第577話 カリオストロの女王
偽札を使ったフリードリヒ王の対フランス工作に加担したカリオストロ伯爵によって起動した無敵のゴーレムの暴走は、彼に利用されようとしていたクラリス姫を助ける怪盗ルパンとエンリ王子たちの活躍により、ようやく鎮められた。
クラリスは、亡きカリオストロ公爵の遺児として、新女王として即位。
お祭り気分に浸る間も無く、巨大ゴーレムに踏み荒らされた街の復興に追われるカリオストロ公国。
まもなく、崩壊した城の跡から、偽札の印刷機が発見され、アシニア紙幣の原版が幾つも見つかった。
フランスが責任追及に乗り出し、頭を抱えるクラリス新女王。
そんな中、ポルタ城に居るエンリ王子の元に、クラリスを連れたルパンが訪れた。
「彼女の後見役を引き受けて欲しいんだが」
そんな彼の求めに、エンリは困り顔で「賠償の肩代わりとか無理だから」
「数々の問題を解決した海賊王なんだよな?」とルパン。
「こういうのは海賊王より陰謀家の仕事だろ。政治向きの話なら他を当たってくれ」
そう言って尻込みするエンリに、ルパンは言った。
「そういう人材なら、既に確保している。とりあえず外交的な後ろ盾が欲しい。なんせ相手は国家だからな」
エンリは彼等とともに、シマカゼ号で極秘裏にパリを訪れ、案内されてルパンの隠れ家へ。
ベットに老紳士が横たわっていた。あちこち包帯を巻かれ、側に看護要員の女性が居る。あのジェーンだ。
「あなたは・・・・・」
そう問うエンリに彼は名乗る。
「ジュドーと申します」
エンリはカリオストロ城でジロキチと互角に戦った老執事の姿を思い出す。
「たしか伯爵の部下だった・・・」
「カリオストロ滅びた今、恥ずかしながら生き残ってしまいました」
そう語るジュドーに、エンリは「いや、ジャングルで生き残って30年後に発見された敗残兵じゃないんだから。それに、カリオストロ家は滅んでないと思うぞ」
「私は伯爵家に仕えた影の末裔。数々の悪をなしてきました」とジュドー。
エンリは指摘する。
「その影は何のために? 伯爵家って本家を守るために働いた分家だよね? その目的である公爵家がまだ生きている。伯爵家の目的は滅んでなんかいない」
そしてルパンはジュドーに言った。
「あんたは伯爵を支えてきた側近で、政治の事は裏も表も知ってる。俺は表立っては動けない。クラリスを助けてやってくれ」
ジュドーはルパンの隣に居るクラリスを見る。
そして「クラリス姫は私を許して下さるでしょうか?」
クラリスは毅然とした笑顔を浮かべ、そして言った。
「許しなんて必要ありません。それが政治に携わるという事です」
ジュドーはクラリスの側近として諸外国と渡り合い、フランスの突き付けた無理難題を次々に退けた。
特に威力を発揮したのは、彼が隠し持っていたプロイセンとのやり取りに関わる秘密文書であった。
アシニア紙幣の偽造がプロイセンの対フランス戦略の一環である動かぬ証拠を、彼は関係国に突き付け、全ての責任はフリードリヒに転嫁された。
フリードリヒ王は頭を抱えた。
ベルリンの宮殿で、弟のルイフェルディナントに愚痴るフリードリヒ。
「ナポレオンの奴、調子に乗って無理難題を・・・」
そんな彼を煽る彼の弟王子。
「兄上、これは開戦は避けられませんぞ。ライン連邦諸国でもフランスへの不満が高まっています」
「けど、奴らが一緒に戦ってくれる訳じゃないからなぁ」
そんな弱気なフリードリヒに、弟王子は強硬論をぶつ。
「ロシアは味方についてくれる筈です。このドイツからフランス軍を追い出して、我々がドイツ王になるチャンスですぞ」
その気になるフリードリヒ。
その頃、ポルタに居るマーリンの実験室では・・・・・・。
エンリ王子と彼の仲間たちが、解析の終わった例の指輪についての説明を受けていた。
「で、結局あの指輪の呪いって・・・」
そうエンリが問うと、マーリンは「邪悪に染まる」
「それは解る」と、全員納得顔。
「けどじゃ、彼があれこれやらかしたのって指輪のせい?」
そうアーサーが言うと、エンリは「だけじゃ無い気がするんだが・・・」
「で、結局指輪は外れたんですよね?」と若狭。
マーリンは「切り落とされた左手から・・・だけどね」
「で、それが外れる条件って?」とリラ。
「善心を知る事・・・よ」とマーリンは答える。
「善心・・・ねぇ」
そう言って彼等が残念な視線を向ける先には、その指輪の主だった元伯爵のラザール・ド・カリオストロが居た。
マーリンに下僕のように仕える彼の左手首には、切り落とされた左手を縫合した跡が残っている。
「ラザール、紅茶を入れて貰えるかしら」
そうマーリンが命じると、彼は嬉しそうに「はい、女王様」と言って、かいがいしくお茶を入れる。
「マッサージして貰えるかしら」
そうマーリンが命じると、彼は嬉しそうに「はい、女王様」と言って、うつ伏せになったマーリンの背中をマッサージ。
「上達したわね。御褒美に、後で寝室にいらっしゃい。思いっきり痛くしてあげるわ」
そうマーリンが言うと、彼は嬉しそうに「はい、女王様」
ドン引きするエンリたち。
「心を入れ替えたっていうより、ただの変態ドマゾだよね?」
そうタルタが言うと、ジロキチが「ご奉仕する喜びって奴?」
エンリが「自己犠牲は人と獣を分かつって言うけどなぁ」
彼等は声を揃えて「ああいう善心は要らないよね」
フランスでは、アシニア紙幣の偽札の存在が明らかとなり、それによる大量流通が引き起こした貨幣価値の混乱が、周知の事実となった。
人々の不安は高まり、フランスはアシニアと金との交換を中断する。
ナポレオン以下、政府幹部たちは、頭を抱えた。
財務局では、連日のように関係部署の高官たちを集めて、対策を協議した。
「とにかく、この問題をどう処理するか・・・なんだが」
そうナポレオンが切り出すと、財務長官が「とにかく偽札を処分するのが先決でしょう」
「けど、精巧に造られて見分けがつかないですよ」と、パリ銀行総裁。
その時、政策顧問の肩書で出席していた自称クワトロバジーナが発言した。
「ポルタの紙幣は偽札を消去する魔法技術が使われていると聞きます」
ポルタ城のエンリ王子の元に、フランスから協力要請。
密使として身分を隠したリシュリューが、極秘裏にエンリの基を訪れて、直談判に及んだ。
「まさか教えろとか言わないですよね?」
そう警戒心MAXで身構えるエンリに、リシュリューは「全ユーロの経済に関わる問題ですぞ」
「知的財産の強奪は国際犯罪ですよ。かのシーノは、先進諸国からの進出企業に対して、技術情報の引き渡しなどというトンデモ法律を制定した。その結果、かの国は信用を失って世界の孤児と化した」とエンリはピシャリ。
「フランスはユーロを主導するリーダーです」とリシュリュー。
エンリは「で、その威を振りかざして、まさかトランプ帝国がジパングにやったみたいに、ポルタの紙幣の二割をアシニアで賄へと? あれこそ国家による強盗行為ですよ」
「いいえ、押し売りは強盗ではありません」とリシュリュー、揚げ足取りに走る。
そんなリシュリューの揚げ足取りを、エンリは「けど犯罪ですよね?」と一刀両断。
「エンリ王子、どうかどうか」
そう涙目で駄々をこねるリシュリューに、エンリは「泣き落とししようったって無駄です」
「泣けば餅を余計に貰えると、どこぞの半島国の諺です。ムクゲフラワーの破滅兵器で脅されたかの列島国も、そうやって命乞いして虐殺を逃れたと聞きます」
そんな怪しげな例え話を持ち出すリシュリューに、エンリは理路整然と反論する。
「どこの半島国のベストセラー小説ですか? それって脅す方が犯罪国家で、脅す事自体が核使用と同じ国家犯罪で、ホロコーストの一種で人道に対する罪ですよ。大勝利のハッピーエンドどころかナチス犯罪として半島国終わるって話ですから」
結局、粘るリシュリューに対して、エンリは返事を先延ばしにして帰国させる。
その後、執務室に集まった仲間たちに、うんざり顔で事の経緯を愚痴るエンリであった。
「どーしますか?」
そうリラが心配そうに言うと、カルロが「さすがに、存在の力による魔法技術を渡す訳にはいかないよね」
「そもそも、あの偽札防止技術を完成させたのは、サリー姫ですからね」とアーサー。
全員頷く中、エンリはぽつりと言った。
「彼女に相談してみるかぁ」
通話の魔道具で、ドラキュラ城のサリー姫と連絡をとる。
事の次第を聞くと、サリー姫は・・・・・・・。
「解りました。偽札を消去する事なら可能ですよ。全ての偽アシニアの原版があれば・・・」
エンリはフランス政府に返答を送り、ナポレオンは即座に飛びついた。
カリオストロ城の跡地から回収された原版がエンリの元に送られる。
原版はポルタ大学魔導学部実験棟に山積みされ、エンリはこれを仲間たちとともに確認する中、彼等の中でひと際目を輝かせている航海士に問い質した。
「ニケさんも一つ持ってるよね?」
「ななな何の事かなぁ?」
そんな慌て声のニケに、エンリは言った。
「偽札って詐欺だよね? 詐欺行為が出来ない呪い、まだ有効なんだが・・・」
彼女はふくれっ面で「解除してよ。私のお金ーーーーーー!」
ニケから没収したものも含め、全ての原版はサリー姫の元に送られた。
通信魔道具でフランスと回線を結ぶサリー姫。
「確認しますが、本当にいいんですね?」
魔道具の向こうでナポレオンは「お願いします」と・・・・・。
サリー姫は存在否定の呪文を唱え、フランス国内とユーロ各地にあったアシニアの大量の偽札が、一斉に消滅した。
その持ち主は、それが偽札である事はもちろん知らない。
札束を数えながら幸せに浸っていた金持ち。
銀行で金庫に収めようとしている職員。
お使い先で品物の代金を出した子供。
そんな彼等の目の前で消滅する、アシニア紙幣。
ユーロ中に悲鳴が響いた。
「何じゃこりゃー!」
アシニアは多くの人に大損害を与えたとして、その信用は失墜した。
フランス政府は、消えずに残った紙幣は本物だと必死に訴えたが、聞く耳を持たない人々は一斉に金との交換を求め、各地の銀行の支店前は暴動の巷と化した。
やがてアシニアは廃止され、新たな紙幣としてフランが発行された。




