第583話 ロシアの将軍
アウエルシュタットの戦いでプロイセンを破り、ベルリンを占領したナポレオン。
フリードリヒ王はプロイセン軍の残存兵力を率いて東プロイセンに逃れ、ケーニヒスベルクでロシア軍との合流を図る。
これを阻止しようと、ナポレオンは雪の降り始める中、フランス軍を率いて出撃を強行した。
ダヴ―軍団にプロイセン軍追撃を任せ、直営軍団と他三つの軍団を彼自ら率いて、ケーニヒスベルクへ先回りしようという作戦だったが、彼が指揮する本隊は、途中のアイウラ村でロシア軍と遭遇した。
吹雪の中で、尾根上にある敵の砲兵陣の占領を策したナポレオン旗下のオージェロー軍団は、視界の回復とともに、高所からの砲撃とコサック騎兵による強襲を受けて潰走した。
「とにかく救援を出せ」
そう命令するナポレオンに、部下たちは尻込み。
「ですが、コサック騎兵は強力です」
すると、ミュラー将軍が言った。
「俺が行きます。騎兵隊の機動力は騎兵隊でなければ対応出来ない。俺は騎兵出身で、奴らの戦い方は知っています」
ミュラーは自らの軍団の騎兵を引き連れて、戦場に向かった。
「個々の技量は奴らが上だ。密集して対抗するしか無い」
そう言うと彼は、旗下の騎兵たちに部隊ごとの方陣を組ませ、銃騎兵を前面に出すよう指示。
潰走するオージェロー軍兵を襲うコサック騎兵たちに向け、密集した騎馬隊の前面の銃騎兵たちが馬上で銃を構える。
「撃て!」
銃弾を受けて何人かの敵騎兵が落馬。
コサック側の多数の騎兵が矛先を変え、馬を駆ってフランス騎兵たちに向かう。
右手に銃を構えて次々に発砲するコサック騎兵。
何人ものフランス騎兵が銃弾を受けて落馬。
目前に迫ったコサック騎兵たちはサーベルを抜いて突入の構えをとる。
「槍騎兵前へ」
そのミュラーの号令で、フランス側では、銃を持つ騎兵の背後に居た槍を持つ騎兵が、交代して前列におどり出て、切りかかるコサック騎兵を一斉に突く。
フランス騎兵の密集隊を取り囲んで乱戦となる、コサック騎兵たちの群れに、別のフランス騎兵の一団が側面から突入。
騎兵どうしの乱戦を横目に、ロシア歩兵がオージェロー軍団への追撃を続けていた。
ミュラー軍団の歩兵各部隊で小方陣を組んで逃げて来た味方を救援。
横に並んだフランス歩兵たちの小方陣は、間隔を開けて味方の通り道を確保して、潰走兵を迎え入れる。
そして、追撃するロシア歩兵に銃撃をかけて足止め。
ロシア軍は追撃を諦め、オージェロー軍団は窮地を脱した。
そして戦闘は小休止。
フランス軍本営のナポレオンは、この様子を見て、ほっとした表情で言った。
「何とか耐えきったようだな」
そんな彼に参謀は「ですが、かなり大きな損害が出ました。再度の攻勢が来たら、恐らく保たないかと」
ナポレオンは暫し思考を巡らす。
そして「近くにダヴ―軍団が来ている筈だ」
「彼等はプロイセンの敗残軍を追撃中です」と参謀。
「呼び戻そう」
そうナポレオンが言うと、参謀は「敵のロシア軍との合流を許す事になります」
ナポレオンは苦渋の表情を浮かべつつ「背に腹は代えられん」
ナポレオンはダヴ―軍団に合流をを命じた。
そして、ダヴー軍団が合流すべく迫っている事を知ったロシア軍は撤退した。
ナポレオンはロシアを監視するための一軍を残して、ベルリンに引き上げた。
ケーニヒスベルクに入城するプロイセン部隊。
ロシア軍もここを拠点に、部隊の再編制の途上にある。
城の本営では、嬉しそうにピュートル帝の手を執るフリードリヒ王が居た。
「お会いしたかったですぞ。やはり、あなたこそユーロの皇帝に相応しい」
ピュートルはうんざり顔で「そういうお世辞はいらないから」
「で、フランス軍はいつドイツから追い出して頂けるのですかな?」
満面のヨイショ顔を添えての、そんなフリードリヒの図々しい催促に、ピュートルは「プロイセンから・・・ではなく?」
「・・・・・・」
フリードリヒ、どっと冷や汗。
そして残念な空気が流れる。
フリードリヒはこわばる作り笑顔を必死に保ちつつ、懸命にフォロー。
「嫌だなぁ。ロシアはユーロの半分を占める超大国じゃないですか。ま・・・まあ、戦争にも段取りというものがありますから、希代の名将たるピュートル殿下の作戦に口を挟むつもりはありませんが・・・・・。それで、フランス軍はいつプロイセンから追い出して頂けるのですかな?」
ピュートルは「東プロイセンから・・・ではなく?」
「・・・・・・」
彼は思い出していた。
北方戦争で梯子を外され、絶望的な撤退作戦を行う破目になった過去の苦い経験を。
そして彼は脳内で呟く。
(いい加減、こんなのと手を切りたいなぁ)
そんなやり取りを離れた場所から眺める、10歳のウィルヘルム王子。
彼は、ピュートル帝との会談を終えて自室に戻るべく廊下を歩く、フリードリヒ王に言った。
「父上は、見切りをつけられつつあるように思えるのですが、大丈夫なのですか?」
「俺は一代でプロイセンを倍にした天才君主だぞ」
そんな父の強がりに、「殆ど失ってますけどね」と突っ込む、幼いウィルヘルム王子。
そんな息子にフリードリヒは言った。
「ゲームというものは、奪われたものをいかに華麗に奪い返すか、それこそが醍醐味なのだよ。見ているがいい。将を射んとする者は先ずその馬を射よ。ロシアの皇帝を取り込めないのなら、その家来を取り込むまでさ」
そして、フランス軍は・・・・・・。
ベルリン占領軍司令部のナポレオンの執務室には、意見しに来たオスカルが居た。
司令部前には、相変わらず配給を求める庶民が詰めかけている。
そんな彼等をナポレオンの執務室から見下ろすと、オスカルは「どーするんですか?」
「どーせ床下にでも隠し持っているに違いない」
そう言い放つナポレオンに、オスカルは「ですが、フランス革命時の困窮した庶民たちも、あんなだったと思うのですが」
「俺は奴らの代弁者じゃない。そーいう事はロベスピエールにでも相談したらどうだ」とナポレオン。
「解りました。降霊術で奴のゴーストに・・・」
そう真顔で言うオスカルに、ナポレオンは「本気にするんじゃないよ!」
ロベスピエールがまだ生きている事を知らない、ナポレオンとオスカルであった。
軍政部では、配給を求める庶民への対応方針を固めた。
詰めかけたベルリン庶民に対して、軍政官は言い渡す。
「食料は用意する。但し、これは配給ではなく払下げである」
「つまり売るって事ですか?」
そう唖然顔で聞き返す庶民たちに、軍政官は「あなた達には明日の食料も必要だろう。戦争は慈善事業では無い」
互いに顔を見合わせ、溜息をつく庶民たち。
「解りました。で、いくらで売って貰えるのですか?」
「小麦一袋金貨100枚」と軍政官。
すごすごと帰っていく庶民たち。
そんな庶民たちの去り行く後ろ姿を、占領軍本営の窓から眺めつつ、オスカルは「あの人たち、大丈夫かな?」
するとジェローデルが「こんな話がありますよ」
自由惑星同盟という共和主義の国があった。
敵対していた銀河帝国の国境にあるイゼルローン要塞を攻め落としたものの、調子に乗った同盟政府は、"専制国家から民を解放する"と称し、敵領に侵入して、幾つもの村を占領した。
だが、村々では帝国軍により、既に食料は持ち去られていた。
「解放軍なら、我々を助けて貰えるんですよね?」
そう言って村人たちは占領軍に配給を求め、これに応じた占領軍は歓迎された。
そして軍政部隊の士官の一人が、村長の娘と恋仲になったという。
ジェローデルが語る、そんな物語を聞いて、その場に居る部下たちも、あれこれ・・・。
「それ、取り込み目的だよね?」
そうオスカルが言うと、アンドレも「ハニートラップみたいなもん?」
「バレバレ過ぎだよ。そんなのに引っかかるとかアホだろ」と、周囲に居る兵たちも・・・・・。
その時、一人の下士官が入室し、オスカルに・・・。
「実は、軍政担当地区の女性と結婚する事になりまして、是非、隊長に仲人を・・・・」
残念な空気が漂い、彼はオスカルとアンドレに小一時間説教された。
春が近づき、寒さが緩むと、フランス軍は活動を開始した。
先ず、プロイセン兵が籠城を続けていたダンツィヒの攻囲戦を開始し、これを攻め落とす。
ロシアとプロイセンの拠点となっているケーニヒスベルクに向けて、じりじりと包囲網を縮めていくフランス軍。
そのケーニヒスベルクでは・・・・・・。
ピュートル帝は頭を抱えていた。
「フリードリヒ王の動きが怪しいだと?」
総司令の任にあったベニヒセン将軍からの報告を受けたピュートルが、溜息混じりにそう返すと、ベニヒセンは更に報告を続ける。
「どうやら、ロシアの将軍たちを取り込もうとしているらしく・・・」
「何か証拠でもあるのか?」とピュートル。
ベニヒセンは「同僚の将軍たちが、賄賂らしき金品を受け取っているようでして」
「亡命者同然の奴に、そんな金の余裕があるのかよ」とピュートルは突っ込む。
「どうやら相当貯め込んでいるらしく、随分と懐具合が暖かいようで、えらく気前がいいですよ。私もこんな豪華な贈り物を・・・」
そう言ってベニヒセンが懐から出した、それを見て、ピュートルはあきれ顔で「それって賄賂だよね?」
「・・・・・・」
ピュートルは更に追及する。
「まさかハニートラップとか、仕掛けられて無いだろーな?」
「そんなまさか・・・・・」
困り顔でそう言うベニヒセンに、ピュートルは「その襟についてるキスマークは何だ?」
「いえね、ベルリンからついて来た彼の女官に誘われて・・・・・・」
そうベニヒセンが照れ顔で言うと、ピュートルはあきれ顔で「それ、ハニートラップだろ」
ピュートルは溜息をつき、そして言った。
「このフランスとの決戦を控えている大事な時に・・・。これでは奴から目が離せないではないか。下手をするとロシア軍の指揮権を丸ごと乗っ取られかねん」
「戦いは私にお任せ下さい。アイウラではナポレオン軍に多大な損失を与えた実績があります」とベニヒセンはドヤ顔で胸を張る。
「けどあれ、撤退を強いられたのは、こっちだよね?」と突っ込むピュートル帝。
「・・・・・・・・・」
そして彼は更に「あの攻勢を続けていたら、奴を壊滅させられていたんじゃ無いのか?」
あくまで発想が脳筋なピュートルに、ベニヒセンは頭を抱えた。
そして彼は脳内で呟く。
(どうしよう。陛下の不興を買ってしまった。もっとちゃんとした戦勝をゲットしないと、俺の首が危ない)




