第582話 厳冬のアイウラ
チューリンゲン地方を戦場としたフランスとプロイセンの戦い。
自軍が包囲されつつある形勢の中、別動隊を本隊に見せ掛けて撤退しようとしたフリードリヒ王の本隊が、ダヴ―将軍率いるフランス軍の別動隊と遭遇戦となる。
名将ダヴ―は不利な戦力差の中を粘り抜く。そしてこの戦いに参加していたオスカルは、これが実は本隊であった事を知って、前線に出て来た敵総司令官のブラウンシュバイク公を討ち取った。
敵将の死を知ったナポレオンはbaka-noteを使ってプロイセン軍総司令の引継ぎを阻害。
部下の将軍たちから総司令役を押し付けられたフリードリヒ王の、慣れない戦術指揮のミスに付け込んだダヴ―の采配により、プロイセン軍本隊は敗北。
アウエルシュタット平原における戦いはフランス軍の勝利に終わった。
プロイセン軍を破ったフランス軍は、敗残の敵軍を追ってベルリンを包囲した。
そして、抵抗する守備兵を一日かけて制圧し、ベルリンを占領した。
彼等は、守備隊司令官への尋問により、フリードリヒ王と王族、貴族たちは既に東へ逃走した事を知る。
そんな状況を知らされたオスカルは、割り当てられた占領軍兵営で部下たちとあれこれ・・・。
「つまり、時間稼ぎって訳かよ」
そう部下の兵の一人が言うと、別の兵が「じゃ、ここの兵たちは捨て駒? しかも、あのフリードリヒ王を逃がすために・・・ってか?」
「あんなのでもここの奴らにとっちゃ、国を大きくした功労者だものなぁ・・・・」と、更に別の兵が・・・。
アンドレが「いや、ちょっと違うみたいなんだが・・・・・」
彼は、捕虜となった守備兵たちの尋問記録を読み上げた。
「私たち、徴兵されたばかりの市民兵で、とにかく侵略者が来るから抵抗しろと。そうすれば、愛国者として賞賛されて占領軍から褒めて貰えると言われて・・・」と捕虜。
訊問官は「はぁ? 我々はフランス軍でお前等は敵だろ」
「けど、祖国のために戦うのが民主主義で、フランスは民主主義の伝道者なんですよね? ヤースダーコイッチって人が言ってたそうですよ。"隣の島国から奪ったバンブー島侵略行為を正当化するのは半島国民の立場として当然で愛国者として賞賛されるべきで、ユンソナがバンブー島を半島国のものだ言って何が悪い"・・・って。島を侵略する戦争ですら、隣の侵略国の人間として被害者国から賞賛されるのは当然だと」と捕虜。
訊問官は「それ、頭のおかしなリベラルカルト信者の戦争礼賛で偽平和な戦争犯罪者の理屈だって、大顰蹙買った奴だぞ。そもそもバンブー島が島国のものだって言うのは島国の人間だからじゃなくて、客観的に正当な島国の領土だからだぞ。半島国の古文書に出て来るウサン島がバンブー島だってのは真っ赤な嘘でウルルンの古名だってのは常識で、サンフランシスコ条約でも確定済み。しかも俺たちがやってるのは戦争」
「じゃ我々は?・・・・・・」と捕虜。
訊問官は「捕虜交換まで収容所暮らしって事になるぞ」
「そんなぁ。それと・・・、王様が市内の食料を全部持って行ったんで、我々が食べる分がありません。配給をお願いします」と捕虜。
訊問官は「甘ったれるな!」
「けど、民主主義は国民の味方ですよね?」と捕虜。
訊問官は「フランス軍はフランス国民の味方な。お前等はプロイセン国民だろ」
「いえ、違います。我々は世界市民です。九条様が制定した世界標準があれば、全ての侵略戦争から守られて、敵軍は何もせず引き返す事になると・・・」と捕虜。
訊問官は「そーいう偽平和主義は要らない」
アンドレは尋問記録を読み終え、場には残念な空気が流れた。
ナポレオンの居る司令部では、情勢分析と今後の方針について会議が続いていた。
「プロイセンの残存勢力は、東に逃れてロシア軍と合流・・・って事かよ」
諜報部からの報告を受けたナポレオンが、そうまとめると、将軍の一人が「東ってポーランド?」
「あそこはロシアと奪い合ってる係争地帯だ。あんな所で合流したら、たちまち仲間割れを起こすだろ」とナポレオン。
参謀が「恐らく東プロセインへ逃れたものと。ロシア軍も東プロイセンへの国境を超えたとの事です」
「それじゃ、ポーランドは放置ですか?」
そう軍政担当官が言うと、ナポレオンは「いや、あそこに拠点を置こう。今までロシアとプロイセンによって分割されていたのを、我々が独立させてやるんだ。歓呼の声で迎えられるだろうさ」
将軍の一人が「けど、その一方でロシアとプロイセンから自らの力で国を取り戻せなかった事を恥じて、千年恨むとか・・・・・」
「いや、どこぞの半島国じゃないんだから」とナポレオンは突っ込む。
残念な空気が漂う。
そして彼は部下たちに言った。
「それと、もうすぐ冬だ。そうなれば、寒さに強いロシア軍が有利になる。雪が降る前に決着をつけるぞ」
「雪、降ってますけど・・・・」と、将軍の一人が突っ込む。
ナポレオンが窓の外を見ると、盛大に雪が降っていた。
彼は焦り顔で、その場に居る部下たちに「すぐに出撃するぞ」と号令。
将軍たちは困り顔で「冬が終わってからにしませんか?」
「プロイセン王がロシアと合流するのを阻止する必要がある」とナポレオン。
直ちに全軍に出撃命令が降り、ダヴー軍団に居るオスカルの部隊も、フランス軍の一隊として東に向かった。
雪が降る中をぼやきながら行軍する兵たち。
「この寒い中を出撃とか、勘弁して欲しいよなぁ」
そんな彼等にオスカルは「いや、早く出撃して早く戦争を終わらせなくては、ここの民が飢える事になるぞ」
プロイセンの残存部隊が逃れた東プロイセンは、プロイセンからポーランドを挟んだその北側。
ノルマン海に面してバルト諸国の南西に位置する。
プロイセンはケーニヒスベルグを臨時拠点と定め、そこに向かっているという。
ダヴー軍団はプロイセン軍を追い、本隊は先回りしてケーニヒスベルクに攻勢をかける・・・という手筈だ。
ベルリンを占領する部隊を残し、ダヴー軍団がプロイセン軍追撃のルートを辿る中、ナポレオンの直属部隊と三個の軍団がケーニヒスベルグを目指して進軍する。
そんなナポレオンの本隊司令部にて・・・・・。
厳しい寒さの中、偵察兵から報告。
アイウラ村に陣を構えたロシア軍を発見したという。
ナポレオンはこれを排除すべく、全軍に戦闘準備を指示。
兵たちは行軍しながら、溜息混じりであれこれ・・・・・・。
「この寒い中で戦闘かよ」
そう一人の兵が言うと、もう一人の兵が「どーすんだ。向うは寒さに強いっていうぞ。こっちは圧倒的に不利じゃん」
更に別の兵が「氷点下40度で立ちションすると、氷の小便が出るそーだ」
「それ、チンコが霜焼けになるぞ」と、その後ろに居る兵が・・・。
すると先ほどの兵が「いやマジ、放物線を描いた黄色い氷が出来るそーだ」
「つまり、レモンシロップをかけたかき氷?」
「違うから!」
先鋒のミュラー軍団とスールト軍団がアイウラ村に到着し、ロシア軍と睨み合う。
寒さの中で銃を構える兵たちだが、場を支配していた緊張も次第に緩んだ。
そして、向こうに居る敵の方角を気にしながら、あれこれ・・・。
「仕掛けて来ませんね?」
そう一人り兵が言うと、もう一人の兵が「この寒さだもんな」
「ロシア兵は寒さに強いんじゃ・・・」と、その隣に居る兵が突っ込む。
先ほどの兵が「奴らだって人間だ」
「氷の小便とか言ってたよね?」と、先ほど彼に突っ込んだ兵が・・・。
「チンコが霜焼けになるだろーが」
「さっきと言ってる事が違くない?」
やがて、ナポレオンの率いる本隊が到着。
先鋒隊と合流し、二人の軍団長から報告を受ける。
「様子はどうだ?」
そう問うナポレオンにミュラー将軍は「敵も仕掛ける気は無いようです」
「このまま撤退してくれればいいんだけどなぁ」とナポレオン。
ミュラー将軍が「敵だって、この寒さの中で戦闘は嫌だろうし」
スールト将軍も「それに、吹雪も来そうですし。そうなったら最悪ですよ」
ナポレオン、暫し思考。そして彼は言った。
「いや、視界の悪化に乗じて奇襲を仕掛けるつもりじや無いのか?」
フランス軍は偵察隊を出した。
少数の兵が、点在する小さな林の影を縫って、周囲を警戒しながら敵陣に接近。
「ロシア軍も偵察隊を出している筈だ。発見される事の無いよう十分に注意しろ」
そう偵察隊の指揮官が言い、兵たちも緊張の面持ちで、物陰に身を隠しつつ雪の中を進む。
そして・・・・・・。
木立を抜けて小さな草原に出た所で、向うの木立から姿を現した武装した小部隊と、いきなり鉢合わせ。
双方の間に、気まずい空気が流れる。
「・・・・・・・・」
「こんにちは、いいお天気ですね」
そうフランス偵察隊の先頭に居た兵が言うと、ロシア偵察隊の先頭に居た兵が「雪、降ってますけどね」
そして双方、声を揃えて「それじゃ、そーいう事で」
「違うだろ!」
双方の指揮官に後頭部を殴られる、双方の先頭の兵。
「あれは敵だぞ」
双方、そう自分の隊の指揮官に言われ、「だって・・・・・・」
「生かして返したら報告されるぞ」と、双方の指揮官は自隊の兵に・・・・・。
双方、銃を発砲し、なし崩し的に戦闘が始まった。
「とにかく先手必勝だ。攻勢をかけて敵を追い落とすぞ」
ナポレオンは3つの軍団と直営軍団を指揮して攻勢をかけ、ロシア軍は後退した。
この様子を本営から確認するナポレオンと直属の部下たち・・・。
「引いていきますね」
そう参謀が言うと、ナポレオンの部下の一人が「まさか追撃とか言いませんよね?」
別の部下が「この寒い中、先ず陣を固めて一息つくのが得策かと」
その時、東方向から砲撃。
「どこから撃っている」
ナポレオンがそう問うと、配下の砲兵隊長が「村の東側の尾根上のようですね」
「砲で反撃しろ」とナポレオン。
砲兵隊長は「ですが、高所からの砲撃はその分射程が伸びますから、砲兵どうしでは不利です」
ナポレオンは配下の三つの軍団の一つを選び、その軍団長に号令。
「オージェロー、歩兵で攻め上って尾根を占拠しろ」
「ですが、今は吹雪が強くなって見通しが効きませんよ」
そうオージェローが言うと、ナポレオンは「力押しで押せば兵力はこっちが上だ」
オージェロー軍団はロシア兵の居る東の尾根の麓を目指して進軍し、麓を守るロシア歩兵からの銃撃を受けた。
「とにかく弾が飛んで来る方向を銃撃しつつ前進。見通しが効かないのは向うも同じだ」
そうオージェローは兵たちに激を飛ばす。
だが、まもなく吹雪が止み、視界が回復。
その時、目の前の敵兵の背後の尾根上の砲兵陣から丸見えの所に、彼等は居た。
ロシア軍砲兵は眼下に見下ろすフランス歩兵に照準を向けて一斉に砲撃。
立て続けに炸裂する砲弾で歩兵陣は崩れ、その隙を狙って、騎馬のロシア兵の一団が怒涛の如く突進して来る。
「あれはコサック騎兵だ」と、歩兵各隊の兵たちの表情に恐怖が走る。
騎上からの銃撃を受けて、バタバタと倒れるフランス兵。
その陣にサーベルを抜いて斬りかかるコサック騎馬兵たち。
オージェロー軍団は潰走した。




