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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第597話 大陸の封鎖

インドを支配して綿織物産業を独占しようとするイギリスの動きをエンリ王子たちが阻止し、帰国した彼らの関与でノルマンを巡る争いに決着がつくと、エンリはフランスが各国に迫る大陸封鎖への対応に追われる事となった。



ポルタ議会ではイギリス派とフランス派の議員の間で論争が激化していた。


「フランスのユーロ支配は終わらせなくてはならない」

そうイギリス派が発言すると、フランス派が「イギリスの海外交易支配の動きだって問題だろ」

「先ず、武力による脅威を排除するのが先ではないのか」

そうイギリス派議員が主張すると、フランス派議員が反論する。

「ジパングの経済的繁栄を押し売り外圧で奪ったトランプ帝国の外交犯罪に乗じて、世界の工場の地位を得たシーノがその力で何をやったか。世界は結束して産業独占から脱するデカップリングを断行すべきだ」


「その輸出品を締め出して、イギリスの経済支配を押えろと言うのですよね? けれども軍事力でユーロを支配しているのはフランスです」とイギリス派。

フランス派は「フランスは国民の国になろうとしただけだ。独裁的国家権力で企業を支配し、補助金垂れ流しによるダンピングで世界市場を支配しようとしたシーノとは違う。産業でユーロを支配しようとしているのはイギリスだ」と反論。

「イギリスは自らの創意で蒸気機関を発明した。先進国の技術を盗んで模倣産業の安売りで市場を奪ったシーノとは違う。微細なゴミを除去して半導体の歩留まりを飛躍的に上昇させた量産技術を、悪辣な強盗外交で強奪された、ジパングと同じ立ち位置なのがイギリスではないのですか?」とイギリス派が反論。


これに「あの時のジパングは今のフランスと同様な軍事超大国トランプ帝国に、政治的に強要されて自ら他国に技術を譲る事を強いられ、自国の産業力維持の努力すら制限されていましたけどね。今のイギリスと同じとは到底言えませんよ」とフランス派が反論すると、エンリ王子が発言した。

「要はその蒸気機関を他の国も作れるようにすれば良いのではないかな?」

「蒸気機関なら俺たちも作れますけど」

そうイギリス派が突っ込むと、エンリ王子は「それを鋳物で作れる鉄が必要なんだよ」

「けど、フランスは各国にフランス製を使わせようとすると思いますよ」とイギリス派が返す。

エンリは「その時はその時だ」



エンリは仲間とともに、シマカゼ号に乗ってブラジルへ向かった。

そして、リオのカブラル候の館へ・・・・・。


「鉄の生産はどうなっている?」

そうエンリが問うと、カブラル侯は「順調ですよ」

「既にユーロ各国にも蒸気機関の仕組みに関する情報は伝わっている。蒸気釜に使える良質の鉄が今すぐにでも必要だ」とエンリ。

「そっちも順調です。フランスの支配を嫌って逃げたルール製鉄の技術者が来ていましてね。特にクルップという男ですが・・・」

そうカブラル侯が答えると、エンリは「案内してくれ」



製鉄事業を率いるヴァーレによって施設に案内され、その当人と引き合わされるエンリ王子。


施設で呼び出されたドイツ人技術者は、エンリの前で名乗った。

「クルップといいます。父の研究を受け継いでイギリスに対抗できる錬鉄の開発に、ついに成功しました。プロイセン王が援助を続けてくれた成果が、ようやく実を結んだのです」

「それって蒸気機関を作るための?」

そうエンリが言うと、クルップは「というより大砲を・・・ですけど。それがライン連邦でフランスの支配を受けてしまって。祖国を支配するフランスに利用されるのは嫌です」



完成した製鉄炉を前に、エンリに説明するクルップ。

「ヴァーレ氏が持ち込んだ反射炉に改良を加えたものです。溶けた鉄を風に反応させて炭の成分を燃やして追い出すための工夫を施しました」


傾斜をつけた煉瓦製の筒型炉が高熱を発し、排出口から海綿状の鉄が出て来る。

「あれを精製することで練鉄になります」

「早急に量産してユーロに輸出してくれ」

そうエンリが言うと、ニケが鼻ヒクで口を出す。

「鉄が風に反応して炭の成分を燃やして追い出す原理を突き止めたのは私よね。権利料として利益の八割を・・・」

そんな台詞を遮るように、エンリは「こいつは無視していい」

「何でよ」


口を尖らせるニケに、エンリは溜息をついて「大陸封鎖なんて長くは続かない。各国が経済で自立してイギリス産業と競争するためには、余計な権利料なんて足かせは駄目だろ」

「権力の横暴よ。私のお金ーーーーーー」と目を吊り上げるニケ。

エンリは「既にあちこちで利権せしめてるし・・・。仕方ない。ニケさんの利権を停止する法律でも作るか」

「権力の横暴よ。私のお金ーーーーーー」と、更に目を吊り上げるニケ。

そんな彼女にアーサーが「大丈夫ですよ。ナポレオンの支配なんてそう長くは続きませんから」

「そうね。この戦乱が終わったら目一杯儲けてやるわよ」と言って、ニケは矛を収めた。


ニケとのゴタゴタが片付くと、アーサーはエンリに小声で「大丈夫ですかね?」

エンリは「利権停止の口実なんて、いくらでもあるさ」


そんなエンリたちを見て、クルップは思った。

(こいつ等って・・・・)



視察を終えてカブラル館に戻るエンリ達。


昼食の席でカブラル侯はエンリに心配顔で問う。

「これからどうなるでしょうか?」

エンリは「本格的な戦いになるだろうな」

「イギリスと?」とカブラル侯が言うと、エンリは語った。

「むしろフランスと。大陸封鎖を受け入れたとして、守っているかどうかを監視するって口実で、同盟国に対して締め付けが来る」

「で、フランスが蒸気船を手に入れたら、また上陸作戦とか?」

そうリラが心配顔で問うと、エンリは「ってか、そもそもフランス自身の産業がうまくいくかの問題だよ」



エンリは思った。


ポルタがイギリスに対抗する事は可能だ。それで維持した豊かさに対するフランスの嫉みが、フランス自体がうまくいかない事への責任転嫁へと姿を変えるとしたら・・・。

外交的攻撃によって外圧で奪う犯罪外交の成功率は、国内に味方の居る国、特に、国内に自国を憎悪しその敗北を望む分子が存在する国ほど高くなる。

例えばリベラル教徒のような、自国の資本家を憎み、自国を憎悪する他国に迎合して「これは自由貿易要求であって、円高で安い輸入品こそ我ら消費者の利益。強欲な輸出企業なんて潰れてしまえ。それで職場が壊滅して失業者が溢れても知ったことか」と嘯く輩や、あくまで豊かな産業を守ろうとする「産業派」と対立し、覇権国からエネルギー資源を保障して貰うため国益を害する事を甘受すべきと唱える「資源派」と呼ばれる官僚のような・・・。


ポルタは小国であるが故に、覇権国家との対立を避ける外交を続けてきた。そんな国に強く出ても、反撃を受けて痛手を負う可能性は低い。

ナポレオンやシュウチンピラやプータローチンのような武力ヒャッハーな超大国独裁指導者は、そういう協調外交の国に対してほど、増長して抑圧的に行動する。

そしてその小国の指導者の国内に居る敵は、国を害する敵国を非難するより、それに妥協を強いられた自国指導者に矛先を向け、加害超大国たる前門の虎に呼応する後門の狼として、自国を害する協力者となる。

毎日放送というどこぞの国のメディアは「強い自国は怖い国だ。弱い国になって優しい国と呼ばれるべきだ」と言って、国民から大顰蹙を買った。

そんな彼らは、強い国を目指す指導者が七割を超える支持を集めるという当たり前の現実すら理解出来ず、それを世論とすら認めない。そしてますます国民から信頼を失うのだ。


エンリは言った。

「王家をここに亡命させよう。万一、首都を占領されても、抵抗できる体制が必要だ」

「貴族とか商人とかの家族も・・・ですよね」とリラ。

「ポルタ大学は国力を産み出す技術の元だよね」とアーサー。

「第二の都の建設よね? 凄い大金が動く事になるわね」

そうニケが言うと、エンリはカルロに「ニケさんの監視を頼む」

「私を何だと思ってるのよ。私のお金ーーーー」とニケが口を尖らせた。


「けど、そんな予算あるの?」

そう若狭が言うと、エンリは「これは新たな開拓だ。希望者を募って投資させるさ」

「けど、新たな開拓地ったって、コンキスタドールの来ていない未征服の土地なんてあるの?」とジロキチが突っ込む。

するとカブラル侯が言った。

「アマゾナ奥地の密林地帯は手つかずですよ。現地人が焼き畑で暮らしている所で、コンキスタドールは現地人の蓄えを奪って補給しながら征服を進めますが、焼き畑はその日食べる分だけ収穫するんで、蓄えを持たないんですよ」



エンリはアマゾナの植民市とカブラル侯に、アマゾナに疎開する人たちの受け入れ態勢の整備を命じた。

並行して鉄鉱山の本格的な開発も始まった。


大規模な製鉄設備が建設され、エンリ達が視察に来ていた時、鉱山地域に住むヤサイ族の族長が、数名のマッチョを連れて労働力の売り込みに来た。

「鉱石掘りはお任せ下さい」

「ツルハシとか使うよね?」

そうエンリが言うと、マッチョたちは「我々には、この鍛え抜かれた肉体があります。素手による掘削には全ての武術のエッセンスが詰まっている」

「大丈夫かよ」と困り顔で呟くエンリたち。


鉱石が露出した崖面に素手で向き合うスキンヘッドのマッチョたち。

突きの構えで鉱石に一撃。

「手が、手がぁ」

当然の結果にあきれるエンリの仲間たち。そしてエンリは視察の案内をしているヴァーレに言った。

「道具を使う労働者を雇おうよ」



ついにブラジルで、本格的な鉄鋼生産が始まった。

鉄鋼はユーロ各国に輸出され、蒸気機関の素材となって、その製造が本格化された。

様々な工業で機械が導入され、各国の経済は発展を始めた。



イギリスでは・・・。

ロンドンの宮殿では、ブラジルにおける製鉄事業の本格化と、それによる各国での蒸気機関の製造開始が報告されていた。


宰相は焦り顔MAXでエリザベス女王に訴える。

「ゆゆしき事ですぞ。我がイギリスはフランスの軍事力に押され、ユーロから孤立している中、経済の強みまでもが奪われようとしております」

「孤立したのはヨーロの方ですわ。海外には遥かに広大な世界が広がっています」

そう言って落ち着いた態度を演出してみせるエリザベスに、宰相は「ですが、インドの支配は失敗しました。それ以外でもポルタ商人による売り込みに押されております。この上、強みの産業までも・・・」


そんな中、経済顧問のアダムスミスが「必要なのは、我が国の競争力を更に高める投資と工夫かと」


「あなたには打開案があると?」

そうエリザベスが問うと、アダムスミスは「お見せしたいものがあります」



アダムスミスに勧められ、エリザベス女王はイギリス東インド会社直営の織物工場を視察に訪れた。

工場長が視察団一行を試作室に案内。


完成した試作機を前に、エリザベス女王はあきれ半分な表情で「随分と大きな機械ですこと」

「織物の幅が普通の2倍となります。つまり一度に倍の布面積を織る事で、生産効率は倍」と工場長。

「ですが、幅の広い布は使いにくいのではなくて?」

そうエリザベスが突っ込むと、工場長は「なので、織った布を普通サイズに裁断します」

「作り過ぎて不良在庫になる事は無いのかしら?」とエリザベスは更に突っ込む。


するとアダムスミスが言った。

「なので、安売りで他国の市場を奪って、ライバルを一掃して世界中の市場を独占します」

「それまで赤字を出す事になりますわよね?」とエリザベス。

アダムスミスは目に$マークを浮かべ、テンションMAXで「それは、国が出す補助金で穴埋めすればよいのです。他企業を締め出した所で価格を戻せば、独占でお金ガッポガッポ」



そして・・・・・・・・。

ナポレオンは正式に、大陸封鎖令を発令した。

全ユーロの貿易が統制され、イギリス製品が締め出される中、各国の工業が軌道に乗る。



だが・・・・・。


フランスの宮殿では、大陸封鎖後の経済の動きについて報告を受けるナポレオンが居た。

「何故か、我がフランスの生産量が拡大しません。どうやら、イギリス以外の国からの輸入が増えている模様で・・・」

そう報告するプレストウッツ商務長官に、ナポレオンは「イギリス以外って、どこだ?」

「ポルタですよ。あの国はこっそり、イギリス製品を輸入して各国に売りさばいて儲けているのです」とプレストウッツ。



フランスから外交ルートで、ポルタに物言いが入る。


首都の宮殿で、フランスから派遣された外交官に反論するエンリ王子。

「言い掛かりです。織物工場はポルタにだってある」

「港で織物を荷揚げしたとの通報があります」

そう外交官に言われ、エンリは「そうなの? どの船だよ」

「あなたのシマカゼ号ですよ」と外交官。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


エンリは脳内で呟く。

(ニケさんだな)



外交官を帰らせると、エンリは港へ。

そこには、取引を終えて金貨を数えているニケが居た。


エンリは溜息をつくと、詰問開始。

「ニケさん、何やってるの?」

「交易の自由は正義の筈よね?」とドヤ顔のニケ。

「イギリスは補助金で他国の業者を潰すための安売りを仕掛けているんだよ」

そうエンリが指摘すると、ニケは「つまり、彼等は損を被っているのよね? これって儲けるチャンスよ」


「ポルタの織物工場だって被害に遭ってるんだ」

そうエンリは言うと、引き連れた税関の役人たちに命じて、商品と代金の没収開始。

ニケの抗議の叫びが響いた。

「私のお金ーーーーーーー!」

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