第589話 二つの侵攻国
イギリスを共通の敵としてロシアと和解したナポレオンが、ピュートル帝にフィンランドとバルト諸国への侵略を容認した。
ノルマン同盟の盟主として苦悩するノルマンのカール王子を案じるエンリ王子は、ロシア支配の悲劇を回避すべく、ノルマン諸国がまとまってフランスと妥協する道を模索。
そして・・・・・・・・・・。
ロシアによるノルマン同盟への侵略が、ついに始まる。
フィンランドに侵攻するロシア軍司令部で、将軍たちはフィンランド軍の抵抗の予測と対策の検討を続けていた。
「前回の北方戦争では、敵はスキーというものを使って我が軍を阻んだと聞きますが、今は夏で雪は降っていない。
そう一人の将軍が言うと、別の将軍が「けど、冬に凍っていた湖沼は進軍の大きな妨げになりますよ」
「あんなの、氷魔法で凍らせてしまえば簡単ですよ」と、更に別の将軍が突っ込む。
「三帝会戦でやったのと同じ手ですね」と、作戦参謀の一人が・・・。
すると、先ほどの将軍が「けど、オーストリア軍はあれで撤退しようとして酷い目に逢ったと聞きますが・・・」と指摘。
「奴ら、何でやられたんだっけ?」
そう先ほどの作戦参謀が言うと、彼等は一様に「何だっけ・・・」
ロシアはフィンランドに服属を要求。ノルマン同盟はこれを拒否し、戦いは始まった。
フィンランド領を進軍するロシア軍は沼地に突き当たる。
魔導士隊が沼地を凍らせて、その上を渡るロシア軍。
だが、途中まで渡った所でフィンランド砲兵隊が一斉砲撃。着弾の衝撃で氷が割れて、多くの兵が沼に投げ出された。
湿地帯を迂回しようとしたロシア軍は、伏兵の襲撃を受けて大きな損害を出した。
遅々として進まないロシア軍の体たらくに、軍司令官は頭を抱えた。
「どうしますか?」と、司令部で直接指揮をとるピュートル帝に・・・・・・・。
ピュートルは地図を睨み、そして言った。
「こういう時こそ、我が新鋭ロシア海軍の出番だ。この日に備えてフランスとの戦いの中で温存していたのだ」
「単に出番が無かっただけでは?」と参謀が突っ込む。
「・・・・・まあ、イギリス海軍はフランスが侵入を阻んでいる。今のノルマン海は我々の海だ」
そう言ってピュートルは、ロシア海軍に出撃命令を下した。
一方、イギリスは・・・・・。
建造を終えた艦船をまとめてノルマンに加勢すべく出撃するイギリス海軍。
既にナポレオンはデンマルクに侵攻し、これを占領している。
そしてフランスのデンマルク駐留軍は、イギリス艦隊の通過拒否を宣言していた。
ノルマン海の入口の海峡を通過しようとするイギリス艦隊を、海峡に面して据えた大砲で阻止しようと、沿岸のフランス軍の砲台から盛んな砲撃が来る。
これと砲撃船を演じるイギリス艦隊だが・・・。
やがて、艦隊を指揮すべく旗艦に乗り込んでいたエリザベス女王は撤退を命じた。
「救援に来たという既成事実は成立しました。イギリスとしての義理は果たしたので、無駄な損害を出す必要はありません」
ノルマンでは・・・・・・。
カール王子はイギリス艦隊撤退の報告を聞き、頭を抱えた。
「所詮は大陸での戦いに関しては、イギリスは部外者という訳か」
「ですが、我々にだって海軍はあります」と、あくまで強気な将軍たち。
そんな中で、報告が届いた。
「オーランド諸島がロシア艦隊によって占領されとの事で・・・」
「ただちにノルマン艦隊を出撃させろ」とカール王子は命令を下すが・・・・・。
報告に来た士官は困り顔で「それが・・・・・・」
オーランドの港を占領したロシア艦隊では・・・・・。
港の周囲に軍艦を配置し、ノルマン艦隊の反撃に備える中、後続の軍艦と輸送艦が占領軍を揚陸しようと港へ向かう。
そんな中、突然、一隻の軍艦の艦尾で爆発が起こった。
「何があった?」
そう問う艦隊司令に「解りません。いきなり原因不明の爆発が・・・」
次々に爆発を起こして轟沈するロシア艦を見て、旗艦の司令部は右往左往状態。
「何らかの魔法攻撃でしょうか」
慌て顔でそう言う参謀に、艦隊司令は「とにかく警戒するよう、各艦に伝えろ」
密集して襲撃に備えるロシア艦隊。
その頃、少し離れた島影に二隻の船が停泊していた。
ヤマト号とシマカゼ号だ。
水中から小型艇が浮上する。マーモの潜水艇だ。
「どうだった?」
上部ハッチを開けたマーモにエンリがそう問うと、マーモは「10隻くらいは沈めてやりました。あと数回繰り返せば壊滅出来るかと」
「上陸した奴らは仮面分身で悪者退治だ」と気勢を上げるフェリペ皇子と、彼の部下たち。
そんな彼等にエンリは言った。
「それはノルマン艦隊が来るまでお預けだ。俺たちはあくまで隠密行動の攪乱役。本番はデンマルクから上陸してくるフランス軍が相手だ」
襲撃は繰り返され、残った艦船は港へ引き籠った。
やがてノルマン艦隊による攻撃が始まり、港に上陸したノルマン軍によってロシア軍は駆逐された。
そして・・・・。
コペンを占領したナポレオン軍の司令部。
ナポレオンの前には、上陸軍の指揮官として第一軍団を任されたベルナドットが居た。
「本当に俺なんかに上陸軍を任せて、いいんですか?」
そう困惑顔で問うベルナドットに、ナポレオンは言った。
「君は戦術指揮の能力は十分と聞く。何よりこれから、あそこの王になる男だ」
ベルナドットは唖然顔で「私が・・・ですか?」
「あの国を俺のために動かしてくれるんだよな?」とナポレオン。
「もちろんです。尊敬するナポレオン陛下のため、全力を尽くして属国支配を務めます」
そんな忠犬モード全開のベルナドットは、表面ヅラと裏腹に脳内で呟く。
(いいのかなぁ)
そして、フランス軍による上陸作戦が始まった。
多数の舟艇がコペンの港から対岸へと殺到。
対岸からの盛んな砲撃で海面に幾つもの水柱が立つが、デンマルク岸からの砲撃が、ノルマン側の砲台を次々と沈黙させる。
阻止に向かうノルマン艦隊は、衛星国となったイタリアの艦隊に牽制させる。
上陸したベルナドットの軍を、カール王子率いるノルマン軍が迎え撃つ。
その時、無数の鉄の仮面が戦場の宙を舞って、双方に攻撃魔法で牽制。
そして上空にドラゴンが現れ、拡声の魔道具の音声が響いた。
「双方そこまで」
その声を聞き、ノルマン軍を指揮するカール王子の表情は一気に明るさに満ちた。
そして、彼は拡声の魔道具で「エンリ王子、助けに来てくれたのですね」
一方のベルナドットも、拡声の魔道具で「困るんですけど。ボルタ、戦争に巻き込まれちゃいますよ」
エンリの拡声は双方に答える。
「悪いけど、ノルマンに味方に来た訳じゃないんで」
「・・・・・・」
そして唖然状態の双方に、エンリは呼びかけた。
「とりあえず話し合いません?」
交渉の場として設営されたテントの中に、仲介役のエンリ王子。
そして向き合うカール王子とベルナドット。
「念のため聞きますけど、あなたは侵略者として来たのですよね?」
そうカールが問うと、ベルナドットは「そうとも言う」
「ナポレオンの忠実な僕として、この国を彼の植民地にするために・・・」
そうカールが怒りを込めて問うと、ベルナドットは「それなんだけど、私、一応ノルマン人なので・・・」
「はぁ?」
唖然顔のカールに、ベルナドットは続けて語った。
「言っときますけど、どこぞの半島国人が"俺ジパング人だけどジパングは半島国に謝罪賠償すべきだと思う"とか言ってるみたいな国籍詐称でも、血筋だけジパング人で脳みその中味は半島国人とか・・・そーいうのでも無いですから。まー、職を探してフランスに行ったら軍で求人があって、処世術のつもりで上役に尻尾振ってるうちに、都合のいい犬って思われてこんな事になっちゃいまして・・・」
「まー、面従背腹って奴ですね」とエンリが付け足す。
「なので、フランスのためにノルマンを犠牲にしたりはしないつもり」とベルナドット。
「信用できるか!」
怒りと不信を滾らせて、そう怒鳴るカールに、ベルナドットは困り顔で「そー言われてもなぁ」
そんな二人を他所に、エンリはテントの奥に声をかけた。
「入ってこい」
登場した男性を見て、ベルナドット唖然。
「フェルゼン、どうしてここに・・・」
目の前で戸惑う敵役を見て、カールも戸惑い、「彼は?」とエンリに説明を求める。
そしてエンリは語った。
「彼もフランスで就職したノルマン人でして、このベルナドット氏の弟。ご存じですよね? ルイ新王の第一従者でアントワネット妃の想い人。亡命した新王と一緒にスパニアに行って、フランスの追及を逃れて抵抗している部隊のメンバーですよ」
「じゃ、君はナポレオンの敵方?」
そうカールに問われ、ベルナドットは「・・・の兄ですけどね」
エンリは更に語った。
「彼を王太子として迎え入れれば、ナポレオンは目的を達した事になって撤退して丸く収まる。ノルマンはフランスの同盟国で、ロシアの侵攻を受けてるフィンランドもバルトもその同盟国。同盟国の同盟国はみんな同盟国で世界に広げよう同盟国の輪っ・・・って事でロシアさん戦争止めてお引き取りを・・・ってなもんで」
自分の与り知らぬ所で進行していた茶番に、溜息をつくカール王子。
そして彼はエンリに問うた。
「けど、フランスの目的は大陸封鎖にノルマンを参加させる事ですよね?」
「それなんですけどね」
そう言うとエンリは通信魔道具で仲間と連絡。
「ファフ、持って来てくれ」
間もなく、シマカゼ号からファフのドラゴンが運んできた大きな荷物が地上に降ろされた。
梱包が解かれたその荷物を見て、カール王子は・・・。
「これって・・・」
エンリは解説した。
「イギリスが独占している蒸気機関ですよ。構造はもう各国に伝わってますけど、それを作る優秀な鉄が必要です。ノルマンには良質な鉄鉱石がある。大陸封鎖の隙にこの製法を確立して、いろんな国で造れるようにするんです」




