表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
591/617

第591話 ダリッドの指導者

トラファルガー海戦でフランス艦隊を壊滅させたものの、無敵艦隊を率いるエンリ王子に敗れて艦隊を失ったイギリス。

陸上でのフランスとプロイセンの対決を前に、エリザベス女王は、プロイセンを破った後にナポレオンがイギリスに突き付けるであろう「大陸封鎖」に備え、綿布の原料の産地であるインドの占有を目論んだ。

ヤナガルの植民都市を強奪するイギリスの意図を捉えたエンリは、これを阻止するためにタルタ海賊団の出撃を指令。

これにインド出身であるチャンダとフェリペたちも同行した。



ポルタの港を二隻の船が出航した。

エンリたちのシマカゼ号とフェリペたちのヤマト号だ。


南方大陸西岸を南下する二つの船では、シマカゼ号にフェリペたちも移って、甲板で世界地図を広げる。

「間に合うでしょうか」と心配そうに言うチャンダ。

マゼランも「こっちは南方大陸を遠回りだからなぁ」


「彼等はインドを独占しようとしている。あそこは木綿の産地だからな」

そうエンリが言うと、ニケが「けど、もし木綿が他でも採れるようになったら?」

「恐らく、次はインドの周囲の大洋の支配に乗り出すだろうな」とエンリ。

「それって・・・・・」

そうリラが不安顔で言うと、エンリは「ユーロからあの海に入る入口を押えるって事さ。東ではジャカルタ。西では南方大陸の特に南部。あの近辺の植民市が軒並み奪われるって事になる」


アーサーが「ユーロはフランスが支配していますけどね」

「彼等もいずれ解放しなければいけない。けど、それと同時に海洋を支配しようとしているイギリスを抑える必要があるんだ」とエンリ王子。



ヤナガルに到着すると、フェリペたちはチャンダの母親の居る元ダリッド地区に向かった。

エンリたちは植民市の庁舎へ。


騒然とした雰囲気の中、植民市の市長に面会するエンリと仲間たち。

「良い所に来て下さいました。イギリス軍の脅威が迫っているのです」

そう市長が言うと、タルタが「もう来ていたのかよ。それで奴らは・・・」

「ヤナガル王に服従を迫っています。そしてポルタ人を追い出してイギリスの植民市にせよと」と市長。

「そう来るだろうね。それで王は?」とエンリが問うと、市長は言った。

「抵抗派と服従派が対立していて、とにかく何とか手を打たないと・・・」


「このニケさんに任せて貰えるかしら。イギリス軍なんて速攻蹴散らしてあげるわ。その代わりに木綿交易の利益の八割を・・・」

いきなり会話に割込み、そんな事を言い出すニケ。

エンリは部下たちに「この人、つまみ出してくれ」


残念な空気の中、タルタとジロキチがニケの両手を掴んで部屋から引っ張り出す。


市長はそんなニケを横目に見て溜息をつくと、「イギリスは北部に幾つも拠点を築き、フランス人から奪った港にも軍を置いています」

「北部にはムガール帝が居た筈だが・・・」とエンリが突っ込む。

市長は「宮廷は事実上、イギリス東インド会社の勢力下にあり、皇帝は重病を患って政務を離れているとの事で・・・」

「それ多分、イギリスに一服盛られたんだろうね」とアーサーが突っ込む。

エンリは仲間たちに「とりあえずヤナガル王に面会するぞ」



エンリは仲間たちとともに王宮へ・・・。


「よく来てくれた」

宮殿の応接室で縋るような眼で歓迎するヤナガル王に、エンリは「って事は、抵抗する気があるって事ですよね?」

王は言った。

「彼等はベンガルに拠点を築いて以来、幾つもの藩王国を乗っ取って勢力を拡大してきました。彼等の要求に従ってあなた方を追い出し、彼等を受け入れれば、ここも奪われる事になるでしょうね」


脇に控えていた大臣が意見。

「ですが、イギリス軍は強力です。奪われた藩王国はどれも我々より強大だった」

すると、同様に控えていた将軍が「けど、その兵の多くはインド人ですよ」

エンリ達、意外顔で「イギリス人じゃないの?」



エンリたちは王の家来数人とともに、ヤナガルの将軍の案内で、イギリス軍の野営地を見渡す丘から、望遠鏡で敵陣を観察した。


「殆どインド兵だな」

望遠鏡で敵陣を見ながらエンリがそう言うと、将軍は「シパーヒーと呼ばれる傭兵ですよ」

「もしかして、まだ艦隊は着いてない?」とエンリ。

「だったら楽勝だよ」とタルタがお気楽な事を言い出す。

エンリは「けど、要は戦術と部隊運用だからな。ナポレオン戦争で軍の運用技術は格段に向上した。イギリスもそれを取り入れている筈だ」

「ってか、スエズから向かった艦隊がまだ着いてないって事は、奴らが乗せた軍はこれから来るって事なんだが」とジロキチも・・・。

「・・・・」


エンリはインドの地図を出して、航路を確認。

そして「リラ、周囲の海域に魚の使い魔を配置してくれ」

そんな彼に同行していた大臣が「それとエンリさん、見て欲しい所があるのです」



大臣に案内されて、エンリとその仲間たちは、ある場所へと向かった。


「ここってガンディラさんの修行場だよね」

そうエンリが言うと、アーサーが「もしかして新しいヒンドゥーの秘術?」

ジロキチが「イギリス軍をやっつける新手の攻撃魔法だろ」

ムラマサが「超絶チートな神スキルでござるか」


勝手に盛り上がる仲間たちとともに、エンリは建物に入る。


中では、何人かの男性と一緒に糸車を回すガンディラが居た。

「何やってるんですか?」

そうエンリが問うと、ガンディラは「抵抗運動です」


エンリは怪訝顔で「?????糸車が何に対する抵抗?」

「ダンジョン探索だよね。迷わないように糸を垂らして・・・」

そんな事を言い出すファフに、エンリは「違うと思う」

タルタが「この人たちは冒険者パーティのメンバーだよね?」

「にしてはやたらやせ細って・・・」と若狭が突っ込む。

するとタルタが「いや、"もう大丈夫何故なら私が来た"って言ってみんなを笑顔にするヒーローだって、実は普段は・・・・・」


そんな彼等にガンディラは「彼等は腕の良い職人です」

「つまり、モンスターを倒す武器を作る」

そうニケが言うと、ガンディラは「いえ、綿織物の・・・・・」

「けど・・・・・」


よく見ると、みんな右手首が切断され、義手で糸車を回して、左手で糸を紡いでいる。

「あの右手、どうしたんですか?」

そうリラが問うと、ガンディラは「イギリス人に切断されたのです。織物を織れなくして仕事を奪うために」

エンリたち絶句。


「いやいやいや、仕事出来なくなれば税をとれないだろ」とエンリが突っ込む。

ガンディラは説明した。

「織物は本国の織物機械で作り、織物の産地だったここに市場として輸出し、材料の綿花を本国が輸入する・・・というのがイギリスの政策です」

エンリたち絶句。

「何てことを・・・・・」


「彼等は北インドでイギリスから、このような仕打ちを受け、助けを求めて来ました。ですが、ここにもイギリス軍は迫っています」とガンディラ。

「だから私たちが来たんです」

そう力を込めて言うエンリに、ガンディラは「彼等は強大です。武力で抵抗すべきではありません」

エンリたち絶句。


「屈服するというのですか?」とエンリ。

ガンディラは「屈服はしない。不服従を貫きます。武力で抗えば恐ろしい報復が待っている」

「それって右手を切断?」

そう若狭が言うと、ガンディラは「いいえ。大砲で吹き飛ばすのです」


タルタが「つまり人間ロケット」

ムラマサが「それで飛ばされてタコ型宇宙人の居る月の世界に行くでござるな」

「違うと思う」とアーサーが突っ込む。

ガンディラは「木の砲弾を装填した大砲の砲口に背中を向けて縛り付けて・・・・」

エンリたち絶句。

そして「もういいです。想像しただけで吐き気がする」


そんな彼等にガンディラは言った。

「それで、お願いがあるのですが、ダリッドたちを率いて彼等に立ち向かおうとしている人が居ます」

「なら、そいつに加勢して・・・」

そうタルタが言うと、ガンディラは「じゃ無くて、止めて欲しいのです。ボウスというリーダーを」

「あそこにはフェリペ皇子たちが行ってる筈よね?」とタマ。



エンリたちは元ダリッド地区へ向かった。


広場で集会が開かれており、地区の男性たちの中心に、いかにも指導者という風な男性。

ボウスという、ガンディラが言った抵抗指導者だ。

その横にチャンダと、そしてフェリペとその部下たちが居る。


ボウスはチャンダの手を執り、そして言った。

「彼は世界で羽ばたき、インド人の勇気を示した。我々ダリッドを底辺に据え置いてきた人たちは、戦いはクシャトリヤの役目と言う。だが、彼等は侵略者に屈服し、あまつさえシパーヒーとなって金で雇われて侵略者の手先と成り下がり、我々も含むすべてのインドの民が苦渋を舐めている。彼等の秩序が役目を果たさない今、底辺とされた我等ダリッドこそこの国を救う時だ」


「ですが、あなたが救うと言ったこの国は、我々を差別した加害者ですよ」

そう言って躊躇を示す一人の男性に、ボウスは語る。

「だから侵略者はそのインドを共に罰する頼もしい味方だと? とある国ではそういう立場の人々が、差別からの解放を求め、多くの人が彼等に耳を傾け、生まれに関わらず対等であるとの社会的認識を勝ち取りました。ですが彼等はその歴史的被害者としての認識を肥大化させ、国を憎悪する他国からの移住者とともに国へのヘイトに加担し、怖がられる存在となった。あまつさえ"和して同じとなる"と言ってくれた同調者たちの合言葉を、加害の過去を帳消しにする新たな差別・・・などと言い出した。我々は彼等のようにはならない。自ら戦いに参加する事で、インドを守る力はカーストを超えた我々を含むすべての民なのだと、行動を以て示す。これこそが解放への唯一の道だ」


別の男性が「ガンディラ師はダリッドの解放を唱えているが、あなたは彼が差し伸べてくれた手を執らないのですか?」

「これは我々だけのための戦いでは無い。主張ではなく、事実によってこそ真の解放が実現すると、私は信じる」とボウス。

更に別の男性が「戦えば、あの残酷な処刑が待っている」

ボウスは「なら、彼の言うように戦わなければ、屈服せずとも処刑を逃れると本気で考えていますか?」

「・・・・・・・」

「彼等は我々を屈服させるのが目的だ。屈服を拒むなら、戦わない者にだって残酷な仕打ちをするだけだ」とボウスは付け加える。


先ほどの男性がボウスの横に居るフェリペたちに視線を向ける。

そして「チャンダはどう思う?」

「・・・・解りません。けど、あそこに居るエンリ様なら・・・・・」

そう言ってチャンダは、少し離れた所で聞いていたエンリたちに視線を向けた。



人々の視線がエンリに集中した。


エンリは思考する。このボウスの言う事は正しいと。

人は感情で動き、恐怖は人を最も強く支配する。そしてそのための残虐な見せしめであり、屈服はその悪魔の所業に見返りを与える。

彼等に無抵抗という果実を与えるなら、それは成功体験となって不服従を示した者への使用を促す。

そして何より、恐怖は屈服を促すのと同じだけ抵抗を促す。

「糾弾」という言葉で人々に恐怖を与えるような運動は、必然的に人々から背を向けられる。だが彼等は、その恐怖がここまで自分たちの運動を進めたのだと主張した。それ故に、威嚇的姿勢を捨てまいとし、あまつさえ「優しくあれ」と勧めてくれた善意の助言者を差別者呼ばわりして弾圧した。それはただの増長だ。

だが、戦う以上、勝たなくてはならない。


エンリはダリッドたちに向けて語った。

「イギリスは今、ユーロでフランスという国に押されて孤立しつつあります」

ダリッドたちの間にざわつきが走る。

そして一人の男性が「ベンガルでイギリスに負けた、あのフランスが?」


そんな彼等にエンリは語った。

「元々は孤立していたのはフランスでした。けど彼等は、反撃するために強くなった。強くなるよう努力をしたのです」

「つまり筋トレ」と一人の男性。

別の男性が「毎日腕立て伏せ500回にスクワット500回」

「違うと思う」

そう、更に別の男性が突っ込むと、先ほどの男性が「いや、ヒンズースクワットの本場はこのインドだよ」


そんな彼等にエンリは「そーいう話じゃなくて、彼等を強くしたのは、軍を動かす工夫とか武器の作り方だ。けど、本当の意味でフランスを強くしたのは、底辺を含む全員が国の運営に意見を言える民主主義だ。議会を作って法律を決めて、全員が国の主としての自覚を以て国を強くする事を考え・・・」

「それだと王様はどうなるんですか?」

そう一人の男性が問うと、エンリは闘う思想家モードMAXで、天から降り注ぐスポットラストの幻想を背に宣言した。

「国家は王の所有物では無い。国民こそインドの主人公だ!」


「あの・・・・・。王としての私の立場は?」

そこには、何時の間にか人々に混じって話を聞いていた、涙目のヤナガル王が居た。

エンリ王子、どっと冷や汗。

そして残念な空気が漂う。



王城で、とりあえず軍議が開かれた。


相変わらず抵抗派と服従派が空しい言い合いを続ける中、カルロが発言した。

「シパーヒーってのはクシャトリヤなんですよね?」

「そうです。領地を失って傭兵化した領主とその騎士ですから」と将軍が説明。

「って事は、カーストにおける特権階級で信仰心は相当ある・・・と?」

そうカルロが言うと、エンリは彼に「何か策でもあるのか?」


カルロは言った。

「彼等がイギリス軍に反乱を起こせば、情勢をひっくり返す事が出来るんじゃないですかね?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ