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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第588話 ノルマンの傀儡王

プロイセンを破ったナポレオンは、対イギリスのための協力を持ちかけて、ロシアを味方につけた。

その餌として提示されたフィンランドとバルト三国侵攻の黙認。これに抵抗するノルマン同盟の盟主カール王子。

そんな彼を案じるエンリ王子。



フリートラントで壊滅したロシア軍の再建は着々と進んだ。

ノルマンのカール王太子も必死に対応策を模索する。


そんなカールの元に、フィンランド王マンネルハイムが訪れる。

「あなたの国の独立後も、我々はノルマン同盟として密接に協力し合ってきたと認識します」

そんなカールの盟主アピ―ルに、マンネルハイムも「私もそう思います。そして我々は、あの北方戦争でロシアの侵略を撃退しました」

「けどあれは、冬の雪の中でスキーを使ったからですよね?」

そうカールが突っ込むと、マンネルハイムは「ですが、そもそもあの時ロシアが冬に戦争を起こしたのは、夏には湖沼の多い我が国土での行動が制限されるからです」

「確かにそうだ。我がノルマン軍は全力でバルトの同盟国を助けて、邪悪な侵略者たるロシアを殲滅しましょう。海上からはイギリス軍が支援してくれます」

そう言って盛り上がるカール王子と、マンネルハイム王。



すっかり気を良くしたカール王子は、ポルタのエンリに通話魔道具で連絡した。

「エンリ王子。フィンランドは大丈夫です。我がノルマン軍は全軍を以てバルトの同胞を守り、邪悪な侵略者たるロシアを殲滅します。よってポルタ軍の来援は無用」

エンリ、困り声で「今まで期待はしてた訳ね?」

「・・・・・・・・・・」


残念な空気が漂う中、エンリはぽつりと言った。

「けど、大丈夫かなぁ」

するとカールが「徴兵とかいうのを始めました。兵力は今までの倍。我がノルマン騎士は一騎当千」

「いや、徴兵って騎士じゃ無いよね。ってか、そーいう精神主義が危ないと思うんだが・・・」とエンリは突っ込む。



エンリは通話魔道具で、ロシアのピュートル帝に連絡。

「ノルマン同盟に喧嘩を売るお墨付きを貰ったと聞きますが。北方戦争のリベンジって訳ですか? けど、フィンランドじゃボロ負けでしたよね?」

ピュートルはドヤ声で「挑発してそちらに向けさせようとしても無駄だぞ。先ずバルト各国を我が物として・・・」

「つまり安全パイと? けど、モタモタしてるとフランスが出てきて、ノルマン本国をものにしちゃいますよ」とエンリ王子は挑発声で・・・。


「奴はノルマン海の覇権をロシアに譲ると約束した」

そうピュートルが言うと、エンリは突っ込む。

「いや、あの条文はそまこで書いてませんよね? それにイギリスが黙ってないかと」

ピュートルは更なるドヤ声で「イギリスは我等の海には入れない」

「何で?」

「それは秘密だ」と、ピュートルはドヤ声MAXで・・・。


「フランスがデンマルクを占領して、海峡を塞ぐからですよね?」

そんなエンリの鎌かけに、ピュートルはあっさり引っかかり、「何故それを・・・・・」と慌て声で・・・。

エンリは言った。

「いや、地図見て考えりゃ解りますって。で、あそこまで進出したフランスが、狭い海峡を隔てたノルマンに乗り込んで来ないと思う?」

「・・・・・」

エンリは更に「となると、ノルマン本国は早いのも勝ちという事になりますけど、バルトなんかに構ってる暇、あるの?」



モスクワの宮殿では・・・・・。


ピュートルは通話を切ると、脳内で呟いた。

「確かに、バルトなんて何時でも獲れる」

そして控えていた家来に号令を下した。

「将軍たちを呼べ。戦略の練り直しだ」



ポルタ城では・・・。

通話を終えたエンリに、執務室のソファーに居たアーサーは訊ねた。

「フランスはノルマンを取りに来るでしょうか?」


エンリは「来るだろうな。ナポレオンにとってはイギリスをどうにかするための大陸封鎖だ。それにノルマンを組み込む事は必須だろう。そもそもあの半島は良質な鉄資源の宝庫。蒸気機関に使える鉄の生産で先行したイギリスに対抗できる鉄を確保するには、不可欠だよ」

「とすると、そのフランスをどうするか・・・って話になりますよね?」とアーサー。

「だよなぁ。ノルマンにとって、いかに有利な状況を作るか」

そうエンリが言うと、アーサーは「それって、ナポレオンが誰をノルマン王として送り込むか・・・って話ですよね?」


すると、リラがエンリにお茶を入れてあげつつ、思い出したように言った。

「そういえば、ここにもノルマンの人って居ますよね?」

「それって・・・・」

「フェリペ皇子の所に居るフェルゼンさんですよ・・・・・」とリラ。



エンリは通信魔道具で、フェリペの部隊と連絡をとった。

マゼランが対応に出る。


「エンリだが」

そう彼が言うと、マゼランはすぐ近くに居た彼の主に「フェリペ様、父君からですよ」

「いや、あいつに用事があるって訳じゃ無いんだが・・・」とエンリは慌てて言うが・・・・・。

「父上、お呼びですよね?」と、魔道具の向こうから幼いフェリペのはしゃぎ声。

「まあ・・・・」

フェリペは「今すぐみんなを連れてポルタに戻ります」

「いや、そういう訳じゃ・・・まあいいか」とエンリ王子。



数日後、ルイ新王夫妻を保護中のマゼラン海賊団がポルタの首都に着いた。

城の玄関口で出迎えたエンリと仲間たち。


「父上ーーーーーー」

そう叫んで、馬車から飛び降りて駆けて来るフェリペ皇子。

久しぶりの親子の対面という事で、エンリは「元気だったか?」

「はい。みんなも頑張って手柄を立てました」

そう嬉しそうに答えるフェリペに、エンリは怪訝顔で「手柄って・・・。新王の拉致目的でフランスの特殊部隊でも来たと?」

タルタも「"どこぞの半島国に拉致された被害者を奪還するため特殊部隊を派遣しなかったアーベイ首相は有言不実行の他力本願糞野郎だ"とか言ってるリベラル教自称平和主義の奴らの好戦論みたいなのが、今頃出て来たのかよ」

そんな彼等の空想を断ち切るように、馬車から降りたマゼランが「いえ、新しいダンジョンを見つけて冒険とか」

残念な空気が漂う。


「・・・・・・・・まあ、平和なのはいい事だ」

そう拍子抜け顔で言うエンリに、馬車から降りた幼いアントワネット妃が、自慢げに「ルイ陛下はゴブリンを三匹討伐しましたのよ」

幼いルイ新王も「魔法レベルが12になりました」

そんな子供たちの冒険ネタに区切りをつけて本題に入ろうと、エンリは「ところでフェルゼンは?」

「彼はミノタウロスを三頭・・・・・」

そんなフェリペにエンリは「そーいうのはいいから」



エンリはフェルゼンを別室に呼んだ。


何事かと身構えるフェルゼンに、エンリは直球を投げる。

「お前、ノルマンの貴族だよな?」

「はい」

「今、ノルマンはロシアの脅威を受けている。一方でフランスも侵略を企てるだろう。二正面作戦を強いられれば勝ち目は無い」

そんなエンリの言葉を聞くフェルゼンは、もちろん、祖国が置かれた危機を知っていた。

その深刻な憂いが一気に噴き出したような面持ちで、彼は言った。

「バルトの同胞はロシアの奴隷になるのでしょうか?」


そんな彼にエンリは語る。

「それを避けるには、まとまってフランスにつくのが唯一の手だろうな。となれば、ナポレオンは保護国として王を送り込む・・・という話になるだろう」

「自分の一族を・・・ですよね?」

そう苦渋顔で言うフェルゼンに、エンリは「だが、フランス人支配は民主主義の広まった今、反感を買う。であれば、ノルマン人でかつナポレオンが納得する、奴の部下とか・・・」


フェルゼンの表情に一抹の明るさが浮かんだ。

「私のように移住して軍人になった・・・。だったら私の兄がフランスに居ます」

「どんな奴だ?」

そう問うエンリにフェルゼンは「戦術指揮官としての能力は確かですが、それ以上に上役に尻尾を振るのが得意です」


「名前は?」とエンリが問うと、フェルゼンは答えた。

「ベルナドットと言います」



エンリはカルロに命じて、ベルナドットについて調べさせた。

間もなくカルロはポルタに帰還し、調査結果を報告。


「ナポレオンの片腕とも呼ばれるダヴ―将軍の部下で、ナポレオンの信者ですよ」

そうカルロが言うと、エンリは困り顔で「いや、"ヤマモトタローの存在自体が正義"とか言ってるどこぞの野党党首の支持者じゃないんだから」と突っ込む。

カルロは「ダヴ―将軍と一緒にナポレオンの肖像を御真影とか言って拝んでいるとか」


残念な空気が漂う中、エンリは更に問う。

「・・・・・で、ナポレオン自身は彼をどう思ってるんだ?」

「犬みたいに尻尾を振ってどこにでもついて来る可愛い奴・・・だそうです」

そうカルロが答えると、エンリは更に「けど、ダヴ―将軍と一緒に・・・って事は、信者レベルとか信用度とかはダヴ―の方が上なんだよね?」


カルロは言った。

「ナポレオンは将軍自身に対しては才能をやっかんでいるようです。一方のベルナドットは単なる処世術で尻尾振ってるだけで、ノルマンに送り込まれたら面従背腹で行くと思いますよ」



エンリは通信魔道具で、パリに居るリシュリューに連絡をとった。


「ノルマンをロシアにくれてやるつもりですか?」

のっけから挑発的なエンリに、リシュリューは「まさか。本国はフランス、フィンランドとバルトはロシア・・・って事になるでしようね」

そんなパワー外交の教科書通りとも言える彼の分割論に、エンリは待ったをかける。

「けど、分割ってのは後が面倒ですよ。後々の処理を考えたら、丸ごと確保した方が得策かと」

「けどなぁ・・・」

親の総取りをそそのかすエンリの言に、そう言って尻ごみするリシュリュー。


そんな彼にエンリは続けた。

「屈服させたら、ナポレオンの家族や親戚を王として送り込むんですよね? けど、それだと現地の民が反発します。ノルマンの国民が納得して、かつフランスの言いなり・・・。そんな人物でないと・・・」

リシュリュー唖然。

そして「そんな都合のいい傀儡が居るとも思えませんけど」


エンリは尻込みするリシュリューに、悪知恵注入者の体で、悪魔の誘惑な言葉を放つ。

「ノルマン人でナポレオンの部下というのはどうです? ダヴー配下の軍人で、ベルナドットという者が居ます。ナポレオンの心酔者で何でも言う事を聞く、フランスに都合のいい傀儡になると思いますよ」

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