフランスと戦争になるだろうな。アマゾナに王家を疎開させよう。先ずは父王と王家の親戚、それから貴族たちの家族だ」

アーサーが「ポルタ大学の研究も守る必要がありますね」

リラが「小学校とその生徒たちも疎開させましょう」

若狭が「一般人も不安を感じてる人が多いです。疎開の希望者も募るべきかと」



そして・・・・・・。

ポルタ首都から船を仕立てての、大規模な集団移住が始まった。


移住先のアマゾナの周囲で、密林を切り開いた農園を開発。

父王は密林の一画で、現地人たちと焼き畑を始めた。

簡素な住居で数人の世話係や元庭師と一緒に家庭菜園もどきな畑いじりに精出す現役のポルタ王。

「短時間の畑の世話をする以外、一日の大半は自由時間。ここは世界一労働時間の短い生活スタイルだ。理想のスローライフではないか」

呑気にバカンス気分を満喫するジョアン王であった。



ポルタに残ったエンリ王子は仲間たちとともに、担当大臣を交えて対フランスの策を練る。

「どうしますかね?」

そう外務長官が問うと、エンリは「要は、彼等自身の工業生産が上向けばいい訳だよね」



エンリは通話の魔道具で、パリに居るリシュリューと対話。


「結局、大陸封鎖令って、イギリスを抑えるって話じゃ無いですよね?」

そうエンリが本音部分に切り込むのを、巧みに逸らすリシュリュー。

「いや、イギリスの経済支配は抑えなきゃ駄目でしょ。そしてイギリスを抑える要が我がフランスである以上、我が国の工業の発展は不可欠。よもやそれに反対とか?」

そんな彼の脅し混じりを皮肉で返すエンリ王子。

「いや、各国を武力で抑圧する覇権国家が経済でも大きくなったら制御不能になるから足を引っ張りたい・・・なーんて、これっぽっちも思ってませんけどね」

「・・・・・・・・・・・・・」


そしてエンリは語った。

「他から奪うのではなく、純粋に自らが豊かになるべく生産的に努力する権利は誰にでもある。経済とは本来、互いに与え合って共に豊かになるためのものです。どこぞの大陸超大国みたいに、隣の島国を武力で侵略するのを黙認しないからと、ダンピングで独占したレアな鉱物資源の禁輸をちらつかせて脅すとか、国家統制による低賃金で誘い込んだ他国企業のノウハウを強権で強奪するとか、国家的不公正取引で不当に得た経済力で大軍拡して暴走・・・なんて話でないなら・・・」

「・・・・・・」


エンリは更に語った。

「どこぞの半島国人は、敗戦の教訓から"武力で奪うのではなく努力して生産技術を磨いて豊かになる"事を学んで豊かになった隣国に対して、その国が戦後処理で多額の支払いにより過去を清算したにもかかわらず、"過去に戦争したお前の国が豊かで自分たちの国が貧乏なのは不満で人権に反する。過去を反省するなら繁栄せずに貧乏に甘んじるべきだ"とか主張して、隣国人から"過去から学んだからこそ努力して正当に得た繁栄を否定するなら、それこそ過去の教訓に対する否定であり、戦争で奪う加害者の理屈では無いのか"と反論されてグーの音も出なかったと聞きます」

「・・・・・・」


エンリは、うぐう状態のリシュリューに、結論を突き付ける。

「フランスの工業を発展させたいというのに反対はしません。ですが、それを妨げているのは、多くの労働力を軍が兵として抱え込んでいるからですよね。戦争経済、止めませんか?」

リシュリューは言った。

「そうはいかないでしょうね。ドイツあたりでは反攻の機会を狙ってるだろうし、ロシアも何時寝返るか。それに、あなたがフランスの発展を認めたとしても、あなたの奥方はどうなんでしょうか?」

「・・・・・・・・・」


エンリは脳内で呟く。

(もしかしてイザベラが反フランス工作とか?・・・・・)



通話を終えると、彼はカルロに尋ねた。

「もしかして、イザベラに何か動きはあったりする?」


カルロは「無い訳ないですよね」

エンリは溜息混じりに「あるのかよ。あいつ、何をやってるんだ?」

「フリードリヒ先王に援助を・・・」とカルロ。

「何ですとーーーーーー!」



エンリはスパニア宮殿のイザベラに通話魔道具で連絡。


「お前、フリードリヒに何やらせるつもりだよ」

そうエンリが問うと、イザベラは「決まってるじゃない。ポルタの身代わりになって貰うのよ」

エンリ、あきれ声で「奴に何が出来るって?」

「ロシアを焚きつけるのよ。あの国の最大の輸出品はウクライナの小麦よ。それを一番多く買っていたのがイギリス。それを大陸封鎖で売れなくなれば、ロシアは大損害よ。それをイギリスに密輸させて、フランスの目を向うに向けさせる」とドヤ声のイザベラ女帝。

「大丈夫かよ」



間もなく、フランスはポルタに公然と、無茶な要求を突き付けた。

ブレストウッツ商務長官がナポレオンとともにポルタに乗り込む。

ポルタ城の応接室で覇権国家のトップを迎えるエンリ王子。


「ポルタは大陸封鎖に便乗し、ユーロ市場における蒸気機関生産を独占している。ポルタ市場の2割をフランスから輸入すべきだ」

そんな無茶なプレストウッツの要求に、エンリは「いや、フランスがまともに作れていないものを、どうやって輸入しろと・・・」

「とにかくどうにかしろ。拒むなら解ってるよね?」とドスを効かせたドアップで迫るプレストウッツ。

「どうにかしろったって、労働人口の多くが兵士で工場の働き手に乏しいのが原因なんだから、外国人の我々にどうにか出来る話じゃ無いだろ」


そんなエンリの正論に、「人間、頑張れば何だって、必ず道は開ける。スポコンアニメの主人公とはどんなだ? 答えは"努力の天才"だ」と精神論を振りかざすプレストウッツ。

エンリは「そーいうのは、深海からレア金属を引き上げるために頑張る・・・みたいなのを言うんだ。フランスで蒸気機関を作るってんなら、努力すべきは自分たちだろ」

「いや、我々はこんなに頑張っているぞ。ポルタに対して頑張って圧力をかけてるじゃないか」とプレストウッツ。

「あのなぁ!」


するとナポレオンは、とんでもない事を言い出した。

「ではこうしたらどうかな? ポルタ市場の2割をフランスから輸入する事を目標に努力する・・・という協定を結ぶ」

そして彼はエンリの耳元で、小声で言った。

「努力すると言ってるだけで、目標達成を義務付けている訳じゃない」

エンリは疑問顔で「それ、意味あるの?」

「実は彼は元々はパリの大商人で、自分たちの業界での利権を守るための手柄が欲しいだけなのさ」とナポレオン。


「けど、実現しなきゃ業界の利益にならないけど、それで手柄って事になるの?」

そうエンリが問うと、ナポレオンは言った。

「合意の内容が不利だろーが何だろーが、合意したってだけで手柄になる・・・ってのは、ジパング外(害)務省のチャイナスクールだけの常識じゃ無いんだよ」



こうして「蒸気機関協定」が合意された。

ナポレオンたちがパリに帰還する船上で・・・。


「総統閣下、これで良かったんですか?」

そう問うプレストウッツに、ナポレオンは「いいんだ」

「けど達成を約束した訳じゃないですよね?」とプレストウッツ。

ナポレオンは「それを約束した事にするのさ」


ナポレオンは船室でbaka-noteを取り出す。

そして「努力」という項目の説明文に書き加えた。

「目標を達成しないという事は努力していないという事である」



そして、ボルタの宮殿で・・・・・・・。


エンリの執務室にモウカリマッカが必死顔で駆け込んだ。

「エンリ殿下、匿って下さい」

「何事だよ」

唖然顔でエンリがそう問うと、モウカリマッカは「契約違反だと糾弾されて・・・」


「契約って、何をやったんだよ」とエンリ。

「パウブラジルの売り上げが販売目標に達していないと・・・」

涙目でそう答えるモウカリマッカに、エンリは「もしかしてニケさん?」


モウカリマッカが出した契約書を見て、エンリは溜息をつく。

「まあ、努力するとは書いてあるけどね」

「目標をクリアしていないという事は努力していないから違反だと言われまして・・・」とモウカリマッカ。

エンリはあきれ顔で「まあ、確かに・・・。けどこの目標、あまりにも過大過ぎだろ。それなりに儲けている訳だし、欲張り過ぎだ」



フェリペが必死顔で駆け込む。

「父上、助けて下さい。デートの回数が足りないと、あの3人が・・・」



宰相が鬼の表情で乗り込んで来た。

「エンリ殿下、この書類は昨日までに片付けるよう努力するとのお約束でしたよね?」

「いや、努力するとは言ったけどね・・・」

エンリが焦り顔で弁解すると、宰相は「達成していないという事は、努力していないというのは常識ですぞ。王太子殿下ともあろうお方が、国政に関して約束を守らないというのでは、下々への示しがつきません」

エンリは悲鳴を上げる。

「勘弁してくれーーーー」



そんな中、フランスからブレストウッツ商務長官が乗り込んで来たとの報告が入る。

対応に出るエンリだが、宰相は書類処理の優先を迫る。

そんな彼を、その場に居たアーサーの精神魔法で眠らせ、エンリは応接室へ・・・・・。


「フランス製の蒸気機関の購入計画は、達成されておりません」

そうドアップで迫るプレストウッツに、エンリは「それは民間の仕事だろ」

「行政指導の努力が足りないという事ですよ」とプレストウッツ。

「買おうにもフランスの工場が製品を作れないじゃないか」

そうエンリが指摘すると、プレストウッツは「作れるようにして貰える契約でしたよね?」

エンリは「そんな契約はしていないぞ」と反論。


「シェア二割を保障し、そのため何でもするという約束でした。目標を定めて努力するというのは、そういう事です」

そう言い張るプレストウッツに、エンリは「だったら兵隊の数を減らして工場労働者を増やせという話だろ。これは製造する側つまりフランスに対する指導だ」

「・・・・・・」

言葉に詰まるプレストウッツに、エンリは「指導も努力なんですよね?」


「努力=目標の達成」という謎の常識を盾にとって、ひたすらポルタに責任を転嫁し、正体不明な「努力」を迫るプレストウッツに反論しつつ、エンリは脳内で呟いた。

(どーすんだこれ)



何とか結論を先送りにしてプレストウッツを追い返すと、エンリは執務室のソファーでぐったり。

「あんな協定結ぶからですよ」

そうアーサーが言うと、エンリは「だってなあ、おかしいだろ。努力すればどんな目標でも達成できる筈とか、ただの精神主義だぞ」


その時、女官の一人が報告に来た。

「リラさんから手紙を預かっているのですが」


その手紙を読むと、曰く・・・。

「里に帰ります。王子様とお付き合いさせて頂いて、もう10年になりますが、未だに子供ができません。ジパングにこんな諺があると聞きます。"嫁して三年子無きは去る"と。これは私の王子様への愛が足りないという事で、そんな私に王子様の隣に居る資格は無いと思います」


エンリは机を叩き、そして叫んだ。

「そんな事があってたまるか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ