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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第590話 南洋の王冠

時間はプロイセン戦役前に遡る。

トラファルガーでフランス艦隊を壊滅させたイギリス艦隊だが、彼等はエンリ王子率いるスパニア艦隊に敗れた。

そして、フランスの関心がプロイセンに向き、カリオストロ公国での偽札騒ぎでフランスの対プロイセン戦が不可避となった頃・・・・・。



ロンドンの王宮では・・・・・・。


「イギリス艦隊の再建は順調かしら」

そう問うエリザベス女王にネルソン提督は「予定通りです」

「一刻も早くイギリス艦隊の復活が成るよう急がせなさい。もうすぐ戦いとなります」

そう言って海軍再建を急かす女王に、ネルソンは言った。

「ですが、ナポレオンは大陸での戦いに注力しております。確かに、我がイギリスはプロイセンと対フランスで協定を結んでおります。それでノルマン海での対フランス戦・・・という事でしょうか? ですが、恐らく戦場は南ドイツで、プロイセンはどうせ敗北するでしょう。それにフランスとは和約を結んだばかりですよ」


するとエリザベスは「相手はスパニア・・・というよりポルタという事になるでしょうね」

いきなりのフランス以外との戦争話に、ネルソンは唖然顔で突っ込む。

「スパニアもポルタも対フランス戦では中立の立場の筈ですが」

するとエリザベスは「彼等は南インドに居座って、我が国の木綿貿易独占を妨げています」

ネルソンは困り顔で女王に意見。

「確かに木綿は汗を吸って着心地も良く、ユーロでは大ブームです。以前はポルタ産の織物に、冬は川が凍って水車を使えない我がイギリス産は後れをとっていましたが、蒸気機関でその不利を克服したイギリス製綿織物は、今や売れ行き絶好調ですよ」


そんなネルソンにエリザベスは「その木綿を各国に売り込めなくなるとしたら?」

「・・・・・」

「大陸封鎖という話がありますよね?」とエリザベス。

「まさか、あれは・・・・・」

戸惑うネルソンにエリザベスは語る。

「ナポレオンが全ユーロを制圧した時、唯一支配出来ない我がイギリスを屈服させるため、イギリス製品の輸入を禁止する。ナポレオンは必ず、これを断行するでしょうね。ですが、木綿をイギリスが独占する体制を整えたなら、木綿が手に入らなくなった各国で不満が高まり、彼は大陸封鎖を解除せざるを得なくなる。つまりこれはユーロの平和のため」


「して本音は?」とネルソン。

エリザベスは「木綿製品を独占して値段を吊り上げてお金ガッポガッポ」



残念な空気の中、女王の後ろに控えていた経済顧問のアダムスミスが言った。

「素晴らしいです女王陛下。国家の繁栄とはどれだけの貨幣、即ち金を国内に蓄えるかという事。そのために輸出を盛んにし、より多くの代価を稼ぐ」

「で、輸入を減らして?」

そうネルソンが言うと、アダムスミスは「いえ、必用な物資は全て国内で賄い、外国に対する支払いを無くす。それによって、全ての富を我がイギリスのものとする。これ、即ち世界の支配」


「ですが、綿布の原料となる木綿はインドからの輸入に頼らざるを得ません」

そうネルソンが突っ込むと、エリザベスは「だからインドを我がイギリスの領土とするのです」

アダムスミスは更に語る。

「かの地は様々な産物と多くの人口を擁し、陸路では砂漠と山岳で周囲から切り離され、海を以て繋がる一つの路を以て、世界と繋がる。ここを我がイギリスが世界を支配する拠点にする。それは南洋において燦然と輝く大英帝国の王冠」


そしてエリザベスは命令を下した。

「イギリス艦隊が以前の威容を取り戻すのがしばらく先となるなら、先ず、インド洋艦隊を整備なさい」

ネルソンは「地中海はスパニアの鼻先を通る必要があります」

「スエズ鉄道の復旧はどうなっていますか?」

そうエリザベスが問うと、ネルソンは「もうすぐ終わるかと」

エリザベスは「急がせなさい。そして、ジブラルタルを塞がれる前に先手を取り、その先のスエズに、資材の輸送を装って制圧に必用な軍と物資を送り込むのです」



そして・・・・・・・。

その日、エンリとリラは海岸で、寄り添って海を眺めていた。


「私、ここで王子様を見ていたんですよ。あの頃まだ子供で、とても可愛い男の子だな・・・って」

そうリラが言うと、エンリは「今じゃ三十近いオッサンだけどな」

「男性は29からは年をとらないって・・・」とリラ。

エンリは「カルロなら言いそう」と言って笑う。


リラはエンリに向き合う。

そして「私にとっては王子様は永遠に若いままです」

エンリはリラの手を執り、そして「リラ」

リラはエンリを見つめ、そして「王子様」

エンリはリラを見つめ、そして「リラ」

「飴ちゃん食べます?」

そう言ってリラが出した飴玉を見て、エンリは「まさか若いって、子供のままって事じゃ無いよね?」

リラは些かの困り顔で「私はショタ属性じゃないですから。多分・・・」



その時、沖合をイギリス船が通った。

「またイギリス船ですね」

そうリラが言うと、エンリも「やけに多いな」

「スエズの軍港を復興しているのではないでしょうか」とリラ。

「そーいやカルロの奴が、そんな事を言ってた」とエンリ。

リラが「アーサーさんからも聞きました」

エンリが「タルタからも聞いたぞ」


「みんな知ってるんですね」

そうリラに言われ、エンリは何やら不自然なものを感じた。

そして「けど・・・。これってそんなにニュースバリューのある話か?」


エンリは暫し思考を巡らす。

「もしかして誰かが意図的に流してる?」

そうエンリが言うと、リラも思案顔を見せ、そして「だとしたら、何のために?」



リラは人魚に変身し、エンリを背に乗せて、海上をイギリス船へと向かった。

船に取り付くと、リラのウォータードラゴンワイヤーで船側から船腹を登って船縁に辿り着き、そこから二人で船内を覗く。

甲板に多くのイギリス兵が居る。

エンリはリラの耳元に、小声で「もしかして軍隊を運んでる?」



二人はポルタ城に戻る。

そしてエンリは、執務室にたむろしている仲間たちに、イギリス船で見て来た事を話す。


「どう思う?」

そうエンリが彼等に問うと、ジロキチが「建設費が足りなくて兵隊を労働力に使ってるとか?」

タルタも「まあ、フランス軍の上陸作戦が遠のいて、陸軍は暇だからなぁ」

「だといいんだが・・・」と呟くエンリ王子。



その時、ニケが意気揚々と執務室に入って、手に持った袋から一着の衣服を出した。

「最新のファッションモデルよ。何と綿布100%の婦人服」


「絹の方が高級品じゃ無いの?」

そうアーサーが言うと、ニケは「最近はこっちがブームなのよ。汗を吸って着心地も良く、染めやすいからカラフルに仕上がるわ。それに、戦争の影響でイギリスから輸入した綿布は品薄で、今じゃこっちが高級品よ」

「綿ってイギリスしか作ってないの?」

そう若狭が言うと、エンリは「ポルタでも作ってるぞ。けど、原料の綿花の産地はインドなんだよ。フランスの植民市がイギリスに奪われて、今じゃ北インドの綿はイギリスが独占している。けど、ポルタはヤナガルの植民市があるからな」


「イギリスをインドから追い出せば綿布を独占できるのよ。それで値段を釣り上げてお金ガッポガッポ」

そんな事をテンションMAXで言い出したニケを見て、全員溜息。

そして「何だかなぁ・・・」

残念な空気が漂う。

するとカルロが「けど、イギリスも同じ事を考えてると思うよ」


それを聞いて、エンリの顔色が変わった。

「ちょっと待て。イギリス船が輸送してる軍隊って、インドに送り込んでヤナガルを攻め落とすためじゃ無いのか? だとしたら一大事だぞ!」



エンリは状況を調べさせるため、諜報局に向かった。

そして、スエズに居る工作員に命じて、イギリスの動きを探らせる。


間もなく、諜報局員が報告を携えて執務室へ・・・。

「スエズのイギリス軍に動きがあるようです。相当規模のイギリス軍が集結しており、紅海側にイギリス南洋艦隊が集結しています」

そう報告する諜報局員に、エンリは「もしかして、攻略目標はインドのヤナガル王国か?」

「その可能性は十分に考えられますね」と諜報局員。


エンリはその場に居る仲間たちに号令。

「タルタ海賊団、すぐに出発するぞ」

「けど、ユーロはどうしますか?」

そうアーサーが言うと、エンリは「フランスは対プロイセンに手一杯だ。イギリスも復旧資材のフリして軍を送るくらいだから、艦隊の再建に時間がかかっているのだろうな」

そしてリラが言った。

「チャンダさんにも来て頂きましょう。あの人は現地に詳しいです」



ルイ新王を保護して活動中のフェリペの部隊に連絡をとり、チャンダをポルタに呼ぶよう伝える。

そしてポルタ城の執務室でチャンダと向き合うエンリ王子。


「イギリス軍がヤナガルを狙っている。これを阻止するために俺たちはインドに行く」

そうエンリが言うと、チャンダは「連れて行って下さい」

「そのつもりで呼んだ・・・んだが・・・・・・」

そう言いつつ、エンリは執務室のドアに視線を向ける。

ドアの向こう側で何やら物音がする。


リラがドアを開けると、数人の男女が入口に倒れ込んだ。フェリペにマゼランたちだ。

執務室に居るエンリの部下たちを見つつ、マゼランが「俺たち仲間外れですか?」

シャナが「チャンダは仲間だ」

フェリペが「これってヒーローの出番ですよね?」


エンリは物欲しそうなフェリペを見ると、「解ったよ。一緒に来るか?」

「連れて行って下さい」と、フェリペとその部下たち。

「けどルイ新王はどうする? お前等は彼を守るのが役目だろ」

そうエンリが言うと、フェリペは「もちろん彼も一緒に行きます。彼は僕の友達ですから」



だが・・・・・・・。

その後、フェリペから、ルイと一緒にインド行きの話を聞いたアントワネット妃は「私、暑い所はちょっと・・・」

フェリペに同行していたマゼランは「助かります」



ルイ新王は、三人の令嬢とその付き人件手勢とともに、ポルタの首都に匿う事となった。

そして彼等を守る体制も・・・・・。


「遠坂、間桐、ローラ。彼等を頼む」

そうエンリに言われ、護衛役の指揮を任されたポルタ大学魔導学部の三人は「任せて下さい」

匿う場所は、炎剣兵団の兵営。

千人の兵たちが彼等を匿う護衛隊だ。


「我等エンリ殿下直属サバイバル料理の鉄人兵団が命に代えても賓客のお二人を守ります」

そう言って胸を張るフォーリー大佐に、エンリは「サバイバル料理はもういいから」

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