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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第586話 北国の暗雲

フランスはプロイセンを破り、これを助けて出兵したロシアをも破った。

だがナポレオンはクワトロバジーナを称するリシュリューの勧めでロシアと和解し、イギリスとの共闘を掲げて同盟を結んだ。

そのロシアに与える餌としての、バルト三国とフィンランドの併合を黙認する・・・という取り決めで、ノルマン同盟に緊張が走る。



プロイセンは、新たなウィルヘルム王の元でフランスに降伏し、エルベ川以西の領土とポーランドを失った。

このエルベ川以西の地にはフランスの属国として、彼の弟ジェロームを王としたヴェストファーレン王国が置かれた。

そしてポーランドはワルシャワ公国として独立。


そんな知らせがポルタ城にも届き、エンリは執務室で仲間たちとあれこれ・・・・・。

「で、選ばれたのはあのヤン王かよ。無能で貴族たちから総スカンを喰らってた奴なんだが・・・」

そうエンリがあきれ顔で言うと、アーサーもあきれ顔で「結局、誰が王になっても同じって事でしょうね」

ジロキチもあきれ顔で「ナポレオンにとっては、無能だからこそ価値がある、という事なんだろうな」

リラもあきれ顔で「イシバとかいうジパングの総理も、無能だからという理由で、国家に悪意を持つマスゴミが国民の意向を無視して無理やり擁立したのですものね」



条約内容が公表され、独立が決まったと、お祭り騒ぎのワルシャワ。

その後ろ盾として強い影響力を行使する事となるフランスとの外交の段どりを話し合うべく、パリを訪れたヤン王とポーランドの外交官たち。


応接室でナポレオンと向き合うヤン王。

「ポーランド国民の代表として感謝申し上げます」

「それはいいが、ちゃんと王様やれるのか?」

そうナポレオンが言うと、ヤン王は「お任せ下さい。英雄皇帝ナポレオン陛下がバックに居るのですから、逆らう者など居りません」

ナポレオン、溜息をつく。

そして「他力本願過ぎだろ。それで、物は相談なんだが、債権国になりませんか?」

「はぁ?」


プロイセンがフランスに払う賠償金をポーランドに支払わせる件について、説明するフランスの外交官。

ヤン王絶句。

「何でプロイセンが払う金を我々が・・・。我々は彼等の支配に苦しんできた被害者ですぞ」


「まさか自ら戦って独立を勝ち取る機会を奪われた・・・なーんて被害者意識逆立てたりしないよね?」

そうナポレオンが言うと、ヤン王は「いや、どこぞの半島国じゃないんだから・・・」

「で、我々が代わりに戦って、ポーランドは独立出来た。その戦費と思えば安いものだと思うが」と、ナポレオン。

「つまり独立税ですか?」

そうヤン王が涙目で言うと、ナポレオンの脇に居た外交官が「これは債権であって税ではありません」

「・・・・・・・・・」


「独立は悲願だったんですよね?」

そうナポレオンに詰め寄られ、ヤン王は悲鳴を上げた。

「勘弁してくれーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」



ケーニヒスベルクから撤退するロシア軍とともに、主戦派のプロイセン貴族の多くがロシアに亡命した。

そうしたドイツ人貴族の中に、十代前半の少女が居た。


モスクワに戻って軍の再建に向けて、あれこれ指図するピュートル皇帝に、彼女が面会を求める。

「お久しぶりです、陛下」

謁見室で膝まづきつつそう言う少女に、ピュートルは「君は?・・・」

「北方戦争の撤退戦の時にお会いしたエカチェリーナです」と彼女は名乗る。


「あの時の・・・・・・」

そう呟いて、過去の苦い記憶を噛み締めるピュートルとは裏腹に、エカチェリーナは花びら舞う幻想の中、目一杯の陶酔顔で、言った。

「撤退する兵を救うため、自ら少数の兵を率いて敵地に飛び込む、その犠牲的精神。あの時あなたは八歳の少女の絶対的な信頼を勝ち取りました。そして私は思いました。こんな君主の居る国に嫁げたら・・・」

ピュートルは困り顔で「いや、俺はロリコンじゃ無いんだが」


「御子息とか居られるのですよね?」とエカチェリーナ。

ピュートルは更なる困り顔で「居るには居るが、あれはお勧めは出来ないと思うぞ。何せあいつは馬鹿だから」



エカチェリーナを連れて、王太子の部屋に入るピュートル帝。


その部屋に、その若者は居た。

緩んだ表情、焦点の定まらない視線・・・・・・。

天井から鼠が吊るされている。

「何をやっている?」

そう問うピュートルに、彼の王太子は「ネズミの兵が軍紀を犯したので処刑を・・・」


唖然顔のエカチェリーナにピュートルは言った。

「こういう奴なのだよ。俺の事業を受け継ぐ人材にと、俺と同じ名前をつけたのだが、こんなのが皇太子とか・・・・・」

するとエカチェリーナは「よろしいではありませんか。東の国には"ジパング式経営"というのがあると聞きますわ。上に立つ者は神輿として下々に担がれ、全ては下々が相談して決める。上は軽いほど担ぐ側の負担が減りますわ」

「そういうものか?」

エカチェリーナは思った。

(随分と操りやすそうな殿方ですこと)



エンリは極秘裏にパリを訪れた。

風俗街の地下で向き合う、エンリとリシュリュー。


「ノルマン海をロシアに明け渡すとか、大丈夫なんですか?」

そうエンリが問うと、リシュリューは「大陸ではロシアは鼻っ柱を折られた。海洋ではイギリスが強くなり過ぎて、交易の、そして産業の支配力を固めつつあります」

「けど、元からロシアは権威主義でガチガチの危険な国ですよ。封じ込めておくに越した事は無いと思いますけど」とエンリ。

リシュリューは些かの警戒心を秘めた表情を浮かべ「かといってフランスが強くなり過ぎるのも問題だ・・・とか思ってますよね?」

「フランスが・・・ではなくナポレオンが・・・ですよね?」とエンリは突っ込む。

「彼はいずれ倒れる。その後、イギリスやロシアがユーロを支配というのは困る」とリシュリュー。


そんな彼にエンリは言った。

「各国でフランス支配に抵抗するのは、民主主義に基づく理念です。即ち主権在民。革命の祖国と称する外国に支配された主権在外など、まやかし以外の何物でも無い・・・というのは解ってますよね? そうした潮流についていけないのがロシアですよ」

リシュリューは「あの国を敗北させるのは困難です」

「焼土戦術ですか?」

そうエンリが言うと、リシュリューは「民の意識が権威に盲従しやすい。寒く厳しい風土の中で、上の者に頼ろうとする」

「だからこそ、ロシアのような国が暴走を始めたら、どうやって止めるのか・・・が問題ですよ」とエンリ王子。

リシュリューは「経済でしょうね。悪しき権威主義が嫌われて世界の孤児となり、弾き出される」


「良くない噂を聞いたのですが、大陸封鎖令・・・・・・」

そう言いかけたエンリの言葉を遮るように、リシュリューは「イギリス製品の市場を奪うチャンスじゃないですか。何しろイギリス以外で蒸気機関を作れるのはポルタだけだ」

「そのため交易業者を規制すれば、彼等は生活の糧を失い、それはフランスへの反発となります」とエンリは突っ込む。

「大陸各国の産業を盛んにすれば、イギリスに支払われていた対価が各国に戻って来て、むしろ感謝されますよ」と、リシュリューは反論。

「もしかしてフランスはそれで産業の覇者を目指す気ですか?」

そうエンリが言うと、リシュリューは「海軍力で海外を独占しようとしている国はイギリスです。そして、これで苦しむのはイギリスだけじゃない。ロシアの経済を支えるのはウクライナの小麦です。そして、それを最も多く買っているのはイギリス」


「つまりロシアを弱めるために大陸封鎖に引き込んだ?」

そう言うとともに、エンリは脳内で呟いた。

(この男は・・・・・)


そしてリシュリューは「それで、ポルタの蒸気機関は売って貰えるのですよね?」

「今はまだ手間のかかる作り方を使っていますが、ブラジルの豊富な鉄資源でイギリス並みの鉄を作れるようになれば・・・」とエンリは先送りを図る。

「ロシアがノルマン海をモノにすれば、彼等は地中海への興味を失う。そうなれば、その出口に位置するポルタは安全です」

そう一面の利益をちらつかせるリシュリューに、エンリは「で、彼等は世界に出て何をするのでしょうね?」


エンリは思った。

ロシアには既に、陸路では旧大陸を東に向かうシベリアの道がある。その陸の道と海の道が交差する東の果てに位置するのがジパングだ。もしロシアとシーノが結びついたとしたら・・・・・。

そして彼は、ノルマン海でロシアの脅威を受けているノルマン王国を想い、脳内で呟いた。

(カール王子、大丈夫かな?)

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