第595話 デリーの幼帝
全インドの支配を目指すイギリス東インド会社の侵略からヤナガルのポルタ植民市を守ろうと、駆けつけたエンリ王子たち。
反乱を起こしたシパーヒー傭兵たちや、差別撤廃を求めてダリッドたちを指揮するボウス、そしてヤナガルを始めとする侯王たちを味方につけてイギリス軍を破ったエンリたち。
イギリス側は傀儡として支配したムガール皇帝の居城デリーに立て籠もるが、味方が集結した反イギリス同盟軍は、内部に宗教や階級による対立を抱えていた。
エンリはガンディラとともに、インドをイギリスに負けない国民国家とする道を彼等に説いた。
ガンディラが提唱した国民会議に多くの人が賛同した。
噂を聞いた各地の人々が、国民会議への賛同者として集まり、対イギリス戦へと参加した。
そんな中で攻城戦の作戦を練るエンリたち。
「イギリスはどれくらいの兵力を送って来るんだろうね」
そうジロキチが言うと、アーサーが「出来ればここで諦めてくれたらいいんだけど」
「だよなぁ」とエンリ。
エンリは通話の魔道具を取り出し、ロンドンに居るエリザベス女王へと・・・。
「こちらエンリです。今、インドに居るんですけどね。あなたが送り込んだ援軍はボロ負けしましたよ。いい加減諦めてくれないかなぁ」
「木綿貿易から手を引けと?」
そうエリザベスが言うと、エンリは「木綿貿易の独占から・・・ですよ。単なる貿易というなら、ヤナガルのポルタ植民都市で拠点を提供しますよ」
エリザベスは「断ると言ったら?」
「ジブラルタル海峡を通って軍をエジプト経由で送るんですよね? あの海峡、通れると思います?」とエンリ。
「無駄よ。軍は既にエジプトに輸送済みですもの。信じるかどうかはあなたの自由」
そうエリザベスが返すと、エンリは言った。
「そんなに海外に出兵して本国は大丈夫なんですか? フランス軍の再度の上陸作戦・・・って可能性だって皆無じゃ無い」
「・・・・・・・・・・・」
更にエンリは「プロイセン、既に片付いてますよね?」
「海軍を再建中なのはフランスも同じですわ」
そうエリザベスが突っ込むと、エンリは「オランダの艦隊の船は手つかずですよ」
「私を脅す気ですの?」
そうエリザベスが語気を荒げると、エンリは「それはあなた次第だ」
「それに、あなたは本気で我がイギリスを潰す事はしないですわよね? 強くなり過ぎたフランスを牽制する存在が必要ですもの」とエリザベスは痛い所を突く。
エンリは「ユーロをほったらかしにして海外での覇権に熱中するだけでは、牽制にならないんですが」
エリザベスは「それが本当なら大陸封鎖なんて不要の筈」
「・・・・・・・」
「大陸封鎖、ポルタも参加するんですわよね?」
そうエリザベスが言うと、エンリは「そうせざるを得ないでしょうね」
その頃・・・・・・。
デリーの街を囲む城壁を眺め、フェリペと彼の部下たちがあれこれ・・・・・。
「あの街を占領している悪者をやっつけるんだよね? それってヒーローの出番だよね。父上はいつ攻め込むのかなぁ」
そう幼いフェリペが言うと、マゼランは「エンリ様は、出来れば話し合いで解決したいと思っている筈ですよ」
「けど、イギリス軍が話し合いに乗るとは思えないけどな」とチャンダが突っ込む。
「だったら早くやっつけようよ」とフェリペ皇子。
するとシャナが「王様が人質になってるって言ってたぞ」
チャンダが「ってか傀儡だろ」
「どう違うの?」とフェリペが問うと、マゼランは解説した。
「人質は縛られて脅されているから、助けてあげなきゃいけない。けど、傀儡は言いなりになって利用されて、一緒に悪い事をやってるから、ヒーローがやっつける相手ですよ」
「何で言いなり?」とフェリペが問う。
リンナが「お金を貰ってるとか?」
「ニケさんみたい」とフェリペ。
ライナが「彼女を紹介してやるとか?」
「カルロさんみたい」とフェリペ。
そして「カルロさんやニケおばさんって悪い人なの?」
「まぁ・・・・・」
「けど、王様はアウラングゼーブっていう10歳の子供なんですよ」
そうマゼランが言うと、フェリペは「僕と同じだ。だったら僕が話をつけるよ」
ルナが心配そうに「危ないですよ」
「僕はヒーローだ」とフェリペは言って、ロキの仮面を出す。
マゼランが「けど潜入とか、やり方を知らないですよね?」
「俺が一緒に行きますよ」とヤンが申し出た。
深夜・・・・・・。
宮殿の最上階の部屋の窓から外を眺める、10歳の男児が居た。
その城の名目上の主、アウラングゼーブ帝だ。
十代後半の女官が部屋に入る。
「お茶をお持ちしました」
「頼んでないけど」
そうアウラングゼーブが言うと、女官は「明かりがついていたようなので。眠れないのですか?」
「あの城壁の向うに敵が居るんだ」とアウラングゼーブ。
女官は「兵が追い払ってくれます」
「兵ってイギリス兵?」
そうアウラングゼーブが返すと、女官は口ごもる。
「それは・・・」
「城壁を囲んでいる彼等は、本当に敵なのかな?」とアウラングゼーブ。
「彼等は陛下を害そうとしています」
そう女官が言うと、アウラングゼーブは「けど、僕は民の守護者なんだよね? その民を害しているのはイギリス兵だ」
「陛下は民ではなく、信者同胞の保護者です。そしてこの国の民の多くは異教徒」と女官。
「そう言えとクライヴが言ったんだよね?」
幼い主のその言葉に、若い女官は悲しそうに俯く。
そして「・・・私は陛下に生きて欲しい」
その時・・・・・・。
「大丈夫だよ。君は殺されたりしない」
そう言う誰かの声が聞こえ、二人は声のする方に目を向けた。
「誰?」
窓の外で仮面が宙に浮いている。
「お化け・・・」
そう悲鳴を上げようとした女官の口を、何時のまにか背後に来ていたヤンの手が塞ぐ。
「静かに」
「何者だ! サティを放せ」
そう言いながら短剣を抜く10歳の皇帝に、窓の外の仮面は言った。
「僕は正義の味方さ。君たちを助けに来たんだ」
宙に浮く仮面は、それを被った10歳の男児の姿となり、彼は窓から入って仮面を外す。
フェリペ皇子だ。
「どこから入った?!」
短剣を構えてそう言うアウラングゼーブに、フェリペは「仮面転送だよ」
仮面をかぶって変身ポーズをとるフェリペ。
「闇のヒーローロキ仮面」
そして彼の横にロキが現れ、唖然顔の二人に言った。
「この仮面は俺の分身でな。転送座標としても使えるのさ」
フェリペは「これを使えば君たちを城壁の外に逃がせるよ。君はイギリス人の人質なんだよね?」
「・・・・」
「それとも傀儡なの?」
そうフェリペが問うと、アウラングゼーブは「傀儡だよ」
「傀儡って、悪者に味方するんだよね?」とフェリペ。
アウラングゼーブは言った。
「僕は悪者だよ。悪者になってでも、ムガール王家を守らなきゃいけないんだ。君たちは反イギリス派で、民主主義というのをやってるんだよね? それは王家を倒すんだよね?」
そんな彼にフェリペは「僕も王家の子供だよ。スパニアという国の皇太子で、僕の父上はポルタという国の王太子だ」
「ユーロの国だよね? 君たちは民主主義というのをやってないの?」とアウラングゼーブ。
フェリペは言った。
「父上はポルタを商人が持ちたる国だって言って、議会には庶民が参加している。父上は民の味方で民主主義に賛成してる。王様が民の味方であればいいんだよ。一緒にイギリスと戦おう」
アウラングゼーブは悲しそうに俯く。
そして「それはできない。ここには大勢のムガールの家来が居る」
フェリペは説得の言葉に詰まり、傍に居た部下を頼る。
「どうしよう、ヤン」
するとヤンは「こういうのはどうでしょうか?」
翌朝・・・・・・・・。
デリーを遠巻きに包囲していた反イギリス同盟がついに動き出した。
街の上空に魔法障壁が展開され、城壁の上に銃兵隊が配置されて、外に向けて銃を構える。
城門内側の広場にイギリス兵とムガール軍兵、そしてシーノ人傭兵隊が集結。
そんなイギリス軍の本営で、その騒ぎは起こった。
「アウラングゼーブ陛下が居ないだと?」
報告を受けたクライヴ指令が、そう声を荒げると、部下は「今朝から行方不明でして・・・」
「よく探せ! まさか敵のスパイに拉致されたなどという事はあるまいな?」とクライヴ。
部下は「宮殿からは誰も一歩も外に出てはおりません」
その時、クライヴに別の部下から報告。
「クライヴ指令、敵が城門に・・・・・」
「鉄砲で追い散らせ」
そう命じたクライヴに、報告に来た部下は「それが・・・・」
城門の広場では・・・・・・・・。
数人の兵を連れた人物が門の前に進み出た。
よく見ると子供だ。
彼は拡声の魔道具で、門の向こうのデリーの街に向けて、その声を響かせた。
「降伏を勧告する」
門前を見下ろす櫓に居るイギリス士官たち、唖然。
「あれはアウラングゼーブ陛下」
そして、拡声魔道具を持った子供は、呼びかけの言葉を続けた。
「私はイギリス軍の人質として、ムガールを支配しようとする外国に利用されてきた。だが、心ある民に救出され、民とともに外敵に立ち向かう自由を得た。デリーの民よ。私はこのインドを民が持ちたる国とする。ここに居るガンディラ師が打ち立てた国民会議を、我等の統治の要と認める。君たちこそこの国の主。そこに居るムガールの兵とともに、我が道に来たれ!」




