第594話 インドで決戦
木綿産業の独占を求めて全インドの支配を目指すイギリス軍に対して、反旗を翻したシパーヒー傭兵たち。
植民都市のあるヤナガル王国を守ろうと駆けつけたエンリ王子たちは、王国軍と、そして差別からの脱却を求めてダリッドたちを指揮するボウスたちとともに、この反乱軍に合流した。
だが、彼等がそこで見たものは、カーストに基づく階級意識と、そしてヒンドゥー派とアラビア派の宗教対立だった。
ガンディラとボウスの説得により、宗教を超えて結束したシパーヒーたちは、イギリス軍が籠るデリーへと進軍した。
各地を占領していたイギリス兵たちがデリーに集結する中、彼等に使われていたシパーヒーたちは続々と反乱軍に合流。
イギリスの圧迫を受けていた諸侯たちも、反乱軍の元に集まった。
ボウスは行く先にあるダリッドの村で参加者を募った。
デリーへの道筋が描かれた地図を囲んで、エンリたちは作戦会議。
「近代戦で戦うって事になるよね?」
そうエンリが言うと、アーサーが「イギリス軍は手強いだろうな」
「それと・・・」
エンリはボウス率いるダリッド軍の兵たちをちらっと見て、ボウスに問う。
「あいつ等って訓練とか受けてるの?」
ボウスは「体力はちゃんとありますから」
するとエンリは「とりあえず弓矢を持たせてみたらどうかな? 調達できる限りの矢を集めてくれ」
「鉄砲の方が戦えるんじゃないの?」とニケは言うが・・・・・。
「いいんだ」
そう言って、エンリは意味ありげな笑みを浮かべた。
「それで、奴らはどう出てくるでしょうか」
そうヤナガルの将軍が言うと、エンリは「デリーを出て決戦を挑むだろうね。こっちが近代戦に慣れていないのを突こうとするだろうから」
そして地図を眺め、あちこちを指す。
「このあたりの平原で迎撃する気だろうね。兵力は東インド会社のイギリス兵に、本国からの援軍が加わる」
「イギリスの奴ら、シパーヒーの代わりに、シーノから移民してきた人たちを傭兵に使っているわよ」と、デリーでの偵察から帰還したタマが報告。
新たに同盟軍に加わった諸侯の一人が「イギリスは彼らに流通を独占させて、支配の道具に使っているんですよ」
エンリは言った。
「とりあえず集団戦の訓練を積んだ本国兵は要警戒だな。それに、軍団組織を使った戦術を駆使して来る」
そして・・・・・・・・・。
イギリス軍がデリーを発進したとの知らせが入った。
エンリたちの抵抗軍も戦場へと進軍する。
両軍は互いの動きを捉え、互いに牽制し合い、やがてイギリス軍は抵抗軍を迎え撃つべく進軍を停止し、陣形を定めた。
烏の使い魔により、エンリたちは上空からイギリス軍の布陣を観察。
アーサーが使い魔から得た視覚情報を水晶玉に映し出す。
「ドラグーンやサイクロプスが居ますね」
そうリラが言うと、エンリは「こっちに居るドラゴンに対抗させるつもりだろうな。ファフ、アラストール、あのデカ物を担当してくれ」
「シーノ兵は突撃要員でしょうね」とマゼラン。
エンリは部下たちにそれぞれ担当を決めて指示を出す。
「ライナたちはフェリペと仮面の筏で空からの足止めを頼む。ヤンの飛行機械で上空から戦場把握だ。ヤマトさんも乗ってくれ。シマカゼは遊撃要員だ。騎兵隊が機動戦を仕掛けたら対応してくれ」
「銃兵陣は俺たちが攪乱してやるさ」
そうジロキチが言うと、エンリは「ウォータードラゴンの上からリラとアーサーは攻撃魔法で・・・。ニケさんとマーモもそれに乗ってジロキチたちをサポートだ」
「王子は?」
そうタルタが問うと、エンリは「俺はボウスさんと弓兵隊を担当する」
そして戦闘開始。
浅い溝を掘って弾避けとし、隊列を組んだイギリス銃兵隊。これを遠方から支援する砲兵隊。
これに対するヤナガル軍とシパーヒーたち、そして参加諸侯の軍。
空から襲い掛かるドラグーンを、ファフとアラストールのドラゴンで迎撃。
複数のドラグーンをアラストールが魔法攻撃で次々に撃ち落とす中、抵抗軍の銃兵陣に襲い掛かるサイクロプスの巨体に、ファフが低空から炎を吐く。
統制のとれたイギリス軍銃兵陣の一斉射撃に押される抵抗軍を、それなりに近代戦の訓練を積んだ植民市の市民兵がどうにか支えるが、やがて彼等の統一のとれない戦い方の欠点が露呈した。
「このままだと不利ですね」と、ヤナガルの将軍が表情を曇らせる。
「先手必勝だ。攻勢をかけるぞ。ボウスさん、ダリッド隊を下がらせて遠距離から矢の雨だ」
そうエンリが言うと、ボウスは「敵陣まで届かないですよ」
「それを届くようにするのさ」とエンリ。
ダリッドの弓兵隊が整列して陣形を整え、弓に矢をつがえて引き絞る。
エンリは風の魔剣を抜いて、大気との一体化の呪文を唱えた。
「汝風の精霊。大地を潤す生命の運び手。マクロなる汝、ミクロなる我が風の剣とひとつながりの宇宙たりて、正義の担い手送り出す太き奔流たれ。疾風あれ!」
魔剣が操る大気がダリッド隊の弓兵陣からイギリス軍銃兵陣に向けて激しい風を吹かせる。
「今だ。矢を放て!」
ダリッドたちが放つ無数の矢が、魔剣が生み出す風に乗って遠距離を高速で飛翔し、イギリス兵たちに降りそそいだ。
矢を受けてバタバタと倒れるイギリス銃兵たち。
そこにリラのウォータードラゴンからの魔法攻撃をバックに、エンリとフェリペの部下たちが斬り込む。
ジロキチ・タルタ・ムラマサの妖刀を抜いた若狭・カルロ、そしてマゼラン、チャンダ、シャナ。
攪乱された所に味方の諸侯軍とシパーヒーたちの抵抗軍が突撃。
上空の飛行機械に居るヤマトが地上のイギリス軍を砲撃しつつ、敵の陣地の位置をタマに念話で伝える。
タマから受け取った情報で、エンリは矢を載せる風の流れを変える。
抵抗軍の側面を叩こうと襲って来るイギリス騎兵を、フェリペの仮面分身とシマカゼが襲撃し、攪乱した所に味方の騎兵隊が強襲。
イギリス軍は大きな損害を受け、デリーへ向けて撤退した。
戦勝の喜びに浸る反イギリス連合の面々。
「やはりヒンドゥーの神々の御加護は絶対だ」とヒンドゥー派シパーヒーたち。
「メッカの唯一神は偉大なり」とアラビア派シパーヒーたち。
ヒンドゥー派シパーヒーたちが「戦の神インドラよ感謝します」
「そんな多神教の神より我等の創造神だ」とアラビア派シパーヒーたちが噛み付く。
ヒンドゥー派シパーヒーたちが「ここはインドだぞ。郷に入っては郷に従え」と反論。
アラビア派シパーヒーたちは「そういうローカルに拘ってるから駄目なんだ。グローバルなアラビア信仰こそ絶対」
「グローバルったってお前等砂漠地帯限定だろーが」とヒンドゥー派シパーヒーたち。
早速、宗教対立を始めるヒンドゥー派とアラビア派の兵たち。ボウスが止めに入る。
「そういう内輪揉めは止めませんか。我々全インドの民が宗教も階級も超えて結束したから勝てたんです」
「底辺階級は黙ってろ!」
そう言い放つヒンドゥーの兵士たちに、ガンディラは言った。
「いいえ、彼の言う通りです。彼等が矢の雨を降らせてくれたから勝てたのではないですか?」
しゅんとなるヒンドゥー派を他所に、アラビア派の兵士たちが「前面で戦ったのは我々戦士階級だぞ」
「今まではイギリスの傭兵でしたよね?」とボウスが突っ込む。
「・・・・・」
痛い所を突かれて、しゅんとなる兵士たち。
そんな彼等にエンリは言った。
「これからの事を考えましょうよ。彼等はデリーに立て籠もるでしょう」
「ですが、ムガール帝国は彼等の傀儡です」
そう味方諸侯の一人が言うと、エンリは「だから、幼い皇帝を奪還するんです」
連合軍はデリーに向けて進軍を開始。
想いを新たに進軍する兵士たちを見ながら、エンリは思った。
(今まではイギリスという敵が居たから、彼らはどうにか結束できた。けど、イギリスを追い出した後はどうなるんだろう)
その頃、デリーの宮殿では・・・・・。
新帝アウラングゼーブ・・・、まだ10歳の皇帝の城下に、イギリス軍が入城した。
「クライヴです。皇帝陛下、ただいま戻りました」
そう謁見室で報告するイギリス東インド会社軍のクライヴ指令に、アウラングゼーブ帝は「負けたんだよね?」
クライヴは「戦術的撤退です」
そんな彼に幼いアウラングゼーブは言った。
「みんな言ってる。君たちは侵略者で、僕はその傀儡だって・・・」
「我々がここを追われれば、民の怒りはあなたに向かい、彼等に惨殺されるでしょう」とクライヴ。
「・・・・・」
クライヴは更に語った。
「北西にはシーク教団国。南西にはマーラタの略奪隊。そして、この地の民の多くはヒンドゥーです。あなた達アラビア教徒は元々侵略者。ムガールはもう我々とともに生きるしか無いのです。イギリスは再度の援軍を送って来ます。そして我々はあなたと共に生き残る」
同盟軍はデリーに到達し、街を取り巻く城壁を囲んだ。
城塞を守るクライヴ指令は部下たちに激を飛ばす。
「籠城戦に必要な物資は十分にある。シーノ人傭兵の数も足りている。本国からの援軍を待って反撃するぞ」
城壁を囲む同盟軍には、多くの民が武器を持って駆け付けた。
数を増してゆく味方の軍勢の様子を本営で眺めるエンリ王子と仲間たち。
「陥落は時間の問題だな」
お気楽顔でそうタルタが言うと、エンリは「むしろ長引けば、宗教や階級間の対立に付け込まれるだろうな」
「ここの民の結束、何時まで保つの?」とリラ。
エンリは「戦争が続く間は保つだろうさ。けど、それじゃ駄目だ」
エンリは同盟軍参加者たちに呼びかけ、会議を開いた。
反乱シパーヒーの有力者や参加諸侯、駆け付けた庶民の代表、ボウスの元に集まったダリッドの代表たち・・・。
エンリ王子は彼等に言った。
「議会を作りましょう」
「・・・・・・・・・・・」
困惑の空気が広がる中、一人の参加者が言った。
「議会って、ユーロの国が民主主義とか言ってやってる、アレですよね?」
「そうです」
そう答えるエンリに、彼は「あれって政治を決めるんだよね? そんなの戦争が終わってからの話だろ」
別の参加者も「これって作戦会議じゃ無いの?」
そんな彼等にエンリは「今は皆さんの結束の力でイギリス支配を追い出せるとしても、イギリスはまた来ます。それを跳ね返す強い国にならなくてはならない」
何人もの会議参加者が発言した。
「政治はクシャトリヤの役割ですよ」
「バラモンを頂点として神が定めた律法があります」
「他の階級は政治に関わるべきでは無い」
「それは違う」と彼らにガンディラは反論した。
参加者たちは唖然。
そして「律法の頂点に立つあなたが何故?」
ガンディラは語った。
「クシャトリヤは政治を独占する者では無い。政治を最も考える者です。これからは全ての民が国民国家の主として、インドを支えなくてはならない。その価値感を最も尊重し、全ての民の権利を守る者こそクシャトリヤでは無いのですか? 私は国民会議の提唱者として、全てのカースト、全ての宗教の信者、全ての部族や地方居住者に、この会議への参加を呼びかけます」




